架け橋
「やったな兄ちゃん! 王様になるってスゲーし、感じの悪い兄ちゃんや王様は……あ、ごめん」
キールが婚約者に気を使って謝りましたぞ。
婚約者の方は気にしないでと苦笑いをしております。
「イワタニ様、すぐに国民への勝利の凱旋をして頂く予定なので、お時間も程々に」
「あ、はい……あの、やっぱり俺とメルティちゃんは婚約しないといけないのかな?」
お義父さんが女王とシルトヴェルトの代表達を交互に見ますぞ。
婚約者は少し頬を赤くしております。
これは浮気ですかな?
フィーロたんという相手がいながらどういう事ですかな?
「イワタニ様、貴方が地道に活動する事によってメルロマルクは過去の因縁の鎖を断ち切り、人間、亜人が共に過ごす事の出来る国へと生まれ変わろうとしているのですよ」
「そうじゃのう。シルトヴェルトも此度の争いで、自らの愚かさを反省し、メルロマルクと友好を築ける事じゃろう」
「その通り。私共が犯してしまいそうだった愚かな侵略を停めて頂き、本当にありがとうございます」
お義父さんは恥ずかしそうに女王とシルトヴェルトの代表に答えておりますぞ。
「いえ……俺は戦争なんてくだらない事をするよりも世界の危機に対応するのが先だって言いたくて……それにここまで来れたのは元康くんやメルティちゃん、キールくん……一人一人呼ぶと長くなりそうだからここで止めるけど、皆のおかげなんだ」
おお……なんという名誉なお言葉。
玉座に座っているお義父さんからそう言われると、いつもより神々しく感じますな。
俺と同じ感想を抱いたのか、キールや婚約者、ユキちゃん、コウ、サクラちゃん、ルナちゃんも嬉しく思っているようですぞ。
怠け豚は……まあどうでも良いですな。
きっと勝ち馬に乗れたブヒブヒとか思っているに違いないでしょうしな。
「それで良いのです。私共は勇者様達を無理やり戦わせる事を強いてしまっています。波との戦いこそが本来勇者様達が行ってもらう事。それなのにこのような愚かな争いに巻きこんでしまい、謝罪の言葉しかありません」
「母上……」
そんな様子の女王を婚約者は複雑な心境で見つめておりますな。
未来の婚約者はお義父さんと妙な信頼と言うのでしょうか。
腹を割って話している関係でしたぞ。
何やら婚約者がお義父さんに遠慮している様に見えますな。
というよりもお義父さんに対する視線が違いますぞ。
こう……淡い恋心を抱いているかの様な表情です。
しかし、婚約者に敢えて言いますぞ。
「婚約者」
「……何?」
眉を寄せて婚約者は俺の方を見ますぞ。
どうして婚約者は俺に対して悪い印象を持っているのでしょうか?
まあ俺からしても婚約者はフィーロたんを巡る宿命のライバルですから、掛かって来い! ですがな。
「フィーロたんという婚約者がいるにも関わらず、お義父さんとの婚約など俺が許しませんぞ。恥を知れ! ですぞ」
「だからそんな子、知らないわ!」
「元康くん、あんまりその話題に持っていかない。ループの影響で差があるんだから、会った事も無い子の事をメルティちゃんだって知りようがないよ」
おや? お義父さんにやんわりと怒られてしまいましたぞ。
やがてお義父さんは女王とシルトヴェルトの代表に視線を戻しました。
「表面上はメルティちゃんと関係性があるってだけにしておくんだよね。じゃないと国民に示しがつかないとかそんな感じで」
お義父さんが女王に尋ねると、女王の方が首を傾げていますぞ。
「いいえ、私共としましては今後メルロマルクの為にイワタニ様と我が娘メルティとの婚約は外せない問題だと考えております。仮にイワタニ様が役目を終えて元の世界に帰る事があったとしても、メルティにはイワタニ様の子を成してもらわねば困ります」
「もちろん、我等が国シルトヴェルトの者とも子を……」
「ですじゃ」
「はい。イワタニ様が望む平和……メルロマルクとシルトヴェルトを繋ぐ架け橋。両国の為、どうかよろしくおねがいします」
「う……」
メルロマルク、シルトヴェルト、両陣に介入した手前、お義父さんは言い返せない様ですな。
しかし、二つの国をお義父さんが繋ぐとは……さすがですな!
