善行の代償
お義父さんの言葉通り、俺達が関与した影響でエクレアが死んだのは間違い無いでしょうな。
なんせ最初の世界や前回で生きていたのですから。
「ですから念の為ですぞ」
「そうだね。そういう事なら知っていた方がいいよね」
「どういう話でしょうか?」
「ああ、女王様には話をしていなかったね。知ってるかもしれないけど元康くんは未来から来たんだ」
「そうですぞ」
女王がにわかに信じがたいとばかりに扇を広げて口元を隠して考えますが、それから少しして頷きました。
信じる信じないは別にして、話を聞く、という事ですな。
錬や樹と比べると、こちらの方が話をし易いですぞ。
「メルティや様々な場所からの証言もありますね。だからこそキタムラ様はイワタニ様を助けたのですね。状況を考えるに確かにそうなのでしょう」
さすがは婚約者の親ですな。
あの赤豚の親とは俄かに信じがたいほどに理解力がありますぞ。
「それで話を戻すけど、どうやら未来……と言うべきなのかな? もしもの世界ではそのエクレールって人は死んでいないらしい。だから元康くんは、もしもまたループする様な事があった場合に助ける方法を知りたいんだ」
「なるほど……ではセーアエット嬢がどのようにして獄中死したかの経緯を説明しましょう。正直に言えば、お聞きにならない方が良いかもしれません」
「それでも、もしもに備えておきたい。ね? 元康くん」
「はいですぞ。お義父さんの頼みとあらば、この元康、機会があれば必ず助けますぞ」
「わかりました。では経緯を話しましょう。セーアエット嬢がどうして死んだかと言いますと――」
それから女王はエクレアが死ぬまでの経緯を鮮明に説明いたしました。
大まかな理由として、原因はお義父さんがあまりにも頭角を現してしまったと言うのが原因でした。
エクレアは言わば、盾の勇者を信仰する亜人の派閥の者。
その者が城で捕えられているという状況で、お義父さんの活躍が大々的に宣伝されていました。
丁度革命の時ですな。
三勇教の兵士や騎士、更に貴族は八つ当たりの対象としてエクレアを執拗に拷問したとの話ですぞ。
しかもエクレアを解放しろとの意見が出てきたとなれば更に解放する訳には行かなかったのでしょうな。
盾の勇者であるお義父さんを抹殺する前に、目の前に居る国賊の代表であるエクレアを三勇教は殺したのです。
元々は革命軍の目の前で殺すかと三勇教内で話し合っていたそうですが、その前にエクレア自身の体力が限界を迎えていたのもあったとの話。
国の影がどうにかして助けようとはしたものの、下手に動く事も出来ず、エクレア自身も噂に聞く盾の勇者を信じる者達の為に、自ら死を選んだ……そうですぞ。
それまでの経緯は、聞いていて嫌になる様な内容だった為、お義父さんは耳を塞ぎそうになっておりました。
ですが、自分達がした結果だと甘んじて受け入れているのか、最後まで聞いていました。
「結果、三勇教はセーアエット嬢を人質に革命軍の動きを止める事に失敗しました。見世物にして罠を張りその間に革命軍を皆殺しにするという行動が出来なかったのです」
「なんて残酷な連中の発想だ……」
お義父さんが悔しそうに言いました。
「我が国の膿です……これも全て私の責任です」
「……」
お義父さんは黙りこんでしまいました。
まあ、最終的に全ての出来事の黒幕だった三勇教は処分されたのですから、エクレアの無念は晴れたという事になるのですかな?
