国葬
「まったく、錬と樹も……どうして他者を出し抜こうと考えるのか……」
翌朝の最初に出発する船に乗りこみながらお義父さんは愚痴りました。
「過去に召喚された勇者達にも似た様な特徴があると母上はおっしゃってましたわ」
「あー……うん。異世界人の共通する特徴なのかもしれないね」
「まったくですな。俺も前に似た様な発想をしていましたぞ」
「実際にやられる方だと不快にしかならないね。しかも出し抜いて何かするとして、碌な事をしないんだろうと思うとさ」
「そうですな」
大方、錬と樹は霊亀の方へ向かったのではないですかな?
絶対に阻止して見せると俺達は宣言しましたぞ。
ですから俺達の隙をついて封印を解こうとしているのでしょう。
確かに、霊亀の封印されている地では秘密裏に霊亀の侵攻は進んでいるでしょう。
ですが、今の錬や樹では霊亀を復活と同時に叩くのは不可能でしょうな。
むしろ復活させた時に霊亀の背中にある国の住人を避難させてから封印は解くべきですぞ。
しかし錬と樹が無断で封印を解くのは明白ですな。
「錬と樹が乗り込んだ船とは連絡は?」
「外洋故に少し難しい状況です」
「問題はカルミラ島の範囲から出れば海上でもポータルは使う事が出来ると言う事か……」
「大幅なショートカットが可能ですぞ」
「そうだね。とはいえ――」
お義父さんが出発する船の後方に視線を向けますぞ。
「わーこれからあのお船を追い掛けるのー?」
「そうですわ。では皆さん。元康様について行きますわよ」
「「「はーい」」」
ユキちゃんが船尾で指揮をしてフィロリアル様達を誘導して行きますぞ。
少しずつメルロマルク行きの船に乗って行けばよいのではないかと言ったのですがフィロリアル様達がついて行きたいと言うので、移動する船を泳いでついてくる事になりました。
みんな水鳥の様に船を追い掛けて泳ぎ始めています。
「あの子達をカルミラ島に置いて行く訳にも行かないしなぁ……」
婚約者も船の後に続くフィロリアル様達を見て目を輝かせていますな。
「わぁ……フィロリアル達で出来た船の引き波のように尾を引いているわ」
「昔、俺の世界で川に並べたアヒルのおもちゃが行列で流れて行く光景の方がしっくりくるよ」
「かなり異様な光景だねぇ」
フィロリアル様達はとても楽しげに船を追い掛けて泳いでおりますぞ。
俺も混ざりたいですな。
「なんかすげぇ。カルミラ島で槍の兄ちゃんがどれだけがんばったのか一目で分かる光景だな」
キールが船の手すりに寄りかかって見ていましたぞ。
「とにかく、急いで錬と樹を追い掛けますぞー」
「出発ですわー」
「なんだかなー……」
お義父さんが何やら頬を指で掻いて、そんな光景を見ておりました。
「ねえ元康くん。ポータルで移動できない?」
「さすがにこの数のフィロリアル様達を一度に移動させるのは難しいですぞ」
「まあ……そうだよね。後で合流とかを命じておけば……」
「どちらにしてもある程度、移動しないと無理ですな」
俺達はカルミラ島の活性化範囲から出た後、船からポータルで移動すると決めましたぞ。
フィロリアル様達は船について行く形で移動をする事になりました。
「樹や錬が船に乗ったままでなら港で待ちかまえて居れば抑える事は出来るけど、希望的観測だよね」
「ですな」
「まずは母上のいるメルロマルクに立ち寄った方が良いと思いますわ」
婚約者が進言しますぞ。
確かに、今は錬と樹達が何処へ向かったのか確かめる必要がありますぞ。
一応は霊亀を目指して行動すると思いますが、どうなる事やら。
「霊亀の国ってメルロマルクから行った方が近い? それともシルトヴェルトの方が近いのかな?」
「どっちも同じくらいの距離がありますわ」
