挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
盾の勇者の成り上がり 作者:アネコユサギ

外伝 槍の勇者のやり直し

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました
543/918

二本目

「雰囲気的には……幽霊船とか出てきそうだね」

「そうですな」


 生憎と幽霊船は……遭った事があるような無い様な気がしますぞ。

 どうでしたかな?


「なんか遠くからグアグアって聞こえない? あ、そうだ」


 お義父さんは船底で寝入っていたライバルと助手を呼び寄せますぞ。


「ガエリオンちゃん、何か無いか空を飛んで調べられない?」

「……既に嫌な気配で一杯なの」

「え?」

「ガエリオンちゃん何かしってんのかー?」


 キールがライバルに尋ねるとライバルは頷きますぞ。

 俺もこの雰囲気が何に似ているか……わかってきましたぞ。


「これは……大きなフィロリアル様の出てくる気配ですな」


 遠くでグアグアと聞こえるこの気配、懐かしいですぞ。

 そういえば全然、出会えませんでしたからな。


「な、なんか不気味ね。何が起こるのかしら?」


 サクラちゃんが婚約者を連れて甲板にやってきましたぞ。

 ライバルはお義父さんの耳元で何やら囁いております。

 目付きが普段のライバルではありませんな。

 おそらく助手の親をしていた方ですぞ。


「え? フィロリアルの女王が来る!?」


 お義父さんが答えるとほぼ同時でしたぞ。

 海が光り輝き、まるで天の川が落ちてきたかのような一筋の光の流れが船の下を通って道が出来ます。

 その光の川に乗っかってフィロリアル様達が水鳥の様に泳いで来ますぞ。


「おお……ここは天国ですぞ」

「な、何が起こってるの!?」

「ええ……何よこれ!」

「長く傭兵をやってるけど……もしかしてこれは伝承に聞くフィロリアルの女王の話かね?」

「カッコいい姉ちゃん詳しいな! 傭兵ってのに俺もなりてーぞ」

「いい加減あたいの事をカッコいい姉ちゃんと呼ぶのやめな」

「じゃあ一緒にいるみんなみたいに姐御って呼べばいいのか? 姉ちゃん」

「それもそれで、アンタに言われると違和感あるねぇ」

「何、呑気に話してるの……」


 お義父さんがキールとパンダ獣人の会話に呆れた様に呟きますぞ。


「そうなの! 忌わしい女王がやってくるの!」


 ライバルが不快そうに答えましたぞ。

 忌まわしいとは失礼な。

 それはお前にこそ相応しい言葉ですぞ。


「んー?」

「わかりましたわ」

「えー?」

「ピヨ?」

「サクラちゃん達もわかったの?」

「うん。今から女王が来るから勇者が育てたフィロリアル達は待ってて、って言ってるよ」

「そ、そうなんだ? 元康くん。何が起こるか知ってる?」


 ああ、大きなフィロリアル様にまた会えるのですな。

 心が躍りますな。


「おっきな……フィロリアル様が来るのですぞ」

「元康くん?」

「大きな、フィロリアル様……フィーロたんに匹敵する素晴らしい……フィロリアル様」

「ダメだ……元康くんがお花畑になってる。とにかく、何が出るかわからないから戦闘準備をして!」


 お義父さんの掛け声で全員、臨戦態勢に入りますぞ。

 光の奔流を大きなフィロリアル様が水の上だと言うのにそれを感じさせない歩調で歩いて――。



「元康くんしっかりして!」


 気が付くと俺は目隠しされております。

 以前の世界でも同じ経験をしましたな。

 今度は何故か俺が海の中にいますぞ。


「よし! ガエリオンちゃん、急いで俺を掴んで船に」

「わかったの。しかし……見てて面白かったの!」

「そういう事言わない!」

「わかったの」


 何やらふわふわと浮いている様な気がしますな。


「クエ! クエクエ!」

「ぬおおおおお! 大きなフィロリアル様の声ですぞ!」

「クエエエエエ!」


 おや? 大きなフィロリアル様の声が遠くなって行きましたぞ。


「何が起こったのですかな? そして何故お義父さんが俺に目隠しを?」

