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盾の勇者の成り上がり 作者:アネコユサギ

外伝 槍の勇者のやり直し

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結束への布石

「おお……」


 視線を前に向けるとローブを着た男達がこちらに向って唖然としていた。


「なんだ?」

「あれ?」

「くたばれですぞ!」

「「な――」」


 ほぼ脊髄反射で鳳凰の封印を解いた疑惑……面倒なので二人とも槍で突き殺してやりました。

 二人の事を助けて上げて、と言われましたが、そうしないと腹立たしいからですぞ。

 お義父さん達にあんな顔をさせた報いですな。

 何度もぶち殺しても良い様な気がしますが一回で我慢してやりましょう。

 ああ、まだぼんやりしていたお義父さんにはちゃんと当たらない様にしましたぞ。


 さて、まずは状況の整理からですな。

 やはり選択で『いいえ』を選んだ影響か、またループする事になりました。

 もしも出来なかったら俺はとても困る事態になったでしょう。

 最悪、樹か錬を見つけて仕留めればループしそうではありますが……それも怪しかったですかな?


 前々回のお義父さんには情報を集めろと言われたので、最初の世界通りに事を運びました。

 まあ、冤罪に掛けられないお義父さんは本来、とてもお優しい方であるというのを知りましたな。

 最初の世界のお義父さんも優しい方ではありますが、それ以上の優しさと寛大さを持ち合わせていました。


 で、本題なのですが最初の世界の通りに事を進める……メルロマルクに留まって三勇教を仕留め、お義父さんに被さった冤罪を拭う事をする。

 ずいぶんと時間が掛り、しかも樹との仲は最悪にまで落ち切りますぞ。


 しかもエクレアが獄中死までしてしまいます。

 ここでエクレアを足早に助けようものなら三勇教に警戒されて、最初の世界通りにはならないのは一目瞭然ですな。

 まあ、お義父さんが強くなったのを確認した後にエクレアを助けるという選択は無くは無いですが、結局は変わりませんな。


 現状、これまでのループを総合すると、戦争になりそうな火種は腐るほど転がっていますぞ。

 そして運よく戦争回避の道を歩んでも、錬と樹が俺とお義父さんの強さに嫉妬して、霊亀や鳳凰の封印を解いてしまいます。

 次こそは尻拭いをして、最初の世界の様に錬と樹を反省させると言う事も出来るとは思いますが、手間が掛りすぎるとお義父さんがおっしゃいました。


 そうですぞ。時間が掛り過ぎるのでしたな。

 お義父さんが仰っていた通り勇者同士で争っている暇は無いのです。

 今回はお義父さんが試してほしいと頼まれた事があるので、考えの元に実行してみようと思いますぞ。


 お義父さんがお願いしたのは勇者同士の仲ですな。

 そこで鍵となっているのは錬と樹が俺の話を聞いてくれず、しかも強化方法の仕様違い、もしくは武器毎の特性……更には強いのはNPCの力を再現している等と言っていた事です。

 何かしら理由を探して、俺やお義父さんを弾劾するのです。


 この問題を解く方法をお義父さんは俺に教えてくださいました。

 まずはそれを実践してみましょう。


 それにしても……フィーロたんは一体どこに居るのですぞ?

 フィーロたんフィーロたんフィーロたんフィーロたんフィーロたんフィーロたんフィーロたんフィーロたんフィーロたんフィーロたんフィーロたんフィーロたんフィーロたんフィーロたんフィーロたんフィーロたんフィーロたんフィーロたんフィーロたんフィーロたんフィーロたんフィーロたんフィーロたんフィーロたんフィーロたんフィーロたんフィーロたんフィーロたんフィーロたんフィーロたんフィーロたんフィーロたんフィーロたんフィーロたんフィーロたんフィーロたんフィーロたんフィーロたんフィーロたんフィーロたんフィーロたんフィーロたんフィーロたんフィーロたんフィーロたんフィーロたんフィーロたんフィーロたんフィーロたんフィーロたんフィーロたんフィーロたんフィーロたんフィーロたんフィーロたんフィーロたんフィーロたんフィーロたんフィーロたんフィーロたんフィーロたんフィーロたんフィーロたんフィーロたんフィーロたんフィーロたんフィーロたんフィーロたんフィーロたんフィーロたんフィーロたんフィーロたんフィーロたんフィーロたんフィーロたんフィーロたんフィーロたんフィーロたんフィーロたんフィーロたんフィーロたんフィーロたんフィーロたんフィーロたん。


