僕が響になったから   作:灯火011
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work a talk(2)

白Yシャツ。黒ベスト。黒ニーソ。ラップキュロットスカート。そして睫毛をマスカラで少し濃くし、唇にはラメのリップを塗ってある。銀色の髪はツインテールに今日はまとめてある。

 

 ビバツインテール。幼く見えつつもすごく可愛い。

 

 ということで、アルバイト2日目の響だよ。と艦隊これくしょんのキャラクターの真似をしてみるけれど、恥ずかしくなったので自重する。

 

 今日も朝の10時からホールを回す仕事についている。僕の影響なのかわからないけれど、今日もお店は開店と同時に満席だ。ま、元々人気店と書いてあったので僕のうぬぼれだとは思う。そして、皆が頼むのはマスターのオリジナルブレンドのレギュラーコーヒー、それに加えて、10時という時間もあってか小腹を満たせるお手製のサンドイッチだ。

 

「お待たせいたしました」

 

 僕は次から次へとお客様へとコーヒーとサンドイッチをお出しする。人は多いけれど、僕が忙しいという面はお客様に見せないように、丁寧に、笑顔を絶やさずに、背筋は伸ばして優雅に歩く。

 ちなみにだけど、土方がだらしないという印象を持たれるのが嫌で、背筋を伸ばして歩いていた現場での経験がすごく生きている。現場なんかは朝8時から17時までは仕事だし、そのあとの打ち合わせとかも含めれば10時間は背筋を伸ばしていたので、飲食店の力仕事がないアルバイトで背筋を伸ばして優雅に歩くのはお手の物だ。

 それに、響ボディがうまいこと機能してくれていて、所作が思い通りにできる。手を出すスピードや笑顔、声の出すトーンなど、本当に思うがままだ。本当、僕にはもったいない高スペックだと思う。

 

 なにより、ふと、喫茶店の窓に映る働く響が僕の心に直撃している。働きながらモチベーションがすごく上がる。お盆片手に背筋を伸ばして笑顔でコーヒーを出す響とか可愛すぎだと思う。中身が僕だけれどね。

 

『響ちゃーん、コーヒーお替りー』

「はい、畏まりました。少々お待ちください」

 

 そんなことをしていると、コーヒーのお替りのお声がかかる。すかさず笑顔で答え、優雅に背筋を伸ばして空のコーヒーカップを受け取り、カウンターのマスターへと手渡し、そして僕は伝票にコーヒー1追加と文字を書く。

 そういえば文字に関して、落ち着いてから発見したことがあって、この体で書いた文字は僕の字ではない。強いて言えば達筆の部類だ。ただ、一歩間違えれば読めない達筆になるのでゆっくりと気を使いながら文字を書かないといけない。ま、おそらくは響の本来の字なのだろうと納得しておく。

 

「響さん、コーヒーのお替り上がりました。よろしくお願いします」

「判りました」

 

 僕はそういうと、コーヒーのお替りを先ほどのお客様へと運ぶ。笑顔でお待たせいたしました、とお声がけをすると『ありがとう』と笑顔を向けられる。うん、接客業も悪くない。

 

 

 時間が少し過ぎて12時。朝と違い、軽食だけではなく少し重い食事をされるお客様が増えてきた。ちなみにだけど、ここの喫茶ではお昼時になればサンドイッチに加えて、カレーとパスタ系が増えるので、お昼を求めるお客様が結構来られるようだ。

 

 ちなみにカレーは創業から続くビーフカレーとのこと。そして連日売り切れるのだとか。賄いに期待はできそうにない。パスタはナポリタンで、酸っぱい香りがお腹を刺激してくれる一品だ。こちらは売り切れることはないそうなので、今日の賄いは期待できそうだ。

 

 そんな感じでお昼時、カレーやパスタをコーヒーとともに運んでいると、新しいお客様が喫茶店に入ってきた。

 

「いらっしゃいませ。何名様でしょうか?」

「私と子供で二人です」

「あ!おねえちゃん!こんにちわ!」

「はい、こんにちは。ええと、それではこちらのテーブル席にどうぞ」

 

 親子連れをテーブル席に案内して、おしぼりと水を運ぶ。すると、すぐに注文が飛んできた。お母さんはサンドイッチとコーヒー。お子さんはカレーとオレンジジュースとのことだ。マスターに注文を通してカウンターの近くで待機していると、子供が手を振ってくる。うん、ほほえましい。ということで、僕も手を振り返した時だ。

 あの子どこかで見覚えがあるなぁと思ったら、猫を助けた時にいた子供だ。なるほど、だから親しげに手を振ったりしてくれていたのかな。といったところで、マスターから料理が完成したよと声がかかる。

 

「お待たせいたしました。カレーライスとサンドイッチ、お飲み物のコーヒーとオレンジジュースです」

「ありがとう。あ、そういえば店員さん、この子が店員さんが猫を助けたと言っていたのだけど」

 

 あぁ、まぁ、お母さんになら言ってるよね。

 

「ええと、数日前に近所の川で流されそうになっていた猫なら助け上げましたよ」

「あら!そうなの。この子ったらずっと店員さんの話ばかりで」

「お姉ちゃんかっこよかったよ!水の上をすいーって!」

 

