停戦
「今、世界は波と戦う時、メルロマルクとシルトヴェルトが争う時ではないのです」
「だが、メルロマルクの雌狐よ! 三勇教の暴走はどうするつもりなのだ」
「既にそちらへ情報が来ているはずかと思います。三勇教は国賊と認定、メルロマルクは盾の勇者様も引きいれ四聖教へ改宗します……いえ、国民の反応からもしかしたら盾教へとなるかもしれません」
既に結果は出ているとばかりに女王は深く目を瞑って答えます。
その間にも流れ矢や魔法が飛んできそうになりましたが、お義父さんが流星盾を拡張して守りました。
もはや女王が連れてきた連合軍がメルロマルク軍を捕縛するのは時間の問題ですな。
シュサク種はシルトヴェルト軍に停戦を言い渡し、その場で待機するように指示を出しました。
そこに影が現れて女王とシュサク種に情報を告げました。
「どうやら卑劣な罠でおびき出した槍の勇者様に三勇教の教皇は元より、メルロマルクの城下町にいた三勇教徒の幹部は駆逐されたようです」
「じゃあ元康くんがこっちに来るのを待っていればいいの? 女王様、貴方が城に戻らないと革命は……」
「そちらも既に解決した様です。我が娘メルティが革命軍を必死に説得したとの話が来ています。いえ、正確には我が夫、オルトクレイを抑え込んだようですね」
「メルティちゃんが!? 留守番する様に言っておいたのに……」
「少々危険な真似をした様です。結果が良かったので事無きを得ましたが……とにかく、騒ぎがこれで静まってくれるのを祈るばかりです」
と言ってから女王が扇を閉じてお義父さんに頭を垂れました。
「この度は私の不祥事でこの様な状況に追いこんでしまった事、更に我が娘マルティは元よりオルトクレイの暴挙に対して真に申し訳ありません」
「あ……はい。とても、大変でした」
「我が国の膿を出して頂き、真にありがとうございます。とても辛い苦行の道だった事をお察しします」
「いえ、それは……頼もしい仲間達がいたので」
「へへ!」
キールがこれ見よがしに自己主張したそうですぞ。
「兄ちゃん凄くがんばったんだぜ! そんな事より女王様はもう少し国の貴族とか兵士に悪い事と良い事の違いを教えた方が良いぞー」
「キールくん。気持ちはわかるけどー……」
「返す言葉もありません。何分、代々続く国の方針だった物で、改革が進まずこのような結果にならざるを得ず……ですが盾の勇者様のお陰で我が国も変革の時を迎える事が出来たと思います」
女王の素直な返答にキールも、女王自体が悪いのではないのは察知したとの話ですぞ。
「そうだったのか。じゃあ俺ん所の村も再建出来るのか?」
「はい。出来る限りの援助をする事を約束しましょう」
「おー! やったー!」
「キールくんの夢だったもんね」
「おう!」
なんて話をしている間に俺がやってきたとの事ですぞ。
「まあ、こんな感じで戦争はとんとん拍子で停戦する事が出来たんだ」
「そうだったのですか?」
どうやら中々大変な状況ではあったのでしょうが、メルロマルクの内乱とシルトヴェルトの進軍は止める事が出来たのですな。
少々強引な所がある様な気もしなくもないですが、シルトヴェルト側の上層部もお義父さんの言葉の意味をちゃんと理解していたのが幸いしましたな。
これでお義父さんを信仰する盾教が三勇教と同じ過激派だったら話にならなかったでしょう。
その辺りも念の為に聞いておきますかな?
「シルトヴェルトの国教は三勇教の様な暴走は無いのですかな?」
「元康くん……ちょっと張っちゃけ過ぎじゃないの?」
お義父さんが制止しますが、シルトヴェルトの代表であるシュサク種とゲンム種の二人は気にしない様子で答えてくれましたぞ。
「その辺りの過激派は過去に英知の賢王に敗れているので」
「代表である我等もアレ程の暴走は避けたいのが実情です。メルロマルクの女王との友好政策を進めている手前、過激派は勢力が減退しています」
「……なるほどね」
何が幸いするかわかりませんな。
過去のクズがシルトヴェルトの全面戦争を意識する精神を削ぎ落しているという事でしょうか。
後はメルロマルクの女王が口八丁でシルトヴェルト側の暴走をどうにか抑えていたのでしょう。
お義父さんが国内で活動し、信用を得ていたのは筒抜けだったと聞いておりますぞ。
メルロマルクを内側から変えようとした動きでシルトヴェルトは黙ったのですな。
今回はお義父さんへの忠誠心が招いた暴走であって、そのお義父さんに制止された挙句、水を掛けられた様な状態になって大人しくなったと。
波という脅威もシルトヴェルトは経験しているのですから理解できなくは無いのでしょう。
メルロマルクの住人も波を経験した地域の住人はお義父さんの重要性を確認しておりました。
これから苛烈になっていく波の脅威に過激な信仰と差別は邪魔ですな。
