岩礁の鳥
「行先は海だし、二人とも水着は必要だね」
「ふんどし!」
「貝!」
「どうしてそのチョイス?」
キールとパンダ獣人が揃って水着の立候補を上げているようです。
おや? キールの方は見覚えがありますな。
ふんどし姿で村を歩いていた気がしますぞ。
「ラーサさんは……亜人の時はイメージ的に貝と言うより細いビキニとかじゃない?」
「貝は割っても食えるし水着としても優秀だ!」
「際どいのが似合うと思うよ。もっと魅力的にさ……あ、パンダ、じゃなくて獣人の時はレオタードとか着てみる?」
「似合いそう」
ライバルに乗った助手がそこで何故か飛び付きましたぞ。
「フィロリアルの頭を模したのを付けて、腰辺りに羽を付けるのはどうですかな?」
「ぶ!?」
お義父さんが吹き出しましたぞ。
ここは笑う場面ではありませんが?
「出来そこないの白鳥の湖みたいになりそうだね」
「あたいを笑いものにする気か!?」
「ガエリオンは水着を着るの?」
「うーん、ガエリオンちゃんに水着って必要なのかな?」
「なのー?」
ライバルがお義父さんに尋ねますぞ。
そういえば……フィーロたんの水着姿を思い出しますぞ。
あの幻想的であり神々しいフィーロたんの水着姿を思い浮かべると心も晴れやかですぞ。
「サクラは?」
「サクラちゃんは人型時には必要でしょ。じゃないと犯罪だしね」
「そっかーじゃあユキやコウも?」
「人型時に全裸で泳がれると困るね。メルティちゃん、サクラちゃんに似合いそうな水着とかあったら選んであげてね」
「うん!」
「……間違ってもメルティちゃんは際どい水着を着ちゃダメだよ」
「……!?」
何やら図星を突かれた様に婚約者は顔を赤くして俯いておりましたぞ。
未来ではここで怒っている様な気がしますが、本当にどうしたのですかな?
などと思いながら俺達はカルミラ島へ行く船のある港に辿り着きましたぞ。
既に錬や樹は船に乗る列に待機しておりました。
俺達が到着するとほぼ同時に船への入場が始まったご様子ですぞ。
それから俺達はそれぞれ案内された船室へと行き、出港まで寛いでおりましたぞ。
「風が結構あるね」
「波の影響ですな。俺がカルミラ島へ行った時も嵐になりましたぞ。船が凄く揺れたのを覚えております」
「じゃあ、この船も?」
「どうですかな? あの時とは日付が違いますからな」
若干日数にずれがありますぞ。
出発してしばらく経っていますが、サクラちゃんやキール、他のフィロリアル様達がフィロリアルクイーン形態で海で泳いで遊んでおります。
時々フィロリアル様達目掛けて魔物が襲ってきますが、軽く往なしてしまいますな。
お義父さんと俺が魔物を手早く解体しますぞ。
「元康様!」
ザバッとユキちゃんがサメ型の魔物であるブルーシャークを俺に蹴り寄越しますので、船に落下する前に槍で振るって三枚におろして見せます。
「凄いのは認めるけど、凄く食欲が湧かない」
「アンタらも中々の芸をしやがるなー……あたいは海上戦はあんまり得意じゃなくてね」
そこにパンダ獣人が船の手すりに肘を当てて頬杖をついてますぞ。
「そういえばラーサさんは竹を呼び出す魔法を使ってたよね。結構珍しい魔法なんじゃないの?」
「属性で言えば土系統。ここじゃあ精々、船に竹を生やすくらいしか出来ないねぇ」
「転覆とかしちゃいそうだね」
「そこなんだよね。ま、船を潰すには良いんだけどね。足止めにもなるし」
「俺も似たようなスキルがありますぞ」
「どんな?」
「地面から槍を出すスキルですぞ。城戦で相手の突撃を妨害する杭とかをイメージしてくださると良いですな」
進路妨害の設置スキルですぞ。
あんまり用途が無いので滅多に使いませんがな。
「へー……使わない所を見るに元康くん自体が高火力だから使ってる暇があったら攻撃してるって感じ?」
「ですぞ」
