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盾の勇者の成り上がり 作者:アネコユサギ

外伝 槍の勇者のやり直し

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得意なゲーム

「むむ! お姉ちゃん我慢するの!」


 ライバルが止めようと動く前に助手は錬に向かって飛びかかって行ったそうですぞ。

 錬に掴みかかり、地面に押し倒したのだとか。


「うわ、何をする!」

「アンタに! アンタなんかに!」


 倒れた錬に助手は馬乗りになって拳を握りしめて涙目で殴打を始めました。


「う! ぐは! や、やめろ!」


 錬が本気で顔面を殴られて抵抗しますが助手の攻撃は止まりませんぞ。

 右、左、右、左とパンチが錬の顔面にめり込むくらいの力で、鬼気迫る……まさしく激怒した竜の如く助手は錬の顔面を何の遠慮も無く連続で殴り続けます。

 想像に難くない光景ですな。


「お前が! お前さえいなければ私は! 私はこんな目に、こんな思いをせずに済んだのに!」

「い、いい加減にしろ! ハンドレッドソード!」


 さすがの錬も助手の攻撃に逆切れしてスキルを放ちますが、助手は錬が放ったスキルを睨みつけてから持っていた杖を投げつけて自分に刺さりそうな部分だけ迎撃したそうですぞ。


「ふざけるな! 何が勇者だ! ふざけんな! みんなはアンタに攻撃が行かない様にする身代わりじゃない!」

「ぐふ! あが! や、やめ――お前等、と、とめ――」


 鬼気迫る助手の執拗な攻撃に錬はとうとう失神したようで全く動かなくなってしまったそうですぞ。

 キールやサクラちゃん、ライバルはその様子を唖然とした表情で見ている事しか出来なかったそうです。

 何せ周りに出現しているはずのカルマードッグファミリアでさえも助手の放つ怒気に恐怖して遠目で息を飲んでいる始末。


「お、お姉ちゃん! いい加減にしないと剣の勇者が死んじゃうの!」


 ライバルがハッと我に返って、やっとのことで助手を後ろから引っ張り、錬と距離を取らせたのだそうですぞ。


「ガエリオン! 離して! もっと、もっとアイツにはわからせないといけないのよ! あんな奴に! あんな奴にお父さんが殺されたのよ!? もう我慢なんて出来ない!」

「ウィンディアちゃん落ちついて!」

「剣の人がボコボコー」

「うわ……こりゃあやばい! サクラちゃん! 急いで剣の兄ちゃんを背負って戻ろう!」

「放してー! もっと、もっとアイツにわからせないといけないのよ! 死なない程度に生きているのを後悔させなきゃ行けないの!」

「落ちつくの! そんな事をしちゃダメなの! お父さんはお姉ちゃんが剣の勇者をボコボコにしたのできっと満足なの! ガエリオンが保証するの!」

「放せ! 放せええええぇぇぇぇー!」


 とまあ大混乱の内にキール達はボコボコにされた錬を連れて急いで島の仮設治療院に行ったそうですぞ。

 あまりにも力を込めて殴打した所為で錬は重傷を負い、本島の島で高度な回復魔法を施す事になったとの話。

 その話はお義父さんの方にも伝わって、お義父さんは夜の間に本島のホテルへ呼び戻される結果となりました。



 なんとも、未来で錬は助手に対して負い目があった様だったので、仲は悪くないと思っていたのですが、こんな結末になるとは。


「幸いにして錬の方に大事は……まあ、回復魔法のお陰で無かったんだけどね。ホテルの部屋から出て来ないんだ」

「助手がですかな?」

「いや……錬の方がだよ」


 ボリボリと呆れるようにお義父さんは頭を掻きました。

 つまり錬は引き篭もったと。

 死ぬ程痛かったのがトラウマになったか、それとも死の恐怖に怯えているのか。

 どちらにしても、これで自分がどれだけ弱いか理解したでしょうな。


「我慢してくれるように約束したんだけどな……その後、俺に顔を会わせられないと思ったのか、ウィンディアちゃんはガエリオンちゃんを連れて逃げちゃったし」


 まあ……と、お義父さんは黄昏た様に遠い目をしてホテルの外を見ます。


「親の仇相手に冷静になってと頼んだ俺が悪かったのかな……ウィンディアちゃんと組ませた俺の責任だね」

「錬自身にも問題は多々あると思いますぞ」

「うん。その辺りは……注意すべきだよね。仲間を何だと思ってるんだろう。元康くんの話じゃ概要だけで良くわからなかったけど、こういう事だったんだね」


 錬は未来のお義父さん曰く、ネットゲームをソロでプレイしているぼっちだとか言っていた様な覚えがありますな。

 ですが最初の世界では助手やエクレアと問題なく戦っていた覚えがあったのですぞ。

 きっと俺が知らない何かを、錬が経験したのでしょう。


「上級者ぶってギルド作りをして行動する後輩育成プレイヤーかな? 無茶な死亡遊戯になるイベント開催して上前跳ねたり、後輩に自分の凄い所を見せて称賛の言葉を受けたいとか……」

「お義父さんは詳しいですな」

「何だかんだでネットゲーム経験はあるからね。ギルドも詳しいよ」

「サーバー三位の首脳陣でしたかな?」

「うん。元康くんなら言うまでも無く知ってるよね」

「ですぞ」

「しかし……錬も樹もその辺りは変わらないんだね。錬なら少しは違うかと思ったけど」

「得てしてゲーマーにある欲求では無いですかな?」


 俺がやるゲームは豚が勧める物ばかりなのでそんなに知りませんが、多少は理解できますぞ。

 ゲームセンターのゲームは一通りやった事があります。

 もちろん、デートでしたが。

 ちなみに得意なゲームはリズムゲームとダンスゲームとクレーンゲームです。


 何故そのジャンルなのか?

