FGOのマスターの一人   作:sognathus
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扉を穿ち突入してきたのは沖田だけではなかった。
彼女の後ろには鬼の副長も居た。


新撰組

「御用改めだ。神妙にしろ」

 

「ええ、それです。神妙にしてください!」

 

「お前は少し落ち着け」

 

「落ち着いてますとも! はい、そこの現在進行形の淫乱黒歴史! 即刻私のマスターから離れなさい!」

 

「無粋な奴だ。いや、その前に二つ訂正を要求する。誰が淫乱だ、誰がお前のマスターだと?」

 

明らかに不機嫌そうな表情で跨るのをやめたオルタが沖田達に向き直って言った。

問われた沖田もまた不機嫌そうなのに加えて怒りが未だ収まらぬといった様子で、珍しく彼女らしくもなく語気荒く答えた。

 

「今の貴女のどこが淫乱でないというのですか! それにマスターは少なくとも貴女がここに来る前から私のマスターです! これは覆しようのない事実ですよ!」

 

「はぁ、本当に本来の私なのかと疑いたくなるくらい残念な奴だな」

 

「なんですって!?」

 

「先ず、私は淫乱ではない。私がマスターと及ぼうとしていた行為は、お互いに好意を持っていれば合意の上で最終的に行き着く深い結びつきの証だ。それを淫乱と断じるお前の残念な思考に私は同情の念を禁じえない」

 

「な……!」

 

「そしてマスターの事だ。確かにお前は私より先にマスターと契約したサーヴァントだろう。だがしかし、ここで私がマスターの事を『私の』と言ったのは、単純に所有……? でもいいが、交際権の主張だ」

 

「こ、交際って……?!」

 

「つまり男女の仲という定義においては、少なくとも今この場でお前が発した『私の』という言葉は不適切だと私は指摘する」

 

「な……!!」

 

ここまでのオルタの指摘に沖田は上手い反論の言葉が浮かばず悔しさから涙が滲みかけていた。

そして終いには「土方さぁん……」と後ろで面倒そうに控えていた土方に助けを求めた。

 

「メンドくせぇな……仕方ない。ならこういうのはどうだ?」

 

「なんだ?」

 

「こっちの沖田とそっちの沖田を交換だ」

 

「「「…………?」」」

 

疑問に満ちた沈黙が三人分発生し、その沈黙に耐えかねたマスターが彼に訊いた。

 

「それってつまりどういう事です?」

 

「だからよ、そっちの沖田が俺のになって。こっちの沖田をお前のにするって話だ」

 

どうやってそんな結論を導き出したのか、何故それが解決法だと思ったのか。

マスターが土方の考えに理解する為に頭を捻ろうとする前に二人の沖田が同時に声を発した。

 

「近付くな殺すぞ」 

 

「それは妙案です!」

 

沖田は顔を赤くしつつも目をキラキラさせて土方の発案を支持していた。

反対にオルタに至ってはいつの間にか得物()を手元に出現させ、鯉口まで切って土方に対する殺意を露わにしていた。

彼女の自制心がまだ働いているから抜刀せずに済んでいたが、これがもし抜刀した上に切っ先まで彼に向けていたらこの場がどうなっていたか判らなかった。

 

「大体何故土方までそいつに付いてきたんだ。いや、同じ新撰組で部下だからというのは解るぞ? ただそれを加味してもお前はこういう面倒な事に関わるのは明らかに厭うタイプだろ?」

 

「そりゃあれだ。暇で面白そうだったからだ」

 

種類こそ違ったが再び重苦しい沈黙が場に満ちた。

今度の沈黙は呆れや失望という感情が三者の顔から明確に見てとれた。

 

「……因みに訊くが」

 

「何だ? 俺の女になる予定の奴」

 

「やはりそう言う事か……」

 

オルタの鞘を持っている方の手が怒りと土方を拒否する感情でプルプルと震えた。

空いている方の手は今にも柄に手を掛けそうだ。

 

