FGOのマスターの一人   作:sognathus
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あの防御だけにおいては他者の追随を許さない能力を持っていたマシュがある日任務中に大きな負傷をした。
原因は単純にターゲットを自分に長時間集中させ過ぎた事だった。
サーヴァントの中で最もタフな彼女がダメージコントロールをするという戦術は間違いではなかったのだが、その匙加減を偶々その時は誤ってしまったのだった。


マシュ・キリエライト②

マシュが負傷して一時的に療養処置を受ける事になった。

流石に自分の目の前で起こった事だったのでマスターは責任を感じて気分が重かった。

 

(参ったな……。あの時のマシュの具申を慎重に検討していれば安易に許可はしなかったかも)

 

ターゲットの集中はマシュ本人からの提案だったとはいえ、それを許可したマスターにも責任はあると言えた。

いや、職務的な意味でならマスターはマシュの上司と言える立場なので、責任の所在が行き着くところは彼だった。

 

「……」

 

マシュは今マスターの前で睡眠療養の状態でベッドに横になっていた。

戦闘終了時気を気を緩めたのだろう、脳が負傷を再認識した時にショックで気を失ってしまい、そこから目覚める事無く今に至っていたので正確には『睡眠』療養中とは言い難い気がした。

 

マシュはデミサーヴァントとなってからその恩恵の影響で負傷してもその完治は人などは比較にならない程早かった。

傷跡すら残らずに白くきめ細かな肌に直ぐに戻るのだった。

しかしそうだとはいえ負傷した直前は痛みで涙も滲むし、こうして気を失うこともある。

マスターはそういう体験をしているのが自分の最も間近な同僚であるだけに、その様を目の当たりする度に男として複雑で後ろめたい気持ちるのだった。

 

(俺の自身の仕事が人理とか特異点とかの修復みたいな壮大なものじゃなくて、単純な国と国との戦争で兵力が必要だから有志を募るとかそんなのだったら俺が行くんだけどな……)

 

「……」

 

マスターは静かな寝息を立てるマシュを見つめながらそんな事を思った。

穏やかな顔で寝ている彼女を見るとつい頭や額を撫でたくなる思いが込み上げてくるのだが、その思いが意識を失っている人に手を出すという罪悪感に彼は直ぐに転換してしまうのでそれはできなかった。

何より結局自分の欲求に従っているように思えて直ぐにやる気はなくなった。

だが、である。

 

(こうして横に座っているのも考えてみるとよくないかもな)

 

同性ならまだしも改めて状況を認識してみると目の前に横たわっているのは、付き合いの長い同僚とはいえ女性である。

しかも意識を失っている状態の彼女とこうして二人きりでいる事は情緒てきに不味い気がした。

 

「うん、いこっか」

 

考えが決まったマスターが心の中で彼女が意識を回復したら直ぐにもう一度見舞いに来ようと、その場を退出する事に対して償う方法をまで考えて椅子から腰を上げた時だった。

 

「いっちゃうんですか……?」

 

小さな声だったが、聴き間違える事は知った声が彼を引きとめた。

 

「マシュ? 目が覚めたの?」

 

「ええ……あの……実はちょっと前から」

 

「え? ああ、そうだったんだ」

 

マシュが意識を既に回復していた事に純粋に驚いたマスターは椅子から上げていた腰を再び下ろしてまたマシュと向かい合った。

さり気に視線を下してみると彼女の手が自分のズボンを掴んで直接的にも彼を引きとめており、その事もあってマスターの頭の中からは治療室から退出するという考えは既に完全になくなっていた。

 

「……ありがとうございます」

 

マスターがその場にとどまってくれた事に安堵したマシュは手を離してお礼を言った。

だがその時顔を半分布団で隠した状態だったのは、自ら咄嗟に行った行動を改めて認識して恥ずかしくなったのだろう。

マシュはマスターには見えなかったが、布団の中で頬をほんのり赤く染めた。

 

「調子はどんな感じ?」

 

「痛みとかは感じません。身体が少し鈍い気がするのは寝ていた時間が長かったからだと」

 

「そっか、良かった」

 

「ご心配を……」

 

「いや、今はそんな事気にしないでゆっくり休んで」

 

「もう十分休んでませんか?」

 

「目が覚めたのはついさっきなんでしょ? それに正式に治療が終わったと判断もされてないからまだ休んでいていいよ」

 

「分かりました」

 

「……」

 

「……」

 

ほんの数秒だけだったが何とも言えない妙に気まずい間が二人が何かを話そうとする考えを挫く。

 

「えっと……」

 

その空間を果敢にも先に切り崩しにかかったのはマシュだった。

 

「寝ている間……」

 

「ん?」

 

「もしかしておでこに手を当てたりしてくれました?」

 

「大丈夫。何もしてないよ」

 

「……っ」

 

ベッドの中だったので滑る事はできなかったが、マシュは心の中で盛大に滑ってこけた。

 

「そ、そうですか……。流石先輩ですね」

 

「はは、尊厳を保てたようで俺も安心したよ」

 

朗らかに笑うマスターの前でマシュはやきもきとした気持ちが吹き荒れっていた。

 

(どうしてそこでそんなに安心したような顔をするんですか! いえ、倫理的には正しいのかもしれませんが……。でも! どうして!!)

 

「~~~~っ」

 

何とも言えない不満な気持ちのせいで顔が自然と不機嫌な表情になっていたのだろう、布団の端を掴んでプルプル小さく震えていたマシュにマスターが困惑顔で訊いた。

 

「え、ど、どうかした?」

 

「……いえ。でも暫く先輩には此処にいてもらう事を私は希望したいです」

 

休んでいた間少し精神年齢が後退していた(という理由で仕方なく)マシュは、見舞いに来てもらっているという立場もあり、この時少し大胆で我侭になる事を自ら選択した。

 

「あ、うん。分かったよ」

 

「撫でていいですよ?」

 

「え?」

 

「寧ろ撫でて下さい。落ち着くので」

 

「は? はぁ……まぁ、はい。それなら……」

 

突然のマシュのお願いに虚を突かれたマスターは、戸惑いながらも本人の公認希望の下、堂々と彼女頭を撫でる。

 

「……落ち着く?」

 

「ええ、良い心地です。ほっぺも触って下さい」

 

「ほっぺ?」

 

「……頬です」

 

「アッハイ」

 

「……♪」

 

自分の頬に触れてきたマスターの手をマシュは嬉しそうに両手で包む。

自分とは違ってちょっと硬くて大きな手だが、そこから感じる温もりには凄い安心感と幸福感を感じた。

 

「そんな良い?」

 

「なかなかです」

 

「あ、うん」

 

「暫くこうしていて貰えますか?」

 

「了解」

 

初めてのような久しぶりのように見る様な気がするそんなマシュの表情に苦笑しながらマスターは彼女の願いを快諾する。

そのこともあってかマシュはそれから数分も経たない内に再び静かな寝息をたてていた。

その時の寝顔は最初の時より明らかに薄く幸せそうな笑みが浮かんだものとなっており、その顔を見たマスターは今度は自分の意思でなんの後ろめたさも感じる事無く彼女の頭を撫でるのだった。




最近前に書いたキャラの続編の話が多い感じです。
新キャラも書かないといけないなぁくらいには思っているのですが、書き易いものから手を付けた方がモチベも維持できるかなと。





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