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盾の勇者の成り上がり 作者:アネコユサギ

外伝 槍の勇者のやり直し

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槍の勇者と勇者会議【上】

 結局、翌日からの仲間交換は中止になりました。

 理由として、錬と樹がそれぞれ拒否を告げたのが始まりで、俺とお義父さんはそれぞれ一緒に行動しているので、この先やっても俺とお義父さんの仲間が強かったで締められるからですな。

 何だかんだで俺の仲間であるユキちゃんを初め、お義父さんの仲間も錬や樹に比べて強いですからな。


 正直に言えばカルミラ島でユキちゃん達のLv上げの意味は能力に拘らない限りありませんぞ。

 間違っても最初の世界で来たLv上げとは無縁の領域になってますからな。

 それでもお義父さんはキールや他の連中の底上げをするつもりの様ですが。


 で、錬は助手にボコボコにされた翌日の昼過ぎ頃にやっと出てきたそうですぞ。

 メンバー交換も中止になりましたからな。

 颯爽と仲間を引き連れて無断に近い形で狩りに行くと日本語の書置きを残していなくなっていました。

 俺はメンバー交換の再開があるかもしれないとの話からフィロリアル様達の育成をしていないと言うのに!


 樹達も負けじと狩りに行った様ですな。

 ま、Lv自体は既に十分上がっていると思い込んでいるようですがな。

 樹とその仲間は俺とユキちゃん達が育ててやったので、カルミラ島程度なら余裕でしょう。


 その後、結果的にお義父さんの主催で勇者同士の会議が今夜開かれる事となりました。

 温泉で覗きをしようとしてお義父さんに叱られたのはご愛嬌ですな。

 今回、錬達はやってきませんでした。


「じゃあ行ってくるよ」


 俺とユキちゃん達はお義父さん達と一緒の部屋で会議の準備をしましたぞ。


「私も行く事になっているわ」

「え? メルティちゃんが来るの?」


 婚約者が手を上げましたぞ。

 なんですかな? 島での会議でも婚約者が来る理由があるのですかな?


「ええ、メルロマルクの代表として私が勇者様方の会議を取り仕切れと母上からの命なの」

「そっか……」

「サクラ達はー?」

「勇者達の会議だから仲間の出席は許可されて無いの。余計な騒ぎになるかもしれないって」

「えー……」


 サクラちゃんを初めキールやユキちゃん達が不満そうな顔をしますぞ。

 逆に助手はホッとしている様に胸をなで下ろしています。


「ごめんね。サクラちゃん」

「ううん。だけどナオフミ達はサクラが居なくて大丈夫?」

「まあ、相手は錬と樹だからね。とりあえず問題はー……無いかな。話し合いをしてくるだけだから」

「そう? 何かあったらいつでも呼んでね?」

「わかってるわサクラちゃん」

「では行きますぞ」


 俺もユキちゃんを宥めるのが大変でしたぞ。

 ユキちゃんの心配、分からなくもありませんぞ。

 ですが、お義父さんと一緒に世界を救うためには避けて通れない道ですからな。

 錬と樹に勇者として重要な事を教えておかねばならない事ですぞ。


 そんな訳で俺達は婚約者と共に会議の場へと向かったのですぞ。

 一応、案内は影らしい豚が務めておりますな。

 石造りの塔へと続く階段を登り、強化方法を話し合ったあの円卓の様なテーブルがある部屋へと通されます。

 既に錬と樹は待ちかまえていましたぞ。


「……」

「……ふん」


 両者共に不愉快そうな表情をしております。

 最初の世界で会議をした時よりも視線が鋭いですな。

 婚約者が部屋の奥の方で立って錬と樹、そして椅子に腰かける俺とお義父さんを確認致しますぞ。


「ではこれより、四聖勇者による情報交換を始めます。司会と進行は私、メルロマルク第二王女、メルティ=メルロマルクが行います。よろしくお願いします」


 それから婚約者は思い出す様に視線を泳がせますぞ。


「ええっと……今回の会議は勇者様方の連携の為、強くなる方法の話し合いの場として設けさせていただきました。どうかご容赦ください」


 なんともたどたどしい感じですな。

 元が幼稚な婚約者ですぞ。

 しょうがない事ですな。


「うん、じゃあこれから話をして行こう。色々と俺達は話し合いをしなきゃいけないと思うからね」

「そうですぞ」

「どうだか……」

「ふん」


 どうも樹と錬は俺達に敵愾心を持っているようですな。

 自身の無知を棚に上げるとは、完全に道化ですぞ。


「では、最初に勇者殿達には、それぞれの仲間について話し合ってください……一応、盾と槍の勇者様方は常に協力している為に強さに関しては同列だと思われますので、このような形になりました。まだ理解が及ばないのでしたら明日から再開する事も可能です」


