2004年11月23日、東京大学の駒場祭で、日本民主青年同盟東京大学駒場班と志位講演会実行委員会が主催した講演。本文中の見出しは、民青駒場班がつけたものです。なお、文責は民青駒場班にあります。
目次1、クエスチョンタイム
2、歴史的視野でみる 3、世界的視野でみる ●日本社会の二つのゆがみ (1)アメリカいいなり政治 ●イラク戦争反対の国際的共同が広がる ●「国連憲章にもとづく平和秩序」で世界の圧倒的多数が団結できる ●憲法九条がいきる世界とアジア ●アジア政党国際会議 ●かつて分裂と敵対の大陸だったアジアに平和の激流がおこっている ●21世紀のアジアには、自民党の座るべき席はもうない (2)ルールなき資本主義……「構造改革」 ●規制緩和万能論 ●所得の再分配機能を放棄 ●「各国の経済主権の尊重にたっ た民主的経済秩序」をもとめる大きなうねりが広がる ●東アジアの変化 ●ラテンアメリカの変化 ●小泉政権がアメリカいいなりですすめる「構造改革」路線が、地球的規模で大破たん ●自主的な運動・流れを尊重するのが大事 ●覇権主義とたたかいぬいた自主独立の日本共産党の伝統がいまに生きている ●韓国大統領との会談 ●社会保障が「最優先」の仕事 ●他国の「いいなり国家」「いいなりの政党」には未来がない 4、未来社会の理想の旗を高くかかげ、国民の苦難をとりのぞく党 Q&A ●人間の欲望をどう考えたらいいのか 5、若い人たちへのメッセージ |
司会 それでは、さっそく日本共産党委員長志位和夫さんの登場です(拍手)。
1、クエスチョンタイム
司会 ここで志位さんのプロフィール紹介を兼ねてクエスチョンタイムをしたいと思います。丸山さん、松村さん、お願いします。
松村 志位さんというとみなさん、日本共産党の委員長で国会でかっこよく追及している、そういう姿を思い浮かべると思うのですが。等身大の志位さん自身のことをもっともっと知ってもらって身近に感じてもらおうということで実行委員会は頭をしぼってまいりました。そこで出てきたのがクエスチョンタイム、志位さんスピードQ&Aです。
志位さんには簡単な質問をいくつか出しますので、それに5秒以内で答えていただきたい(笑)。この質問内容は志位さんに事前にお伝えしておりません(笑)。ではよろしくお願いします。
志位 緊張しますね、これは(笑)。
丸山 はい、では質問、いきます。身長は何センチですか。
志位 180センチです(どよめき)。
丸山 家族構成を教えて下さい。
志位 妻と娘一人です。
丸山 今日の朝食は何でしたか(笑)。
講演する志位委員長 |
丸山 子ども時代のニックネームは何ですか。
志位 「カズちゃん」でした(笑)。
丸山 奥様とはどこで知り合いましたか。
志位 東大の、今はなくなってしまった駒場寮のある一室です(どよめき)。
丸山 東大生にお奨めのデートスポットはどこですか。
志位 三四郎池かな、やっぱり。今、ありますよね、三四郎池の方はね。
松村 苦手な質問も5秒以内でお願いします。
志位 どうもすみません(笑)。
丸山 休みの日は何をしていますか。
志位 休みの日、休みの日(笑)。ピアノを弾ける時は弾いています。たまにですけれども。
丸山 得意料理は何ですか。
志位 カレーライスとビーフシチューです。要するに全部煮て食べるものです(笑)。
丸山 政治家になっていなかったら何をやっていたと思いますか。
丸山 得意な楽器は何ですか。
志位 楽器ですか。得意ではないですけれども、ピアノが好きです。
丸山 最も対決しがいのあった政治家はだれですか。
志位 これはね、政策論争では橋本首相がおもしろかったですね(どよめき)。けっこう何でもよく知っているんですよ。ただ、お金は汚いですね(笑)。
丸山 はい。ところでスマップの5人の苗字を言ってください(笑)。
志位 木村拓哉さんでしょう、香取慎吾さん。この人は僕は「日本のよふけ」という番組でご一緒したのですよ。ずいぶん今はスターになってしまっていますけど、あまりまだ売れていなかった時期です(どよめき)。それから、稲垣吾郎さん。うーん(笑)、そこから先は出てこない。あと2人くらいいたっけ。ごめんなさい、全部は答えられませんで。ああ、草なぎさんね。今カンニングしてしまいました(笑)。これで勘弁してください。
丸山 では次の質問に入ります。自分の性格できらいなところはどこですか。
志位 きらいなところ。そうですね、ちょっとむずかしい。好きなところも、きらいなところも自己評価だけはご勘弁願いたいと思います。
丸山 じゃあ全部好きということで。
志位 そういうわけではないのですけど(笑)。
丸山 学生時代に読んで印象に残っている本は何ですか。
志位 そうですね。ロマン・ロランをたくさん読みました。マルクスとかエンゲルスとか、そういうものも読みましたが、ロマン・ロランをあの頃、全集が出ていて、「ジャン・クリストフ」とか「魅せられた魂」とか「ベートーベンの生涯」とか。「ピエールとリュース」という、戦争で引き裂かれた恋人の話も読みました。ロマン・ロランが大好きでした。
丸山 最近、感動したことは何ですか。
志位 感動したこと。新潟の被災地へ行ったんですよ。私は2日間かけて被災地のお見舞いをして、住宅の再建とかいろいろな要望をうけたのですが、被災者のみなさんがコミュニティで支え合ってがんばっている姿が、本当に感動しました。避難所へ行きましても、「間仕切りが必要ありませんか」と私が聞きましたら、「いや、みんなが一緒の方が安心です」という感じでした。
