WHITE ALBUM 東山さん編 第一回「森川由綺
                  第二回「緒方 理奈
                  第三回「河島はるか

                 第四回「澤倉 美咲
                 第五回「篠塚 弥生
                第六回「観月マナ
                第七回「番外編
               第八回「総論

新コンテンツ開設記念レビュー
『WHITE ALBUM』

新コンテンツ開設を記念してのレビューということで、私にとって記念碑的なタイトルを選ばせてもらいました。これをやってなければ、おそらく今の私はないでしょう。思い返せば、現在に至る凋落の発端はここにあったようです。
Leafの『WHITE ALBUM』。私が最初にやったエロゲーです。ギャルゲーじゃないのかという話もあるのですが、当時の私の意識では『WHITE ALBUM』はあくまでエロゲーでした。だから、このままレビューを書くとえらいことになってしまいます。やたら個人的な趣味(エロとかエロとかエロとか)にリキ入ったレビューなんぞ、誰も読みたがらんでしょう。っていうか書きたくない。てなわけで、今回のレビューを書くにあたって、もう一度やりなおしてみます。
とは言っても、エロゲーの割にテキストをしっかり読んで感情移入していたあたりを考えると、意識せずにギャルゲーとしてプレイしていたような気もします。そうすると、やっぱりギャルゲーとしても最初と言えなくもないか。
まあ、98年に出たタイトルで何を今更と言う感じですが、あれから数々のゲームをこなした現在でも、評価は最高ランクです。初めてやったからという思い入れもあるからでしょうが、奇跡やら、ホラーやらに逃げずに真っ向勝負で「愛」を主題においたその正統派な姿勢は、評価高いです。何よりも、心情の機微を描くテキストの繊細さは、現在でも暫定トップの座を守りつづけています。
そろそろ、本題に入りましょう。私のエロゲーとギャルゲーにおける原風景。『WHITE ALBUM』。・・・・なんかいやだな。

第一弾
~『森川 由綺』編~
『WHITE ALBUM』におけるメインヒロイン。主人公とは高校時代からの付き合いで、今は同じ大学に通っている恋人です。ただし、『由綺』は売出し中の新人アイドルでもあります。やや遅咲きのデビューな気がしますが、それは置いときましょう。その忙しいアイドル業のせいで、主人公と『由綺』はなかなか会えない状況にいます。ちょっとした遠距離恋愛状態です。
この、『由綺』と主人公が最初から付き合っているという環境と、『由綺』が多忙で、主人公とすれ違いが多いという状況が『WHITE ALBUM』の軸になる部分です。これらの設定が『由綺』シナリオのみならず、他の全ヒロインのシナリオにおいても重要な要素になります。言ってしまえば、厳しい周囲の環境に流されずに純愛を貫くか、『由綺』を裏切って別のヒロインに鞍替えするかの二択です。当然、『由綺』以外のヒロインは皆、後者に属するので、メインヒロインではありながら『由綺』のシナリオの性格はむしろ異質です。
『由綺』は少し天然の入ったヒロインです。どこか、幼さを残した性格をしています。別に幼稚というわけではなく、純粋さや無垢さといった年下系メインヒロインの必須条件を満たしているという意味でです。『由綺』の場合、素直さという特徴もあるので、同い年ながら「保護欲をそそる」効果の傾向も多少あります。(また、こういう発言をするし)実際、このゲームの中で『由綺』の扱いは、年下キャラに近いです。

さて、プロローグは『由綺』が主人公に自分がデビューすることが決まったことを知らせに来た時の夢を見るところから始まります。高校時代からデビューを目指してきた『由綺』にとってそれは、嬉しい知らせであると同時に、二人がこれからなかなか会えなくなるという知らせでもあります。このシーンのテキストからは、誰より一番に知ってもらいたいけど、心から喜ぶことは出来ないという微妙な『由綺』の心情がよく伝わってきます。『由綺』の表情とセリフが、良い味出してます。この辺の機微の表現は全編を貫いて上手いです。
主人公は、不安を感じている『由綺』を励まして言います。「二人で夢を叶えよう」と。
いかにも、これから何かあるぞと言わんばかりの出だしです。
デビューを果たし、テレビや雑誌やらで活躍していく『由綺』の姿をブラウン管ごしに見ながら、主人公は励ましの言葉をかけた口とは裏腹に一抹の寂しさを覚えつつ、日々を送っていた。そんなところから、本編に入ります。

あー、ここで単純にストーリー解説なんてしたら野暮ってもんですな。
『由綺』シナリオの何が良いかっていうと、『由綺』との間に立ちはだかる壁を乗り越えていくところです。この壁は、会える時間がないことだったり、『由綺』にちょっかい出してくる男が出て来たりする実際的なものと、その背後にある主人公と『由綺』の心という内面的なものの二重構造です。こうした、壁を越えていくことがそのままストーリーになるわけですが、説明として書くとつまらなそうに見えるな。
実際、この手のゲームで奇跡だの天使だのが横行してる現在、特殊な世界設定もなしで単純に恋愛ものをやられても、インパクトが弱いのは否めません。
しかし、『WHITE ALBUM』の売りの部分は、そうした現実離れしてない世界設定で、恋愛心理を上手く描き出したことです。心の微妙な動きを描写するのは、困難なはずですが、この『WHITE ALBUM』は見事にテキスト上で書ききっています。これがあるおかげで、特別な世界観のある物語ではないのに、そのシナリオに深みが出てきています。

心の微妙な動きは説明するのが難しいんで、なるべくなら避けたいんですけど、『WHITE ALBUM』の売りと言ってしまった以上、触れなきゃいけないんだろーな。
『由綺』は普段、主人公と会っている時には、決して弱音を吐きません。分刻みのスケジュールの中、いつも心配してくれる主人公に、「大丈夫」だと笑顔を見せて、むしろ逆に主人公を気遣うくらいです。そして、主人公は『由綺』のそんな気持ちを思いやって、黙って彼女を見守っていくわけですが、終盤になってその「大丈夫」という言葉の裏に隠されつづけてきた『由綺』の心情が少しづつ見えてきます。その部分の描写は本当に良く出来ています。

『由綺』シナリオが本格的に動きはじめるのは、『由綺』のクリスマスライブのイベントからです。
ライブで主人公は今まで敢えて避けてきた、アイドルとしての『森川 由綺』に触れ、不思議な感動と少しの寂しさを感じます。自分の住んでいる変り映えのない日常と『由綺』のいる華やかなステージとの間に連続が見出せずに、主人公は戸惑い、悩みます。「楽園の、向こう側と、こちら側」という言葉で主人公は感じた断絶を表現しています。
ちなみに、ライブ終了後の控え室でプロデューサーの『英二』さんが『卒業』という花嫁をかっさらうラストが有名な恋愛ものの映画のことに言及しています。ここで見れる、その映画をモチーフにした、ファンに見つからないように変装して二人で手に手を取ってライブ会場からクリスマスの街に逃げ出すシーンは『由綺』シナリオの一番の見せ場です。

様々に立ちはだかる壁を越えて、最後のイベント「音楽祭」に向けてストーリーは収束していきます。
そして、「楽園の、向こう側と、こちら側」という状況はこれからも変らないだろうことを覚悟しながらそれでも、主人公は変らずに『由綺』を愛しつづけることを決心します。その心情は、ラストの、地面におちる前に消えていってしまうような、季節はずれの雪の中で、主人公が『由綺』を強く抱きしめるシーンに結実しています。