「おーい」


 何度か小突かれる感触で我に返りますぞ。

 おお、既にループしていた様ですな。

 目の前にはフィーロたんの残り香を宿していそうなお義父さんが怪訝な目で見ております。

 既に玉座の間に案内されていますな。クズが偉そうにしております。


 飛び付きますかな?

 俺の脳内で前回のお義父さんが注意しますぞ。

 今、抱き付いたら台無しだと言っております。


「俺の名前は北村元康ですぞ。年齢は21歳、大学生なのですぞ」

「ですぞって……」

「舞い上がってんじゃないか?」


 錬が相変わらずクールぶって言うとお義父さんと樹が同意するように何度も頷いております。

 慌てず騒がず、まだ成り行きに身を任せて行きましょう。

 ここで騒いでも何にもならないのは今までのループでわかっていますからな。

 重要なのは繊密なまでの計画性ですぞ。


「そういう部分があるのは否定出来ませんな」


 前回も前々回もフィーロたんに出会えませんでしたが、今回は会えるかもしれません。

 そう思うと多少心躍る気持ちになれます。


「ふむ……レンにモトヤスにイツキか」

「王様、俺を忘れてる」

「おおすまんな。ナオフミ殿」


 やる事は複数ありますが、お義父さんの提案を実践する為に余計な事はしない様に努力しますぞ。

 なのでわざとお義父さんの名前を言わなかった事を今だけは見逃してやりましょう。

 そう心に決めて、聞かれた事、不自然でない事以外何も言いませんでした。


 やがて案内された部屋で各々武器に関して調べているお義父さん達が、ニヤニヤ笑いをしております。

 俺も武器を調べる素振りだけでもしていた方が良いでしょうな。

 ステータスなどの項目を眺めるフリをしながら考えますぞ。


 さて、事が上手く運んだ後にする事はなんですかな?

