社会のルールを知らぬバカどもにはこれくらい毅然とした態度でのぞむべきだ、と拍手喝采をしている人たちも多いのではないか。
調理中の魚をゴミ箱に捨てるなどの様子を撮影した、いわゆる「不適切動画」を投稿したアルバイト従業員2人に対して、雇用主だった「くら寿司」を運営するくらコーポレーションが法的措置をとると高らかに宣言した。
同社のリリースによると、この決断にいたった理由は主に2つで、「全国で働く33,000人の信用回復」と、「全国で起こる同様の事件の再発防止につなげ、抑止力とする為」だという。
他社にも同様の動きが出ている。おでんのしらたきを口に入れて出すなどの動画を投稿した従業員2人に対して、セブン-イレブンも「法的措置を含む厳正な処分」を検討することを明らかにしたのだ。
これを受けて、これらの「厳格な対応」を支持する声も多く寄せられている。この手のバカは痛い目に合わせないと分からないというのだ。
これは企業危機管理のセオリーからすると、かなり画期的な対応だ。
これまでこの手の不祥事が起きると、企業側はいろいろと言い訳をしたい気持ちをグッとこらえて、「従業員の管理・教育がなっていませんでした」とわびるのがお約束だった。高校生バイトだろうが、オッサン正社員だろうが、その人間を雇用して職場での立ち振る舞いを指導していたのは、自分たちなので法律的には被害者であっても、社会通念上は「同罪」としていたのだ。
が、今回はそういうタテマエをかなぐり捨てて、「うちも被害者です」と訴えるだけではなく、元従業員を「見せしめ」として「断罪」するほうに回ったからだ。
●事態をさらに悪化させてしまう恐れ
この方法論が通るならば、これまでは企業側が「我々の指導監督不足でした」と頭を下げてきた、横領、情報流出、パワハラ、SNSトラブルなどの「社員犯罪」も、入社する際の契約違反だなんだと言って、「個人犯罪」として「断罪」して、企業側の責任問題を矮小化することができるのだ。
謝罪会見を見れば分かるように、日本の企業危機管理は、有名企業の対応を踏襲する「前例主義」となっている。くら寿司、セブン-イレブンという有名チェーンが採用した以上、同様の問題を抱えた他社も次々と「問題バイトは訴えろ」と追随していく可能性があるのだ。
ただ、報道対策アドバイザーとして、この手の不祥事が発生した企業のサポートを行うこともある立場で言わせていただくと、損害賠償をちらつかせるなど「厳罰」は、今回のようなトラブルの抑止・再発防止にはあまり効果がない。というよりも、事態をさらに悪化させてしまう恐れもあるのだ。理由は以下の3つである。
(1)有能な人材から敬遠され、「問題バイト」がさらに増える
(2)「厳罰」への反発・反抗心
(3)元バイト・従業員からのリークが激化
(1)に関しては、アルバイト店員の立場になれば明白だ。不適切動画を投稿するつもりがなくとも、何か組織に迷惑をかけるようなことをしたら、企業からガッツリ損害賠償請求されるような職場で気軽に働けるだろうか。
それが働くということだ、とおじさんたちは言うだろうが、若者はそこまで重い理由でバイトはしない。当然、厳しくない職場の求人へと足が向く。そうなると結局、バイトに厳しい姿勢でのぞむ企業のもとには、若者が集まらなくなるのでぜいたくは言っていられなくなる。
ということは、勤務態度が悪くて、ルールを守らないような「問題バイト」でも採用をするしかない。また、とにかく辞められると困るという弱みもあるので、厳しく注意もできないで野放しになる。つまり、「バイトテロ」のリスクがグーンと上がってしまうのだ。
●「憎悪」が生まれてしまう恐れ
そこに加えて、(2)のように雇用者側がバイトに対してあまりにコワモテの態度でのぞむと、「安い時給でコキ使いやがって」という反発・反抗心がバイトの中に生まれてしまう恐れもある。
分かりやすいのが、2017年2月にSNSで話題になった「セブン-イレブンの罰金制問題」だ。
きっかけは、あるユーザーが、セブン-イレブンでバイトする高校生の娘の給与明細書の写真を投稿し、病欠した時にペナルティ代として「935円×10時間=9350円」が引かれていることを明かした。