 まだユキちゃん達と錬、キール達と樹がありますからな。

 まあ、キール達と樹は樹を監禁している時に見た様な気がしますがな。

 そこで錬が不快そうにお義父さんを睨みつけて口を開きましたぞ。


「尚文、お前の仲間の教育はちゃんとしろ! 殺されるかと思ったぞ!」

「ああ、噂に聞いてましたがさすがは尚文さんの仲間ですね。教育がなっていない様ですね」


 錬の言葉に樹が援護射撃してきましたぞ。

 なんとも卑怯な奴ですな。


「それはウィンディアちゃんの事? その事に関しては謝罪するけど、錬にも非が無いとは言わせないよ」

「なんだと? 俺の何処に問題があると思っているんだ!」

「キールくんやサクラちゃん、そしてウィンディアちゃんに聞いた限りだと錬、君は連携に関して色々と勘違いをしているんじゃないかな?」


 俺もそう思いますぞ。

 錬の場合、自分の命令を聞く駒か何かと勘違いしていますな。

 まあ最初の世界のお義父さんを見る限り、それが必ずしも間違いとは限りませんが。

 ですが、そういうのは大規模な部隊でないと意味がないのではありませんか?

 それこそ軍隊の様な、百人規模になって初めて効果が現れる指揮形態だと思いますぞ。


「何を勘違いしていると言うんだ。あいつ等が無謀な行動に出たり、避けなきゃいけないのに耐えようとしたり、俺の攻撃を邪魔したりするのが悪いんだろうが」

「結果、連携は滅茶苦茶で戦闘に苦戦した……と俺は聞いたよ。錬、君はもしかして自分が一番戦えるとか自惚れた事を思っていたんじゃないか? 俺の仲間は弱いはずだから、精々敵の注意を分散させる程度の駒とかそんな認識で」

「そんな事は無い。あいつ等が俺の命令に従わなかったのが原因だ」


 キール達は命令には従ったと聞いていますがな。

 命令を受けた上で錬が邪魔をした様にしか思えませんぞ。


「敵の攻撃を避けようとした先にいて、受けようとした所を邪魔をする。攻撃しようと近づいた時にスキルを放って巻き添えにしかける。接近戦をしようとした所で後方の魔法援護にぶつかり掛ける。典型的な打ち合わせ不足と錬自体が連携の邪魔になっているんだと思うんだけど? それともそんなに接戦する程の相手だった?」


 お義父さんの返答は間違いないですぞ。

 状況を考える限り、錬が最大の障害となっていたのは確かですな。

 実際、カルミラ島のボス程度ならキール達だけでも倒せるでしょう。

 事実倒していますからな。


 そもそも勇者がいるなら余裕で倒せる敵ですぞ。

 俺なら一撃で倒せますな。


「その証拠にウィンディアちゃんが錬を突き飛ばして、起き上がって駆けつけるまでの間に戦闘は終わったと聞いたけど?」

「違いますよ。錬さんの活躍を妬んだ妨害工作ですよね?」


 樹がこれ幸いにとばかりに錬に肩入れを始めましたな。

 おそらく俺達を敵だと認識して、俺達の指摘=間違いとでも思っているのでしょう。


「仲間は勇者が戦いやすいように戦うのが常識じゃないですか。にもかかわらず仲間が我先にと攻撃するとか……何の冗談ですか? 笑えませんよ」

「ははは、樹と錬はバカですな」

「なんですって?」

「俺は関係無いだろ。樹が勝手に言った事だ」

「え……?」


 錬の返答に樹が変な声を出しました。

 思いも寄らない錬からの裏切りとでも思っているのですかな?