 おそらく、前回のお義父さんの言葉通りメルロマルクにはいられないと思いますぞ。

 ……ああ、お義父さんがフォーブレイの方へ行っても大丈夫とおっしゃっていました。


 なのでフォーブレイへと行く事を優先事項で考えておきましょうか。

 時間制限の所為で運悪く、お義父さんからポータルをもらう事が出来ませんでしたが、距離的に行けない国では無いでしょう。

 上手く事が運ぶとそれ相応に困難にはなりますがな。


「なあ、これってゲームみたいだな」

「この世界はコンシューマーゲームの世界ですよ」

「違うだろ。VRMMOだ」

「え? VRMMOってヴァーチャルリアリティMMO? そんなの未来の話じゃないのか?」

「はぁ!? 何言ってんだお前」


 お義父さん達が自身の身に起こった事とゲーム知識に関して説明しております。

 この会話も何度も聞きましたな。

 最初の内は誤差が少ないとお義父さんも言っていた気がしますぞ。

 だからこそ早い内に変化を作りやすいとも聞きました。


「元康、お前はどうなんだ?」


 やはりこの段階でのお義父さんは俺の事を呼び捨てですぞ。

 最初の世界のなじる様な呼び捨ても良いですが、他のループ時の優しさに満ちた呼び方も最近では心地良くなってきました。

 お義父さんは盾の勇者、人々を、果ては仲間である勇者を温かく守る存在なのです。

 そんなお義父さんを救うのも俺の使命ですぞ。


「俺ですかな? 一応、エメラルドオンラインという似たオンラインゲームがありますぞ」


 特に問題が起こらない様に卒なく説明しますぞ。

 この段階でお義父さん達に未来からやってきたと説明しても信じてもらえませんからな。

 しかもお義父さんはこの頃、異性に関心を持っておられたご様子ですが、赤豚に冤罪を被せられた所為でそれも喪失してしまったのだとか。


 お姉さんが癒していたようでしたが、前回のループでは……なんとなくパンダ獣人、前々回ではエクレアがケアをしてくださっていた様な気がしますぞ。

 しかもパンダ獣人の方がお義父さんは楽しげだった気がします。


 これは……アレですな。

 お義父さんは本来、同世代か若干年上が好みなのでしょう。

 ふふふ、俺もお義父さんとずいぶん一緒に居たのでわかってきました。


 中学時代の友人の真似をしてお義父さんの仲を取り持って上げるのを考えておきましょう。

 確かハートマークで友好度を表すのですな。

 婚約者が露骨にお義父さんを狙っていましたが、あの場合はハートマークを多めにすれば良いのでしょう。

 ま、お義父さんは年下は好みじゃない様ですが。


 婚約者はフィーロたんという相手が居ながらお義父さんを狙う強欲さがありますぞ。

 なので先に封じておけば良いのです。

 仲の良い相手がいれば諦めるでしょう。


 などと思って合わせているとこの世界に来た理由まで話が進んでいました。

 そして錬と樹がそれぞれどのような経緯で召喚されたのか説明してますな。

 俺も最初に話した、豚に刺された事を話しました。


 豚を女と言って口が腐りそうになりましたな。反吐が出ますぞ。

 ですが今のお義父さん達に豚を豚だと言ったら嫌悪感を抱かせてしまいます。

 お義父さんに錬と樹との関係改善を頼まれた以上、それだけは避けたいですぞ。


 俺が豚に殺されたと聞いて、お義父さんが中指を立てています。

 これは悪い意味でやっている訳では無いのでしょう。

 聞いたことがありますぞ。

 オタクの類は幸せそうな相手に本心から祝えないから悪口を言って祝福をするのだそうですぞ。

 今ならお義父さんの本心を俺は知ることが出来ます。


「そうだよな。うん、みんなごめんな。俺は図書館で不意に見覚えの無い本を読んでいて気が付いたらって感じだ」


 錬と樹がお義父さんに冷たい目線を向けています。

 俺はもうずいぶんと過去の事になっていますが、この中では確かにお義父さんだけ経緯が浮いておられます。

 いや、もしかしたら逆に俺達の方が悪いのかもしれませんな。


 考えてみたら、お義父さんが一番、勇者として世界を導いておられました。

 つまりは勇者としての資質が一番高いという事ですぞ。

 それを馬鹿になど出来ようもありませんな!