恨みの念はあるのでしょうが、敵国でお義父さんが活躍する事で国民の不満はガス抜き出来ていたのでしょう。
これ以上の攻撃はー……各国の情勢からもマイナスであるとシュサク種の代表も理解した事もあり、メルロマルクの方も連合軍を率いて暴走した軍を捕縛したのですからここで手打ちにすると。
「妥協点だったのですな」
「元康くんはもう少し遠慮して話をした方が……まあ、良いか」
「城の方での情報も続々とこちらに流れています。三勇教の負の面はほぼ暴かれたと思ってくださって結構です」
女王は俺が仕留めた教皇が勇者の武器のコピー品を隠し持っていた事、勇者召喚の祭具をすり替えていた事などを上げております。
その為、三勇教は邪教にして国賊と認定されたのですな。
共通の悪を見出す事で、戦争回避ですぞ。
そんな感じで……俺達は革命の痕が残るメルロマルクの城下町に来ましたぞ。
メルロマルク中の革命軍と城下町の者たちがお義父さんと女王、そしてシルトヴェルトの代表と俺達を歓迎してくださっています。
ここに今、一つの国が生まれ変わろうとしているのですな。
シルトヴェルト軍の一部が暴走してメルロマルクに攻めようとしていたのは即座に国中に知れ渡り、それを止めた盾の勇者の話で国中の噂は持ち切りですぞ。
後は革命派ではない貴族達は既に革命運動中に大きく権力を失墜させており、実質メルロマルクは盾の勇者も神として崇める体制を整えたのですぞ。
そして……開かれた城の門を潜り、俺達は玉座の間に来ましたぞ。
そこには婚約者がサクラちゃんと一緒に待っておりました。
クズは何処ですかな?
「盾の勇者様!」
婚約者がサクラちゃんと一緒にお義父さんに駆け寄りますが、お義父さんは心配そうに婚約者を叱りつけます。
「メルティちゃん、凄く心配したんだよ? 後……君は俺との約束を破ったね?」
「あ……う……はい」
言葉を濁しながら婚約者は素直に答えましたぞ。
「いや……メルティちゃんからしたら、そうしなきゃいけなかったのはわかるんだけどね。個人的には無茶しないで欲しかったな」
「ど、どうしてですか?」
「そんなのメルティちゃんが心配だったからに決まってるでしょう?」
「……そ、そうですよね」
婚約者はほんのりと頬を赤く染めました。
むむ? この反応はなんでしょうか。
婚約者にはフィーロたんという存在がいるのですぞ。
などと考えている間も、お義父さんと婚約者の話は続いております。
「幾らサクラちゃんが守ってくれると言っても、メルティちゃんに何かあったらどうしたの?」
「だ、だけど……ここは母上の国で、私は父上に真実を告げようと思ったの。国がこれ以上滅茶苦茶になるのは我慢できないわ」
「だからって……君は大事な国の姫様なんだよ? 君に何かあったらその父親は元より、お母さん、俺や皆だって悲しむんだ。だから、もう無茶は絶対にしちゃダメだよ」
そうお義父さんは婚約者を諭すと優しく微笑みましたぞ。
「でも良くがんばったね。どうやって革命を止めたのかな?」
「えっと……盾の勇者様と槍の勇者様が出て行ってから、また矢文が来て、このままじゃメルロマルクは壊滅する。早急にメルロマルクの教会に来られたしって……」
「露骨な罠じゃないか」
「さもなくば、英知の賢王を殺害する……と矢文に書かれていたの。その後、三勇教の部隊が来たの」
「俺を殺した暁には婚約者と樹を仕留める算段だったのですな」
三勇教も手段を選びませんな。
しかし、この動きから察するに樹の身も相当危険だった様ですな。
「ウィンディアちゃんとガエリオンちゃんが私達を守ろうとしてくれたのだけど、私は我慢できなくて……」
「じゃあウィンディアちゃんとガエリオンちゃんは!? 樹もどうなったの!?」
「その心配は無い」
そこに不服そうな樹と共に錬がやってきましたぞ。
「錬!?」
「なんでここにいる? とかか?」
俺とお義父さんが頷くと錬は事情を説明し始めましたぞ。
お義父さん達と合流する手はずだった日、予定の場所で待ち合わせをしていると、お義父さんの使者を名乗る者に同行する様に言われ、ついて行くと罠に掛けられたそうですぞ。
「実は三勇教徒だったってオチだ。情報はゼルトブルで俺が仲間と話していた会話を盗み聞きしていたからだそうだ」
「ど、どうやって助かったの?」
「そっちは女王派の影とやらに助けてもらった。後は秘密裏に活動をしていた」
「へ、へー……」
ドヤ顔の錬と一緒にいるのが不満そうな助手とライバルが後からやってきましたぞ。
三勇教が策を弄して何もかも裏目に出た感じだったのですかな?
「樹の仲間達も三勇教に利用されていた様だった。樹奪還作戦に参加させられていたようだ」
「じゃ、じゃあ元康くんの魔法で一網打尽に?」
「何を言っているんだ? そこにいるぞ」
錬が何やら樹の仲間っぽい連中を指差していますぞ。
ストーカー豚もいる様ですな。