今はもちろんプライバシーという問題が出てきているようですけれども、非常に粘り強くコミュニティを大事にして助け合ってがんばろうという気持ちをひしひしと感じたので、私たちもボランティアなどをやっていますが、ぜひご協力願いたいと思います。これはみなさんへのお願いです。
丸山 では最後の質問です。好きな言葉は何ですか。
志位 好きな言葉。そうですね。私は、あとでもちょっと話しますが、マルクスの、未来の社会の展望ということで、すべての人間が全面的に自由に発展できる、これが未来社会の目標なんだというところです。それがとっても好きな言葉です。この前、『東京新聞』の夕刊で、一つ好きな言葉を、というのでそれを出しましたが、要するに資本主義のもとではみんなやりたいことがあり、能力があり、みんな資質をもっていても、なかなか伸ばせない。
しかしそれを本当にみんなが自由に自分の持っている力を伸ばせて全面的に発展できる、そういう社会をめざしたいというのが私たちの根本的な目標で、「人間の全面的発展、自由と発展」、これが大好きな言葉です。
松村 はい、どうもありがとうございます。苦手な質問もふくめて一生懸命答えていただきました。ちょっと時間を超えることもありましたが、感動的な話もふくめてどうもありがとうございました。みなさんの中でも、志位さんのことがずっと身近に感じられたクエスチョンタイム志位さんスピードQ&Aになったのではないかと思います。
司会 志位さん、ありがとうございました(拍手)。
志位 たいへん汗をかきました。
司会 それではこれから講演していただきますが、ここであらためてご紹介いたします。日本共産党の志位委員長です。
丸山 それでは志位さん、よろしくお願いします(拍手)。
2、歴史的視野でみる
みなさん、こんにちは。共産党の志位和夫です。今日はこんな広い教室にいっぱいで、しかも立ち見の方がこんなにたくさんいて、立って聞くのは大変だろうなと思いますが、私も立って話しますから(笑)、若いですからぜひ最後まで聞いていただけたらと思います。本当に今日、こんなにたくさん集まってくれて胸がいっぱいです。ありがとうございました。
私は今日は、「21世紀の世界の中で日本の進路を考える」というテーマでお話をしたいと思います。今、国民のみなさんの多くが将来への不安をこんなに感じている時はないと思います。たとえば雇用の問題、老後の問題、平和の問題。それから社会全体が不安になっていますでしょう。いじめとか児童虐待とか、いろいろと心が寒くなるようなことがたくさん広がっています。
そういう中で私は、若いみなさんはこれから21世紀がみなさんの活動の大きな舞台ですから、そうであるだけに今の社会の不安と息苦しさということをものすごく感じてらっしゃるだろうと思います。この不安と息苦しさの根っこに何があるかということを考えてみますと、私は政治の行きづまりが大もとにあると思います。
●1970年代までは、自民党政権なりに国民に「希望」「展望」を語ったものだった
みなさんはだいたい80年代以降に生まれた方々だと思いますが、歴史をずっと見てみますと、1960年代から70年代くらいまでの頃は、自民党は自民党なりに国民に対して夢や希望や展望を語ったものでした。ゆがんでいましたけれども、こういう展望がありますよということを語ったのです。
たとえば池田内閣があります。これは安保改定の時にできた内閣で、1960年から64年までやりました。この内閣のスローガンは、所得倍増と高度経済成長というものでした。これはこのやり方というのは公害問題が出てきたり、物価問題が出てきたり、いろいろな矛盾を噴き出させたけれども、それでも日本の経済が成長するとその一部が国民のくらしの向上にも国民のたたかいの中でつながった時期でした。
その次にあらわれたのは佐藤栄作内閣。この内閣のもとでもいろいろな悪い政治がやられたけれども、沖縄返還が実現したのがこの内閣です。1964年から72年までやった内閣ですが、この佐藤内閣のスローガンは、沖縄返還なくして戦後は終わらないと、そうまで言って沖縄の返還問題に取り組んだのです。
もちろんこれには沖縄県民が島ぐるみで本土にもどりたいという大闘争を起こして、このたたかいが背景にあるけれども、そういう中で一定の外交交渉をアメリカ相手にかなりやって、サンフランシスコ条約で一回放棄した沖縄を施政権返還させるということをやったこともあるのです。
次に出てきたのが田中角栄内閣。この内閣は1972年から74年で、みなさんが生まれる前ですね。私がちょうど大学に入った頃の内閣なのです。今、田中角栄さんと言ったら、ロッキード事件とか金権政治家ということで記憶されている人ですが、そういういろいろな悪いことをやりました。でも福祉元年ということを打ち出したのはこの内閣の時です。
ちょっと信じられないかもしれないけれども、全国の革新自治体というのがその当時起こって、そこでお年寄りの医療費の無料化などが起こる。国の制度にこれを取り入れなかったらやっていけないとなりまして、お年寄りの医療費を全部、国の制度として無料にするということをうち立てて、児童手当もつくる。物価があがったら年金もあげる。こういう制度を全部取り入れたのが田中内閣の時代でした。
これは田中角栄さんをほめているわけではありませんよ。自民党でもそのぐらい、国民の要求があって、たたかいがあったら、そういう一定の多少は夢と展望のあるようなことも国民に語ったものだったんです。
●いまは「痛みに耐えよ」というだけ
ところが80年代、90年代、そして今、こう考えますと、もう自民党政治は自民党なりの夢も展望も希望も語らなくなっているのではないでしょうか。そのいい例が小泉さんですよね。小泉さんの言うことは、もっぱら痛みに耐えよでしょう。痛みに耐えただけでは次に立派な日本が待っているのかといったら、その痛みに耐えた先にどういう日本をつくるのかというビジョンを小泉さんは語れないですね。何も語れない。
