剣と助手
その後は樹が言い訳を続ける限りユキちゃん達は周りで尋ね続けていたそうですぞ。
やがて樹は座り込んで耳を塞いで俯き続けたとの話。
一応、出現する魔物達を殲滅して、樹のLvは80にまで上げることが出来たそうですぞ。
「「「ねえねえねえ」」」
と、ユキちゃん達は樹への質問を再開しました。
俺も混ざりますかな?
樹の仲間達は苛立ちを見せていますが俺がいる手前強く出られずに居る様ですぞ。
「あ、元康くん」
そこにお義父さんがやってきました。
「「「ねえねえねえ」」」
「な、何をやってるの?」
言葉に詰まったようにお義父さんは樹を囲むユキちゃん達に声を掛けますぞ。
「樹が言い訳を繰り返すのでユキちゃん達が質問攻めをしているだけですぞ」
「いじめをしているようにしか見えないよ。やめさせた方が良いんじゃない?」
「な、尚文さん! どうか助けてください!」
救いの使者が現れたと言うかのように樹がお義父さんに縋りつきますぞ。
おお、やっと樹もお義父さんの偉大さを理解した様ですな。
「とりあえず……元康くんはユキちゃん達を説得して樹から引き離して」
「わかりましたぞ。ではユキちゃん達、樹に質問するのは程々にして明日に備えて休むのですぞ」
「わかりましたわ」
「ハーイ!」
ユキちゃんとコウが元気よく頷いて樹から離れましたぞ。
「イワ、キールくんは? もふもふが足りない」
「キールくんは部屋で休んでるよ」
「わかった」
ルナちゃんがスタスタと足早にキールの元へと歩いて行きますぞ。
なんとも微笑ましい後姿ですな。
「ありがとうございます。地獄に仏とはこの事ですね」
「何が何やら……」
それから俺はお義父さんに経緯を説明しましたぞ。
「まあ、樹は秘匿癖と言うか……ヒーロー願望が強いみたいだから隠そうとすると返って目立ったんだろうね」
「隠してなんかいません。なのに僕をずっと犯罪者のように囲って質問攻めにしたんです。逃げようとしたら捕まえてくるし」
「ユキちゃん達の指摘は尤もだと思うよ? 樹だって戦闘で手を抜く人に背中なんて預けたくないでしょ?」
「う……手なんて抜いていません」
「あの子達は人間じゃないんだ。いろんな所が敏感だし些細な事で嘘を見抜く事も出来る。手を抜いていると思われたなら素直に実力を見たかったとか言えば良かったんじゃない? まあ、元々手抜きをしていたら通じないけどさ」
お義父さんの指摘に樹はキッとお義父さんを睨みつけます。
「何? また感情に流されて問題を起こす気? 無茶は通らないよ?」
さすがのお義父さんもムッとしております。
話の筋がありませんからな。お義父さんの指摘に激怒しても仲間しか同意しないでしょう。
その仲間も俺が睨んでいると動けないようですが。
「とりあえず樹と元康くんのメンバー交換は終了だね。樹達は元康くん達の強さを実感したんじゃない」
「……ふん」
お義父さんの言葉に樹は不愉快そうに無言で立ち去って行きます。
その後を樹の仲間達がついて行きましたぞ。
「これで多少は理解してくれると良いんだけどね」
「無理では無いですかな?」
正直、樹とその仲間達は手に負えませんぞ。
未来ではカーススキルの影響で我が出せない時に考えさせた様ですからな。
感情で動くのが樹ですぞ。
俺も人の事は言える筋合いは無いでしょうが、樹ほど自信を持っている勇者はいないのではないですかな?