「まぁまぁ落ち着いて下さい! 別に沖田総司が入れ替わるだけじゃないですか。二人とも同じ沖田なんですから入れ替わった所でなんら影響は無いでしょう!」

 

「大ありだ。私は沖田ではないからな」

 

「はぁ?! また何を言い出すんですか貴女は?! 貴女はもう一人の私でしょ?!」

 

「いや、よくよく考えればお前と私は違い過ぎる。新撰組とか興味ないし、何より今の土方は嫌だ」

 

「はん」

 

明確に拒絶されたというのに土方は面白そうにニヤニヤするだけだった。

 

「だったらしょうがねぇな。この交渉は御破算ってわけだ。沖田持って帰るか」

 

「まさかのお持ち帰り?! 土方さん私をどうするつもりですか?!」

 

「話聞いてただろ? 俺もそろそろお前の事を部下以上に扱ってやらねーとと思っていたところだ」

 

「ええ?! ちょっと、それ本気ですか?! いやっ、嫌ですそれは! ますたぁ……助けて下さいぃぃ!」

 

沖田は半べそでマスターの足に縋りついてきた。

マスターもそれを拒絶する事は出来ず、震える彼女の肩を軽く叩いてあやすと、真っ直ぐ土方の方を向いて言った。

 

「なら僕が二人の代わりに新撰組に入るというのはどうです?」

 

「は?」 

 

「「え?!」」

 

予想外の提案にオルタも目を点にし、土方も意表を突かれた顔をする。

 

「そりゃ一体、何が狙いだ?」

 

「単純な話ですよ。僕と土方さんはマスターとサーヴァントの関係じゃないですか。なら常に行動を共にする方が魔力的にも安心するし、敵にとって弱点とも言えるマスターが常に身近にあるというメリットは大きくないですかね?」

 

「……一応訊くが、お前、今も偶に女体になるよな?」

 

「……そうです」

 

「ほう、承知の上ってか」

 

つかつかとマスターの前へ進み寄ってきた土方から彼を護ろうとして二人が前に進み出ようとするも、マスターはそれを手で制した、のだがオルタが更にマスターの前に進み出て土方の前に立ち塞がった。

 

「例え女の姿でもマスターはお前には渡さん」

 

「……は?」

 

「えっ」

 

「え?」

 

オルタを除く三人がきょとんとした顔をした。

そんな彼らを意に介した様子も無くオルタはマスターを庇い、土方を見据えながら続けた。

 

「私が好きなのはマスターだ。例え姿が女になる時があっても中身が一緒なら好きなのは変わらん」

 

「ん? つまりお前、同性でもイケるのか?」

 

「話を聞いていただろ? マスターなら女でも構わない」

 

「……」

 

土方は無言で親指で顎を掻きながらチラリと沖田を見る。

視線に気付いた沖田はビクリと震え、マスターの後ろに隠れた。

 

「沖田」

 

「は、はい!」

 

「召集にはいつでも応じられるように気を抜くなよ」

 

「え? あ、はい!」

 

土方はそれだけ言うと部屋から一人去って行った。

残された三人は三者三様の反応を見せる。

マスターはどんな姿でも自分が好きだと断言したオルタの情の深さに赤面し、沖田は自身の最大の危機が去った事を安堵した。

そしてオルタはといえば……。

 

「よし、これでマスターは私のものだな」

 

自信に充ち溢れた顔で満足げにそう言うオルタに、先ほどまでしおらしく落ち着いていた雰囲気はどこへやら、一瞬で頭の熱が最大値となった沖田が彼女に反論してきた。

 

「はぁ?! ちょっと、なんでそうなるんですか?! その件に関してはまだ話は終わってませんよ!」

 

「見苦しい奴だ。マスターのサーヴァントに相応しい器をここまで示したというのに、まだお前にはそれが不足していると解らないか」

 

「なんですって?!」

 

二人の沖田の言い争いはまだまだ収束しそうになかった。




登場人物が複数なので、初めてタイトルを人名以外にしました。
マスター以外がタイトルの関係者なので、まぁそれほど的外れという事もないでしょう。





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