社会

「逃げられなかった」 特殊詐欺元「かけ子」少年が語る詐欺グループの実態 先輩の誘い、安易に応じ…

 特殊詐欺で被害者に電話をかけ、言葉巧みに振り込みを誘導する「かけ子」。その役目で詐欺に携わり、県外の警察に詐欺容疑で逮捕された県出身の10代少年=沖縄少年院に入院中=が、8日までに琉球新報の取材に応じた。少年は顔や素性などを詐欺グループに知られ「逃げられない環境があった」と振り返る。先輩の誘いに安易に応じて犯した罪を反省し、社会復帰を目指している。


特殊詐欺での「かけ子」の過去を振り返り、反省する少年=1日、糸満市の沖縄少年院

 糸満市にある少年院で面会した少年は、まだあどけない顔をしていた。礼儀正しくあいさつし、一見では非行少年には見えない。

 本島の中学を卒業した少年は母子家庭で金銭面は苦しく、高校へは進学しなかった。運転免許取得と自動車購入の費用をためるため、関東で建設業の仕事に就いた。詐欺関与のきっかけは17年春、地元の先輩から受けた「車の営業の仕事がある」との誘いだった。「新しい仕事に就けて将来的にもいい」と付いて行ったが、求められたのは「かけ子」の仕事だった。

 関東にある「ハコ」と呼ばれるアパート一室を拠点に、先輩や身元不明の男らと生活しながら「かけ子」をした。個人携帯にある友人らの番号は消され、無料通信アプリLINE(ライン)もブロックされ、外部との連絡はほぼ断たれた。

 会社員になりきり、宝くじが当たった名目で当選金の受取手数料を、被害者が払える限り口座に振り込ませる手口。100人中5~10人が反応を示し、通話を切る人が大半だった。週6日、午前9時から午後8時まで電話し続けた。給料は建設業より10万~20万円低い月20万円だった。

 電話口で赤ちゃんの泣き声が聞こえ「生活が大変だろうな」と電話を切ったこともあった。「かけ子」をしながら「複雑な気持ちだった」という。周りは詐欺師ばかりで人間不信にも陥った。17年秋に30~40代のリーダー格の男に「辞めたい」と申し出たが、聞いてもらえなかった。

 約9カ月たった18年初め、警察官が部屋に乗り込み詐欺容疑で現行犯逮捕された。この少年が加害者となった犯罪の被害者は15~16人で、被害総額は約1億円にも上るという。

 同年春に那覇少年鑑別所に送られ、家裁で少年院送致が決定した。これまで黙秘していたが、事件と向き合い次第に話すようになった。「被害者の人生をめちゃくちゃにしてしまった。直接謝るなどして償いをしていきたい」と日々自分自身と向き合っている。

 (金良孝矢)




巧妙な組織的犯行



 少年が関わった「かけ子」は、巧妙な手口で組織的に犯行を繰り返していた。必要な通信手段や振込先口座は被害者に用意させ、特定されないよう、振り込んだ金を複数口座で往復させていた。

 少年が拠点の「ハコ」で渡された名簿には、全国に住む人々の携帯電話番号や名前、住所が書かれていた。個人情報を売る業者が作成し、高齢者が多かったという。電話のかけ方などが書かれたマニュアルもあった。

 詐欺で用いる携帯は使用するうち、警察にマークされおよそひと月で使えなくなる。金を振り込ませるかわりにSIMカードを作らせることもあった。物の受け取りは被害者間で宅配させ、駅ロッカーに入れさせて「出し子」が入手するなど、直接の接触は避けた。

 部屋では始終、リーダーに見張られていた。少年は紹介しなかったというが、リーダーから「口が堅く、逃げ出さない後輩や同級生はいないか」と求められることもあった。




「薄い罪悪感」自覚が重要 更生取り組む少年院



 沖縄少年院によると2月1日現在、同院には26人の少年がおり、うち3人が特殊詐欺に関わった。一般的に少年は、詐欺グループの末端として携わることから、少年院の松田正巳首席専門官は「罪悪感が薄い非行と言われている」とし、事件と向き合うことが重要と強調する。

 少年院の更生プログラムは生活指導と職業指導、体育指導、教科指導、特別活動(社会貢献など)の五つ。特に生活指導では事件の振り返りをさせ、ノートに被害者の名前や会話を一つ一つ思い出して書き込む。取材に応じた少年が書いたノートは、複数冊に膨れ、その作業について「一番つらい」と話していたという。

 松田首席専門官は「被害弁償額は莫大(ばくだい)だ。弁償にいかに取り組んでいくか、しっかり本人に考えさせないといけない」とも指摘した。