これを受けて、別の店舗の従業員も、「いかなる理由があっても、1分遅れるごとに、100円いただきます。※1時間の遅刻で6000円です」という店長が書いたと思われるメモの画像を投稿したのである。
アルバイト店員を使う立場の人からすれば、「これくらい厳しくやらないとダメなんだよ」と共感するかもしれないが、これらの投稿をきっかけに、「バイトなのにサービス残業をさせられる」「クリスマスケーキや恵方巻きの購入を強制させられている」など、従業員の職場に対する「ディスり」がせきをきったように活性化してしまったのだ。
つまり、社会人としての常識だということで、アルバイト店員に組織への忠誠を誓わせるのもあまりに度を超えてしまうと、今回の「不適切動画」と同様に、企業の信用失墜につながってしまうのだ。
さらに、筆者が「問題バイト」に法的措置をとることをおすすめしない最大の理由が(3)だ。
既に多くの専門家の方たちが指摘しているように、今回の投稿者の多くは、世界中にバカ動画を配信するつもりではなく、Instagramのストーリー機能で仲間内に見せるための動画が「流出」したというパターンである。
悪意がないので無罪だと言っているわけではない。多くの人には迷惑をかけた人間にはそれなりにペナルティーを課すのは当然だ。しかし、彼らからすれば、「テロ」など呼ばれるような大それたことをしたつもりがないのに、重すぎる罰を与えると「逆恨み」ではないが、企業への強い憎しみが生まれてしまう。このような「憎悪を抱く元従業員」は企業に対して、不適切動画どころではない、致命的なダメージをもたらす恐れがあるのだ。
●「企業に対する憎悪」が原動力
なぜそんなことを言えるのかというと、これまで20年ほど記者やライターをやってきて、企業のスキャンダルや、内部の人間しか分からぬような問題を役所やメディアにリークしてきた方たちに多くお会いしてきたが、その中で「企業に対する憎悪」が原動力となっている元従業員・元バイトの方が多くいらっしゃったからだ。
訴訟などで企業と全面対決している元従業員や元バイトというのは、これまで業務で得た内部情報、企業にとって都合の悪い話をリークすることが多い。企業側に非があることを世間に浸透させれば、法廷闘争も自分たちに有利に運ぶからだ。そういう力学が強く働く中で、パワハラや過重労働、業務に関する不正行為が発覚してしまう企業は非常に多いのだ。
今回の「くら寿司」の従業員2人が報復をする、などと言っているわけではない。ただ、もしこのような「バイトテロ」への法的措置が、企業危機管理の手法として市民権を得ていくと、その反動として、従業員側の内部告発もさらに活性化して、「泥仕合」になっていく恐れがある、と申し上げているのだ。
では、法的措置がよろしくないというのならば企業は、「バイトテロ」という問題にどうのぞんでいけばいいのか。
よく言われている「対策」としては、「コミュニケーションをしっかりとって責任感を持たせる」とか「アルバイトだと軽視しない」「働きがいを感じさせて店の代表という意識を芽生えさせる」なんてのが挙げられるが、これらはぶっちゃけあまり現実的ではない。
皆さんも体験があるだろうが、外食やコンビニのバイトはいつもシフトでカツカツに働かせられている。コミュニケーションだ、やりがいだ、というような従業員研修やコーチングなんてことに割く時間あるのならわずかでもシフトに入ってもらいたい、というのが雇用者側の本音だろう。
じゃあ店が終わったらやるのかというと、正社員ならいざ知らず、なぜバイトがそんなしょうもない時間外労働に付き合わなくてはいけないのだという問題もある。
コミュニケーションを密にとって、思いが一つになれば組織内の問題は解決できる――という精神至上主義というのは、日本社会のパワハラやブラック企業問題の根っこにもある「病」であって、それをバイトに押し付けたところで、事態をさらに悪化させるだけなのだ。
法的措置もダメ、コミュニケーションもダメだったらもう「バイトテロ」を抑止する方法などないと絶望する企業も多いだろうが、実はワイドショーのコメンテーターなどが決して口にしない、効果てき面な秘策が一つ残されている。
