手の平で転がす
「確認した情報ではありますが我が娘マルティは現在、消息が途絶えており、フォーブレイの方へ向かったという話すらも来ておりません」
「国境とかを密かに潜り抜けて会いそうだから怖いんだけど」
「ですから警戒を怠るつもりはありません。イワタニ様やキタムラ様の言葉を信じておりますので」
ま、問題ないでしょうな。赤豚は既にこの世にはいませんからな。
問題はタクトを利用するという方ですぞ。
奴を上手く扱う事は出来ますかな?
正直に言って、錬や樹以上に難しいと思いますぞ。
俺が首を傾げているとお義父さんは自信なさげに苦笑いを浮かべます。
「七星勇者をこっちに派遣すると言ってるし……不安だけど、鞭の勇者だっていきなり愚を犯したりしないでしょ。事態が事態なんだから」
「うーん」
ピンときませんな。
あやつは話が通じる様な相手では無いですぞ。
一緒に連れてくるという七星勇者の命の方が危険では無いですかな?
そもそも、シルトヴェルトへ行った時に、奴は既に三つの武器を持っていました。
つまり二人は既に死んでいるのではないですかな?
と言う所で、シルトヴェルトの方の代表がいるのに目が行きましたぞ。
ここで話すべきですかな?
確認を取るべきでしょうな。
「シルトヴェルトの……ツメの勇者も来るという話ですかな?」
「はい。我等が国の勇者も同席しているとの連絡が来ております」
完璧に怪しいですな。
遭遇と同時にぶち殺してやった方が身の為かもしれませんぞ。
お義父さんがシルトヴェルトの代表にも事情を説明しております。
怪しいとばかりに俺を見ていますが、ウソではありませんぞ。
「盾の勇者様が信頼する槍の勇者様の話なのですから……信じると致しましょう。では連絡を――」
「待って、念の為に七星勇者が来るまでの間、内容は伏せておいてほしいんだ」
「意図は察しますが、確認をしたい所です」
ゲンム種の老人がお義父さんに尋ねますぞ。
当然ですな。
タクトやその仲間にこちらの情報を流すなんて愚かな事をして良い訳がありません。
利用出来るにしても出来ないにしても、この情報は伝えられませんな。
「……君達は英知の賢王と戦争をしていた歴史があるんでしょ? 相手に『貴方は怪しい』と聞くのはどうなのかな?」
「そうでしょう。ですが我等が国の七星勇者は言わば国の代表の様な物……例え神に等しき盾の勇者様の言葉であろうとも確認を取らずにと言うのは少々難しいのですが」
「わかってる。多分、一度顔合わせするだろうからその場に立ち会ってもらえば良いと思う。それまでは伏せていて」
「おそらく化ける能力に優れた魔物がツメの勇者に化けていますぞ」
俺はビーストスピアによってツメの勇者に化けていた狐の話をしましたぞ。
そしてその狐がタクトの仲間である事も伝えました。
「この槍が反応すれば間違いなく黒ですな」
その場に七星勇者が来ると言うのでしたら、俺が相手をしてやりましょう。
もちろん、今は泳がせますが下手な動きをしたら消しますぞ。
「では私共はフォーブレイの王に内密に話を通すことが出来るよう、準備いたしましょう」
「何をするの?」
「仮に問題があった場合、メルロマルクとシルトヴェルトの代表が力を合わせ、シルドフリーデンとその他勢力が介在する前にフォーブレイが事を鎮圧させるべく動くように手配しておくのです」
「大丈夫なの?」
「はい、あくまで予防策と思ってくだされば」
女王の方にも何か策があるようですな。
とりあえず七星勇者が来るまでは霊亀と鳳凰に挑むのは中止となりました。
お義父さんが奴を利用すると言うのです、出来れば穏便に事を済ませたいですな。
「じゃあ……いつでも作戦に移れるように俺と元康くんで出来る限り鳳凰と霊亀に近づける範囲へポータルを取っておこう」
「わかりましたぞ」
それから俺達は作戦に臨むための場所を取りに、フィロリアル様の協力の元、出発いたしましたぞ。
翌日。
メルロマルクの上空に飛行船がやってきました。
他に飛行機が何機か来ていますな。
飛行船は二機……ですな。
キールがそれを見て若干興奮気味に指差してお義父さんを呼んでおります。
俺達は城のテラスから草原に着陸する飛行船を見つめております。
「兄ちゃん兄ちゃん! すっげー! ドラゴンやエアウェイク鉱石以外であんな物があるんだな」
「そうだね、異世界で飛行船とか、なんか考え深い物があるよね。違和感とも言えるけど」
だけど、異世界から人を召喚しているんだから不思議じゃないのかな?
