三度目の罠
城下町を出た草原に飛行船は止まっていますな。
覚えていますぞ。
前回のように俺達を罠に掛けるために船の中へ誘き寄せるのですな。
「あ、国の代表の方々はこちらで勇者様方はあちらの飛行船にお乗りください」
「それはなぜですか?」
女王が先導をするフォーブレイの兵士に尋ねますぞ。
するとフォーブレイの兵士は尋ねられた事を逆に驚くように頬を引きつらせております。
「勇者様方が会議をなさる間、各国の代表の方は別室でこれからの作戦を練って頂きたいとの話」
「それは勇者様方がいらっしゃった方が良いのではないですか?」
「もちろん移動中、話が出来るようになっております。勇者同士でしか伝わらない話、相談事もあると、鞭の勇者様は提案しているのです」
暗に王族や代表の前では緊張して勇者も話がし辛い、勇者同士なら気が知れるから連携も取りやすい。
なので勇者同士で一緒にいさせた方が良いと言っているのですな。
ですが……タクトの行動を知っている俺達からすると完全に罠だというのが分かり切っていますぞ。
これで本当に勇者がリラックス出来たら良いですな。
「……わかりました。ではイワタニ様、キタムラ様。よろしくお願いします」
「ささ、世界の為にもお早くお乗りください……ちょっとお待ちを」
お義父さんと俺が仲間を連れて案内される船に乗ろうとした時、兵士がお義父さんの仲間である婚約者を呼びとめましたぞ。
「確か貴方はこの国の王女、メルティ=メルロマルク様だとお見受けします。貴方は女王と一緒の船に乗船ください」
「嫌ですわ」
婚約者はお義父さんのマントの端を握って拒否します。
ですが、兵士が引きませんぞ。
「どうか、お願い致します」
「彼女は俺の仲間なんだけど?」
お義父さんが不快そうに眉を寄せて告げますぞ。
「勇者である故、王族と友好を築いているのはご理解致します。ですが勇者同士、権力のある者と少し離れてリラックスしてほしいとのお達しなので、どうか……」
一歩も引きませんな。
これはアレですな。
メルロマルクとシルトヴェルトとタクト自身が、戦争をする踏ん切りがついていないから出来る限り怪しまれない様に王族等の監視の目を追い払おうとしているのでしょう。
下手に隠蔽出来ない時のリスクがありますからな。
前回は隠蔽する算段でもあったのでしょう。
ですが現在、特に女王と婚約者は常に近い所にいるのですから下手に影武者や魔法で誤魔化しても身内を見抜けない程では無いのでしょう。
「メルティ、あまりイワタニ様にご迷惑をお掛けにならない様に私達は準備するとしましょう」
「でも……」
女王が手招きしますぞ。
「その代わりイワタニ様の仲間の一人、メルティの友人をこちらの護衛として派遣してほしいですね」
「そうだね。メルティちゃん達の方がサクラちゃんにはいいかもね」
お義父さんがサクラちゃんにそれとなく守る様に指示を出しますぞ。
なるほど、女王も考えましたな。
確かに俺達だけでなくメルロマルクやシルトヴェルトの者達に危害を加えないとは限らないのですぞ。
それならば護衛として誰かを付けていた方が良いですな。
「えー? ナオフミ大丈夫なの?」
「大丈夫なの! ガエリオンがなおふみを守るの!」
「ブー!」
ここでライバルが発言するとサクラちゃんが異議を唱えましたぞ。
お前は引っ込んでいろ、ですぞ。
「ガエリオンちゃんは黙ってて。ウィンディアちゃん、ガエリオンちゃんをよろしくね」
「うん」
「サクラちゃん……メルティちゃんを、皆をお願いするね」
お義父さんは力を込めてサクラちゃんに頼みました。
その意図を察したのか、サクラちゃんは頷きます。
「わかったー」
