音声記録975-JP-1 - 日付200█年██月█日 09:23:19
付記: SCP-975-JP-1に対し本郷博士から事前にSCP-975-JPを用いて、「君が裁判で呼ばれているから来て欲しい」との依頼を行っています。
<再生開始>
[SCP-975-JP-1が裁判所の天井を突き破って法廷に着地する音]
SCP-975-JP-1: 待たせたな本郷君、私を呼んでいる裁判というのはここかい?!
本郷博士: そうですね。
SCP-975-JP-1: それで? 敵はどこだい? あのいけすかない裁判官か? それともまさか、この裁判所は既に敵の手に落ちていて……
本郷博士: 落ち着いてください。……一つ確認したいのですが、貴方が出動した時、ビルが倒壊した事により児童が一名亡くなりました。その事についてどう思っていますか?
SCP-975-JP-1: ……あー、死んでしまったのか。助けようとも思ったのだが、ヒーローとしては逃げた悪人を追いかけて正解であったと思っている。そうでもしないと、新たな被害者が出てしまうかもしれないからね。必要な犠牲さ。何、子どもならまた産めばいいだろう。
本郷博士: ……そうですね。では、お願いします。
裁判官: それではただ今より、口頭弁論を開始いたします。
SCP-975-JP-1: ……む?
裁判官: 原告の方、訴状のとおり陳述しますか?
児童の母親: ……陳述します。
SCP-975-JP-1: ……んん、本郷君、この女が今回の敵かい?
本郷博士: ええ、そうですね。貴方にとっての敵となるでしょう。
SCP-975-JP-1: そうか。了承した。
裁判官: 原告は訴状陳述。では被告人、SCP-975-JP-1は答弁書の内容を認めますか?
SCP-975-JP-1: ……答弁書? 何の事だ?
本郷博士: 答弁書はこの場所で戦うにあたり、私が作成して既に提出しておきました。貴方の正義の味方っぷりを、強調して作り上げました。完璧ですよ。
SCP-975-JP-1: そういう事なら悪くない……全面的に認める。
裁判官: わかりました。両方陳述という事で、短時間の休憩の後、証人による答弁を行います。
SCP-975-JP-1: なんだもう終わりか?
本郷博士: ええ、申し訳ありませんが、最後まで付き合っていただけますか?
SCP-975-JP-1: ……もちろんさ! ヒーローは最後まで仕事はする!
本郷博士: ありがとうございます。
<再生終了>
音声記録975-JP-2 - 日付200█年██月█日 09:50:39
付記: 裁判の数日前、SCP-975-JP-1の最初の出現例において、「ヒーロー代行サービス」に依頼を行ったと思われる、口紅を窃盗された店主を拘束しました。そのため、当該人物に協力を要請し、SCP-975-JP-1から情報を聞き出すように指示してあります。
<再生開始>
店主: お、おはよう。ヒーロー。休憩中に失礼するよ。
SCP-975-JP-1: おお! 貴方は私が救った店主! 私が救ったのだから、もちろん、店の経営はうまくいっているだろう?
店主: まぁね……それよりも、ヒーローに色々聞きたい事があって。
SCP-975-JP-1: ああ。私はヒーローだからな。やましい事など何もない。何でも答えよう。
店主: じゃあ質問なんだけど……ヒーローにも苦手な物ってあるのかい?
SCP-975-JP-1: ないな。
店主: そ、そうか……ところでそのスーツとかはどこで手に入れたの?
SCP-975-JP-1: これか? これは"学園"の特注品でな。私だけのスペシャルコスチュームだ。
店主: ヒーローにも学校があるんだね。
SCP-975-JP-1: ああ! ヒーローとしての掟を教え込まれたよ。
店主: 掟って?
SCP-975-JP-1: 必要以上の犠牲は出さない事。力をふるうのは悪人のみ。そして誰からも求められる事。この三つを守らなければ私はヒーローとしては活動できなくなってしまうな。
店主: そうか……教えてくれてありがとう。これ、少ないけどこの前のお礼も兼ねて。店の商品で申し訳ないけど、戦いの前だ。よかったら食べてくれ。
SCP-975-JP-1: 心遣い感謝する。今回も私は負けない!
<再生終了>
終了報告: SCP-975-JP-1の無力化にあたって、重要な証言を得る事ができました。以後の裁判はこの証言を元にSCP-975-JP-1の収容に向けて進められます。また、別件として"学園"なる組織についての調査も行われます。
音声記録975-JP-3 - 日付200█年██月█日 10:30:58
<再生開始>
裁判官: では、再び開廷いたします。
SCP-975-JP-1: 随分長い休憩だったな。悪の裁判官……ジャッジ・バスターよ!