ああ~、もうお腹いっぱいです。 お幸せに~。

『WHITE ALBUM』の本質にかかわる特色は、愛するがゆえに人を傷つけるという矛盾を描いたところです。良くあるもののように思われますが、ここまで真正面からえぐったものはなかなか見かけません。多くのゲームの場合でも、過酷な状況や運命とかいう外的要因によって傷つくことはあります。しかし、「愛」そのものが持つ分かちがたい特質、相手へのいたわりだとか、思いやりだとか内的要因によって、相手を傷つけるという描き方をされているものは、あまりありません。
『Kanon』を例にとれば、確かに、主人公やヒロインたちは様々な出来事に直面し、傷つきますが、「愛」という点において、彼らには僅かな曇りもありません。「愛」自体は素晴らしいものとして描かれています。物語としてマイナスには働いていないので問題にはならないのですが、その姿勢は根本のところで盲目的に「愛」賛美です。
ところが、『WHITE ALBUM』では、その救いであるはずの「愛」が、人を傷つけます。「愛」は幸せだけをもたらすものではないという姿勢です。『由綺』をはじめ、他のヒロインも主人公も「愛」によって傷つきます。その底流には、「愛」は人を救うばかりではない、それでも人を愛するのか、愛することを諦めないのか、という重い問いかけがあるように思うんだが。
登場人物たちは、周囲の人だけでなく自分自身をも傷つけながら、それでも「愛」を追い求めます。ここにこそ、『WHITE ALBUM』の『WHITE ALBUM』たる価値があります。
「愛」それ自体に迫るという性格は、ある意味、この手のゲームとしては不出来と言えるかもしれませんが、個人的には、非常に評価しています。

今回、レビューを書くにあたって、やりなおしてみたところ、以前は気がつかなかった粗が目立ちました。特に演出面では、物足りないところが多かったです。ストーリー自体が良いだけに、テキストの書き方、過去のシーンの使い方などで、もっとこだわって欲しい気がしました。
ストーリーの全体的な流れも、収束性が弱い感があります。『WHITE ALBUM』のシミュレーション的なゲームシステム上、仕方のない部分ではあるのですが。

追記
書きすぎた。流石にこの調子で全部やるのはつらいぞ。『WHITE ALBUM』のヒロインは6人いるのに。
今回は、評論色が強かったんで、次回は、趣向を変えていきます。
次は、ライバルアイドルの『緒方 理奈』編です。私が最初の最初にクリアしたヒロインです。





新コンテンツ開設記念レビュー第二弾

アイドル。
それは、憧れの象徴。
アイドル。
その響きに、漢たちは打ち震える。
アイドル。
それは人でありながら、偶像と呼ばれる存在。

私たちは、普段、彼女たちと直接相対することはない。
彼女たちを見るのは常にブラウン管ごしだ。
でも、もし、テレビでは見ることが出来ない彼女たちの素顔を垣間見ることが出来たら?
………
今回の標的は、アイドルだっ!
コンチクショー!!
…誰か止めてくれよ…。

~『緒方 理奈』編~
『由綺』の友人にしてライバル。二人の所属するプロダクションのプロデューサー『緒方 英二』の妹です。ひとつのタイトルに必ず一人はいる気の強いヒロインです。もはやありがちを通り越して、ひとつの原型になってしまっている性格タイプです。「勝気な女の子」はなかなかにおいしい設定です。普段は強がって、自分の弱さとかを人には決して見せないんですが、その隠された弱さが見えてしまう瞬間がいいです。普段見えない分、見えた時は二倍美味しいです。
この手のキャラクターは、一見、気が強くて主人公を嫌ってるように振舞いながら実は好きという、いわゆる「嫌よ嫌よも好きのうち」なパターンがプロトタイプによくあります。『理奈』はどうかと言うと、気は強いのですが、主人公に普通に接しているので、派生形と言えるでしょう。

主人公との出会いのシーンは結構インパクトが強いです。いきなり、顔面にパンチくれやがります。まあ、単に『英二』さんとの兄妹喧嘩のとばっちりを受けただけなんですが。
そうした第一印象があるので、『理奈』は最初、気位が高そうに見えるのですが、話していくと意外なほどに素直で優しい兄思いの妹であることが分かってきます。ちょっとわがままなところがありますが、それがまた良い感じです。
『理奈』はトップアイドルであるという自負と周囲の期待から、普段は完全に「緒方 理奈」を演じきっています。それは、カメラの前だけではなく、控え室でも、喫茶店でも、あらゆる場面で「緒方 理奈」らしく振舞っています。勝気で、トップアイドルとしての威厳があって、悩み事など何も無いような「完璧な笑顔」を見せる『理奈』。
しかし、シナリオが進むに連れて、主人公には次第に素顔を見せはじめます。そこには、勝気でもなんでもない、年相応の女の子である『理奈』がいます。「緒方 理奈」という役に疲れ、途方にくれているその姿すら、誰にも見せられない。それでも、『理奈』は強がりつづけています。
『理奈』シナリオは、『理奈』がだんだん主人公に心を開いて素顔の自分を見せていく流れで展開していきます。

『理奈』というヒロインの魅力は、トップアイドルという仮面の下に隠された素顔です。少しわがままなその素顔は、かなり打撃力高いです。
その魅力が一番よく出てるのは、終盤の告白の場面です。
テレビ局での収録が終わった後のスタジオで『理奈』は主人公に自分の気持ちを伝えます。しかし、気持ちを伝えただけで、『由綺』を思いやって『理奈』は自ら身を引こうとします。それを引きとめようとする主人公に言う『理奈』のセリフが、かなりきます。普段は決して見せない、素顔の『理奈』がそこにあります。
「言わないで…。由綺のところに戻って…。でなかったら…!」
「でなかったら、冬弥君(主人公)! 私、絶対あなたを恋人にしちゃうから! 判る!?」
「緒方理奈の恋人なんて烙印を押されちゃうのよ! アイドル緒方理奈の恋人だって! とてもまともじゃいられないわ! いいの、それで!?」
「…だから、さようなら。本当に楽しかったから…」
こんな感じです。
うーん。言葉の中に見える優しさとわがままさのブレンド加減が絶妙です。

この告白の後、『理奈』と『由綺』の恋の鞘当シーンがあります。この場面は間違い無く『理奈』シナリオ最大の見せ場です。『由綺』の恋人を心ならずも奪ってしまった『理奈』のけじめです。『理奈』は自分の口から『由綺』に決定的な言葉を伝えます。
このシーン、本当に見てて痛いです。どう考えても悪いのは中途半端な態度で優柔不断かました挙句、二股かけた主人公です。それなのに、『理奈』、『由綺』にひっぱたかれます。
ここでのセリフから、『理奈』内面が少し見えます。
「どうしてみんなあなたのものなのよ!? 初めて、ほかに何も要らないって思ったのに、それなのに、兄さんも、冬弥君も…。どうして私のものじゃいけないのよ!?」
『理奈』が本当に欲しかったものは、トップアイドルとしての名声でも人気でもなく、ただ普通の女の子として生きる日常だったのでしょう。『英二』さんや周囲の人の期待に応えるために、「緒方 理奈」を演じつづけ、成功を収めれば収めるほど、『理奈』の周りからは等身大の自分を見てくれる人がいなくなっていく。トップアイドル「緒方 理奈」というフィルターを通してしか、認識されない『理奈』の心情は、そうとう孤独だったのではないでしょうか。
そうしてみると、『理奈』シナリオの中で「完璧な笑顔」という表現が重要なものになってきます。これは『理奈』が普段見せているアイドルとしての笑顔のことです。こうした、よそ行きの表情しか見せなかった『理奈』が、最後の方で主人公に心からの笑みを見せます。それは、テキスト中の表現を借りれば「不安や哀しみや、そしてわずかな安心感を含んだ、そんな普通の少女の微笑み」です。等身大の自分を見せられる人を『理奈』は見つけることが出来たのでしょう。

また、なんか理屈っぽくなってきたな。

ちょっと、一年半前に最初にクリアした時の感想を思い出して書いてみます。
『理奈』は、当時の私のイメージではかなりの策士です。
当初から『理奈』は主人公と『由綺』の関係を知っており、『英二』さんが『由綺』にちょっかい出すのを阻止しようとして、主人公にも気をつけてと警告をくれます。
しかし、しかしですよ。
事情も知らされずに、いきなり『英二』と『由綺』のデート現場見せられたりした日には、どう考えても主人公と『由綺』の仲を引き裂こうとしてるとしか思えません。おまけに、会話の端々に、「好きかな…」だとか「優しいのね…」だとか、織り込まれちゃあ、あなた、つかみ入れに来てるの確定です。こんなことをやられたら、少なくとも私はコロっといってしまう自信ありです。そりゃーもー、赤子の手をひねるような勢いで。
しかも、とどめに既成事実を作ってから、『由綺』に主人公をよこせって迫ってるし。
心情を抜きにして、事実だけを追うと悪魔みたいです。このヒロイン。