サクラちゃんが同席する事で婚約者はお義父さんから手を放して、女王の方へ行きますぞ。
「ではお願い致します」
「はい」
急いでいる割には計画性が滲み出ていますな。
これで本当に話し合いだったら、笑って済ませる領域ですぞ。
カンカンと階段を上っていきますぞ。
「おっと」
俺達が登ると同時に、女王が転ぶような音がしましたな。
あれは……ワザとですな。
出来る限り、時間を稼いで問題が無いかを確かめるのでしょう。
合わせてゲンム種の老人がノロノロとウソ臭い歩調でボケ老人のフリをしながら歩いていますぞ。
で、俺達は飛行船の船内に入りましたぞ。
キールが興奮したようにキョロキョロしておりますな。
「カルミラ島に行った時の船みたいだ」
「まあ、飛行船だからね。船って付くから似たような所はあるだろうね」
「でも部屋とかは違ってそうだな」
「まあ……色々と違うかな? 俺も実は飛行船に乗るのは初めてなんだけどね」
「なおふみは空の旅をしたいの? ガエリオンが案内するの」
「んー……まあ、ガエリオンちゃんの背中に乗るのは楽しそうだけど」
「なおふみの言葉を一生ガエリオン忘れないの!」
「何が!?」
などと呑気な感じで船内を進んで行きますぞ。
雰囲気が完全に前回と同じですな。
これでタクトが世界を救う使命を優先しているならまだ良いですが、俺の勘が違うと告げていますぞ。
ですから出来る限り臨戦態勢にすぐに入れるように詠唱をしておきますかな?
大きめに作られた廊下を抜けて、展望台の様な場所に案内されます。
するとそこには相変わらず、壁に豚共を並ばせてタクトが偉そうにふんぞり返っていますぞ。
「ようやく来たか」
まったく……コイツはこれしか作戦は無いのですかな?
呆れて物も言えませんぞ。
「えっと……招かれてきたけど、ここで作戦会議をするんだよね?」
お義父さんも確信を得たのか警戒態勢を強めております。
キールも助手もライバルも、ユキちゃん達も臨戦態勢に入ります。
「あ? ははは! 四聖ってのはとんだお花畑な連中らしいな!」
椅子から立ち上がったタクトが手を後ろに回しておりますぞ。
間違いなくツメを出すつもりですな。
「封印された四霊の封印を解いた四聖勇者め! お前等も同罪だ! 俺が世界を救ってやるから死ね!」
と、タクトは馬鹿の一つ覚えのスキルを放とうとしております。
その前に俺は、素早くとある……命令をしましたぞ。
「愛の狩人が命ずる。眷属器よ。愛の狩人の呼び声に応じ、愚かなる力の束縛を解き、目覚めるのですぞ」
タクトの手に渡っていたツメが光りますな。
「――お前から眷属の資格を剥奪しますぞ!」
一つ、二つ、三つ、四つ……おお、時期的な問題なのでしょうが前回よりも一つ多いですな。
「な、なんだ!? 何が起こっているんだ! ぐ……力が抜けて行く! な、何をしやがった!」
タクトの手から七星武器が離れて俺達の周りを漂いますぞ。
まだ先の命令をしておりませんからな。
黙っていてもすぐに飛び出してしまうでしょうが、まずは交渉ですぞ。
何だかんだでこの飛行船の機動力は馬鹿に出来ませんし、少々劣るでしょうが即戦力としてこいつ等は期待できなくも無いですぞ。
「ははは、完全に予想通りでしたな。お花畑? それはこっちのセリフですぞ」
「何!?」
「残念だよ。素直に世界を救いたいと言うのなら、こうはならなかった。まずはこちらの話を聞いてもらうために、君達の自信を奪わせてもらった」
もしも愚かにも俺達を罠に掛けようものなら七星武器を剥奪し、武器を脅迫のネタにして鳳凰と霊亀の討伐を約束させるのですぞ。
罠を掛けた罰として反省を促すのですな。