裁判官: 証人、前へ。
店主: は、はい。
SCP-975-JP-1: 店主……ジャッジ・バスター貴様! 洗脳したのか、何の罪もない彼を!
原告弁護士: 店主。貴方は窃盗された口紅の奪還をSCP-975-JP-1へ依頼した。そうですね?
店主: ええ。……しかしまさか、あのような事になるとは……。
原告弁護士: あのような事、とは?
店主: あんな……とてもヒーローとは呼べないような方法で、口紅を奪うとは思っていなかったんです。
SCP-975-JP-1: ……何?
店主: 私の知っているヒーローなら、彼女を説得して、誰も傷つかないような方法で口紅を戻してもらえると、彼女に謝罪を行ってもらえると思っていたんです。
SCP-975-JP-1: そんな生ぬるい正義では彼女に心から謝罪を行わせる事はできない! 正義とは鉄槌であり、振り翳されて初めて効力を持つのだ!
店主: いいえ、いいえ。貴方も言っていたじゃないですか。ヒーローとは、必要以上の犠牲は出さない事、力をふるうのは悪人のみ、そして誰からも求められる事と。貴方は何一つ、それを守れていなかった。
SCP-975-JP-1: ……どういう事だ?
裁判官: 二人目の証人、前へ。
本郷博士: はい。
SCP-975-JP-1: 本郷君……まさか……裏切ったのか! 店主も、裁判官も、お前も、みんなグルだったのか!
本郷博士: SCP-975-JP-1、貴方の最初の被害者となった女性、私は彼女から話を聞きました。彼女の父親とは繋がりがあったので。彼女は言っていました。自分は望んで万引きをしたのではない、と。
裁判官: 続けてください。
本郷博士: こちらで独自に調べた所、彼女は現在通学している高校において、重度のいじめ被害を受けていました。そして、万引きを行ったのはそのいじめ被害においての主犯格に強要されたから、との事です。既に提出してある資料がそれらの証拠となるはずです。
SCP-975-JP-1: 望んで、窃盗を行ったわけではない……? それはおかしい、悪人は、自身の快楽を中心とした感情を元に、犯罪を行う、はずだ。俺はそう習った……はず……。
本郷博士: 更に、今回の原告の子ども……三度目の出現において死亡した児童の事です。貴方は彼を必要な犠牲であったと告げていますが、彼は、死亡した当時、父親が忘れ物をした弁当を届けようとしている所で、ビルの倒壊に巻き込まれました。
SCP-975-JP-1: それが、どうしたんだよ。
本郷博士: その日だけです。その日だけ、たまたま、父親に忘れ物を届けようとしたんです。比較して、青霧氏は副社長という立場である以上、毎日出勤しなければなりません。貴方が、たった一日待てば、もしくはたった一日、早く出現していれば、彼は死ぬ事はありませんでした。果たしてそれは、本当に必要な犠牲であったのでしょうか。
SCP-975-JP-1: ひ、必要に決まってんだろ! いいか、ヒーローっていうのは、どんなに自分の都合が悪くても、助けを求められたら、少なくとも次の日までには動かなくちゃいけない……見たい特撮を我慢してでも……やりたいゲームを我慢してでも……
本郷博士: 最後に、皆さん、立ちあがってください。
(傍聴席に座っていた人物が全員立ち上がる音)
本郷博士: ここにいる人は皆、貴方によって被害を受けた人間です。最初の被害者の家族、ビルの倒壊により会社を潰された社長、裁判官と弁護士でさえ、貴方によって家族を傷つけられています。もちろん、これで全てではありません。ここに、貴方の解職、及び適用罪状による賠償と懲役を求めた、被害者全員の署名も存在しています。
(何度かの紙摺れの音)
SCP-975-JP-1: ふざけんな! 被害者全員の署名なんて集められるわけねーだろ! こんな嘘っぱちの書類と、偽物のエピソードを集めて、お前らは悪だ! 全員悪だ! 俺が正義の鉄槌を下してやる!
本郷博士: 今、法廷という極めて一般的な感性における正義に近い場所で、鉄槌を下されているのは貴方ではありませんか?
SCP-975-JP-1: 違う! 分かったぞ! この社会が悪い! 俺はこの社会を正すために
本郷博士: では、貴方の運営している「ヒーロー代行サービス」、そして貴方が通っていたとされる"学園"も悪であるという事になりますね。
SCP-975-JP-1: [絶叫の後に飛翔し逃亡]
<再生終了>
終了報告書: この事例以来、新たなSCP-975-JP及び、SCP-975-JP-1の出現は確認されていません。この事から、SCP-975-JP-1に対する無力化手段として、プロトコル・英雄裁判が制定されました。