●自民党政治の歴史的行きづまり
私は今の自民党の政治を見ていますと、ともかくあとは野となれ山となれという言葉が思い浮かびます。つまり日本のこの21世紀をどうするかについて、まともな責任ある道をしめせない無責任さというのが今の特徴だと私は思います。
今、小泉首相の答弁があまりに無責任だということが問題になっていますね。私も彼とはずいぶん、3年間いろいろな論争をやってきましたから思い出すことがたくさんあるけれども、私もその無責任答弁の被害者であります(笑)。いろいろな答弁があったけれども、「イラクで大量破壊兵器、見つからないじゃないか」と私が言いましたら、「フセインだって見つからないじゃないか」というメチャクチャな答弁をやって、本当にデタラメな答弁を平気でやる。あまりに無責任でしょう。何であそこまで無責任になってしまったかと言いますと、小泉さんの個人的な資質はあると思うけれども、それだけではないのです。自民党の政治全体が未来を語れない無責任政治になってしまっている。
これはやはり60年代、70年代と比べても今の自民党はずっと行きづまってしまっている、余裕のない、国民に何の展望も未来も語れない、そういうところに来てしまっているのが今の自民党ですから、これはこの先を考えなければならないと思うんですね。
政権党というのは、いろいろな立場の政権党があったとしても、この国をどうする、あるいは国民のくらしはこうなる、日本の進路はこうなる、展望をしめせてこそ政権党でしょう。展望を語れなくなった政権党は私は退場してもらうしかないと考えますけれどもどうでしょうか(拍手)。
3、世界的視野でみる
●日本社会の二つのゆがみ
どうしてここまで自民党が行きづまったかと言いますと、私は日本の政治家が異常な二つのゆがみを根っこに持っているからだと思っています。
一つは、こんなに異常なアメリカ言いなりの国はないということ。もう一つは、大企業・財界の横暴勝手がこんなに野放しの国はない。この二つの異常です。
私たちはこの異常を正そうではないか。アメリカ言いなりを断ち切って独立・中立・平和の日本に切りかえようではないか。大企業・財界中心から国民のくらし第一の日本に改革しようではないか。この二つの大きな改革の道すじをしめしています。2004年1月の大会で決めた新しい綱領では、この二つの改革の中身を21項目の改革の要求として並べて、そして民主主義的な変革、民主主義的な革命の全体像をしめしました。
今日、私がお話ししたい主要なテーマは、共産党が言うことはまあだいたいスジが通っている。しかし理想論ではないか。そうは言ってもそれを実現する展望があるのか。こういう声があると思います。それに対する私たちの考えを、ちょっとまとめて話してみたいのです。
私たちが今あげた二つの改革の方向は決して世界の流れに根をもたない理想論ではありません。世界の今の21世紀の流れを大きな目で見ますと、そこには今日のこの主題にもありますけれども、もう一つの世界が広がっている。未来ある世界が広がっている。そしてこのもう一つの世界の方にこそ、世界の多数派の流れがある。共産党のさっき言った改革の方向は、その多数派の流れに一致している。今日はこの話をいろいろな角度からさせてもらいたいと思います。
(1)アメリカいいなり政治
まず第一の角度は、さっき言った異常なアメリカいいなりの政治、これをこのまま続けたらどうなるかという問題です。アメリカいいなりということを言いました。私は非常に思い出深い国会質疑があります。橋本首相と討論しておもしろかったという話をしましたが、橋本首相の時代に、日本はアメリカの戦後の武力行使、戦争に一度でもノーと言ったことがありますか、と聞いたことがあります。戦後、アメリカは数々の侵略をやってきました。ベトナムでしょう、それからグレナダ、リビア、パナマ、イラク。たくさんの侵略戦争をやってきました。無法なことをいっぱいやってきました。それに一度でも日本の政府は戦後、ノーと言ったことがありますかと聞きました。
これだけは質問通告を最初にしておいて、ちゃんと逃げないで答えなさいと言って、事実の問題だから言いなさいというふうに聞きました。これは答えが最初からわかっているのですが、一回もないんですよ(どよめき)。こう聞きますとやっぱり橋本さんは、小泉さんみたいにごまかすだけの術があまりないですから、素直に答えまして「一度もございません」(笑)と答えて、委員会がドッとわきましたが、一回もないのです。
こういう国はみなさん、サミットの国が7つ、8つあるでしょう。このサミットの国の中でも日本だけです。たとえばグレナダの侵略が1983年に起こります。カリブ海の小さな国をアメリカが攻めて、占領してしまう。気に入らないからと言って政権を交代させてしまう。これにはイギリスも反対したのですよ。世界の国の中で唯一、賛成ですと、けっこうですと言ったのは当時の中曽根首相だけでした。
この問題を私は前に、加藤(紘一)さんだったか、自民党の幹事長とだいぶ大論戦をやって、一回も反対したことがない、何て情けないんだと言って向こうが答えられなくなったことがあるんですね。討論会が終わったあとに加藤さんが私に、「ああ、志位さんの言う通りだった。グレナダの時に反対しておけばよかったよ」(笑)としみじみ言っていました。そういう、だれが見ても侵略だった時にも日本はかばい続けて、アメリカの戦争に一回も反対したことがない国だと。これは恥ずかしいことですね。
