SCP-875-JP消失後に回収された糸。この形状から変化する事はない。
アイテム番号: SCP-875-JP
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル: SCP-875-JPに対する封じ込めは成功していません。各国の民間旅客機運行業者に対し協力を要請し、該当するオブジェクトが出現した場合、その際に旅客機内に存在していた乗務員・乗客に対しては記憶処理が行われます。
説明: SCP-875-JPは就航中の民間旅客機内部にて出現する人型実体です。民間旅客機内の監視カメラの記録等より、当該実体は上半身が出現毎に違う男性のものとなっている他、共通事項として黒のスーツ、並びにスラックスを着用し、腰部右から銀時計を吊り下げている事が判明しています。
SCP-875-JPは出現後、ランダムな女性乗客1人(以下対象)の前方へ移動を行った後、跪くように振る舞い右手を差し伸べます(以下動作1)。この際、対象は「自分はSCP-875-JPにダンスに誘われた」と認識を行います。対象がその誘導に応じる等して動作1が成功した場合、SCP-875-JPはその女性乗客と競技ダンスを踊るかのように振る舞います(以下動作2)。また、動作1が対象が断る等して失敗した場合、当該オブジェクトは別の女性乗客の前方へと移動を行い、再び動作1が成功する、或いは旅客機が降下体勢に入る10分前程度まで動作1を行います。動作1が成功することなく、時刻が旅客機が降下体勢に入る10分前程度になった際、SCP-875-JPは消失します。
SCP-875-JPの行動が動作2へと移行した場合、機内の音響設備から機内の音源が存在しないに関わらず、対象とSCP-875-JPの舞踏に対応したBGMが流れ始めます。なお、その際に流れるBGMに規則性は見られません。そして舞踏が開始されると共に、BGMの進行に合わせ当該オブジェクトの上半身、並びに着用物が赤い糸になってほつれ始めます。この現象はSCP-875-JPと対象が一曲分の舞踏が終了するまで継続し、最終的に当該オブジェクトは下半身のみとなります。しかし、対象や周りの乗客は後のインタビューより、SCP-875-JPに発生している外見の異常も含め、その後の動作や振る舞いに違和感を覚えなくなる事が判明しています。これはSCP-875-JPと対象の舞踏、並びにSCP-875-JPそのものが何らかの認識改変能力を有している為であると推測されています。
また、動作2の最中、対象はダンス経験の有無に関わらず、SCP-875-JPの動作に完全に対応します。上記によってSCP-875-JPの上半身が消失する事によって生じる物理法則を無視した動作もこの対応の中に含まれます。舞踏の終了後、SCP-875-JPは消失しますが、乗客は対象に歓声を挙げる、拍手を行う等してSCP-875-JPと対象へ称賛を贈る様子が多く確認されています。
次に挙げるのはSCP-875-JPの発生例です。
SCP-875-JP-A | SCP-875-JPの初めての発生例。対象と当該オブジェクトはタンゴを踊る。楽曲はアストル・ピアソラによる「Libertango」。 |
SCP-875-JP-B | 対象と当該オブジェクトはクイックステップを踊る。楽曲はParty of Fiveによる「The Boogie Bumper」。 |
SCP-875-JP-C | SCP-905-JPと発生時に同時に出現。SCP-875-JPはSCP-905-JP-1実体に対して動作1と動作2を行う。該当ダンス項目無し。楽曲はクイーンによる「地獄へ道づれ」。 |
SCP-875-JP-D | SCP-1818実験時に出現。SCP-1818-B個体に対して動作1を行うが、対象に無視される事により失敗。その後、旅客機に乗り合わせた財団職員に対して動作1を行うが、全て拒否される。旅客機が降下体勢に入る16分前にSCP-875-JPは消失。 |
SCP-875-JP-E | SCP-875-JPが女性乗客に動作1を行っている最中に、乗客1名が立ち上がる。SCP-875-JPは動作1を中断し、立ち上がった当該乗客と動作1を行う事なく動作2へ移行する。対象と当該オブジェクトはスローワルツを踊る。楽曲はホイットニー・ヒューストンによる「I Will Always Love You」。 |
以下はSCP-875-JPが通常とは違う行動を示したSCP-875-JP-Eにおいて対象となった女性乗客に行われたインタビューです。
対象: 女性乗客(以下SCP-875-JP-1と記述)
インタビュアー: ポーシャ研究員
<録音開始>ポーシャ研究員: なぜ、あなたはSCP-875-JPが出現した際に席を立ったのですか?
SCP-875-JP-1: SCP……ええと。あの人の事でいいのよね。
ポーシャ研究員: あの人?
SCP-875-JP-1: ええ。あのスウェットに入ってた赤い丸の刺繍と、それにラブリュスの絵柄の銀時計は私がプレゼントした物だもの。ジャッキーに間違いないわ。
ポーシャ研究員: 服装から、SCP-875-JPがあなたのお知り合いの人物であると判断したのですね。
SCP-875-JP-1: そうよ。もう何十年も前になるかしら。私は競技ダンスをやっていて、ジャッキーは私のパートナーだった。
ポーシャ研究員: それがなぜ、あのような場所に?
SCP-875-JP-1: 不思議な話よね。ジャッキーはそれこそ、何十年も前に飛行機事故で亡くなったはずなのに。ああして、色んな人をダンスに誘っているだなんて信じられないわ。
ポーシャ研究員: 理由は貴方にも分からない、と。
SCP-875-JP-1: そうね。未練のような物があったんじゃないかしら。あの人が事故に遭った一週間後くらいに、競技ダンスの大会があったのよ。そこで私もパートナーとして踊るから、後で追いかけるはずだったのだけど。
ポーシャ研究員: だからあのような格好をしていたのですね。
SCP-875-JP-1: 踊っているとついつい熱くなって本性が出てきちゃう所まで、間違いなくジャッキーだった。見た目は変わってても、私には分かったわ。
ポーシャ研究員: なるほど。ありがとうございます。それなら、貴方と踊れた事でSCP-875-JPも満足した事でしょう。
SCP-875-JP-1: あら。私はそうは思ってないわよ。
ポーシャ研究員: 何故そう思うのですか?
SCP-875-JP-1: だって [5秒間の沈黙] いつも思っていたけど。彼女、浮気性だったから。
<録音終了>
終了報告書: SCP-875-JP-1は記憶処理の後に解放されました。後に対象の証言を元に飛行機事故の記録の精査を行い、SCP-875-JPは1954年に発生した事故により死亡した女性である、ジャッキー・ジョーンズ氏と何らかの関係があると見て調査が進められています。