「元康くん、さすがに霊亀の封印された国のポータルは持って無いよね」
「無いですぞ」
「そうだよね……とりあえず追いつくのを最優先するとしても、メルロマルクに立ち寄るべきだね。じゃあメルロマルクの城へ飛ぼう」
「わかりましたぞ!」
俺達はポータルを使ってメルロマルクの城に飛びました。
そして俺達がメルロマルクの城に到着した時、メルロマルクでは国を挙げて葬儀が執り行われていたのですぞ。
城下町は静まり返り、馬車製の霊柩車が教会へ向けて輸送されておりました。
「な……何? これ」
おかしいですな。俺の記憶が確かなら最初の世界でこんな催しはありませんでしたぞ。
霊柩車を国民は名残惜しそうに涙を拭いながら見届けていますな。
女王がその行列の先頭で指揮をしております。
「母上」
婚約者がお義父さんとサクラちゃんを連れてその列に飛び出して行きます。
「今は葬儀を行っている最中ですよ」
「も、申し訳ありません。ですが……これは誰の葬儀なのですか?」
婚約者と共にお義父さんも女王に向けて問いかけます。
国民はお義父さんがやってきた事で、更に心を震わせた様に涙を拭っておりました。
女王は状況を察してお義父さんを含めて俺達を輸送する霊柩車の後ろの馬車に案内します。
残された俺達はそのゆっくりと進む馬車に並走して聞き耳を立てますぞ。
そして馬車の中で事情を説明し始めましたぞ。
「今回の葬儀は、我が国の革命で尊い犠牲となった者達と、亜人達との友好の懸け橋に成りえたセーアエットの忘れ形見、エクレール=セーアエットの葬儀です」
おや? 聞き覚えのある名前の様な気がしますな。
「確かその名字って……この国で亜人との友好を謳っていた貴族でしたっけ?」
おお! 確かそんな名前でしたな。
おや? エクレアは……どうなったのでしょうか?
すっかり忘れていましたぞ。
「よくご存じですね」
「革命運動中に耳に挟んだんですよ。確か……メルロマルクの城の牢屋に捕えられているとか……噂にはなっていましたね」
「ええ……奴隷狩りを行おうとした我が国の兵士を私刑にした罪……という名の不条理な罰で捕えられ、拷問の末、死亡が確認されました。今はその偉大なるセーアエット嬢を代表とした国葬が執り行われている最中なのです」
「そう……だったんですか。なら、俺達も参加しなくて良かったんですか?」
「勇者様方は世界の為に活動中という事で……」
女王の言葉にお義父さんは歯痒そうにしておりますぞ。
ガタゴトと霊柩車が進んで行きますな。
やがて教会の方で葬儀は執り行われました。
既に三勇教ではありませんがな。四聖教だったでしょうか?
その司祭らしき者が祈りを捧げておりますな。
「最後に、セーアエット嬢の残した遺書に則ってセーアエット領へと移送し、今回の葬儀はこれにて終了をここに宣言します」
カーンと教会の鐘が鳴り響きました。
城下町に居る者たちを初め、お義父さんやキール、婚約者を初めフィロリアル様達も場の空気を読んで黙祷をしていましたぞ。
俺も合わせて黙祷をしますぞ。
多分、エクレアですぞ。
もしかして俺が助けなかったので死んだのですかな?
ですがおかしいですな。最初の世界では生きていたはずですが。
「エクレアは何故死んだのですかな?」
「元康くん」
葬儀が終わって城に戻る途中に俺は女王に尋ねましたぞ。
ですが、お義父さんが不謹慎だと止めます。
「お義父さん、エクレアは前回の周回でも最初の世界でも生きていたのですぞ」
「え!?」
お義父さんの表情が青ざめますぞ。
そう、つまり俺達が原因でエクレアが死んでしまったと考えるのが自然ですな。
「もしかして俺達が余計な事をした結果、死んじゃった……とか?」