「人それぞれですぞ。何を不幸自慢をしているのですかな?」

「だが……なあ?」

「ええ、理由がちょっと弱い気がしますよ」

「転移するのにそこまで理由が必要なのですかな? ただ、理由を話しただけでは無いですかな?」

「ま、まあ……そうなんですけど、少し納得が……」


 どうやら言葉通り納得出来ていない様ですな。

 ふふ、お義父さんの言う通り、最初に召喚された時の事を思い出してみましょう。

 確かに少々不公平感を受けましたな。

 あんまり不幸そうじゃ無くて羨ましかった様な気がします。

 まあ……その後はお義父さんが一番不幸だった訳ですが。


 さて、ここは少しでも関係を良くする為に何か言った方が良いでしょうな。

 などと言葉を選んでいると錬が言いました。


「仮に全員死んでいたとすると尚文がいた図書館に何かあったんじゃないか?」

「なるほど、テロや災害などですね。それなら気付く前に死んだというのも不自然ではありませんね」

「うわ……三人の話を聞いてるとありえるから恐いな……」


 おお、錬が上手く話を繋げました。

 これは幸運ですぞ。錬も偶には役に立ちますな。

 それにしても錬と樹が俺やお義父さんの話を聞いてくれる事に違和感を覚えますぞ。

 前回が前回だったのでしょうがありませんが。

 ……つまり錬も樹もこの頃はまだ話をする余地があったという事ですな。


「じゃあみんな、この世界のルールっていうかシステムは割と熟知してるのか?」

「ああ」

「ええ、攻略サイトを見なくても良い程度には」


 既に最強になるほど、この世界でやりこんでいますぞ。

 俺に勝つことが出来るのは精々最大強化されたここに居る者だけですな。

 まだまだ先ですがな。

 そもそも俺達は敵では無いので、戦う意味がありません。


「それなりにですな」 


 お義父さんが微妙な表情で笑っております。

 常に前向きに誰にも負けない様にがんばるお義父さんは輝いて見えますぞ。


「な、なあ、これからこの世界で戦うために色々教えてくれないか? 俺の世界には似たゲームは無かったんだよ」


 このタイミングでならお義父さんに説明できますな。

 まあ、完全に教えるのは時間の関係で難しいですから触りだけで良いでしょう。

 残りは錬や樹も踏まえて皆で教え合えば結束も深まるかもしれません。

 それが前回のお義父さんに頼まれた重要な事ですからな。


「ではこの元康がお教えしますぞ」

「よ、よろしく」

「俺の知る情報では、盾職……シールダーは守る事に関しては最強の一角ですぞ」


 嘘は言ってませんぞ。

 ゲーム知識、と付け加えなかっただけですが。

 こうする事によって錬と樹のゲーム知識に齟齬があるのでは? と思わせる事が出来ると思いますぞ。

 ……なんで今までこの手段を取らなかったのか不思議でしょうがないですな。


「そうなのか? 俺の知るブレイブスターオンラインだと死に職だが……」

「ゲーム毎の違いでは無いですか? 僕の知るディメンションウェーブだと弱職でしたけど、盾自体が役に立たない訳ではないです」

「どっちなんだろうな?」

「出来れば防御だけでも最強の一角の方でお願いしたい!」


 お義父さんが祈る様に盾に手を当てていますぞ。

 大丈夫です。防御に関しては右に出る者はいません。

 すぐにでも伝えたいですが、今は我慢ですぞ。


「地形とかどうですかな?」


 確かこんな話題を出したと思いますぞ。


「名前こそ違うが殆ど変わらない。これなら効率の良い魔物の分布も同じである可能性が高いな」

「武器毎に狩場が多少異なるので同じ場所には行かないようにしましょう」

「ほら、おと――尚文も一緒に混ざるのですぞ」

「う、うん」


 お義父さんの名前を呼び捨てしてしまいました。

 申し訳ありません。

 ですがさり気なくお義父さんを会話に混ぜる事に成功しました。

 こうやって小さな事から積み上げていくのですぞ。

 そうすれば勇者同士の結束は深まるはずです。


「では――」

「勇者様、お食事の用意が出来ました」


 と、話し合いをしようとした矢先に、下手な事をされては困るとでも言うかの様に、城の連中が遮ってきました。

 きっとお義父さんが有利になる情報を与えない為ですな。

 機会を練るのですぞ。

 今はまだ……お義父さんを擁護している事を見破られない様に注意しましょう。


 ループした最初の世界での事を考えると強化方法を教えるのは問題ないかもしれませんが、後でお義父さんが殺された事を考えると、警戒をしておくに越した事はありませんからな。

 錬や樹が死んでループする事はあっても、お義父さんが殺されてのループはもう絶対にさせませんぞ。


 食事を終えて、俺達はそれとなく就寝したのですぞ。

 もちろん、寝る前に俺はフィロリアル様の所へ遊びに行きましたが。

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