正義感は人一倍ありすぎて、誰かを助ける事に渇望しているとも言えますな。
ヒーロー願望がとても強いのが樹ですぞ。
弱者が実は悪であるかもしれないなど、微塵も思わないのでしょう。
まあ、俺も信じる相手が実は黒幕だったなどと思いもしなかったのですがな。
その所為でお義父さんとはずいぶん長い間、亀裂が出来てしまいましたぞ。
「とは言っても……結局、この先を生き残って世界を救うには樹の協力は不可欠だし、余計な真似をされて死なれたら元康くんが苦労する結果になるんだよ? 俺だって……これまでの苦労が知らずに水の泡になるんだし」
「そうですな」
避けては通れない問題ですぞ。
次に起こる事件は霊亀ですからな。この問題を未然に防いだ場合、樹達はどのような行動に出るのでしょう。
出来れば争っている暇は無い事を自覚して貰いたいのですが、樹の様子を見る限り問題は山積みでしょうな。
「とりあえずは錬や樹達と連携をとれるように話し合いをして行かないとね」
「ですな。ところでお義父さんの方はどうでしたかな?」
俺の質問にお義父さんは何度か目を泳がしましたぞ。
「あー……うん。俺の方は特に大きな問題は無かったんだけどね。錬の仲間達って特に問題行動も無いし協調性もあるからさ」
「じゃあどうして困った様な言い方をするのですかな?」
「えっと……元康くんと樹の方には連絡が行かなかったみたいだけど、錬の方で問題が起こったみたいなんだよね。だから今日の朝にはもう狩りは中断してここにいるんだ」
「ほう……何があったのですかな? そういえば錬は何処ですかな?」
「うん。ちょっと色々あってね」
「一大事ですかな?」
「まあね……問題と言えば問題なのかな。サクラちゃんやキールくんから聞いたんだけど、実はウィンディアちゃんがね――」
お義父さんが錬とお義父さんの仲間達の出来事を教えてくださいました。
「入るぞ」
「開いてるぜ」
お義父さんの仲間の代表としてキールが錬の相手として出たそうですぞ。
前にも何度か会った事はあるので、キールやサクラちゃんは特に問題は無く迎え入れることが出来たそうですな。
「まずは自己紹介からだったな。剣の勇者である天木錬だ。これから二日、よろしく頼む」
「前にも話をしたな。剣の兄ちゃん」
「……そうだな。尚文の仲間の亜人だったか」
「そうだぜ。俺の名前はキールってんだ。で、こっちのはサクラちゃんにウィンディアちゃん。そしてガエリオンちゃんだ」
「よろしくー」
「……」
「……よろしくなの」
助手とライバルは不快そうに錬を見てから挨拶をしたそうですぞ。
錬はお義父さんの仲間達をジロッと舐めるような目で見たらしいですな。
「尚文の仲間だからか、人間はいないんだな」
「それがどうしたんだ?」
「別に」
「人間じゃないとダメなのかしら? 何処にそんなルールがあるのかしらね」
助手が嘲るように言ったそうですぞ。
錬はムッとした表情で助手を見ましたがすぐにキールの方を向いたそうですぞ。
「別に兄ちゃんの仲間には人間はいない訳じゃないけど、戦闘担当は俺達だからこうして剣の兄ちゃんと一緒に戦うって決めたんだぞ。ちなみに人間はエレナ姉ちゃんとメルティちゃんだな」
「そうか。で、お前等のLvは?」
錬は作業的にキール達のLvを尋ねたそうですぞ。
「あ? もう行くのか?」
「何Lvなんだ?」
「俺がLv65で、サクラちゃんが67、ウィンディアちゃんが63でガエリオンちゃんは64だぞ。兄ちゃんに資質を――」
「尚文達、思ったりよりも戦っていたみたいだな。本当にそのLvならな」
錬はキールの話を途中で遮って告げたそうですな。
ちなみにお義父さんが狩りが無駄にならない様にと別れる前に少しだけ資質向上でLvダウンさせたのだそうですぞ。
なので実際のLvはユキちゃん達と同じ位には高いはずですぞ。
俺もユキちゃん達にしておけばよかったですな。
「むしろアンタの方が低いんじゃないの?」
助手が嫌味を言いながら不敵に笑いますぞ。
「ふん、勇者とこの世界の奴の根本的な強さの差を知らないみたいだな」
「そう思うのは勝手よね」
「お姉ちゃんは少し黙ってる方が良いの」
ライバルが助手に注意して口に手を当てたそうですぞ。
む、この竜は空気を読む事も出来るのですか。
「しかし……喋るドラゴンか」
「ガエリオンなの」
錬は何度かライバルを見た後、興味が無くなったかのように部屋から出ますぞ。
「じゃあ狩りに行くぞ。必要なら薬などは買って行け」
「なおふみからもらっていて準備万端なの!」
俺もお義父さんからもらってますぞ。
というか、お義父さんが薬などの必需品を切らした事など一度もありません。
これは最初の世界を含む、全ての世界で共通ですな。
「そうか」
そんな訳で錬に連れられて港から別の島に移動したそうですぞ。
「あれ? 剣の兄ちゃんのLvは?」
キールが錬に向かって言ったそうですが、海を眺めていた錬の耳には届かなかったみたいですな。