僕が響になったから   作:灯火011
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Talk a walk(3)

おばちゃんの手伝いをしたり、プリクラを撮ったりしていたら日が傾いていた。真っ赤な良い夕日だ。これならば明日も晴れだろう。公園の椅子に座りながら、夕日をぼけっと見ていたら猫が頭に乗ってきた。にゃーとか鳴いているけれどいきなりはびっくりする。

 

 猫を両手でつかんで目の前に持ってくると一つ気づく。この猫は今日助けた猫じゃないか。

 

 膝の上に猫を乗せて頭をなでると、頭を手に押し付けてきた。うん、人懐っこいね。ものすごくかわいい。だけど持っては帰れないし、今のうちによく撫でて楽しんでおこうと思う。

 

「ふふふ」

 

 川に流されそうになっていた割には元気だし、非常に触り心地が良い。ふかふかだ。思わず笑みが出てしまう。

 

「可愛い猫ですねー。貴女の飼い猫?」

 

 などと油断していたら、OLっぽい女の人から声を掛けられていた。猫を撫でていた手を止めて女の人へと顔を向ける。

 

「あ、いえ。野良なんですけれど、なつかれてしまって」

「そうなんですねー。少し撫でても構いません?」

「いいですよ」

 

 僕はそういって女の人へ猫を差し出す。猫は暴れもせずに、女の人の手の中に収まっていた。

 

「大人しいですね。あ、ふっかふかだ」

「うん。すごくふっかふかなんです」

 

 女の人の手の中で気持ちよく撫でられている猫。うん、猫と女の人は絵になるね。

 

「あ、すいません、私はそろそろ家に帰りますので」

「あ、はいー!猫ちゃんはどうします?」

「お姉さんの好きになさってください」

「あは。判りました。それじゃあ!」

「はい。それじゃあ、またどこかで」

 

 さて、じゃあ、補導とか職質とかされちゃたまらないし、日が暮れる前に我が家に帰るとしようか。

 

 

 スーパーで食材を買って帰宅した僕は、邪魔な髪の毛を後ろ手に纏めて夕飯を作りながら、今日一日の出来事を振りかえっていた。クレープ屋から始まり子供たちのちょっとした人気者になり、なぜかカメラに写り、プリクラを撮り、と結構充実していたのではないだろうか。

 

 うん、今日一日ほっつき歩いて、かなり人の目には慣れたと思う。バイト先からの連絡はまだであるし、明日もまたこの体に慣れるためにほっつき歩くとしよう。ただそうなると明日の服をどうしようかな。今日と同じような服装だとつまらないし、明日は少し雰囲気を変えてみようと思ったりもする。

 

 まぁ、それはそうとして何はともあれ夕飯だ。とはいっても普段はコンビニ弁当で済ましていた僕が作れるものは少ない。ということで今日のメニューはソーセージと大葉を使った和風パスタだ。味付けは僕の好みにしてあるので当然美味しい。ただ、我ながら食べる量が半端ない。昨日よりも多いんじゃないだろうか?

 

 うーん、昨日と変わった行動をした覚えは無いんだけどな。やっぱり歩いた分おなかが減るのだろう、ということで納得しておく。

 

 そしてご飯が終わればお風呂の時間だ。今日は帰り際に長いタオルを購入してきたので、髪の毛を洗い、トリートメントを行った後に髪の毛をアップにしておく。そうすると湯船に浸かっても髪の毛は水に浸からないという寸法だ。体に関しては泡の出る網で作ったふわふわの泡で撫でるように洗う。ちょっと調べたらこするのは女の子の肌にとっては悪いらしい。

 それらが終わったら肩までお湯につかってリラックス。うん、やっぱり慣れてきたとはいっても他人の視線やいままでなかった会話などで疲れているらしい。体が温まってくるとどんどん眠気が増してくる。

 

「ふぁー」

 

 思わず、可愛いあくびが出る。うん、一人になるとこの体の可愛さが目立つ。声も可愛いし見た目も可愛い。聞いてよし見ても良しとはこのことだ。体臭に関しては自分ではわからないけれど、いい香りがしていると信じたいところだ。

 

 風呂から出た後は水気をぽんぽんとタオルを押し当てるようにふき取り、髪の毛を入念に乾かしてからフリースを着ようと思ったけれど、裸のままで鏡の前に立つ。

 

 うん、改めてみても銀髪青眼の美少女だ。スタイルも…豊満ではないけれど整っている。うん。何度見ても可愛い。興が乗ったので、明日の服合わせもしてみよう。ええと、とりあえず下着から見てみよう。とりあえずはパンツとブラジャーをつける。そして、今日はニーソだったので黒のストッキングを装着。…一部のフェチに人気そうな格好になってしまった。

 まぁ、それはいいとしてここからだ。まずは上のシャツを何にするか。うーん…そうだな、ベージュのフリルシャツにワークキャップを合わせて、下は…ミニの黒のフリルスカートでどうだろう。あ、まずいわこれ。僕が持たない。ミニスカートのこの姿で人の眼前に向かうのはすごく、恥ずかしい。ただ、すごく僕の好みだ。うん。僕の語学力が無いのが口惜しい。うーん、でもせっかくの女の子であるわけだし、こういう恰好もありだから、いずれ慣れておかなくちゃならないはずだ。

 

 よし、ま、いい!この格好で明日は外出してみることにする。ということでフリースに着替えて布団に入る。色々問題は残っているけれど、ともかくとして今日はよく眠れそうだ。

 

 

「ほー、お前ずいぶんかわいい娘を撮ってきたな」

「ええ。これでモデルでもなんでもないっていうんですから驚きでしたよ」

「名前はなんていうんだ?」

「工藤響と言っていました。18歳だそうです」

「ほー。いいな。掲載決定だ。ページを丸々1枚使っていいぞ」

「おお!ありがとうございます。気合入れてページ作りますよ!」

 

 

「いやぁ、さっきの女の子かわいかったなー。しかしまったく、型抜きの最中に鼻の下伸ばしやがって」

「ははは、お宅こそ、たこ焼き渡すときに鼻の下がんがんに伸びてたじゃねぇか」

「そりゃ、なぁ。しかしえらい別嬪さんだったよなぁ」

「ええ、食べてる姿もかわいかったし、笑顔もかわいかった」

「「「「もう一回来ねぇかなぁ」」」」

 

 

「わー、やっぱり猫ちゃん可愛いわー。結局家に持って帰ってきちゃったけど…あの女の子の名前聞くのわすれちゃたなー」

「にゃー」

「ふふ、ま、どこかで会うでしょ。その時に名前を聞こう!それはそうとして、猫ちゃん、今日からよろしくね」

「にゃー」






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