ただ、今おこっていることは、アメリカの戦争に何でも賛成するだけではない。アメリカの戦争の手助けに自衛隊を派兵しましょう。憲法がじゃまになるのなら憲法もかえましょう。この自衛隊と憲法という二つのところで大きな、これまでにない危ない道に踏み出そうというのが、今、おこなわれていることです。
これがさっき言った世界の流れにはたして合った流れだろうか、動きだろうか、これを見る必要があると思います。この道をすすんだら、日本はいったい世界でどんな立場に立たされるのだろうか、ここを考える必要があると思います。
自衛隊のイラク派兵について言いますと、私は先のない泥沼に今落ち込んでいると思います。アメリカ軍がファルージャで大虐殺をやっています。無抵抗の、モスクに逃げ込んだイラク人を海兵隊員が射殺する場面が流されて、アラブ・イスラム、全世界の憤激をよんでいますが、あれは本当に氷山の一角で、あれが全市でおこなわれたということが事の真相だと思います。
私たちはカイロに「しんぶん赤旗」の支局がありまして、カイロ支局の特派員がつてをたどってファルージャにいるジャーナリストに何とか連絡をつけて、ファルージャで何が起こっているかということを逐一この間、取材をしました。中には入れませんから、そういう形で取材しました。そうしましたら、民間人少なくとも2000人以上が殺害されている。2000人ですよ。4月は600人の殺害で大問題になりました。今度は2000人以上が少なくとも亡くなっている。町中死体だらけで、それが腐敗してたいへんなありさまになっている。そういう状況が現地のジャーナリストから伝わってきました。
アメリカ軍がやったことはひどいですね。まずやったのがファルージャ総合病院という病院をおさえて、どれだけ亡くなったのか、どんな死傷者が出ているのか、いっさい表に情報が出ないようにおさえつけてしまいました。次にやったのが、ファルージャに3つある診療所を空爆でみんなつぶしてしまって、お医者さん、看護師さん、患者さんもろとも全部医療機関を破壊した。そして全部、情報がぜんぜん出てこない状況にして、総突撃をやって殲滅作戦をおこなったわけです。
これはみなさん、国際人道法という法律がありまして、どんな戦争をやる場合でも絶対にやってはならないと決められているルールがあります。たとえば病院を攻撃するというのは絶対にやってはならないことなんです。あるいはモスクのような礼拝所の攻撃も、疑いだけではやってはならないと書いてある。全部、みなさんこれは国際人道法違反の戦争犯罪ではありませんか。私はこれをアメリカはずっとここまでひどい泥沼になっている時に、小泉首相が作戦が始まる前に「成功を祈ります」と言ったのを許すわけにいきません。こんなひどい状況になって、こういう戦争犯罪のお先棒をかつぐ、戦争犯罪の成功を祈る、ここまで今、日本の立場はひどくなってしまっているということだと思います。
私はこの侵略戦争に加担し、戦争犯罪に加担していくという道をずっといったら、イラクの全部の国民を敵にまわす。アラブ・イスラムの全部の国民を敵にまわす。それこそ出口のないところに日本を日一日と追い込んでいるのが今の政権だと思います。この泥沼から抜け出すには、もう一点しかありません。私たちは、即時自衛隊の撤退、これを強く求めたいと思います。みなさん一緒に声をあげようじゃありませんか(拍手)。
●イラク戦争反対の国際的共同が広がる
こんな態度をとっている国が、世界にどのくらいあるのかを見てみますと、その異常さが際立ってきます。イラク戦争に賛成した国をアメリカは有志連合と言いました。一生懸命、血眼になって数え上げた。世界191国連加盟国のうち、有志連合とアメリカが数えたのはたったの49、人口では12億人です。残りの50億人の人口をかかえる142の国はイラク戦争に反対または不支持でした。12億対50億ですから、どっちが多数派か明瞭なんです。
その上で私はちょっと計算してみましたが、戦争に賛成した49の国のうち、イラクに派兵している国はいくつか。当初派兵した国は49のうち37でした。人口で言えば10億人です。だいぶ減ってきました。しかし、この戦争にくっついていったら大変なことになるということで、どんどん撤退が始まっています。いくつ撤退したか数えてみました。そうしましたら、もうすでに撤退した国が8つ。スペイン、シンガポール、タイ、ドミニカ、ニカラグア、ニュージーランド、フィリピン、ホンジュラスが撤退しました。それから、それ以外に撤退表明をしている国があります。7つです。ポーランド、ウクライナ、オランダ、ルーマニア、ブルガリア、ハンガリー、チェコのヨーロッパの諸国がどんどん引き揚げています。合わせて15が撤退ないし撤退表明です。37送ったうち15がいなくなったら、残りは22です。この残り22の国の人口を数えると7億人足らずです。
今、多国籍軍だ何だと言っていますが、イラクでアメリカと一緒に占領軍に加わっているのはたった7億人の人口の国々です。世界32億の人口の9分の1でしょう。圧倒的な少数派です。日本の自衛隊はアメリカが必要とするまでいると言っているけれども、どんどんどんどん今、有志連合は崩壊しているわけですから。そのうちうかうかしていたら、右左を見たら、何だアメリカしかいないじゃないか、ということになりかねません。そのうちアメリカもドライに引き揚げてしまって、日本だけが取り残されて占領しているみたいな馬鹿なことにもなりかねないくらい孤立している。
世界というのはアメリカの思い通りにならない。アメリカの思い通りになるのはごく一部であって、それはどんなにみじめに孤立しているかというのは62億のうち軍隊を出しているのはもう7億人にまで減ってしまったことにもしめされているのではないでしょうか。
