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土地リスク、緩い目算 木曽岬干拓地、分譲募集を開始

分譲が開始されるエリア。国との契約のため5年間は「公園」とされたが、実際には利用はほとんどなかった=木曽岬町で

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 木曽岬町と愛知県弥富市の木曽川河口にある木曽岬干拓地で今月、県が初めての工業用地の分譲募集を始めた。事業開始から四十年以上放置された広大な干拓地は、二〇一四年に一部でメガソーラー発電が稼働したのに続き、新たな活用へ動きだした。ただ、土地は液状化の危険性が高く、老朽化した堤防は耐震性調査もしていないなど、リスクを抱えたままの分譲開始となった。

 伊勢湾岸自動車道を愛知県に向かって走り、木曽川を越えるとすぐ左右に干拓地が広がる。大半が整地された空き地や手つかずの草原。ソーラーパネルが並ぶ一帯もある。周囲を堤防に囲まれた干拓地はナゴヤドーム九十一個分の四百四十ヘクタール。事業は一九六六(昭和四十一)年、農地拡大のための国営事業として始まり、七三年に内部の水が干上がって土地が完成する「干陸式」を迎えた。

 だが当時、既に米は余り始めていた。事業費だけで百六十億円を費やした木曽岬干拓は、必要がないと分かっても止まらない当時の公共事業の典型となった。干拓地が三重、愛知県境にあったことで両県がもめ、土地は放置され続けた。

 国所有のままでは農地としてしか使えず放置が続くため、三重、愛知両県が二〇〇〇年に国から購入。県は百三十億円を国に支払い、干拓地の四分の三にあたる三百三十五ヘクタールを取得。周辺道路整備などに四十三億円を費やし、維持にも年三千万円かかり、国の失政のつけを県が肩代わりする形になった。

 その後も干拓地活用は進まなかった。水田用につくられた干拓地は、土地が海面より五十センチ低いため五メートルの盛り土が必要。さらに、土地購入の際に県と国が結んだ契約では、公共目的で造成した土地だからとの理由で「五年間は公共利用し、その後民間活用が可能になる」とされた。

 県は購入後、環境影響評価に四年をかけた。その後、干拓地北部の二割ほどの面積で盛り土を始めたが、事業費を抑えようと公共工事の残土だけ使うと決めたため、第一期の二十一ヘクタール分だけで七年かかり、完了は一三年。「公共利用」の制約があるため土地は五年間、公園として開放されたが、県職員も「ほとんど使われなかった」と認める。

干拓地の最初の有効活用となったメガソーラー発電所=木曽岬町で

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 この間の一二年には、盛り土をしている部分の南側八十ヘクタールで、県がメガソーラーの誘致を始め、「五年間の公共利用」の用途変更が可能となり一四年に発電所が稼働した。ところが盛り土をした土地では「契約」のため五年間を浪費し、ようやく今年、一期分として十二ヘクタールの民間への分譲が可能になった。

 今後盛り土の部分が順次五年の期限を迎え、企業誘致が可能になる。順調に売れれば、発電所を加えて干拓地の約半分の土地活用にめどが付く。伊勢湾岸道のインターに近い好立地から、県担当者は「工場や物流拠点として問い合わせがある」と手応えを話す。

 しかし、堤防は築五十年が近づき、県も「老朽化しているが耐震評価もしていない」と説明。木曽岬町も堤防強化を国などに求める。もともと川底だった土地は地震時の液状化の危険性も極めて高い。県の担当者は「マイナス要因も企業に説明する」と強調するが、災害時にどの程度のリスクがあるか、県側も正確に評価できていない実情は否めない。

 (森耕一)

 

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