さて、冗談はこのくらいにしておきましょうか。
『理奈』シナリオ中、最高の見せ場はやはり、『由綺』との修羅場シーンですが、私が個人的に好きなのは、エンディングのスタッフロールの中で見られる『理奈』の絵です。
ステージ衣装のまま、机に突っ伏して眠る『理奈』の表情はひどく疲れているように見えます。ちょっと休憩のつもりで目を閉じたら、ついそのままって感じです。
この絵には、造られた「緒方理奈」という虚像を背負わされ、虚勢を張りつづけてきた少女の孤独を完全に表現してます。これ描いた人、最高です。

次回は、幼馴染を予定しています。少し忙しいので、上梓するのにしばらくかかるかもしれません。






新コンテンツ開設記念レビュー第三弾

何も言わなくても、自分のことを良く分かってくれる。特に言葉を交わさなくても間が持つ。へこんでいる時は、余計なことを言わないで傍にいてくれる。普段は、馬鹿なことばかりしてるのに、困ったときは親身になって心配してくれる。どんな話をしても、自分を受け入れてくれる。何でもない時には気にもならないのに、ふと振り返ってみると自分の人生の大事なポイントには必ず、身近にいる。いつでも、どんなときでも自分の傍にいてくれる。
そんな、異性っていいですよね。・・・・・・いいだろ。頷いてくれ。

話は変わるけど、前に、ある奴にこんなことを言われた。
「愛は理解に似ているけど、自分を最も良く理解してくれる人が理想の恋人というわけではない」
思い返すと、深い言葉だな、おい。
さて、今回は最も自分を理解してくれている人。
幼なじみです。
正直な話、俺の鬼門です。
そんじゃ、いくか~・・・・はぁ。

~『河島 はるか』編~
主人公の幼稚園以来の幼なじみ。「つきあいが長すぎると性別を無視できてしまうって実例が服着て歩いているような存在」と言いながらも、きっちり攻略対象に入ってるあたり、見境なしです。ショートカットの見た目どおり、ボーイッシュなヒロインです。スポーツが得意なのだが、高校の時に、兄を喪ったことが原因で大好きだったテニスを手放してしまったらしい。『WHITE ALBUM』の中で、唯一、脛に傷を持っているヒロインです。この手のパターン上、普段はそんなそぶりは見せないのかというと、そうでもありません。普段からナチュラルに見せまくってます。というのは、この『はるか』、天然のかなり入った捉えどころのない性格をしてるんですが、その性格になってしまったのは、過去の事件以来らしいからです。つまり、普段の行動、発言の全てが、過去引きずってますってアピールを常にしてるんです。まあ、暗いとか、よく泣くとかじゃなくて、単なる脱力系なんですけど。性別も、女性であることを強く意識させないのに、男っぽいとかでもなくて中性的な存在です。そんなヒロインなので、攻略対象としての魅力はいまいちなんですけど、シナリオの出来はかなりいいです。

シナリオの軸は、男とか女とかを感じさせない幼なじみの関係が、次第に恋人の関係に変わっていく過程です。それでも、最後までどうしても幼なじみ関係くささが抜けないんですが、それもまたいい味出しています。
少しづつ、二人の関係が変わっていくことに、戸惑いと、恐れを感じながら、主人公は『はるか』との距離を縮めていきます。その辺のシナリオの進み具合は、ゆっくりとしています。二人のもどかしい関係が、微妙に伝わってきます。
クリスマスが近づく頃から、二人の関係が少しづつ変ってきてしまったことに、お互いに気づきはじめています。戻れないとは分かっていながらも、二人は恋人でも、親友でも、友達でもない関係にしがみつこうとします。

抽象的な心情表現に関して『はるか』シナリオは高いレベルで作り上げられています。シナリオ中で、空を見上げるシーンが良く出てきますが、うまく使っています。
雲ひとつない青空、すがすがしく澄みきった冬の空を見上げているのに、二人が感じる事は、なぜか寂しさです。無限に続くかと感じさせる空は、一切の束縛を感じさせないがゆえに、それを見る者には思いどおりにならない自分の心を惨めに感じさせます。思いどおりにならない二人の関係を象徴するかのようです。
この情景描写はまぢですごいです。心情を見事に反映した景色の描写が、直接書かれていないにもかかわらず、二人の切なさ哀しさを伝えてきます。

決定的に、二人の関係が変わってしまうのは、終盤に入ってからです。
テニスを再び始めた『はるか』が主人公に、初めてその心中を語ります。
「思ったんだ」「私の方が、って。…兄さんじゃなくて、私が…」
「私が死ねばよかったんだね」
『はるか』が消えてしまうような感覚を覚え、主人公は『はるか』の手を握ります。その手を、『はるか』はきつく握り返します。
このシーン。完成度高いです。『はるか』の兄のシーンは序盤の方で語られています。その時、兄の葬式の時も、主人公の手を『はるか』は痛いくらいに強く握り締めていました。このシーンで、その時をなぞるように、『はるか』は主人公の手をきつく握り締めます。リフレインの上手く効果を使っています。この演出が入ると、場面に時間的な厚みが増します。
『はるか』は自分の主人公への思いも吐露します。
「冬弥が、いつも隣にいたから。兄さんがいた場所に…」「兄さんの場所で、兄さんの言う言葉を、言うから…。いつだって…」
「冬弥が兄さんじゃないって、判ってた。ずっと前から」「ただ…ごまかしていた。好きなの、兄さんの想い出じゃなくて、冬弥の方だってことを…。兄さんの想い出で、嘘、ついてた…」
これは、個人的には評価高いです。この手のステレオタイプとして、過去の面影を引きずり続けているヒロインを主人公が愛の力で(あー書きたくねー)現実と向き合う決意をさせるという形があります。しかし、『はるか』シナリオにおいては、過去は単なるだしです。自分が主人公を幼なじみではなく、異性として好きだということをごまかしてきた言い訳として使っているわけです。その背後には、主人公との幼なじみという、居心地のいい環境が壊れてしまうことに対する『はるか』の恐れが見え隠れしています。幼なじみキャラ特有の設定を巧みに表現しています。技ありって感じです。「過去」と「幼なじみ」の設定を別の観点から組みなおした複合攻撃です。テキスト表現も合わせた、その精密さは某国の誇るスマートミサイル並です。

ラストのシーンも切なさを煽ります。
それまでの、日常と変わらないある日。二人は春の風に吹かれながらいつもどおりぼーっとしています。まるで、最初っからなにも変わってないように見える二人の関係なのですが、当然、見た目とは裏腹に心中には決定的な断絶があります。
このシーンは、変らない毎日が、変ってしまった二人を傷つけるという、そのアンバランスさが見事に表現された場面です。
『由綺』に、自分たちのことを話さなければ、と呟く主人公に『はるか』はこう答えます。
「もし、由綺、私のことで泣いちゃうみたいだったら…」「…由綺が泣いちゃうなら…私のこと、忘れちゃっていいよ…」
『はるか』の優しさなのでしょうか。幼なじみではいられなくなった二人が、恋人でもなくなったら、『はるか』の居場所は主人公の周りにはなくなります。それに耐える決意を見せる『はるか』のこのセリフには、主人公を大切に思う気持ちが溢れています。
決定的に壊れてしまった、居心地の良かった幼なじみという関係を思い、『由綺』への自分の複雑な思いを抱え、主人公は、『はるか』を抱きしめます。
『はるか』の短い髪を指に絡ませる主人公に『はるか』が問い掛けます。
「…長い方が…好き…?」
長い髪の毛、それは昔の『はるか』の象徴です。今とはまったく違った過去の『はるか』。これは、過去に戻りたいか、幼なじみのままだったあの頃が良かったか、という問いかけでもあるわけです。主人公は、涙をこらえます。
「…判らないよ…」「…どっちがいいかなんて、俺…」
戻れない過去とまだ見ぬこれから。主人公の心のうちにある、不安、戸惑い、恐れ、そういった不透明さが象徴されている言葉です。このテキスト、秀逸です。しつこさは全くないのに、深く読もうとすると、心の奥にあるものに気づかされます。