「あまり気に病まないでください。ですが、本当にループなる能力があるならば、次なる世界ではセーアエット嬢だけでも助けてください」
「元康くん、俺からもおねがいするね」
「わかりましたぞ!」
お義父さんと女王が俺に頼みました。
そうですな。エクレアは出来る範囲で助ける様にして行きましょう。
どうやら意外と死にやすい様ですからな。
もちろん、ループしたらですが。
俺もフィーロたんを見つけるという目的がありますぞ。
まだ俺はこの周回でも諦めておりませんからな。
魔物商の所の卵にはやはりフィーロたんはおりません。
錬と樹の問題が片付いたら、フィーロたん探しをしますぞ。
幸いにしてお義父さんはキールの故郷である村の復興に着手するでしょうからな。
その間に俺はフィーロたんを探しますぞ。
「それでイワタニ様、カルミラ島でのLv上げはどうでしたでしょうか?」
「ああ、その事なんだけど、話は行ってるよね?」
「はい。アマキ様とカワスミ様の動向に関してですね」
「はい、錬と樹に関して何か掴んでいない?」
「前日の最後の便に無理やり乗り込んだ後、船員を脅して強引に船を進めた後、忽然と姿を消したとの話です」
「ポータル、移動のスキルを使ったのは明白だ。その後の消息は?」
「明朝の事、メルロマルクの東の国境沿いでそれらしき人物の目撃証言があります」
どうやら既に移動を開始しているようですぞ。
しかし予想通りな行動ですな。
間違いなく霊亀の封印された国へ向けて移動を開始しているのは明白ですな。
「証言からカワスミ様一行だと推測されます」
「国境で足止めとか出来ない?」
「出来なくは無いでしょうが、強行突破をされる危険性があります。更に一般冒険者のフリをされる可能性があります」
「変装って奴か……」
「暴く事は可能ではあります。過去にアマキ様が三勇教の警戒を破った前例がありますので……どのような手を使うか……」
「そういえば錬はどのようにしてメルロマルクから出たのでしょうな?」
「私達が掴んだ情報に拠りますと、カワスミ様がゼルトブルへと遠征に出た際、それとなく同行して潜りぬけたとの話です」
ああ、なるほど。
三勇教のお気に入りだった樹に引っ付く形で国境越える、もしくは船に乗って移動をしたのですな。
下手に錬を差別したら樹に怪しまれるからそこまで強く出なかったのでしょう。
その後はゼルトブルに滞在して、活動していたのでしたな。
「とりあえず、女王には話を伝えておくけど、錬と樹は霊亀の封印を解こうとしている。出来る限り阻止しないといけない」
お義父さんが女王に事情を説明しましたぞ。
今の錬と樹では封印を解かれた霊亀を倒す術はありませんぞ。
その所為で多大な犠牲が出ますからな。
「波へ挑まないと行けないけれど、その前に俺達は錬と樹を捕まえないといけないんだ」
「わかりました。せっかくの友好でしたが、どうやら余計な事をしてしまった様ですね。申し訳ありません」
「いやいや……非は俺達の方にあるんだ。女王やこの世界の人達が気にする事じゃないよ」
絶対に阻止すると言いきってしまいましたからな。
錬や樹も意地になっているのではないですかな?
「では無駄かもしれませんが彼の国に勇者の来訪妨害と避難勧告をしておきましょう。最悪、それで被害を抑えられるかもしれません」
「お願いします。で……その、もしかしたら霊亀に挑むかもしれないのでメルティちゃんは留守番を……」
「ナオフミ様!」
婚約者が異議を唱えるように進言しましたぞ。
「私もナオフミ様の仲間です! その為に母上の命で遣わされたのですよ!」
「でも……かなり危険な戦いになるかもしれないんだ。君はこの国の姫なんだし、安全な場所にいてもらった方が良いんじゃないかと思って……」
「母上! 私は、私は黙って待っているだけの姫ではもうありません! どうか! ナオフミ様の戦いに同行する許可を!」
婚約者が身を乗り出して女王に頼みましたな。
女王の方も考えるように目を瞑り、それから目を開いて婚約者の頭を撫でますぞ。
「メルティ、貴方は少々真面目と言いますか、自分を押し殺す所がありましたが、どうやらイワタニ様と出会って良い方向に成長した様ですね。貴方の成長を私は誇りに思いますよ」
「母上……では!」
「ええ……困難な戦いになるでしょうが、世界の為に先頭に立つのも王族の務め、イワタニ様の力になる様にがんばるのですよ」
「……良いのですか?」
お義父さんが女王に尋ねると女王は頷きますぞ。
「はい。もしも志半ばで倒れる事があろうとも、それは送り出した私の罪。イワタニ様、どうかメルティの事を、よろしくお願いします」
「……わかりました。出来る限りご息女を守れるように努めます」
婚約者の表情が晴れやかになりましたぞ。
未来ではこんな顔をしたですかな?