 この三つを押さえれば無難にデートを乗り越える事が出来るから、とか考えていた気がしますな。

 リズムゲームが得意な豚は多いですし、ダンスゲームもその範疇ですぞ。

 クレーンゲームはぬいぐるみを取ってやれば豚は喜びますぞ。

 後は程々にカラオケで歌えればデートをクリア出来ますな。


 今考えると本当に無駄な技術ですな。

 なんで俺が豚の顔色を窺って生きなければならないのですかな?

 ある意味では異世界に転移したのは運命だったのです。

 そう……フィーロたんと出会う、運命だったのですぞ。


 俺の言葉にお義父さんは頷きました。


「そうだね。俺も無いとは言わないし……ただ……錬も樹も極端なプレイをしているみたいだね。相手も人間だって分かってゲームをプレイしていたんだろうか」


 お義父さんの気持ちも錬達の気持ちも俺は痛いほど知っていますぞ。


「そのくらいの違いは理解していますぞ。ですが割り切れないのでしょうな」


 同じ四聖である勇者仲間を俺達はライバルと認識していた自覚がありますぞ。

 相手を出し抜いて強くなると考えていましたし、相手の仲間を心の底では下に見ていました。

 そして仲間よりも世界に詳しく、異議は決して認めようと思わなかったのです。


 ですからキールや助手、ライバルの異議に対して反発してしまったのでしょうな。

 お前等格下の連中が上級者の俺に逆らうな、と。

 ……この島で最初に会議した時にお義父さんに思っていた感情がそれでしょうな。

 可愛い女の子を独占する初心者上がりが偉そうにと……あの頃の俺は思っていました。


「錬みたいなプレイをする人は精々傭兵で雇うくらいだったかな。ほとんどのネットゲームは職業とかで役割分担されてるから一人じゃどうしようも無い場面が多いんだよね。だから、錬みたいなタイプは間違っても……難しい最上級ダンジョンには連れていけないタイプだと思う。他の人に迷惑が掛るよ」

「耳が痛いですな」

「樹の方はどうだったのかな?」

「予想通りだったみたいですぞ」

「先が思いやられるね……この後、まだメンバー交換をするのかな」


 お義父さんの溜息が深いですぞ。

 そんな時、ホテルの入り口の方で助手がそっと俺達の方を覗き見しておりました。


「お姉ちゃん、早く謝りに行くの」

「で、でも……」

「大丈夫なの、なおふみはきっと叱りはするけど、コウみたいに脅したりはしないの」


 そんな様子に気づいたお義父さんが助手を手招きしましたぞ。

 助手は申し訳なさそうに両手を結んで、俯きながらお義父さんの元へ歩いてきます。


「……」

「えっと……悪い事をした自覚はあるみたいだね」

「……」


 助手は悪いと思いながらも視線を逸らしております。

 喧嘩をした子供の様な反応ですな。


「気持ちはわからなくもないよ。錬も凄く悪かったし、みんなの命を危険に晒した事に代わりは無い。だけど、それを暴力で片付けるのは……今回の催しに反するでしょ? 一応は勇者同士の友好の為なんだしね」

「私は……悪くない」

「違うよ。みんなが悪かったんだよ。君と錬の因縁を重く見ていたつもりで実は軽く見ていた俺も悪いし、錬の行動や返答も悪かった。そしてウィンディアちゃんも悪かった」

「でも――」

「悪い事をしたと思っているからウィンディアちゃんは俺にこうして会いに来たんでしょ? じゃなきゃ誇らしげに俺に報告に来ると思う」

「……」


 助手が今まで見たこと無い様な落ち込んだ表情をしております。


「叱りはしないけど、反省はしよう? じゃなきゃこの先、錬と出会う度に争いになっていたら使命を果たせないでしょ」

「そうなの! 今回のできっとお父さんも剣の勇者の事を許してくれると思うの。ガエリオンが保証するの」

「ガエリオンちゃんは……」


 という所でお義父さんは言葉を選ぶように目を泳がせますぞ。

 先ほどの台詞は間違いなくライバルの中にいる助手の親ですな。


「とにかく、もうこんな真似はやめてね。俺も錬に言っておくから次はもうしない様に」

「……うん。ごめんなさい」

「うん、失敗を次に生かそうとするなら良いよ。俺もごめんね。俺がウィンディアちゃんをもう少し理解してあげられればこうはならなかっただろうしね」

「盾の勇者は何も悪くない!」


 お義父さんが謝罪すると助手は大きな声でそう言いました。

 そうですな。お義父さんは何も悪くないですぞ。

 今回は概ね錬が悪いと俺は思っています。


「そ、そう? まあ、悪い事ばかりじゃないんだ。何だかんだでウィンディアちゃんに手も足も出なかったって事で錬も強さを実感してくれると思うし、悪い結果だけじゃないから気にし過ぎない様にがんばるんだよ」

「はい……」

「ね? ちゃんと反省すればなおふみは怒らなかったの! ガエリオンはなおふみを信じてたの」

「ガエリオンちゃんは……もう少しウィンディアちゃんのブレーキになる様にがんばってね」

「なおふみにお願いされたの! ガエリオンがんばるの!」


 ライバルは鼻息を強く出して助手にじゃれておりましたぞ。


「とはいえ、先が思いやられるね……錬と樹をどう説得するか……」

「先行き不安ですな」

「まったくだよ」


 と、お義父さんが疲れ切ったような顔でとぼとぼと部屋に向かって歩き始めたのですぞ。

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