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●●●アニメ『星のカービィ』に対する吉川監督の思い入れをお聞きしたいのですが。
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吉川 最初はゲーム原作と聞いて抵抗があったんですよ。というのは、ゲームのアニメ化というのは、たいがいうまくいかないことが多いんですね。もともとアニメ用に作られたキャラクターではないですから、難しいなあと思いまして。ところが、やり始めてみると、アニメの世界で長い間忘れられていたシンプルさ、強さをもっているキャラクターだったわけです。ですから、いまは「いい作品にめぐりあえたなあ」という思いでいっぱいです。
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●●●カービィはゲームとしてはシンプルですよね。アニメでは新しい設定が必要だったと思いますが、いかがでしたか。
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吉川 そうですね。これは原案の桜井政博さん(HAL研究所)のおかげなんですが、「アニメの中に人間を出さない」というのが桜井さんの条件だったんです。だから、日本のアニメとしてはすごくユニークな設定になりました。ほかのアニメは、主人公のキャラクターの周囲に少年少女がいますよね。そういうものがまったくないんです。こういった架空のキャラクターだけの作品はめずらしいと思います。ムーミンなどにも通じるところがありますね。
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●●●監督はいままでにもさまざまなアニメ作品を手がけていますが、カービィというキャラクターにはどんな印象を持ちましたか。
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吉川 しゃべらないということをどう生かすかということで、いま悩んでいます。でも、しゃべらないキャラクターの魅力というものもある。スヌーピーもそうですよね。そこを必死になって探していますよ。具体的には、カービィをいかにキャラクターとして立たせるかに一番気を使っています。複雑なお話になると、セリフがないだけに、カービィが話の中心になれない傾向があるんです。そこで、脚本の段階から主役としての存在感を出すように、かなり意識して書いていますね。
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●●●今回のアニメでは2Dと3Dをうまく合成していることでも話題になっています。
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吉川 3Dは、絵の枚数を増やすための手段です。3Dのモデルを一度作ってしまえば、それを活かすことでどんどん効率化できますよね。2Dのアニメーターの作業は、ものすごく大変なんですよ。例えば、線を1本ちゃんと描けるようになるまでに1年かかるとか、そんな世界なんです。でも、3Dであれば、モデルはできていますから、それをクリックするだけで動きが作れますよね。だから、アニメーターが絵に苦労せず動きに専念できるし、むしろ演出やカメラの知識も身につけやすい。つまり成長も早いんです。テレビアニメの革命になるんじゃないかと思いますね。すでに、通常のテレビアニメの3倍から5倍は動く作品になっていますよ。
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●●●セル枚数が1話分で約1万枚。日本のテレビアニメの平均は3500~4000枚と言われていますから、これは画期的ですよね。
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吉川 予算のこともありますが、日本のアニメは簡略化することが得意なんです。「ほら、こんなに絵が止まっていても効果的でしょう?」ということばかりやっていて、貧しくなってしまった。ですから、今回は「一度思いきり動かそうよ」という気持ちで作っているんです。また、日本のアニメーションはローカライズされすぎているところがあると思うのですが、どこでも通用するものを本気で戦略的に作っていかないといけないんじゃないかと思いますね。グローバルスタンダードというと大げさですが。
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●●●そういう監督の意志が反映されているのでしょうか。キャラクターの雰囲気や色使いは、アメリカっぽいですね。
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吉川 それは原作の力ですが、そういう方向をめざしている部分はあります。ゲームの世界観がうまくアニメに反映されたということではないでしょうか。カービィは任天堂というビッグブランドのゲームで、アメリカでの評価もすごく高い作品ですよね。だから、なんとかワールドワイドに大きくしていきたいと思っていますよ。
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●●●今回は脚本も書かれていますが、脚本自体が読んでいておもしろいですよね。
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吉川 日本のアニメはコミックの影響を受けていて、論理や理性というよりは情念みたいなもので突っ走っていることが多い。表現したいという気持ちはあるんでしょうけど、クールに読めないものが多いですよね。皮膚感覚ばかり刺激していて、ウェルメイドなものをちゃんと追及していないんじゃないかと思います。
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●●●そういう意味では、今回はきちんとお話と表現が結びついていますね。
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吉川 ええ、そうですね。お話としては人情話もあり、大戦争もあり、さまざまです。楽しんでいただけると思いますよ。
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●●●すでに、キャラクターたちは監督の思い通りに動いていますか。
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吉川 いや、まだまだですね。まだまだもっとよくなりますよ。特にCGの場合はデータが残りますから、それに改良を加えていけるんです。クオリティが落ちるということは絶対にないので、回数を重ねていくほどによくなるはずですよ。でも、アメリカに行ってテレビアニメを見ているとこれくらいは動いていますから、「やっとここまできたか」という感じですね。
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