この『はるか』シナリオ、やるのは二回目なんですが、一回目にやった時とイメージ変わる変わる。何か得した気分です。読み飛ばしていたテキストに実は重要な表現が隠れてたりと、相当に深く味わえる出来になっています。演出面も、重厚さはないものの程よくまとめられています。評価的には一回目よりもかなりのランクアップをしています。
ただ、なんつーか、明言は避けますが、とあるシーンの主人公のテキスト、笑えます。ひたすらに、マジな分だけ、いったん感情移入に失敗すると、もう大爆笑。何ぬかしてんだ、この大馬鹿野郎って感じです。一回目の時も二回目の時も、笑い死にそうになりました。ある意味、『WHITE ALBUM』で最も印象に残ってる場面です。一度でもやったことのある方は、もう、お分かりではないでしょうか、ヒントは「アクシデンタル」です。わはははは。思い出しただけで死む~。

次回は、ついに先輩です。私の人間性が見えてしまいそうで嫌な予感がします。
妥協は一切しない方向です。






新コンテンツ開設記念レビュー第四弾

そう、今回も敢えて言わせてもらおう。全ては伏線だったと。
ヒロインが六人もいるというのに、キャラクター別にしたのも、第三弾までで状況や設定を分析的に扱って地ならししたのも、全てはこのためだった。

『先輩』

というわけで、第四弾は『澤倉 美咲』です。

~『澤倉 美咲』編~
『WHITE ALBUM』最強のヒロインです。教養があり、料理も得意、おまけに演劇の脚本とか書いてたりもする文学系ヒロインの特技をほぼカバーしています。主人公や『由綺』たちの高校時代からの先輩で、主人公の友人『彰』の憧れの人でもあります。この時点で、結末は痛いものになること決定です。
まずは、設定から。

「先輩である」
 …うわぁ。なんか今、すごい引かれた気がする。ちょっと待ってくれ。名誉のために言っておくと、私は別に、先輩だからどうこうって言うつもりは無いんだ。ただ、説明の時に欠かせない基本的な設定としてだなぁ。それだけで、他意はないんだ。……なんか、もう、何言っても墓穴な気がするな。黙っとこ。

「奥ゆかしい」 
日本の絶滅危惧種、大和撫子の必須条件。今時、こんな人いません。物語の世界の住人ならではの特徴です。常に控えめな態度で、周りの人に気を使っている姿は、日本男児の心の琴線に触れること請け合いです。

「素直である」
 何度も言ってきてる気がしますが、私の中ではメインヒロインの必須条件です。皮肉を言っても通じない、こっちの毒気まで抜かれそうな性格です。『美咲』さんは素直と言うよりは、純粋なんですが、意外なところで、頑固な面もあるようです。

「優しい」
 今更、挙げるまでもなく、ヒロインの多くが絶対条件として持っている特徴ですが、この『美咲』さんはまたことさらに優しいんです。思いやりに満ち溢れた、神様みたいな人です。この人、絶対悟り開いてます

「先輩」のような年上系の特徴と「優しい」が複合すると、「包容力がある」という特徴が励起されます。男ならば、誰しもこの言葉に引かれるものを感じるはずです。

…今否定しようとした奴、

一歩前へ!

まあ、行き過ぎるとマザコンの謗りは避けられんでしょうな。 某鍵のタイトルで、母親の評価が異常に高かったりするのも、この傾向があるからでしょう。日本人てマザコンが多いって言うし、考えてみるとつぼを心得た設定なのかもしれない。…嫌なつぼだな。

上に見てきたとおり、設定一つ一つの打撃力は低いです。しかも、ステレオタイプと言って良いほど、ありふれた性格設定です。しかし、この「優しさ」を前面に出した性格設定と罪悪感満載のストーリーが合わさると、強烈な破壊力を発揮します。 この『美咲』シナリオ、間違いなく『WHITE ALBUM』で最も罪悪感を感じさせるシナリオです。『由綺』以外の他のヒロインの場合も罪悪感は必ずつきまとうんですが、『美咲』シナリオ程の追いこみ方はしていません。感情移入していればしているほど、ダメージでっかいです。

へこむとか、そういうレベルじゃなくて、人間やめたくなります。

『美咲』シナリオは、一言で表すと「やりきれない」です。
『美咲』さんをはじめ、周りのキャラクターたちが良い人であればあるほど、その感は強いです。「愛」が対象を求めてしまうその本質によって、周囲の人ばかりでなく自分自身をも傷つけていく姿は、それがしょうがないと思えてしまうから、なおさらにやりきれないものを感じさせます。
基本的に、『彰』、『由綺』などを裏切りまくるシナリオなので、その後ろめたさは相当なものです。そうしたシナリオの性質もあってか、心情などの内面的な葛藤の描写は『WHITE ALBUM』中最高の緻密さを現出しています。この部分こそ私が、『美咲』シナリオを高く買っている理由にもなっています。
全体として見た時、『美咲』シナリオはイベントもそれなりにバランスよく配分されており、完成度は高いと思います。心情表現の演出に関しても、かなりの出来です。特に、金網ごしの場面は私の中では『WHITE ALBUM』で最高の評価をしている場面です。

『美咲』さんは健気で、ひどく弱いヒロインです。
主人公に惹かれる自分を抑えきれず、かといって『由綺』から奪い取ろうという強さも持てず、それを隠し続ける狡さも持てず、弱さを取り繕えずに苦しみます。
『美咲』さんは、割り切った恋愛ができるほど大人ではなく、わがままを押しとおせるほど幼くもなかったという微妙で曖昧な位置にいるヒロインなのでしょう。
こういったアンバランスさを抱えつつも、根幹のところで「優しさ」を持ちつづけてる『美咲』さんは、非常に魅力のあるキャラクターになっています。

傷つくことを恐れ、傷つけることを恐れ、それでも、愛を求めずにはいられない『美咲』さん。大切な友人を裏切り、良心の呵責に苛まれ、相手も自分自身も苦しめながら、本質的にいい人であるためそれを誤魔化して無視することもできない。その姿は、弱さと言うだけでは足りない人の業を感じさせます。『WHITE ALBUM』の真骨頂です。

以下に、ストーリーを追って見ていきますが、ネタばれが満載なので、これからやろうとしてる人は読まないでください。せっかくの楽しみに水を注したくないので。 では、いってましょう。

主人公は『美咲』さんと学園祭などのイベントを通じて、徐々に仲良くなっていきます。前半から、『美咲』さんの主人公に対する好意が結構見えています。
始めのうちは、主人公と『美咲』さんの関係は自然で、見てて微笑ましいぐらいのもんです。
その『美咲』さんと主人公の関係が大きく変り、周囲の人を捲きこんで不協和音を響かせはじめるのはクリスマスのイベントからです。
夜の街で、主人公は『美咲』さんにクリスマスを一緒に過ごして欲しいと伝えます。

何考えてるんでしょうか? 

『美咲』さんみたく「優しい」人に、どう答えても誰かを傷つけるような選択を迫るとはこの主人公、かなりの鬼畜です。
『美咲』さんは、答えられないと言いながらも、その心情を正直に口にします。「嬉しい」と。
しかし、涙をこぼしながら、呟きます。

「…私…最低…」 「ここで…私……藤井君(主人公)に…『はい』…って…言っちゃいそうなの…」 「由綺ちゃんを…裏切りそうなの…」




ずばぁ(出血)

このセリフを言わせるのかよ。葉っぱ、侮りがたし。
「優しい」人なだけに、打撃力抜群です。普通なら、絶対に頷かないような選択のはずなのに、主人公への想いの強さが『美咲』さんに「嬉しい」という言葉を言わせてしまい、それがまた自己嫌悪を呼びこみます。
『美咲』さんの、良心が答えることを拒絶しているのに、押しとどめようのない衝動的な気持ちが、頷くことを求めます。葛藤が見事に表現されています。哀しみと喜びと苦しみが、複雑に絡み合って心を苛む音が聞こえてくるかのようです。
「愛」が対象を求めてしまうというどうしようもないその本質で、『美咲』さんを傷つけています。
そして、『美咲』さんは、主人公とクリスマスを過ごすことを約束してしまいます。自らを「最低」と蔑みながら、それでも気持ちに素直になる道を選んでしまった『美咲』さんの心中は、楔のような苦しみを拭い去る事はできないでしょう。
この場面、テキスト、音楽、絵、それらの演出全てが、ひたすらに『美咲』さんの心情表現に集約されてます。