 んん、内緒といった水上移動を簡単に話していてちょっと驚いたけど、まぁ、お母さんのほうは『またそんなこといって。店員さん、ごめんなさいね』と言っているので、冗談だと思ってくれたのだろう。そして、その親子は昼食を食べると、何か用事があったようで足早に店を後にしていった。ただ、店を出る前に男の子が僕に近づいてきて、

 

「そういえばお姉ちゃんの名前はなんていうの?」

 

 なんて聞いてきていた。僕は笑顔を浮かべて男の子へ視線を合わせると、響を意識して自己紹介をしていた。

 

「響だよ。ふふ、またどこかであったらよろしくね?」

「うん!お姉ちゃん、またね!」

 

 そう言って手を振る男の子。お母さんは申し訳なさそうにお辞儀をしていたけれど、僕としてはほほえましくて良いと思う。

 

 

 親子を送った後、しばらくお昼の賑わいが続いている。サラリーマン、土方、OL、主婦、学生、客層は様々だ。ただ、お店に来る人は全員礼儀正しく、せいぜい少しおしゃべりをするぐらいで、騒ぐ人は本当に誰もいない。

 ちなみにだけど、ここは喫茶店とだけあって煙草は喫煙可能だ。僕個人としては土方の時に結構吸っていたほうなので好ましい香りなのだけど、やっぱり吸っていない人にとっては嫌な臭いなのかなぁと思ったりする。

 ただ、この喫茶では煙草の匂いが嫌いという人に今のところ出会ってはいないので、本当、接客がすごいやりやすい。『煙草の香りが嫌なので禁煙席を』とか言われてしまうと、禁煙スペースがないこの喫茶では入店をお断りしなくてはならないからだ。

 

 まぁ、それはさておいて、僕は喫茶店のお客様のテーブルを一人一人確認してまわっていた。というのも、お昼時はどうしても回転を速くしなければならない。ただ、直接声をかけるとせかしている感じが満々なので、空いた食器を下げることによって退席を促している。実際、食器を下げた人は飲み物がなくなったとたんに退席する人が多い。逆に食器を置きっぱなしにすると、飲み物を飲み終わってもだべっていたりする。それじゃあ良くない。

 

 ということで、お食事はお済みでしょうか?とか、空いたお皿をおさげします。だとか声をかけながら、笑顔で食器を片付けていく。ただ、この時も食器を重ねたりして不快な音を出さないように細心の注意を払う。あとは食器を引き取る際は人の右側から行くようにしている。これは人間の心理で、どうしても左側は無防備になりやすいと聞いたことがあるからだ。だから、右側から、僕が視界に入るように心がけつつ食器を下げる様にしている。

 

「響ちゃんありがとうねー。いやぁ、今日もコーヒー美味しかったよ」

「ありがとうございます」

 

 そうすると、こういう会話も生まれたりして、お客様との距離が近づいたりもする。そうすると、常連さんとなりゆくゆくはお店が繁盛するんだ。まぁ、大前提として料理がおいしくて、お店の雰囲気が良くなければいけないのだけどね。そして何より、僕の名前を覚えてくれているのはすごく嬉しい。喫茶店に来てくれたお客さんには、聞かれれば自己紹介をしていたのだけれど、覚えてくれているようで何よりだ。

 

 

 工事現場で働いている俺は、普段は家から持ってきている弁当を食うのだけど、今日は早番で弁当を用意できずに外食をしなければならなかった。そこで同僚に最近どっか食いにいってるのかと聞いてみたら、かわいい店員がいる喫茶店があるということで、昼飯を同僚と共に喫茶店でとることにした。

 

「本当に可愛い店員さんがいるのか?」

「おうおう。マジだって。見たこともない別嬪さんだぜ」

 

 同僚と軽口を叩きながら店に入る。すると、結構店は繁盛しているようで一人の店員がせわしなく動いていた。しかし銀髪に青眼とは珍しい。外国人か何かだろうか?

 

「お、あの子だよ」

 

 同僚の声でその店員を注視すると、店員もこちらに気づいたようで、

 

『いらっしゃいませ。何名様ですか?』

 

 と、笑顔で俺に声を掛けてきていた。2名ですと答えると、テーブル席へと案内される。

 

「どうだ?可愛い店員さんだろう?」

「あぁ、確かに」

 

 すらっとした手足に、体型にあった制服。そしてきれいな笑顔。なにより声が聞いていて心地よい。

 

『お絞りとお冷やでございます。ご注文がお決まりになりましたらお声がけをお願いします』

 

 そういっておしぼりを手渡されたときに、不意に彼女の指と俺の指が触れ合う。すべすべで少し冷たい指先だった。正直、ちょっとドキッとした。そのあとはカレーを注文し味わう。そして、食後のコーヒーもなかなか旨い。近所にこんな場所があるなんて知らなかった。

 

「旨かっただろ?」

「ああ、旨かった。それに確かに店員さん可愛かったな」

「だろー?昨日かららしいんだ。響ちゃんとか言ってたな」

「お前名前知ってるのか?」

「あぁ、聞いたら答えてくれたよ『響です』ってな」

 

 そうか、響ちゃんか。うん、飯も旨かったし、今度から昼食をあの喫茶で摂ることにしよう。

 






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