| この話はあちこちに引用されていて,虚実のほどはあまりはっきりしないのですが,比較的最近刊行されたアドリエンヌ・メイヤー女史の『驚異の戦争――古代の生物化学兵器』(講談社文庫)にある考察をみると,石灰岩の上に燃料を積み上げて火を焚き,その後に酢を注いで岩塊を砕いたというのが本当らしいということです.これならば,石灰岩の主成分である炭酸カルシウムのかなりの部分が熱分解して酸化カルシウム(生石灰)となり,当時の酸(ハンニバルの時代では今みたいな無機の強酸はまだつくられていなかったので,酸敗したワインぐらいでしょう)と激しく反応して,中和熱で岩にヒビを入れるぐらいのことは可能だったろうと思われます.普通の炭酸カルシウムだったら,酢酸ぐらいではそんなに激しく反応しませんから,岩石を砕くのは無理ですが,加熱して酸化カルシウムに変えたあとなら,激しい反応となっても不思議はありません.でもオープンな山の上で火を焚くとしたら,加熱効率はかなり低かったでしょうし,酸を入れた容器を運ぶ(もっとも酸敗して呑むに耐えなくなったワインを転用したのかも知れませんが)のも,いくら象を使ったとしても大変だったろうとは思われますが.さすがに珍しかったので記録に残されたのでしょう. |