そして、クリスマスイブ、『美咲』さんが主人公の家に訪れます。
いいムードになりながらも、『美咲』さんの態度には壁のようなものが感じられます。

「お願いだから…行って…。…由綺ちゃんの…ところへ…」

主人公と共にいたい気持ちとの板ばさみになりながらも、『由綺』に会いに行ってあげてくれ、と主人公に告げる『美咲』さんの心の葛藤が、ホントにもう切ないです。
ライブ終了後、帰宅した主人公は、新雪に残された足跡を頼りに、『美咲』さんを追いかけます。街で、『美咲』さんを見つけた時、一瞬見せる嬉しそうな表情と裏腹に『美咲』さんは言います。

「私なんか…放っておいて…よかったのに……」

主人公の葛藤を、『由綺』が味わうであろう苦しみを思う『美咲』さんの優しさが見えます。
放っておけるわけがないという主人公の言葉に『美咲』さんは「ごめんなさい…」と答えます。
この時には、『美咲』さんも覚悟を決めていたのでしょう。ただ主人公に対するだけでなく、ここにはいない『由綺』に対しても言ってるのではないでしょうか。

この辺のテキスト、『美咲』さんの心の葛藤全開です。矛盾した態度やセリフ。主人公の求めに頷きながら見せる躊躇。ことごとく、『美咲』さんの葛藤に集約されてます。
ここのイベントのラストの方で『美咲』さんが呟きます。

「……私って…ひどいやつ……だよね……?」


ざくっ…、む、胸に刺さる。

『美咲』さんの優しさと、それゆえの苦しみがやりきれません。
何よりも、一番ひどいのは『美咲』さんではなくて、主人公ですし。

これ以後、『美咲』に会うと、いつもひどく哀しそうな表情をしています。もう、会えば会うほど自己嫌悪に陥っていきます。
主人公を避けはじめるのもこの辺りからです。この主人公を避けるというのも『美咲』さんの微妙な心理を反映しての行動です。主人公は、それを自分が『美咲』さんを傷つけてしまったからだと思っているんですが、その辺の『美咲』さんの心情が分かるのは、公園での場面です。
公園の金網を挟んで向かい合う主人公に『美咲』さんが告げます。

「悪いことしたの…私の方だから…」

…追いこむのやめてくれ…痛過ぎだから。

この期に及んで、まだ、『美咲』さん自分で背負い込もうとしてます。
ここで、『美咲』さんが周囲の人間関係を全て知った上で、さらにその中心に主人公を置いて見ていたことに主人公は気づきます。つまり、主人公が自分の身勝手で、『美咲』さんを傷つけたと思っていたように、『美咲』さんも自分のせいで、主人公を傷つけたと思っていたわけです。
ここで、語られる心理は、私が下手な解説を入れるよりも実際に読んでみた方が絶対に良いです。
「謝れば謝るだけ『美咲』さんの心は傷つき、そしてその分、主人公の心も傷ついてゆく」という現実に、二人は交わす言葉もなく、ただ見つめ合います。 このシーンは『WHITE ALBUM』全シナリオ中屈指の名場面です。
間にある金網が象徴するのは思いのままに振舞えない二人の関係。夕焼けに染まる街並みを背景に、金網越しに『美咲さん』が見せる、哀しさ、寂しさ、安心をはらんだ複雑な微笑み。交わされぬ言葉。もう、切ないったらありません。

終盤になって、ようやく二人は葛藤と躊躇を飲み込んで、正面から向き合うよう覚悟を決めます。
愛すべき誰かを裏切ること、それを認めてしまうことを覚悟した主人公。『美咲』シナリオはクライマックスに向いますが、そこには避けて通れないものもまたあります。

「音楽祭」の当日、主人公のもとを『彰』が訪れます。
そうです。この人がいました。

主人公の友人で、『美咲』さんが好きだと主人公にだけは直接教えていた『彰』です。 『彰』に謝らなきゃいけないのかも知れない。本当のことを告げなきゃいけないかも知れないし、知らないふりをしなきゃいけないのかも知れない。
葛藤する主人公の心中とは裏腹に、『彰』は穏やかな調子で、主人公に「『美咲』さんのこと」をどう思っているのか聞いてきます。

「本気だ」と答えた瞬間、『彰』にぶん殴られます。だっしゃー!

このシーン、ゲーム中で最後の日だからでしょうか、罪悪感の叩き売り状態です。どんな感じかピックアップしてみると、

「聞きたくないよっ! 白々しい言い訳だったら、何も言わないでよっ…!」


「ちゃんと!? ちゃんとだって!? ちゃんとってなんだよ? やっぱり、由綺にも話してなかったじゃないか…!」



「どうして僕を…裏切ったんだよ…? どうして僕に…こんなことさせるんだよっ…?」





こんな感じです。

……

ピーーー

先生、バイタルありません!



いや、もう、そりゃ、やってくれるだろうとは思っててけどさ。こんな投げ売りみたいなまねされたらさー。人間やめたくもなるっちゅーに。
ここで、『彰』の深く傷ついた心が初めて語られ、にもかかわらず、その奥にある主人公や『美咲』さんに対する思いやりも垣間見えます。やりきれなさが苦しいです。
最後のエピローグで、『由綺』の心も語られます。久しぶりに会いぎこちなく言葉を交わす二人の間には見えない深い溝があります。背を向け逃げ出してしまった存在に押しつぶされそうになります。

「…私、美咲さんと、会って話したよ…」「美咲さん、泣いてた…」

『由綺』は主人公を責める事もなく、言葉少なに告げます。『美咲』さんにばかりつらい仕事をさせてしまったこと、『由綺』の健気な態度、後悔ばかりがつのります。ひどい仕打ちをされたにもかかわらず、主人公を思いやる『由綺』の優しさが心にしみます。

ラストのシーンで、明るい予感を感じさせる早春の暖かな日差しを受ける街で、大切なものを失ってしまった喪失感に打ちのめされながらも、傍らの『美咲』さんとの絆をかけがえないものだと確かに感じて幕は閉じます。
救いになるかどうかは分かりませんが、こういう終わりかたをするしかないシナリオでしょう。

なんか煮え切らないものがあったので、今回出てきた「罪悪感」の問題とかは総論でちょっと触れるかもしれません。倫理学の範疇ですな。カントとニーチェあたりか。めんどいからやらない可能性大。 時間と能力の兼ね合いからすると、この辺が限界かなぁ。二度とこの規模ではやらないと言いきれない自分が怖い。

次回は、マネージャーです。この人の話もきついです。個人的には嫌いじゃないんだけど。





新コンテンツ開設記念レビュー第五弾

ゴルフのホールインワンて、狙ってやれるもんなんだろうか。
あれって、たぶん大体の場合偶然で、入れた人も、
「入っちゃたの?」
みたいな感覚だと思うんだけど。
どうなんでしょう? プロの方に聞いてみたいです。

何でこんな話するかって言うと、今回のヒロイン、1回目クリアしたのは、偶然です。
というか、『由綺』クリアしようとして失敗しただけです。
気づいたら、なしくずし的にクリアしていました。うーん、扱いひどいな。

~『篠塚 弥生』編~
『由綺』のマネージャーです。眉目秀麗、博学多識、沈着冷静にして、スポーツもオールマイティにこなす万能才媛です。家は御屋敷だそうですから良家の令嬢ってやつでしょう。基本的に口数が少なく無表情。感情と言うものが欠落してるんじゃないかと思わせるほどです。主人公曰く、「ロボットみたいな」人です。クールビューティーを体現してます。一見、とっつきにくく、冷たい印象のするヒロインなんですが、時折見せる不器用な優しさがとってもキュート。そんな『弥生』さんは、一人寝の寂しい24歳。主人公と『由綺』の仲を危惧するヒロインです。
しかも、なんかいろいろテクニシャン……何がかは聞くな。
マゾっ気ある人にはたまりません。たぶん。
微笑する事ぐらいはあるんですけど、派手に表情は動きません。造り物めいた印象を与える美人です。笑うとことか、泣くとこが思わず見たくなってしまう。そんな気にさせるヒロインです。