と、お義父さんが呟いております。
「メルティちゃんは飛行船は見たことある?」
「あ、はい。フォーブレイで開発された乗り物だと耳にしております。以前建造中の物を目にしました。試験飛行の物は遠くで見ました」
「へー……」
「フォーブレイねぇ。前に行ったことがあるけど、あたいはあんなハイカラなのは趣味じゃないねー」
パンダ獣人が目を細めて飛行船を見つめていますな。
「ラーサさんは傭兵だもんね。フォーブレイってどんな所?」
「あの国は人種の坩堝だから退屈はしないよ。何だかんだで世界の中心だしね」
「楽しそうな国……ではありそうだよね」
お義父さんは俺が未来での出来事を話しているので、フォーブレイの裏の顔を知っていますぞ。
確かに表面上は発展した国でしょうな。
メルロマルクの様な田舎臭さはあまり感じません。
ま、それでも日本と比べたら鼻で笑う次元ですが。
「流通も活発だし、何だかんだで新しい技術はフォーブレイで産まれることが多いからね。でもあたいは断然ゼルトブルの方が好きだね」
「傭兵の国だっけ?」
「そうだぜ。正確には傭兵が作った国で、商人の国でもある。フォーブレイとは別の意味で人種の坩堝だね。あっちの方があたいには心地良いんだよ」
人それぞれという奴ですな。
ゼルトブルは賭博が活発ですからな。
フォーブレイの様な最新鋭の技術で発展する国とは別のベクトルで人が集まる国ですぞ。
どちらの国で金が稼げるかと言えば断然ゼルトブルでしょうな。
闇ギルドもあるし、コロシアムもあります。
更にはフィロリアル様を走らせて競うレースもあるんですぞ。
武器の流通はゼルトブルの方が上ですな。
フォーブレイは目新しい種類の武器が売りだされている国ですな。
ゲームだった頃を参考にすると新規実装した武器とかが店売りされる国ですぞ。
銃器とかが代表ですな。
「ブー!」
「え? エレナさんはフォーブレイの方が好き? なんで?」
「ブー」
「あー……うん、エステね。うん、エレナさんらしいね」
思い出せば、確かに怠け豚は赤豚と共にエステに行っていましたな。
フォーブレイはその手の技術も発展しているのでしょう。
芸術的な部分はフォーブレイ、本能的な部分はゼルトブルと思えば良いですな。
「んー?」
サクラちゃんが飛行船を見つめていますな。
「なんか嫌な感じ……」
「威圧感がある気がするのー」
タクトの取り巻きにはドラゴンが居ますからな。
しかも限りなく一番強い竜帝……らしいですから、ライバルも遠くからでも気配を感じているのでしょう。
ユキちゃん達もなんとなく嫌な気配を察しております。
「それで? これから俺達はどうするんだっけ?」
「すぐに七星勇者様と合流し、作戦会議をするとの話が来ています。その後、すぐに移動を開始するとの話となっています」
「いきなり? こっちに謁見とかしないの?」
前回も似たような感じで呼び出されましたからな。
警戒は強めるべきでしょうな。
「何分、フォーブレイの方が国力の方で上なので、あちらの気分次第な所があります」
「四聖に敬意を示さねばならないのですが『謁見する時間があったら少しでも被害を抑えるべく行動すべき』との言葉で現在の形になりました」
「まあ……そうなるか。じゃあ行こうか。どちらにしても七星勇者は俺達に勝てる術を持っていないんだからどうとでもなるはずだよね」
手の平で転がす事も今の俺達には簡単に出来ますぞ。
奴等の情報能力がどの程度の物であるかを推し量るには良い機会ですな。
俺達は嫌な予感がしながらも飛行船の元へとメルロマルク、シルトヴェルトの代表共々向かったのですぞ。