僕が響になったから   作:灯火011
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解説その②


-My name is "Re"(2)

 レ級を家に連れてきて数時間。その間、僕こと響の艦娘としての能力をレクチャーしてもらっていた。

 

「なるほど、燃料さえちゃんと補給していれば、艦娘や深海棲艦はとんでもない力が出せる、と」

「ああ、ちょっと意識すればな…ほれ、こんな感じだ」

 

 そういうとレ級は小さな体で、しかも片手で軽々とベッドを持ち上げていた。わずか15センチ程度の小人が2メートル近いベッドを持ち上げる光景はなかなかシュールだ。

 

「ま、ただ」

 

 レ級はテーブルを下すと、ぺたりと座り込んだ。

 

「こういう能力は燃料を喰うから戦闘の時以外は基本、奥の手だけどな。響、灯油クレ。そっちのでかいグラスで」

「はい、どうぞ」

「助かる」

 

 レ級はそういうとグラスに尻尾を突っ込み、一瞬で燃料を補給していた。尻尾でも飲食が出来るのか。

 

「それにしても不思議ですね。普通の時はコップ一杯の燃料でいいのに、ちょっと能力を使うと消費が増えるなんて」

「まぁ、それは仕方ない。体重は変わらず能力や身体能力だけ船舶。我々はそんな都合のいい力をもっているんだ。その対価と思えば安かろう」

「確かにそうですね。しかもそちらの世界ではそれに加えて砲撃とかもできるのでしょう?」

「ああ、まぁ。ただあれはあれでなぁ…実弾は製造しなきゃいけないから結局コストが高いんだよなぁ…」

 

 レ級はそう言いながら遠い目をしていた。どの世界でも兵糧は大変なようだ。

 

「そういえばこちらの世界では艦娘の艤装についていろいろ解釈があるんですが、実際は艤装はどのようなものなんでしょうか?」

「ん?どのような、とは」

「例えばですね、こう、小さな姿だけれど威力は本物の軍艦並みだーなどと言われていたりするのですが」

「あー…。夢を潰して申し訳ないが、現実は往々にしてつまらんものでな、小銃のサイズだったら小銃の威力しか出んよ。私の臀部砲塔で実寸20ミリ程度の弾丸だから…まぁ、艦娘は文字通り吹き飛ぶが船舶にはとても太刀打ちできんよ」

 

 さらに、とレ級は続ける。

 

「普通の兵器と同じように出撃前に燃料を補給し、体のメンテナンスを受けて、艤装を受け取り、装備し、さらに艤装との接続・最終のメンテナンスを行い出撃する。そして戦闘を行い無事に生き残れれば修復・補給とローテーションを繰り返す。こっちの世界はそんな世界だ」

「結構殺伐としてますね」

「まぁな。我々はあくまで船舶の力が出せる海上歩兵なんだ」

 

 ということは、艦娘が装備している魚雷や主砲は対歩兵を意識している、ということだろうか。

 

「つまり、装備している艤装ではせいぜい歩兵を倒すぐらいしか能力がない、と?」

「そういうことだ。ま、あと大きな違いがあるとすりゃあ、私らは潜水能力がある、ってぐらいかね」

「…でも、先ほど街を空爆した、とか言っていましたが、どうやったんです?」

「…そうだなぁ、まず、我々の世界だが」

 

 んん、とレ級は一息つく。 

 

「実際の戦闘機や船舶も工廠で製造されている。1トン爆弾を積める爆撃機、40cm連装砲、酸素魚雷などなども、だ。そして大和や武蔵といった戦艦も当時の姿で製造されている」

「当時の姿で?」

「ああ、そして我々は、適合した武装や船体を一人で操り、管制することが出来るんだ」

「一人で、管制を?」

「そうだ。数百人必要な船の管制や、パイロットが数十人単位必要な航空機隊の操縦なども艦娘や我々が一人いれば行える。特に私、戦艦レ級は『航空機隊』『砲雷撃』『超巨大船の操縦』などなど数千人が必要なはずなのに、私一人で賄える。どうだい?戦争の道具としては特級品だろう?」

 

 確かにそうだと納得する。現代のイージス艦でも百人単位で人が必要なのに、それが1人で動かせるとなればそれは画期的な事だろう。

 

「更に詳しく言えば、ボイラーの火入れから各砲弾の準備、そして対空砲火に魚雷発射に主砲発射に電探操作。それがタイムラグなく一人で行えるんだ。恐ろしいぞ、大和クラスが出航までに数分、砲雷撃開始まで始動から5分とかからん。そのお陰か、人間が操るイージス艦を先手で落としたこともある」

「イージス艦を?」

「ああ。結局奴らはレーダーが良くて長射程のミサイルを持っている艦にすぎない。一つの動作をするのに、何通りも手順を踏まねばならない。そんなもの、正確な飽和攻撃を行えばそれを無力化できる。それに人型で偵察を行い位置を伝えた瞬間、海中から戦艦が飛び出て砲撃を行えば…」

 

 ぞっとする。人型の、目視もレーダにも映らないナニカに見つかった瞬間、海中から巨大な戦艦が現れ、タイムラグなしに何十発と砲撃を行ってくるのだろう。しかも、艦隊を組んで。それでは、いくらイージス艦とは言え対処は難しいと思う。

 

「ま、この世界では活躍する場などないだろうがな。しかしなんだ、我々が存在しない世界か。ふーむ。なぁ、響。少し貴様に付き合っても良いだろうか。せっかくこちらの世界に来たわけだし、平和な世界を見ておきたい」

「それは構いませんよ。ただ、明日から仕事なので来週までは家で大人しくしていただくと思いますが」

「それで構わんよ。ああ、ただテレビやらパソコンやらは使っても構わないか?こちらの情報を仕入れたい」

「ええ、ご自由に…そういえば、まさかとは思いますがこちらの世界を攻め落とそうなどとは」

 

 じとっとレ級を見下す。よく物語なのではありがちな話だ。だがレ級はやれやれと首を振る。

 

「考えるかよ。そもそもこの体だぞ?ちっさい体だぞ?逆に響は何を期待しているんだ」

「いえ、現実に深海棲艦が現れたー!とか、ちょっとワクワクするかなとか」

「ははは…たらればの話は嫌いじゃないが、それをやるにしても私が動かせる船体とドックがなきゃな。それに平和だという世界をわざわざ戦火に巻き込むほど野蛮じゃない」

 

 意外と理性的だ。

 

「…なんだその意外そうな顔は」

「いえ、ゲームのイメージ的にこう、一般的にレ級と言えば喜んで艦娘を生きたままかじりついて内臓を引きずり出しているようなイメージが」

「この世界の住人は、我々深海棲艦にどんだけ野蛮なイメージを抱いているんだ。そんなことはしないさ。我々とて海軍ぞ」

 

 ですよねぇ、と言葉が出かけたが、次のレ級の言葉でやっぱりこいつはレ級だな、と納得する。

 

「苦しまぬよう一飲みさ。クヒヒ」

 

 

 その夜、ふと夢を見た。

 

 見知らぬ天井、見知らぬ姉妹。いや、正確には識っている。暁・雷・電だ。3人の顔を撫で、部屋を出る。そして着の身着のまま、海辺へと歩みを進める。

 そこにいたのは戦艦レ級。手を差し出す響、鏡のように手を差し出すレ級。互いに開く口、音は聞こえない。

 

 上半身だけの抱擁、互いの目に涙。

 

 静寂ののち、レ級は海中へ、響は姉妹の元へ。

 

 音は聞こえなかったけれど、あの唇はこう、動いていた。

 

『私の、名前は…』

 

 






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