この『弥生』さん、実は優しい人です。……ギャルゲーのヒロインなんだから当然て言や、当然か。
最初、主人公の存在が『由綺』のアイドルとしての成長の妨げになると判断して、介入してきます。
『由綺』シナリオの時は、『由綺』との間にある障害その一だったりしました。そんな盛り上げ役の一人に過ぎなかった『弥生』さんですが、今回は『由綺』のためという名目で主人公を引っ張りまわしてくれる、魅力的なオネー様になっています。

このひとを落とすには、まず『由綺』と仲良くなってからという、厄介な手順を踏まないとフラグが立たない『弥生』シナリオ。その、奇怪なシステムのせいで、『WHITE ALBUM』の中で、最も、セーブ&ロードを多用するシナリオになってます。攻略色がどうしても強い印象があります。おかげで、序盤は感情移入が難しいです。

さて、シナリオを見てきますか。
序盤の展開は、主人公と『由綺』の関係に『弥生』さんが介入してくるのを受け入れる形で進んでいきます。
そりゃあもう、主人公が、『由綺』とデートの約束を入れるたびに電話してきて、邪魔をしてくれます。
その際に、いかに『由綺』のスケジュールがハードで大変かを主人公に直接、間接にうったえてきます。主人公は、判ってはいたものの、それを目の前に現実のものとして『弥生』さんに見せつけられることで、ショックを受けます。(これがプレーヤーにとっては、忙しい『由綺』の足かせになってはいけないという、体の良い言い訳を提供してくれるわけです。これを免罪符にして後は『弥生』さんにGOです。)
『由綺』に必要以上に近づくなという『弥生』さんに、それでも、主人公は弱々しい抵抗をするんですが、隙のない『弥生』さんの反論によって簡単につぶされます。
例えば、こんな風に、
主人公「…でも由綺、たまに俺と会って話をしたりすると…すごく、喜ぶんです…」
『弥生』「マスコミの方達もお喜びになるでしょうね。しかも、三流雑誌などは特に」
ぎゃふん。
主人公「…由綺に、あまり無理させないで下さい…」
『弥生』「…由綺さんに無理をさせない為に私がいるのですから…お判りですね…」
そっすねー。
結果としては、プレーヤーの罪悪感を軽減するこのシナリオ構造は、かなり見事なものです。罪悪感を前面に出した『美咲』シナリオとは違って、いわゆる、「魔がさす」状況を主人公の心情テキストなどを使って上手く導いてきます。かなり、テクニカルなテキストと言えるでしょう。
意外にも、このシナリオ。やってることは、ある意味『WHITE ALBUM』一外道なのに罪悪感は薄いです。その背景には、主人公の『由綺』への思いやりというのが、欺瞞の気配は拭えないものの最後まで、貫かれてると言うのがあります。何よりも、主人公と『弥生』さんの関係がどろどろしてるようで、実は純愛と言えなくも無いからでしょう。
シナリオもはじめの頃は、『由綺』から、『弥生』さんについて、いい人だとか、主人公のことを気に入ってるだとか聞かされるのですが、『弥生』さん本人の口から直接には語られません。ここでは、『由綺』の存在が無口なキャラ特有のオプション、当人の代わりに心中を代弁してくれる友人Aの立場になっています。このパターンの例としては、『Kanon』の『川澄 舞』と『倉田 佐祐里』の関係が挙げられます。

『弥生』シナリオが本格的に動き出すのは、主人公が『由綺』とデートの約束をした時に『弥生』さんが横槍を入れてくるところからです。『弥生』さんは、主人公に『由綺』に必要以上につきまとうなと言います。それが『由綺』のためだと。
「由綺さんにとって、あまり大切な存在になって欲しくはないのです」「実質的に由綺さんがあなたを頼るようになってしまうと、あの人はその時点でお終いなのです」
どうすることが『由綺』の為なのか、主人公は迷います。
「あなたは、今あなたの偽らない愛情で彼女の将来を潰してしまうおつもりですか、それとも?」
決定的な選択を迫る『弥生』さんに主人公は追い詰められ、丸め込まれます。
その去り際、『弥生』さん、意味深な言葉を残していきます。
「いつでもおつきあいいたしますわ。由紀さんの代わりに」
わお、妖しい誘惑です。何て言うんでしょうか。この『弥生』シナリオの魅力とでもいいましょうか。このあたりから、怖いもの見たさというか、はまってみたい甘い罠の雰囲気がしてきます。私の場合喜んで、罠に飛び込みます。
ここのシーン、そのシナリオの強引さの割に、精緻なテキストで、意外なほど抵抗なく主人公の心情を『由綺』を裏切る方向に導きます。この手際、かなり見事です。
ちなみに、ここら辺で見られる「人が霧の中に迷うのは、その奥が深いからじゃなくて、その奥の深さが判らないからだ」というテキストは、意味もなくお気に入りです。この心象表現のテキストのちょっと気取った感じで的外してる微妙な感覚と、巧緻なのかどうなのか判断しにくい、わけの分からんアンバランスさが最高です。私の心の琴線に触れてたまりません。

『弥生』さんの妖しい誘惑は、中盤のあたりから現実のものとなります。
要するに、主人公に、『由綺』に近づかないようにしてもらう代わりに、『弥生』さんがその埋め合わせをするという契約です。この契約の期間は『由綺』の「音楽祭」ライブの時まで、その時期が『由綺』にとって最も忙しい時だからだそうです。
主人公を「愛していない」と公言してるにもかかわらず、平気な顔で逢瀬を重ねる『弥生』さん。その存在に、主人公は打ちのめされ、『由綺』の為とはいえ、果たしてこれで良かったのかと悩み惑います。

こうした、すごく殺風景な契約関係なのかと、思っていた状況に変化が見えるのは、バレンタインイベントの時です。普段のように喫茶店に行くと、そこには『弥生』さんと『由綺』が来ています。3人でしばらく会話を交わしているんですが、気を使ったのか『弥生』さんが席を外した時に、『由綺』が主人公にバレンタインのプレゼントをくれます。ここまでは良いんですが、その後、主人公を家まで車で送った『弥生』さんが、プレゼントを渡してくれます。

「…由綺さんから、藤井さん(主人公)にと頼まれたものです。プレゼント…とか…」
おや?
「開けてもいいかな…?」
「ええ…」言いかけて、「…よろしいと思いますわ」

主人公かまかけ成功です。これはどう考えても『弥生』さんからのプレゼントです。『弥生』さん、主人公のこと本当は好きだったようです。
この出来事から、主人公の中で微妙に『弥生』さんへの感情が変化していきます。
そのことに、主人公が決定的に気づくのは、「音楽祭」の日に『弥生』さんの言った「最後」という言葉が、二人の契約はもう終わりであることを示していると認識した時です。
主人公の胸に、言いようの無い切なさが去来します。ドライな契約関係でしか無かったはずなのに、判っていたはずなのに、いつの間にか『弥生』さんを本当に愛していたことに気がつきます。終わってしまうことがどうしようもない事なら、せめて、自分の心の中にだけでも『弥生』さんにまつわる全ての想い出を刻もう。主人公はそう願います。
そして、『弥生』さんが呟く、最初で最後の愛の言葉。(あ、書いちゃった)

「…私、あなたのこと…本当は愛していたのですよ……本気で…」
「…嘘…ですけどね…」

『弥生』さんの取り繕えない不器用さが、何とも哀しい場面です。
契約期間が終わるその時になって、ようやく本心からの言葉を告げても、その言葉が一体どこに行くと言うのでしょうか。そのことは『弥生』さん自身が一番よく分かっているはずです。行くあてなど無いということを。それでも言ってしまうあたり、沈着冷静な仮面の下に隠れた、『弥生』さんの歳よりもずいぶん幼い素顔が見え隠れします。
エピローグで、以前のように『由綺』との時間を持てるようになった日常。主人公は偶然『弥生』さんに出会います。契約以前の関係に戻ったはずの二人。言葉を交わし、帰ろうとした主人公を『弥生』さんが抱きしめます。それは、離れたくないだとか、誰にも渡さないだとかいった激しい感情の発露ではなく、諦めとかそういったのとも違う、もっと曖昧な、祈りにも似た行為です。『弥生』さんはこの最後の時にも器用ではいられません。