●「国連憲章にもとづく平和秩序」で世界の圧倒的多数が団結できる
このイラク戦争に反対する世界の多数派はどういうスローガンで今一致しているのか。これが非常に大事な点だと私は思います。私たちはイラク戦争が起こりそうになった時に、戦争をくいとめるための野党外交を党としてずっととりくみました。その時にもっとも幅広い戦争反対の共同をつくるにはどんなスローガンが大事かということをずいぶん話し合って出かけました。かつてベトナム戦争がやられた時には、スローガンはアメリカ帝国主義反対、この一点でのベトナム侵略戦争反対の統一戦線をつくろう。それで勝利したわけです。
母校・東京大学の駒場祭で500人を前に |
私たちはたとえばイラク戦争が危なくなってきた時に、中国を訪問し、あるいはサウジアラビアをふくむ中東を訪問し、私はインド、スリランカ、パキスタンに行きました。そういう国とも全部話し合って、どことでもイラク戦争反対、国連の枠組みで解決しようと一致したわけです。しかし中東の国に行きますと、たとえばサウジアラビアは親米の国です。アメリカに安全保障をまかしているような国です。そういう国とでも一致できる。
私が行ったパキスタンのことをちょっとお話しします。パキスタンではみなさん、アフガンに報復戦争をやっています。報復戦争をやっている時の最前線の基地とされているのがパキスタンです。アメリカのものすごい軍事的な圧力がかかっている。にもかかわらずパキスタンに行って政府の要人のみなさんとお話ししますと、国連の枠組みの中で問題解決するのが重要だ。戦争には絶対パキスタンは反対だときっぱり言いました。
それまで、私が行くまではパキスタンがどういう態度かわからなかったのでちょっと心配だったけれども、今首相になっているシャウカット・アジズさんと会談した時に、アジズさんははっきりそういうことを言明した。そのあと国連の安保理を舞台にして戦争を認めるかどうかが大激論になった時にも、パキスタンは非常任理事国の一つでしたけれども最後まで戦争反対の立場をつらぬきました。
やっぱりそういうドイツとかフランスとかパキスタンとかサウジアラビアとか、こういう国々もふくめて、国連のルールを守れ、この一点だったら共同できる、そういう世界に、今なっているというところが大事だと思います。もう一つの世界というのは、まさに国連のルールを守れという世界で、これは圧倒的多数の世界だということをみなさんにご報告したいと思います。
●憲法九条がいきる世界とアジア
それから、こういう中で憲法九条をかえてもよいのかということがもう一つの大きな問題だと思います。今、憲法九条をかえろという動きがずいぶん起こっているけれども、これは何をねらっているのか。このねらいを見定めることが大事だと思います。よく自民党の人たちは、集団的自衛権を行使するように憲法をかえるんだというでしょう。自衛という言葉が入っていますから何となく日本を守るために憲法をかえる必要があるように思われる方もいるかもしれません。しかし日本を守ることとはまったく関係がありません。
今度、防衛庁長官になった大野さんが、集団的自衛権が使えなくてどういう不都合があるのですかと聞かれて、本音を言ってしまいました。こう言いました。「イラクに自衛隊を派遣する場合に制約をともなうからだ」。これは全部、本音ですね。イラクの制約とは何か。いつも小泉さんが言っていることですよ。戦争に行くんじゃありません、戦闘地域に行くんじゃありません、人道復興支援です。こう言っているでしょう。あれが制約なのです。あの制約をなくすために憲法を改定するというのはどういうことか。戦争に行くのです。戦闘地域に行くのです。アメリカと一緒にああいう無法な戦争をやるのです。そのための憲法九条改定なのです。これが相手方のねらいです。
考えていただきたいのは、今この九条をかえることが、今起こっている世界の流れに合っているのだろうか、沿っているのだろうかというと大問題です。
憲法が制定された当初、政府・文部省が『新しい憲法のはなし』という、こういう冊子を出しました。読んだことがありますか。けっこういいことが書いてあるのですよ。これはビックリすることが書いてありまして、憲法九条についてこう言っているのです。これは1947年8月の時点ですけれども。
「こんどの憲法では、日本の国が、けっして二度と戦争をしないように、二つのことをきめました。その一つは、兵隊も軍艦も飛行機も、およそ戦争をするためのものは、いっさいもたないということです。これからさき日本には、陸軍も海軍も空軍もないのです。これを戦力の放棄といいます。『放棄』とは、『すててしまう』ということです。」なんとわかりやすい(笑)。「しかしみなさんは、けっして心ぼそく思うことはありません。日本は正しいことを、ほかの国よりさきに行ったのです。世の中に、正しいことぐらい強いものはありません。」(拍手)
いいことを言いますね。これは文部省ですよ。当時の政府は、それなりに信念があったとも言える。やっぱりこれは当時、第二次世界大戦が終わった直後ですから、たくさんの人が亡くなった。もう二度とあんな戦争はごめんだ。もう戦争のない世界をつくろう。国連憲章がつくられ、国連がつくられます。そういう熱気がムンムンと伝わってくるようなところから憲法はスタートしました。
しかしそのあと、米ソの対決時代が来るでしょう。おたがいにアメリカも侵略すればソ連も侵略するというひどい時代になります。そういう時代になりますと、なかなか九条が現実とちょっと合わないというふうに見える時もありました。しかしです、21世紀をむかえた世界とアジアはどうなっているかというと、まさに九条がピッタリ来るような世界とアジアになっていると私は思うのです。