お義父さんの奴隷であり、配下である俺としては鼻が高いですぞ。
「ブー」
何やら怠け豚が締めくくった様ですぞ。
がっくりとお義父さんは脱力して必死にその場を切り抜けようとしておりました。
「メルちゃん大丈夫?」
「ええ、ごめんなさいサクラちゃん」
「なにが?」
婚約者の方は頬を赤くして、サクラちゃんに心配されていましたな。
「あたいらは……何をすれば良いのかねー」
「そうだ! ラーサさん、今回の戦いはどうもありがとう! ラーサさん達があの場にいて本当に助かったよ!」
お義父さんがその場を取り繕う様にパンダ獣人の手を握って何度も上下しておりますぞ。
パンダ獣人は何やらお義父さんの方から顔を逸らして面倒そうな顔をしていますな。
何が不服なのですかな?
「報酬に関しては……うん。絶対約束する! 何ならこれから俺と一緒に戦って欲しい!」
「お! カッコいい姉ちゃんとシルトヴェルト以外でも一緒に戦えるのか!?」
キールがここで間に入って嬉しそうに尻尾を振りますぞ。
「そうだよ! これからは波の戦いも厳しくなるし、人手は多いに越した事は無いからね!」
「勝手に決めるんじゃないよ!」
「確か兄ちゃんの話だと村も再建してみんなを集める事が出来るんだよな!」
「そうだけど……キールくんの故郷の人達を戦わせるのは気が引けるな……」
「何言ってんだ! みんな絶対に強くなろうと思うに決まってるぜ! 俺が説得するから安心してくれよ! ワンワン」
キールが興奮してワンワンと鳴きますぞ。
「まあ……金回りは良さそうだね」
「「「姐御! 出世のチャンスですぜ!」」」
パンダ獣人の部下も何やら興奮気味ですぞ。
確かに、一介の傭兵から勇者の仲間となれば大出世ですな。
しかもお義父さん直々のスカウトなのですからシルトヴェルトも文句は言えませんぞ。
「わかった。だけどあたいは安かないよ」
「大丈夫! そこは安心して良いから。お金に関しては大丈夫。ラーサさんの好きな可愛らしい格好もし放題だし、戦いの合間に色々とやって行こうよ」
「ちょ――こんな所でなんて事言うんだアンタは!」
パンダ獣人がプリプリと怒ってお義父さんを叱りつけますが、お義父さんはへらへらと笑っておりますぞ。
「亜人の姿の時も美人だし、パンダの姿も可愛らしいし、みんなが思っているよりラーサさんは魅力的だと思うよ」
「だ・か・ら! こんな所で爆弾発言すんなってんだ!」
お義父さんの褒め言葉にシルトヴェルトの連中が何やら目を光らせ、パンダ獣人の背筋が何やら逆立ちましたぞ。
「よくよく見れば珍しい系譜……盾の神を誘惑して地位向上を狙っているのかもしれません」
「いやいや、どうやら信用は厚いようじゃし、此度の戦での活躍、シルトヴェルトの戦士に相応しいのではないですかな?」
「……良いでしょう。存分に盾の勇者様に仕えるのです」
「ち、ちが! あたいは自由な傭兵で――」
「「「くそう! 姐御があんな野郎に寝取られちまう! が、相手の経歴に勝てねえ!」」」
「お前等も黙ってろ!」
なんて所に助手とライバルが呟きましたぞ。
「盾の勇者も大変ね」
「なの! ガエリオンもなおふみのお嫁さんにしてほしいの」
「え?」
「ブー!」
サクラちゃんが不快そうにライバルに張り合ってお義父さんを後ろから抱き締めますぞ。
「さ、サクラちゃん?」
「お義父さん、みんなに活躍を見込まれて幸せですな」
「元康くん、話が違うよね。君の言っていたのと違う結果になったのをちゃんと自覚してよ!」
それからお義父さんは困惑しながら俺を睨み続けていたのですぞ。
お義父さんは城から出て国民に勝利の凱旋を行い、メルロマルク城下町を一周したのですぞ。
やがて城のテラスで国民に見せるように手を振って、日が沈んだ頃、城では大々的にパーティーが開かれました。
この際にお義父さんを含めた勇者達全員がカルミラ島の活性化に伴い、修練に行く事を宣言していましたな。
長い戦いもやっと終わったのですな。
まだ、城の各所では争いの痕跡こそ確認出来ましたが、みんな思い思いに祝いの席を楽しんでいるご様子。
ループ前の俺はこの席で赤豚の改名に腹を立ててお義父さんに決闘も申し込みましたが、今回は特に妨害はありませんでしたからな。
問題なく、みんな楽しげに祭りを楽しんでおりました。