「私は、藤井さんを愛しておりませんから…」

もし、自分が主人公を愛してしまったら『由綺』さんが苦しみますからと、告げる『弥生』さん。そこに見える『弥生』さんなりの、優しさだとか思いやりだとかが何気に心に響きます。主人公と『由綺』と『弥生』さんの微妙な関係の予感を抱かせながら、思いのほか後味よく終幕を迎えます。

さて、『弥生』シナリオの印象を私の言葉で表現してみると「行くあての無いもの」です。
主人公の心、『弥生』さんの心、二人の関係。期間を限られた恋愛関係で、しかもそれが装われたものと最初に本人達が言いきっています。それなのに、いつの間にか互いに心引かれ、嘘だったはずのものが、本気で相手のことを愛しはじめます。そしてそれを告白したところで、どうなるものでもない二人の関係。こうしたシナリオを通観してみて感じるのは、切なさであったり哀しさであったりするのですが、その感覚が何に由来するかと問われれば、「行くあての無いもの」に対する哀惜です。この『弥生』シナリオはそうしたどうしようもない状況を描き出すことで、普通だったら後味の悪くなりそうなものを綺麗に昇華しています。
この『弥生』シナリオで私が最も評価してる部分は罪悪感を軽減する状況作りの上手さです。この、浮気だけどむしろ純愛のような感覚を覚えるというのは、なかなか出来る芸当ではありません。テキストにおける表現の上手さ。どのあたりでどんな話しを展開していくかという構成。そうしたものの微妙なバランスの上に出来あがってるシナリオです。


<おまけ>「『弥生』さんの魅力」
最後のほうになって『弥生』さんの心が少しずつ分かってくると、セリフとかも微妙に可愛く見えてきたりするから不思議なもんです。無表情だけど決して心が寂しい人では無いというのを知ると見方も変わるもんです。たとえば『弥生』さんが、普段、感情を見せないときも本当は照れてたりするんだろうか。
んん~?


-妄想中-
テレビ局の廊下ですれ違った主人公に話しかけられて、いつもどおりそっけない返事で話を終わらせる『弥生』さん。
主人公と別れて、廊下の角を曲がって見えなくなった瞬間に、
胸の辺りでグー握って、真っ赤な顔とかして、 心の中で「キャ~! 藤井さんに話しかけられちゃった~!」とか思ってたりするのか? 
そんでもって、よくわからん身もだえとかして、ヒールなのにジャンプとかして転んでみたり、その日一日妙に機嫌が良かったりするのか?



-妄想終了-

おお。意外と可愛いじゃないか。

………………

………

聞いてくれ。

最近、何かおかしいと思ってたらさ。やっぱり、数が足らないみたいなんだよ。どうやら、どこかに落っことして来たみたいなんだ。
…なあ、誰か知らないか?



…私の頭の「ネジ」…




…ああ、アホだ。
…でも、見つけたら、本当に教えてください。修理してもらうから。

ふう、気を取り直して次回予告。
次回、最後のヒロイン、教え子です。…嫌な書き方だな。





新コンテンツ開設記念レビュー第六弾


以前、教育実習で母校に行ったことがあるんですが、
実習生の立場であっても、教え子ってカワイイもんです。
ばったもんの即席教師なのに、生徒は「先生」と呼んでくれます。
「先生」そう「先生」ですよ。
実習中「先生」と呼ばれるのが結構快感だったりしました。
実際のところ教壇に立てるほど人間出来ちゃいないんだが、それでも生徒は信頼してくれるんです。
ホントに、教え子ってカワイイです。

………

まあ、私の母校は男子校だったけどな。
………

最後のヒロインは、家庭教師の教え子です。

~『観月 マナ』編~
全国のオニイサマ、お待たせしました。その年下に向ける暖すぎる思いやりを全開にできる、『WHITE ALBUM』で唯一の年下ヒロイン『観月 マナ』です。年齢は18歳ですが、大丈夫です。外見は、どう見ても15歳以上には見えませんから。…確信犯だろ、葉っぱ。
性格設定は、年下ヒロインの類型のひとつ、「生意気」です。わがままで、小憎らしいことを口にしますが、主人公への好意とかが行動の端々に見えるので、その生意気さがかえって微笑ましさを誘います。本質的に『マナ』は「素直」です。ただ、「素直」は「生意気」と両立させるのが難しいこともあり、シナリオ前半部分では「素直」さは、『マナ』の特徴として目立っていません。後半に入り、普段は見せない素直さが見えはじめると、年下系ヒロインの強力アビリティー「保護欲をそそる」が
例によって発動します。『マナ』は見た目どおり精神年齢も低い部分があり、シナリオ中では背伸びした態度を見せるたびに、大人を装いきれない幼さが見えるという描きかたをされています。その辺、単純に幼さを前面に出されるよりも効果的なものがあります。演出に関しても、大人に見られたい子供のようなその微妙な心情をテキスト上で過不足なく表現するバランス感覚はさすがです。
『マナ』のシナリオは、『マナ』が主人公と『由綺』の関係を知らないという独特の設定があるおかげで、他の否由綺系シナリオの中でも位置付けが特殊です。罪悪感による葛藤とかは希薄で、ある意味、最もギャルゲーのヒロインらしい存在と言えます。攻略面でも、毎週金曜日に欠かさず家庭教師に行っていれば、問題なくクリアできるので、感情移入し易い造りになっています。

シナリオの展開は比較的中盤にイベントとして大きなものがひとつ置かれています。終盤にもうひとつ大きなイベントがあるので、その二つを中心に以下にストーリーを。
受験生である『マナ』のもとに主人公が家庭教師として雇われたことがきっかけで、二人は出会います。給料や勤務条件が良いことにひかれて、主人公は『マナ』の家庭教師をひきうけることにするのですが、条件が良いだけに何か裏があることも初めっから匂わされています。最初に、訪れた時に、大きな家に『マナ』一人しかいないという時点で、早くも家庭問題の気配が感じられます。ここでの『マナ』の態度は、主人公を母親が自分にあてがった監視役だとでも思っているのか、どこかとげとげしいものを感じさせます。
本当は、ここで出会う以前に、駅前で『マナ』と主人公は遭遇していたりするんですが、それはあくまで顔見せでしかないので、接触と言った方が適当でしょう。ただ、この接触はシナリオ全体で見た時、重要な位置を占めることになります。この時、駅前の人ごみの中で主人公が落としてしまった定期を『マナ』が拾ってくれるんですが、その微笑みは素直な上に優しそうで、良い印象が残ります。この印象があるため、家庭教師として会った時の『マナ』の態度とのギャップに、違和感を感じることになります。構成としてみると、これは『マナ』の環境や心情が明らかになっていく時のための伏線として有効に使われています。
序盤の『マナ』は生意気ですが、主人公を憎からず思っているのが見え見えで、そうした曖昧な関係が描かれています。

シナリオが、本格的に動き出すのはクリスマスからです。本格的というか、動き過ぎです。足掛け四日にわたってイベントが展開します。ひゃっほう。
クリスマス前の家庭教師の時、『マナ』からなぜか『由綺』のクリスマスライブチケットを渡されます。戸惑う主人公に『マナ』はいいからもらっとけと言いますが、どうもそれだけではないようで、ライブ終了後に主人公のところに行くようなことをここで匂わせます。

ちなみに、ここでは名シーン『マナ』ラッシュが見れます。主人公を殴りながら、ばかを18回、変態を34回、大変態を1回言ってくれます。ウインドウを変態という文字が埋め尽くす様はなかなか壮観です。…それはともかく。

25日の明け方、主人公がクリスマスライブから帰ると、家の前で、『マナ』がひざを抱えて眠っています。どうやら、雪の中、前日の夜からずっと主人公が帰ってくるのを待っていたようです。
そんでもって、当然のことながら『マナ』は風邪ひきます。
当然のことながら、主人公は『マナ』を自分の部屋で看病します。…今、不可解な飛躍があったな。
葉っぱの確信犯イベント発動です。
なんていうか、もー、このイベントに関しては、語る言葉を持ちません。ギャルゲー世界の真骨頂とも言うべきイベントです。でも、まあ、他のタイトルに比べたらまだマシな方なんだろうな。
語る言葉はなくても、触れずにはいられないので、一部だけつまみ食いで行って見ましょう。
風邪を引いた『マナ』を主人公は看病するわけですが、この特殊な状況、天下の葉っぱが何もやらないわけがありません。
まずは、お粥。病人食の基本です。