●アジア政党国際会議
2004年9月に中国・北京でアジア政党国際会議という会議が開かれました。これはすごく大きな会議で35の国から83の政党が参加した会議になりました。ほとんどのアジアの主要政党が参加しました。しかも特定の政治的立場に立った会議ではないのです。政権党も野党も、革新政党も保守政党も、大きな党も小さな党も。唯一の参加資格はアジアの合法政党。暴力ばかりやっているような人たちはお断りということです。武装集団、非合法の集団はダメだけれども、合法政党だったらみんな参加してくださいという会議です。
それだけ多様な政党が集まって、日本共産党からは不破さんが参加しました。そういう多様な政党が集まったら、もうてんでバラバラで何も方向が出ないかというと、そうではないのです。北京宣言という宣言を満場一致で採択して、その中には、戦争のない世界とアジア、という方向のはっきりした展望が出てきました。こう書いてあります。
「われわれは国連憲章、平和五原則および「バンドン精神」十原則の目的と精神にしたがい、対話と協議を通じて相異点を解決することを主張する。」「われわれは、戦争、侵略、覇権に反対する。」
つまり、国連憲章にもとづいて、もめ事が起こったら対話で話し合い、解決し、戦争・覇権主義も侵略もいっさいごめん。こういうことなんです。
●かつて分裂と敵対の大陸だったアジアに平和の激流がおこっている
アジアのいろいろな色合いの政党がみんな集まった巨大な会議で、そういう方向が確認されたことはすごいですね。20世紀のアジアを見ましたらみなさん、まず日本軍国主義が東アジアを植民地にして、ひどい状態にする。戦後、アメリカやフランスの帝国主義がやってきて、インドシナ半島、ベトナム中心の侵略をやる。侵略がおこなわれて、その侵略によってアジアの民族が真っ二つに引き裂かれて、おたがいに殺し合う。こういう敵対と分断の大陸だったアジアで、もう21世紀はそうではないのです。国連のルールを守って、話し合いで問題をみんな解決しようという平和の激流が起こっているのは、これは何ともうれしい話ではないでしょうか。
●21世紀のアジアには、自民党の座るべき席はもうない
この中でもう一つ、不破さんが帰ってきておまけで聞いて驚いた話があります。この大事な会議で、主だった国の政権党で参加しなかったのは日本の自民党だけだったのです。しかも日本の自民党が参加しなかったことが、会議で問題にもされず話題にすらならなかった。インド共産党(マルクス主義)のイェチュリさんという国際局長がいまして、私もよく知っている人ですが、不破さんがイェチュリさんと話して「自民党は来ていない」と言ったら、「えっ、本当なの」と初めてその時、知ったということです。要するに自民党が参加しなくてもだれも驚かないし、気づかれもしない。これは何ともわびしい話ですよね。隣の北京でアジアの全部の政党が集まって、戦争のないアジア、このために話し合いをやっている時に、欠席したあげくに話題にもされないというのではわびしいかぎりではありませんか。
私はこれを聞いて思いました。今、いくら自民党が日本の中ではわれこそが多数派だ、本流だと威張ってみせて、そして仮にですよ、絶対にやらせてはならないことだけれども憲法九条をかえて、日本を戦争する国にかえてしまって、さあ、いざアジアに戦争にのりだそうと。のりだそうと思っても、いったいどこにのりだそうというのか。アジアではもう平和の激流が滔々と起こって、もうもめ事はみんな話し合いで解決する、平和の激流が起こっている時に、行き先などないじゃないか。21世紀のアジアには私は、自民党の座るべき席はもうないということをはっきり言えるのではないかと思うのであります(拍手)。
小泉さんと論争していますと、国際社会への貢献と言います。でも小泉さんの国際社会というのは、とってもせまい国際社会です。アメリカの言いなりになる、ごく一握りの国際社会です。しかし世界に目を開いたら、もう一つの世界が広がっている。そこには国連のルールを守り、対話と相互理解によって問題解決をする戦争のない世界をめざす大激動が広がっています。私たちがこの激動に参加する道は簡単です。日米安保条約をなくすことです。アメリカ言いなりの根源にある軍事同盟をなくすことです。軍事同盟を結んでいる国は韓国と日本しかアジアにはないのですから、この軍事同盟をなくして、本当の独立国日本になって、この平和の大きな流れに日本が参加する方向こそ未来があると私は考えますが、みなさんどうでしょう(拍手)。
(2)ルールなき資本主義……「構造改革」
さて、第二に、さっき大企業・財界の横暴勝手と言いましたが、経済の面でこれを野放しにしている政治にはたして先があるのだろうかという問題を考えてみたいと思います。自民党の政治は特にさっき80年代、90年代に入って特に行きづまってきたと話しましたが、この行きづまってきた時代にとってきた経済政策は、「構造改革」と自称する、アメリカの指図にしたがった経済政策です。
「新自由主義」の経済政策とも言われるものです。小泉内閣は、それを極端にまですすめました。この構造改革路線、新自由主義と言われる路線には、二つの特徴が大まかに言ってあります。
●規制緩和万能論
第一は、規制緩和万能論です。あらゆる規制は取りはらえ。すべてを市場にまかせれば、うまくいく。これが第一の特徴なんですね。