そういう意味では役に立たないスキルですな。
まあ、波での防衛線で相手があまりにも強い時に使うと効果的でしょうな。
足止めになりますぞ。
難点は相手が飛んでいたら元も子も無いですな。
飛んでいると言えばライバルですぞ。
助手を乗せて船の上空を飛んでいますな。
おや? こっちに降りてきましたぞ。
「風が生臭いの」
「近くに岩礁があって、なんかフィロリアルっぽいのがいた」
「へー……野生のフィロリアルかな?」
「ほんと何処にでもいるの。うっとおしいの」
「聞き捨てなりませんな。フィロリアル様は何処にでも生活できる素晴らしい生き物なのですぞ」
「でも飛べないの」
「表へ出ろ! ですぞ」
なんて調子で話をしていたのですぞ。
ああ、錬と樹は先ほど顔を出していましたな。
完全に船酔いで割とすぐに船室に戻って行きました。
俺も過去に船酔いをしましたが、今はもう大丈夫ですぞ。
フィロリアル様の運転する馬車に乗っていれば不思議と乗り物酔いは克服できますぞ。
これもフィロリアル様の奇跡ですな。
そんな感じで船は進んで行きました……のですが、真夜中の事ですぞ。
「元康くん!」
ドンドンとお義父さんが俺が寝ている船室の扉を叩きました。
俺はフィロリアル様の卵の匂いを嗅いで至福の眠りをしていたと言うのに……。
「どうしたのですかな? また婚約者が痴女になったのですかな?」
「いや、そっちじゃなくてね。船の様子が変なんだ! なんか船員を含めてみんな寝入っていて動かない」
「なんですと?」
俺はお義父さんの案内のまま船の中を探しましたぞ。
確かに……船員が廊下に仰向けに倒れて寝ております。
「なんだってんだい?」
パンダ獣人が異常事態に首を傾げながら船員の頬を叩いております。
「……まったく起きないねぇ。これは高度な睡眠魔法か何かか?」
「一体何が起こっているのかしら?」
婚約者も異常事態に、サクラちゃんに擦り寄って尋ねますぞ。
おかしいですな。
最初の世界でも船に乗りましたが、この様な事件起こっておりませんぞ。
「とりあえず私は船長室の方へ行ってみるわ」
「お願い出来る?」
「うん。じゃあ行こう、サクラちゃん」
「はーい。じゃあメルちゃんはサクラの後ろについて来てね」
ユキちゃんやコウも変わった事態に警戒を強めておりますな。
ああ、キールとルナちゃんは爆睡していたのをお義父さんが揺すると起きたそうですぞ。
「何が起こっているんだ?」
それから俺とお義父さんはそれぞれ錬と樹の寝ている船室へと行きました。
ドンドンと部屋の扉を叩くと呻くような声が聞こえますぞ。
「うう……な、なんです……うぷ!」
船室の扉を樹が這ってどうにか開けましたぞ。
既に戦闘不能ではありませんか。
「うう……」
下手に事情を説明しても船から転げ落ちて死んでしまったら大変ですな。
部屋で寝ていてもらいましょう。
「樹、今楽にしてやりますぞ! スリープランス!」
「う――」
船酔いで苦しむ樹にトドメを刺して船室のベッドに縛り付けてやりました。
苦悶に満ちた表情で眠っております。
「お義父さん、樹は船酔いで使い物になりそうも無いですぞ」
「こっちも似たような感じだよ。特に錬は絶対に出ないって部屋から出ようともしないよ」
では事態を伝えるのは後回しにすべきですかな?
「そういえば錬はカナヅチなのですぞ」
「え……そうなの!?」
「そうですぞ」
「アレだけカッコつけたがりでカナヅチって……笑えるけど状況的に笑えないでしょ。ここは船の中なんだよ?」
「ですな。で、錬や樹の仲間達はどうなのですかな?」
俺が樹のいる船室に再確認しに行くと全員似たようなものでしたぞ。
役に立ちませんな。
寝ていなくても戦闘不能ばかりではありませんかな?
「とりあえず、外の様子を確認しよう」
「わかりました」
甲板へと出ると霧が立ち込めておりました。