ふー…ふー…ふー……。 「……あーん…」 ぱく。 もぐもぐ…。

テキストそのまんまです。冷まして食べさせてあげる心づかい、素晴らしいです…。

お次は「ふきふき」イベント。
病人は汗をかいても、お風呂に入れません。そんな時は、ぬるま湯に浸したタオルで身体を拭いてあげましょう。これも基本です。
そして、パジャマ姿。
汗を拭いたら、着替えさせてあげましょう。新しい服は気持ち良いものです。言うまでも無いことですが、サイズの合わないだぼだぼのパジャマで手は袖に隠れて見えません。

………


うりゃ。(ノT▽T)ノ⌒○



………

無理。
これのどこにフォローの余地があるよ。確信犯だろ。

とにかく、こうした主人公の看護のかいあって風邪は治り、一端は、『マナ』を家に帰すのですが、今度は主人公が、風邪で倒れます。立場逆です。

ふー…ふー…ふー……。「はい、あーーーん…」ぱく。もぐもぐ…。

冷まして食べ…以下略。
『マナ』との会話の中で明らかになるのですが、主人公、まる一日以上部屋で気を失っていたみたいです。というわけで、大晦日と正月を『マナ』と過ごす事になります。
ここでは、シナリオ上重要な伏線と話が置かれています。

伏線の方は、『マナ』と『由綺』の関係についてのものです。
『マナ』が買いだしに出てる間に、『由綺』が主人公の部屋を訪れるのですが、そこで、主人公が『マナ』の作ってくれた甘いミルク粥の話をすると、『由綺』も同じものを子供の頃から食べていたことを聞かされます。
おんや?
おまけに「ここに来る途中で知り合いの子に会っちゃった」とか『由綺』が言います。
おやおや?
さらに、『由綺』と入れ違いで、帰ってきた『マナ』が言います。
「そこでお友達とばったり会って少し話しこんじゃって」
おやおやおや?
この辺から、『マナ』と『由綺』の間に何らかのつながりがありそうな伏線が見えはじめます。

話の方は、『マナ』の置かれている環境についてと、それに対する『マナ』の思いがここで、明らかになります。
「…私、家族なんて、いないから……」というショッキングな言葉を皮切りに、『マナ』はとつとつと語りはじめます。父親は、仕事で外国に行っていること。母親も、いつも仕事で家になかなか帰ってこない放任状態であること。母親が、学校と折り合いが悪く、学校から『マナ』の友達に圧力がかかっていること。
「…仲の良かった友達もいろいろと学校の方から言われて。…気にしないよって、みんな言ってくれたけど、でも、そんなになってまで、私、みんなと友達でいるなんて無理だよね。そんなにしてまで友達でいる価値なんて、私には無いもの…」
このセリフから、『マナ』の心にある寂しさが感じられます。客観的に見れば、そんなくだらないと言ってしまうようなことですが、そのくだらないことで、「自分の価値」にまで思いつめてしまった『マナ』の幼いがゆえの生真面目さが哀しいです。
「…ずるいよね。…私じゃないのに。…友達は私じゃないのに。…母さんは私じゃないのに…。ずるいよね…。…みんな。…みんなも、私も…」
『マナ』の目には涙が光ります。
大人の間の揉め事の結果が、一番弱いものに振りかかっている。その不条理さを感じながら、それをどうすることも出来ないでいる自分をも嫌悪している『マナ』。こうしてみると、普段の背伸びした言動も、周りの大人に振り回されてきた『マナ』なりの自衛行為だったのかもしれません。

こうした『マナ』の内面的な問題のひとつは、『マナ』の大学入試の2次試験に主人公がついていく場面で解消されます。
ここで、『マナ』は学校の友達に偶然会い、言葉を交わします。友達の屈託無い様子とは対照的に『マナ』の様子はぎこちなさがあります。そんな『マナ』の一歩引いた態度に気づいた友達が、正直な気持ちを告げるとともに、学校でも大人の目を気にせずに振舞えなかったことを謝ります。自分で思っていたほど友達と距離が離れたわけではなかったことに、『マナ』も気づいたことでしょう。

『WHITE ALBUM』のどのシナリオにも言えることなんですが、『由綺』の扱いをどうするのかがストーリーのひとつの焦点になっています。『マナ』シナリオにおいてもそれは例外ではなく、終盤の山場となるのは『由綺』と『マナ』の関係です。
入試の合格発表の前日電話がかかってきて、『由綺』からの遊びの誘いと『マナ』の合格発表を一緒に見に行く約束が、バッティングします。『由綺』は、いとこからも遊びに誘われていて、主人公の予定次第で翌日どちらと遊ぶか決めるつもりでいます。この電話の後、今度は『マナ』が翌日、合格発表があると知らせてきます。
これの翌日、駅前で『マナ』と『由綺』が鉢合わせします。ここで、初めて『マナ』と『由綺』がいとこであることが明かされます。『マナ』がショックのあまり「ひどいよ…」というわけの分からん言葉を残して走り去っていきます。今まで、他のシナリオで鬼畜な所業を重ねてきた我らが主人公ですが、このシナリオでは彼、糾弾されるほど悪いことやってません。確信犯イベント以外な…。
ともあれ、『マナ』を追って話を聞いてみると、『マナ』の心中を聞くことが出来ます。

「私に…お姉ちゃん(由綺)から藤井さん(主人公)を横取りさせる気…?」
「私が、お姉ちゃんの恋人を取っちゃうわけにはいかないでしょ?」
「私、お姉ちゃんのことも、大好きなんだから…」
「私、誰も裏切りたくないもの…。私を置いてった人とおんなじに、なりたくない…」


ここの場面、テキストいい感じです。確信犯イベントのあたりで明かされた、自分の置かれた環境に対する『マナ』の思いが上手く反映された場面です。このあたりで見せる『マナ』の頑なさが、また幼さを感じさせます。

『マナ』と主人公は一端は恋人関係になるのですが、最後の最後で、『マナ』は主人公の前から、姿を消すことを決意します。それは、『マナ』なりのけじめです。主人公に対しての、『お姉ちゃん』に対しての、そしてなにより自分自身に対しての清算です。一度別れて、もっと大人になれた時に再び出会う約束を残し『マナ』は主人公に行き先を知らせずに引っ越します。
ここで、『マナ』の見せる微笑みは、あの最初の駅前で出会ったときの優しげな微笑です。始まりと終わりに同じものが置かれる形は予定調和という批判もあれど、やはり良いものです。
ラスト、暖かくなりかけた春を感じさせる空気の中で、主人公はいつか訪れる『マナ』との再会を待ちつづける決意をして終わります。
このラスト付近のテキスト表現、凄まじいものがあります。心情やら、状況の卓越した比喩的表現だとか『WHITE ALBUM』らしい味が出ています。終わりかたも、類型的ではありますが、シナリオ全体で見て上手くまとまった良いラストだと思います。

今回、二度目の『マナ』シナリオをクリアした結果、私の中で評価はだいぶ変りました。シナリオの出来は良いです。『WHITE ALBUM』のシナリオの性質上、イベントの伏線があまり必要とされないのですが、この『マナ』シナリオに限り、『マナ』が主人公と『由綺』の関係を知らないという設定なので、二人の関係を『マナ』が知る時のための伏線が随所に張られています。分かり易い伏線なので、後で気づかされて、「やられた」と思うようなことはありませんが。また、『マナ』の心情に関する伏線も張られており、ストーリー全体の完成度を高いものにしています。
主人公と『由綺』の関係を知らないという設定と、『マナ』の置かれている環境を上手く使ったシナリオと言えるでしょう。
このシナリオは、見方を変えれば、『マナ』の成長物語として見ることも出来ます。両親からも友人からも置いてかれたと思い、いじけていた『マナ』が、主人公と出会ったことで、友人との絆を取り戻し力強く自立の道を歩く。こうして捉えると、主人公が脇役になるんですが、するってぇと…
おお、そうか、このシナリオは『マナ』が主人公だったのか。
納得です。

『マナ』実は結構、特別扱いされてます。テキストの演出でフォントが大きくなるのは、このヒロインだけです。やはり、葉っぱはロリ至高…もとい、志向なのか?