それで暮らしを守るルールをどんどん壊してきました。例えば労働のルールでも、今若い人の間で、正社員がどんどん減っているでしょ。新規採用がどんどん減る。フリーターと言われる、とっても不安定な働き方をさせられているパートやアルバイトや派遣労働がうんと増える。そして正社員のほうはもう過労死寸前の長時間過密労働が強要され、不安定雇用の人たちは、もう本当に人間扱いされない、いつ首が切られるかわからない、本当にひどい、モノ同然の働かせ方をされている。こういうひどい、人間らしい労働の条件を奪ってしまったのは、規制緩和万能論です。
●所得の再分配機能を放棄
第二の特徴は、この政策は、政府の役割で、非常に大事な役割である、ちょっと難しい言葉なんだけど、所得の再分配機能を放棄するという特徴があるんです。
これはどういうことかと言いますとね、今資本主義の世の中に住んでいますから、どうしても貧富の格差がでてきますよね。所得の格差がでてきます。政府の役割というのは、所得の格差が広がったら、やっぱりこれを、お金持ちの人から一定の負担をしてもらって、貧しい人や所得の少ない人に所得を再分配して、ならしていく。これが政府の役割だっていうのは、立場が違っても、大体当たり前の話だったのです。自民党だって昔は、そういう立場をとっていた。
この、所得を再分配する役割を果たすためには、二つ大事な国の機能があるんですね。一つは社会保障。社会保障によって、国民の生存権をきちっと守っていく。もう一つは税金なんです。税金を、大金持ちや大企業にちゃんと応分の負担を払ってもらって、そして、社会全体のために使う。そして、税金のあり方は、所得の多い人はたくさん払ってもらう。所得の少ない人は少ない負担でいい。これを累進税制といいます。これは当たり前で、それによってこそ、所得の再分配ができる。
この、社会保障と税金によって、貧富の格差をちぢめて、より公正な社会をつくる。これは政府の大事な役割です。これを投げ捨てるっていうのが、構造改革=新自由主義の路線の特徴です。
●「各国の経済主権の尊重にたっ た民主的経済秩序」をもとめる大きなうねりが広がる
この二つの特徴をもって小泉政治はずっとやってきたのだけれど、私はみなさんに見てもらいたいと思うのは、このアメリカ言いなりですすめているそういう構造改革、追従主義の経済路線に未来はあるかという問題です。これを世界を見て考えてほしいと私は思います。
●東アジアの変化
二つの地域で起こっている変化をみなさんに紹介したいと思います。一つは東アジアです。さっき、アジア政党国際会議が開かれたということを言いました。何で開かれたのでしょうか。アジアの中でも特に東アジアで、アメリカ言いなりではない自主的な国をつくろうといううねりがあっちこっちで広がっていることを反映しています。その自主的な国づくりの動きがどこから起こったかと言いますと、一九九七年のアジア通貨危機が一つの契機になっています。この時、アメリカの投機的資本がアジアの各国に流入して、通貨が破たん状態になります。その時にIMF(国際通貨基金)という機関がありますが、これがアメリカ主導でやってきて、IMF路線をおしつけるのです。
このIMF路線はどういう路線かというと、各国の通貨が大変になっているでしょう。緊急の融資をやるのです。緊急の融資をやってやるから、その引き替えにということで規制緩和をやれ、民営化をやれ、社会保障の切り捨てをやれ、投資の自由化をやれ。全部、おしつけなのです。このIMF路線をおしつけられて、唯一これにきっぱりノーと言ってはねつけた国が一つだけありました。マレーシアです。マハティール首相が責任者をやっていたマレーシアは、はねつけるのです。マレーシアはマレーシアなりの自主的な再建をやると言って、この自由化路線をはねつけて、自主再建をやってマレーシアだけが見事に立ち直るのです。
ではIMF路線の毒薬を飲んでしまった国。タイ、インドネシア、フィリピン、韓国です。この国がどうなったかというと、経済の大破たんが起こって、そして国民生活が苦しくなる、ひどい状態になりました。
私は最近読んだレポートでおもしろかったのは、第一生命経済研究所という財界系のシンクタンクが試算を出しています。受け入れた4つの国、タイ、インドネシア、フィリピン、韓国がどうなったかという経済の分析をやっています。これらの4つの国は1998年から2002年までの5年間、経済成長率がIMF路線を受け入れたおかげで年平均4.1%も引き下げられた。それだけ打撃がある。4.1%引き下げられたら五年間でどれだけの富が奪われたかと、私は概算で計算してみましたら20兆円の富が奪われたという計算になりました。
この4つの国はだいたいGDPで四つ合わせて日本の5分の1ですから、20兆円の富が奪われたというのは日本で言えば100兆円の富が奪われたという計算になります。だいたい今、日本のGDPは500兆でしょう。500兆の5分の1の100兆円、これをアメリカに持っていかれた。100兆円の富がとられたということは、100兆円国民のくらしが貧しくなったということです。もし日本でそんなことが起こったら100兆円の負担増ですから、ちょっともう、大変な社会の打撃となります。そういうことをおしつけられた。
ですからその経験をふまえて、マレーシア流でなければダメだと。アメリカ言いなりで国の経済をやって、新自由主義の経済を受け入れていたら大変な事になるというので、その気運が広がっていく。韓国でも盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権になって対米自主性と言い出したでしょう。