それは「賃金アップ」だ。
「出た! 何かとつけて賃金上げろ、賃金上げろ病。人として最低限のルールを守られないバカどもが問題であって、賃金など一切関係ない!」と怒りでどうにかなってしまう方もいるかもしれないが、賃金を上げるだけでも、「バイトテロ」のリスクはかなり軽減できる。
学生がバイトを選択する際に重視するのが、「勤務日数・時間・シフト変更・休みの融通がきくこと」とともに「給与が高いこと」というのは、「anレポート」の調査でも明らかになっている。つまり、給与を上げれば、それだけ人が集まるので、企業の採用活動と同様に優秀な若者に働いてもらえるということなのだ。
逆に言えば、給与が低いと、優秀な学生バイトは集まらないということでもある。さりとて、店は人手不足なので誰かを雇わないといけない。選り好みはしてられないので、面接時に言動がおかしな者、素行の悪そうな者でもサクサクと採用をしなくてはいけないのだ。
そういう危ない若者でもとにかく働いてくれるだけでもありがたいので、立ち振る舞いや社会常識などを口うるさいことは言えない。辞められたら明日からどうシフトを回せばいいのかという心配が先にきてしまうからだ。
つまり、低賃金は「バイトテロ」のリスクファクターとなっているのだ。
6年前のバカッター騒動から現在の「不適切動画」などを振り返れば、世間の注目を集めてきたのは、ほとんどが外食、コンビニ、宅配など、学生たちにとっては、仕事が山ほどあるわりには時給が安いバイト先が多い。
一方、これらのバイト先よりも比較的高い時給であるホテルや結婚式場での配膳係、高額バイトの代名詞である交通量調査、さらにキャバクラやスナックなどの水商売ではこれまで大きな「バイトテロ」は起きていない。
なぜか低賃金・低待遇で働く若者たちだけが、「悪ふざけ」をするのだ。
●「バイトテロ」が一部の業界で続発している原因
そう考えていくと、低賃金・低待遇ゆえに、「いつ辞めてもいい」という思いが後先を考えない愚かな行動の背中を押している可能性はないか。
基本的にコンビニや外食は、若者を「使い捨ての労働力」として使ってきた。ある日、突然辞めてしまう無責任な人間を想定して、応募がきたら即採用、辞めたら補給というサイクルで回してきた。こういうところで働く若者は自分のことをどう思うか。
「代わりはいくらでもいる使い捨ての労働力」だと思うだろう。
「使い捨て」なので、仕事に対する責任感も誇りも生まれない。だから、教室の悪ふざけのノリで、バカ動画を撮ってしまうのだ。
では、どうすれば彼らに「使い捨て」ではないと分からせるのかというと、彼らがバイトに求めているものしかない。そう、シフトを優遇したり時給を上げたりするのだ。
「いや、働くことは金だけじゃない。大切なのはやりがいやコミュニケーションだ」とか言う人がいるが、賃金や待遇を改善しないで、労働者に精神論を押し付けて不満を封じ込める職場を、世間では「ブラック企業」と呼ぶ。
ちなみに、今回の問題があったと言われる「くら寿司」の店舗のバイト募集を、Webサイトで確認したら「時給936円以上」だった。大阪府の最低賃金は936円なので、ここから技能や経験でグングン時給アップするのだろうが、学生の感覚からすれば、決して「高額バイト」ではなかったはずだ。
これまで日本企業の多くは「賃金は低く、労働者の質は高く」を合言葉に右肩上がりの成長を遂げてきた。そのビジネスモデルが限界にきて、あちこちで崩壊しているのだ。
この日本を支える「低賃金労働者」がたちゆかなくなっているのは、明らかに深刻な人権問題を引き起こす外国人労働者という移民政策へとゴリ押しでかじを切ったことからも明白だ。
「バイトテロ」は許されることではない。徹底的に断罪すべきだ。そう訴える企業側の気持ちもよく分かるが、法的措置の前に、なぜこのような「テロ」が一部の業界で続発しているのかという原因も、考えるべきではないのか。
(窪田順生)
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