 とはいえ、俺も言う事を言いましょう。


「お義父さんは盾の勇者。その仲間がお前達と同じ様に動くと思っている時点で考えが足りませんな」

「くっ……」

「元康くん煽らない。樹、良くわかっていないんなら下がっていてくれない? 君は確かコンシューマーゲームをプレイしていたんだったっけ? ここは異世界なんだよ? いつまでも一人用のゲーム感覚でいられると困るんだよ」


 お義父さんの言葉に樹は不愉快そうに眉を寄せます。

 そういえば樹は一人用のゲームをしていたのでしたな。

 もしかすると俺達を含め、この世界の住人全てをNPCか何かと勘違いしているのかもしれませんぞ。

 いや……さすがにそこまでは無いとか、最初の世界でも言っていた様な気がしますが。


「相手だって人間なんだと思わないでいたら、痛い目を見るのは当たり前だよ。下手をすれば怪我じゃ済まなかったかもしれないでしょ」

「人間? 貴方の仲間は人では無く亜人と魔物じゃないですか」

「……樹、それを人は揚げ足取りって言うんだよ? どっちにしても見て、聞いて、ちゃんと考える事の出来る知性を持った、俺達と変わらない相手だよ。人と変わらない。君は……人種差別をするの? もしそうだとしたら別世界の日本はとても野蛮な世界なんだね」


 お義父さんの問いに樹は苦虫を噛み潰したような表情をしましたぞ。

 正義が差別とはとんだお笑い草ですな。

 樹もその辺りを理解しているのでしょう。


「く……」


 黙りましたぞ。

 ですが今度は錬が不快そうな顔をして答えます。


「ふん。お前等は戦いを舐めているからそうなるんだ。俺の呼吸に合わせずやりたい放題。そんな相手の事を考えず自分勝手に行動して不測の事態に陥ったらどうするつもりだ」


 樹はその言葉を聞いて、裏切られた、みたいな表情をしました。

 別に錬はお前の味方ではないと思いますぞ。

 現状、関係が悪くなってきた錬からすれば、俺達は敵かもしれません。

 ですが、敵の敵が味方とは限らないという事ですな。


「どうするつもりって……不測の事態で困ったのは錬、君でしょ……まあ結果的に困らせた俺も悪いけどさ」

「勘違いするな。俺は別に困ってなんかいない。俺の言う事を聞かなかったあのガキが悪いんだ! そう、全てあのガキが悪い!」


 何を言っているのですかな?

 あのガキとはきっと助手の事でしょう。


「よく考えて。仲間交換は相手の仲間に自分は強いと自慢する所じゃないよ?」


 さっと錬と樹は視線を逸らします。

 そうだったのですか……てっきり俺は俺達の強さを自慢する所だと思っていました。


「確かにその側面はあるし、否定はしないけど、相手の仲間がどれだけ強いか、どういう戦い方をするかを観察する場でもあるよね? 他の勇者がどんな戦い方をしているかを知って、お互いの理解を深める為でしょう?」

「俺の戦い方を見れば良いんだ。そうすればこの世界で一番正しい戦い方がわかるはずだ」


 ……凄いセリフですな。

 俺も結構な自信家だと思いますが、ここまで豪語するのは逆に凄いと思いますぞ。

 実際、俺自身の戦い方の問題も理解していますし。


 ちなみに、俺の戦い方の難点はLvに頼りすぎている所ですな。

 ユキちゃん達やお義父さんなど、仲間のLvを極端に上げてから自分達よりも遥かに弱い相手と戦う状態になっています。


 自分でもこれが悪いとは思っていませんが、最初の世界のお義父さんや仲間達と比べると、ふんばりが利かない気がしますぞ。

 所謂、Lvはあっても経験が足りないとでも言うのですかな?


 というのもループが始まってから、俺と俺の仲間が危機的状況になった事がありません。

 基本、俺がゴリ押しで片付けますからな。

 つまり自分と同じ、あるいは自分達より強い相手と戦った経験が無いのです。

 なので、もしかしたら俺達は弱い相手としか満足に戦えない可能性がありますぞ。

 これからの課題ですな。


 もちろん、お義父さんはその辺りを察してくれています。

 これは凄いと思いますぞ。

 どのループでも強敵と遭遇した場合の事を想定した、心構えがありました。

 おそらく、これは『未来で俺が負けた』事に由来する懸念でしょうな。

 俺も調子に乗らない様、用心しないといけませんな。


 なんて考えていると、お義父さん達の会話が進んでいました。


「なんだその顔は。不満があるなら言えばいいだろ」

「じゃあ言わせてもらうよ。君の仲間と話をして、君の行動を聞く限り、俺にはソロプレイヤーが上から目線で、樹と同じく後輩を洗脳育成している様にしか見えないよ」

「なんだと! 樹と俺が同じだと!? ふざけるな!」


 錬がガタっと立ち上がってテーブルに手を置いてお義父さんを睨みつけます。

 事実を突きつけたら激怒ですか。

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