「元康くんが巨大なフィロリアルである……フィトリア? さんに理性を失って向かって飛びかかったんじゃないか。フィロリアル達はパニックになるし……大変だったんだよ」


 甲板に戻った俺はずっと目隠しされています。


「それで? 貴方は何をしに?」


 と、お義父さんは大きなフィロリアル様と話をしている様でしたぞ。

 この後は……俺も耳でしか聞こえませんでしたが、やはり前回と同じようにサクラちゃん達を試しに来たらしいですな。


「わぁ……伝説のフィロリアル……」


 婚約者が何やら羨望の声を出していますぞ。


「婚約者! お前にはフィーロたんがいるのですぞ! お義父さんは元より、サクラちゃん。更には大きなフィロリアル様にまで手を出すのですかな!? このビッチめ!」

「うるさい! そんなんじゃないわ!」

「元康くん、少し黙っていようね」

「飛びついた槍の兄ちゃんが言っても説得力無いぜ……」


 お義父さんに黙る様に言われてしまいましたぞ。

 やむなく俺は黙って事の成り行きを待つしかありませんでした。

 ほとんど前の世界と差はありませんでしたな。

 やがてお義父さんが俺の拘束を解いてくれた頃には既に何事も無くなっていましたぞ。

 サクラちゃんやユキちゃん達が甲板でぐったりとしておりました。


「アレが伝説のフィロリアルかー……凄く大きかったね。しかも強化したサクラちゃん達でも歯が立たないとか……」

「でもサクラちゃん達が思ったよりも強くて苦戦したって言ってたみたい」

「そっか……」


 サクラちゃんを初め、ユキちゃんやコウ、ルナちゃんにそれぞれ冠羽が付いております。

 能力も相当上昇した様ですな。


「アレだよね。確か特別なクラスアップに必要なアイテムって奴、勇者用にって俺達にもくれたよ」


 お義父さんが二枚、俺に大きなフィロリアル様の羽を見せてくださいます。


「錬や樹達の分は? って聞いたんだけど、今この場に出て来れない勇者には後日与えるってさ」

「錬や樹は馬鹿ですな。こんな大事なイベントを逃すとは」

「そうだねー……」


 ま、樹を眠らせたのは俺ですがな。

 お義父さんが俺に羽をくださいました。

 これは無くすわけにはいきませんぞ。


 前回と同じく槍の先に飾り羽としてつけますぞ。

 おや? 付けた瞬間、飾り羽が二つになりましたな。


「うわ、フィロリアルシリーズがコンプリート……って元康くんはなんで武器に入れないの?」

「宝物ですぞ」

「ああ、そう……なんか羽が増えてるし……そういう変化もするんだね」

「ははは! 一生の宝ものですぞ!」

「とりあえず、これでみんなの戦力アップかな?」


 疲れ切ったサクラちゃん達を見つめてお義父さんは呟きましたぞ。


「サクラ強くなった?」

「ステータス的にはね」

「そっかー!」

「そうですぞ! みんなの能力を上げてくれるのなら100個のフィロリアル様を育ててから逢いたかったですな」

「……フィトリアさんの頭の羽が無くなっちゃいそうだね」

「それは見物なの!」

「ガエリオンちゃん……」


 お義父さんがライバルに呆れた様な声を出しておりますぞ。

 で、婚約者は夢を見る様な表情で両手を合わせてうっとりしていましたな。

 助手は……なんとも微妙な表情ですぞ。

 楽しい様な不快な様な、変な顔ですな。


「人知の及ばない戦いだねぇ」

「姐御! 賭けになりやせんでしたね!」


 パンダ獣人の部下はどうやらどちらが勝つかで賭けをしていた様ですぞ。

 フィロリアル様の神聖な勝負に金銭を掛けるとは、見下げた連中ですぞ!


「まあ……今夜の不思議な体験はここまでにして……船員も起きたみたいだから俺達は船室に戻って明日に備えようね」


 と、お義父さんは各自解散を指示しましたぞ。

 ああ、大きなフィロリアル様。また何処かで逢える事を信じていますぞ。

 と、大きなフィロリアル様の来た方角に強い視線を送りました。

 直後遠くで水しぶきがした様な気がしたのは……気のせいですかな?

+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。