FGOのマスターの一人 作:sognathus
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貴方だったらどちらが好きですか?
カルデアのマスターたる彼が好きだったのは……。
「あっつーい」
「そうだねぇ……」
とある男女が川に居た。
男はカルデアのマスター、上層部よりこれまでの働きに対しての報償として特別に休暇を貰い、余暇を過ごす為にそこを訪れていた。
女の方は刑部姫。
マスターが一人珍しくウキウキ気分のニヤケ顔で旅支度をしているのを密かに彼の部屋に設置しておいた監視カメラで把握し、無理を言ってマスターに引っ付いて来たのだった。
「まあーでもー? 海より川っていうのは良い選択だったと思うわけよね。暑くても山のお陰で涼しい風も吹くからねー」
「そうだね。俺も海よりは川の方が好きなんだ。姫が言った通り涼しいし、水も冷たいからね」
「それよね! 川の水ってなんであんなに冷たいのかしら。お陰で凄く気持ち良いんだけどね」
「そうだねぇ……」
「……」
「……」
二人はまだ泳いでいなかった。
姫はその事を問うかのようにジッとマスターを見つめるのだが、当の本人はサマーベッドにだらしなく寝ているだけで、彼女の視線には全く気付いた様子は無かった。
「ん?」
サングラスを掛けて天を仰いで寝ていたマスターは不意に手を握られる感触を感じた。
感触を感じた手の方を振り向くと、そこには不満そうな顔をした刑部姫が自分を見ていた。
「ね、泳ご?」
「あー、うん。先に行っててよ」
「やだ。一緒に行きたい」
「えー……」
暑くはあったが、半裸で陽に焼かれる心地もまんざらでもなかったマスターは姫に引っ張られて渋々と上体を起こす。
そしてビーチサンダルを履いて立ったところでまだ自分の手を握ったままの刑部姫に気付いた。
「なに?」
「え?」
「手?」
「いーじゃん。ダメ?」
「いや……」
正直照れくさかっただけだったのだが、直接告げるのもまた恥ずかしかったのでマスターは適当な返事をして彼女を伴って川へと行こうとした……が。
「え?」
何故か自分だけが先行して手を握ったままの姫がまだ最初の位置に居たのでマスターは思わずバランスを崩してこけそうになった。
「どうしたの?」
「えへへー、おんぶ♪」
「……」
ご機嫌な顔でそんな甘えた事を言う姫。
しかしマスターはマスターでその要望に迂闊に応える事には気が引けた。
何故なら……。
「いや、流石に水着の姫を背負うのはなぁ。それに海と違って大きい石ばかりじゃん川って。だから危ないよ? 川に行くまで霊体したら?」
「気を付けて歩けばだいじょーぶだよー。それに本当に危なそうな時は自分から下りてマーちゃんを支えるから」
「うーん……」
「サーヴァントな分人よりは反応速度はあるでしょ? だからだいじょーぶだって」
「だとしても水着で密着は……」
「大丈夫! マーちゃんの……が、歩いている途中で可愛い反応をしてもわたしは気付かないふりするから!」
「うん決めた。おんぶはしない。ほら手は握っててあげるから行こ」
「やーだ! えいっ」
「ちょっ!」
言うが早いか勢いに任せて有利に運ぶ決定をした刑部姫は、驚くほど身軽な動作で一度跳ねるとあっという間にマスターの背中に乗りかかった。
驚いたマスターは思わずバランスを崩して転倒するのを恐れたのだが、姫の絶妙なバランス調整の賜物か、サーヴァントという超常の存在としての能力を活かしてなのか違和感を感じるほどにすんなりと彼女を支える事ができた。
「あん、お尻触っちゃメーよ?」
「っ……」
なかなか魅力が凄いビキニ姿だった刑部姫の柔らかい胸の感触が生地一枚だけ隔ててというほぼ直接と言ってよい状態でマスターの背中全体に伝わる。
加えて彼女を支える為に咄嗟に膝裏に回した手から手首にかけても、太ももなのか臀部なのか一瞬考えてしまいそうな温かくて心地よい感触が襲った。
「はーい、マーちゃんレッツゴー!」
もたれかかるような姿勢で乗りかかっているので、姫の顔も息遣いも間近に感じると言う、ある意味際どい状態に置かれてしまうマスター。
そしてそんな彼の心境を知ってか知らずか、はしゃいで前進を促す刑部姫。
はしゃぐ時に身体も揺らすので身体に感じる姫の感触が凄い事になっていた。
「ひ、姫。分かった、分かったからちょっと落ち着いて……!」
「あ、こけそうになったら罰ゲームだからね」
「罰……?」
マスターは嫌な予感がしたが、罰の内容が気になって仕方なかった。
「一枚脱ぐ」
「え?!」
身につけているのはポロシャツと海パンだけだったので、マスターは全裸で歩いている自分を想像して青くなった。
「あ、脱ぐのは私ね」
顔を赤くしてそんなとんでもなくワケの解らない事を言う刑部姫。
「姫が脱ぐの?!」
「せめて水に入ってから脱がせてね♪」
「…………!」
もはや脅迫とも誘惑とも取れる男としては魅力的この上ない提案に、マスターは誠実という名の理性を強く意識して精神的にもがき苦しんだ。
ハッキリ言って地獄だった。
しかしそんな苦しみの中に姫が一言付け加えた。
「マーちゃんはぁ、真面目さんなのも良いんだけどぉ。偶にはちょーっとだけわたしに気を許して欲しいなぁ」
「……」
結局自分に構えと言ってるのと同義だったのだが、マスターはその言葉の中にどことなく刑部姫の本心からの優しさのような気遣いを感じた。
「あ……うん……」
「はい、というわけで早く早く! もう姫的にはどちらでもいいんだけどね♪」
「えっ、あ……ぐぐっ……」
姫に感謝を感じたのもつかの間、再び狂おしい心地に襲われた始めたマスターは、いろいろな理由でふらつきながら水辺に辿り着く為に気力を振り絞った。
久しぶりです。
えーと……気楽に何とかやっていきたいです!