「今日はクリスマスであるな!」
流石は合衆国大統領もやった事がある(正史ではないが)男、獅子顔のエジソンが豪快さを感じさせる声でマスターに話しかけてきた。
マスターは彼を見て常に思う。
様々な要因が重なってこの姿となっているわけだが“本当に彼は科学者なのだろうか?”と。
「あ、どっちかというと発明家だっけ」
「ん? どうかしたかね?」
「あ、いや……」
つい心の中の自問自答の一部が声に出てしまった事に焦るマスター。
彼は取り敢えず不自然でない話題のすり替えを試みた。
「あ、そういえばクリスマスがどうかしたんですか?」
「どうって……祝わないのかね?」
「俺は別に……」
「私とでは不満というのかね?」
「寧ろどうして俺と祝おうとしているのかお尋ねしたいのですが? アメリカってそもそもそんなにクリスマスって祝いましたっけ?」
「む……」
マスターがそう訊くとエジソンは痛いところを突かれたような声を出して呻き声のような声を漏らす。
どうやら彼に声をかけるまでに他の者にも声を掛けていたようで、それらが全て残念な結果に終わったようであった。
「もっと自然に誘えば寂しい思いする事もないと思うのに」
「な?! 別に私は寂しくなど!」
「じゃあ何で僕を誘おうとしたんですか?」
「いやほら、歴代の合衆国大統領によって支えられている私は最早カルデアにおける合衆国そのものと言えるだろう? だからそんな私とクリスマスを祝う栄誉に授からせてあげようと……」
(相変わらず態度は尊大なのに何処か小者くさいというか……)
マスターは心の中で溜息をつくと苦笑しながら言った。
「そうですか。なら一つ条件を飲んでくれるのなら考えても良いです」
「うむ、拝聴しよう」
やはり尊大な態度で獅子顔の男は腕組みをして言った。
「単純に寂しいのでクリスマスを一緒に楽しもう、と言ってください」
「そんな条件飲めるか!」
「嘘でも構わないですよ? なら本心では違うんだと言い訳しながら言えるじゃないですか?」
「マスターの言い方には一々妙に棘があるな?! とにかくそんな条件は飲めん。例え本当にそう思っていたとしてもだ」
「え?」
「はっ」
「……」
「……」
気まずい沈黙が双方を取り巻いた。
片やマスターの方はエジソンのうっかり漏らしてしまった失言に同情的な眼差しを黙って向け、エジソンの方は己の失態に茫然自失となるのだった。
「ま、それで良しとしましょう」
「わ、私は何も言っていないぞ!」
「アッハイ、そうですね。んー、でも急にクリスマスを祝おうにも何から始めたら良いのか……」
「料理ならもう用意してある」
「準備が良いですね」
「うむ、直流電熱焼きのターキーオレンジソースがけとかあるぞ」
「直流焼き……それってちゃんと焼けてる……?」
「心配無用だ。あらゆる方向から放電する特製オーブンを使用したからな」
「何かもの凄く電気を無駄使いしそうなオーブンですね」
「何を言う。無駄なく常に一定の働きをする直流に無駄など……」
「あ、その話しは長くなりそうなのでまた今度で」
電流の話となると本人も電気の如く熱が入ってくるエジソンの暴走をマスターはやんわりと止めると、ふと気になった事を言った。
「ま、食事に関しては大丈夫だとしても、やっぱり二人だけというのは寂しいな」
「ああ、それなら大丈夫だ」
「え?」
意外な言葉にマスターは虚を突かれた顔をしてエジソンを見た。
ここに至るまでパーティーの勧誘に苦労していたらしい彼が何故ここで人数の心配はする必要がないと言ったのかちょっと理解できなかった。
「エレナに助言を貰っていてな。マスターの勧誘に成功したら後は安泰だと」
「え、それってどういう……」
「まぁ先ずはこれを見るのだ」
エジソンは懐からメモ用紙のような紙を取り出すと、それをマスターに差し出した。
「? これは?」
「それに名前が書いてあるだろう? それらの人物にマスターが声を掛けていけば、自然とそこから噂が広がり勝手に人が集まってくるのだそうだ」
「……」
マスターが見たメモには見覚えのあるサーヴァント(女性が多い気がした)の名前が幾つかリストアップされていた。
「さぁ征くのだマスター。私の計画達成の為に!」
「はは……いつの間にか体良く利用される立場に……」
マスターはその日二度目の溜息を吐くと何となく自分の行動が軽い波乱を呼びそうな不安を感じつつ、自分の背後からあからさまに高揚した気分で嬉しそうに着いてくるエジソンに苦笑するのだった。
最初にFGOのエジソンを見たときはなんじゃこりゃ状態だったのですが、メインストーリー以後、様々なイベントでも彼を見ることによってかなり好きになりました。