タイでは2000年に政変が起こって、タクシン政権が生まれました。タクシンさんがやっていることも、アメリカ言いなりではない自主的なアジアというスローガンです。タクシンさんというのは、とってもシンプルにものを言うのが好きな人で、たとえばこういうスローガンなのです。「アジアの富はアジアで使おう」と言うのです。アメリカにもって行かれるなというわけです。
この流れがずっとあって、今、東アジアでもそういう自主的な国の流れが起こり、アジア国際政党会議にもつながるような、平和な流れにもつながっている。なかなかすごいでしょう。
●ラテンアメリカの変化
それからもう一つみなさん、見ていただきたいのはラテンアメリカの変化です。ラテンアメリカと言いますとだいたい19世紀から20世紀、ずっとアメリカの裏庭と言われて、政治的には独立しているけれども実態的には植民地という状態が続いてきたところです。ところが最近、大変化が起こっています。アメリカから独立して民主的な、国民を大事にする国づくりのための大革命が各国で起こっています。
それを私たちがそういった形で知ったのは、この『ベネズエラ革命』という本です。2004年の私たちの党大会にベネズエラの大使がお見えになって、この本を知りました。読んでいない方はぜひ見ていただくとおもしろいです。どういう本かと言いますと、ベネズエラでは1998年にチャベスさんという人が大統領になった革命が起こります。革命と言いましても、選挙で大統領が選ばれて、多数の意思で革命がすすんでいるという革命です。そしてチャベス大統領のもとで、アメリカ言いなりではない自主独立のベネズエラ。石油などの資本を外国資本のために使うのではなくて国民のくらしの向上にあてるベネズエラ。こういう国づくりがすすんでいる。
しかしどこの国にも悪い連中というのはいるもので、革命がすすめば反革命が起こるのです。どういう連中がグルになったかと言いますと、マスコミと労組と財界と軍部とアメリカのCIA。この五人組が徒党を組んで、クーデターを二回にわたって起こすのです。しかし、二回とも国民がチャベス政権を守ってクーデターをはねのけて前進しているという、この時の生のドキュメントです。
これはNHKのBSテレビでも、ちょうどその時に入っていたテレビ局があってクーデターが失敗するまでの一部始終をとった番組をこの前やりまして、すごい番組があるものだと思って私は見ましたけれども、チャベス大統領が軍部に拘束されて、島に幽閉されて命が危なくなる。その時にベネズエラの国民は2500万人ですけれども、2500万人のうち700万人の国民が全部街頭に出てデモンストレーションをやって、大統領をかえせと大統領宮殿のまわり、官邸のまわりを取り囲む。
そうしますと軍部もいよいよ動揺して、これはまずいということで態度をかえて大統領をかえそうということになって、最後は大統領官邸のところに大統領がヘリコプターでもどってくるのです。そのシーンまで撮ってあるのです。かっこいいですよ、これは(笑)。ヘリコプターがライトをつけてバタバタバタバタともどってきて、みんなが大統領万歳、革命万歳とやっている姿ですけれども、下手なハリウッド映画よりもよほどおもしろい(笑)。すばらしい大激動が起こっていると思って見ました。
話を聞きますと、ベネズエラだけではないのです。エクアドルでも左翼政権ができた。昨年はブラジルとアルゼンチンでもできました。今年、つい最近ですけれどもウルグアイでも左翼政権ができました。ほとんどの南米で左翼政権の方向にぬりかえられた。何でこんな変化が起こったのだろうか。
私はいろいろ調べてみましたら、ここにもIMF路線の破たんがあるのです。さっきアジアは97年に通貨危機と言いましたが、ラテンアメリカの場合は70年代の末に、債務不履行ということになります。債務不履行というのは、借金が返せなくなってお手上げになる状況です。この債務不履行になった時に、IMFが乗り込んでくるのです。そして緊急融資をやる。やっておしつけたのが同じです。規制緩和と民営化と社会保障の切り捨てと投機の自由化。IMFはどこでもやっているのは同じなのですね。世界どこでも同じです。アフリカへ行ったって、ロシアへ行ったって、アジアへ行ったって、ラテンアメリカへ行ったって、世界中どこでも、乗り込んでおしつけるものは一つの薬しかない。経済はみんなその国によって違うのに、飲ませる毒薬はみんな一つ。新自由主義という毒薬しか飲ませないのです。処方箋はそれしかない。それを飲ませました。
しかしそれをやりましたら、80年代と90年代の20年間、失われた20年とよばれるほどラテンアメリカは経済が停滞し、それこそ困難におちいりました。どういう事がおこなわれたかと思って見てみますと、何でも民営化です。電力の民営化でしょう。電話の民営化でしょう。鉄道の民営化でしょう。郵政事業の民営化。年金の民営化。やっている事はわが国と同じです。民営化万能をやって、民営化した企業が今度は投機の自由化で外国資本にもっていかれて餌食になる。これも長銀が破たんした新生銀行と同じです。やっていることはまったく同じです。
●小泉政権がアメリカいいなりですすめる「構造改革」路線が、地球的規模で大破たん
それで貧富の格差が広がって、国民がみんな怒り出して大革命が起こっている、これが今の状況です。ですから東アジアを見ても、ラテンアメリカを見ても、共通しているのは要するに小泉内閣がすすめている構造改革路線が地球的規模で大破たんしているというのが、今の世界の状況だということを、私は言いたいと思います。
こういう弱肉強食の寒々とした社会にしてしまうような改革というのは先がないということがアジアでもラテンアメリカでも、今、劇的にしめされつつあるのではないでしょうか。そうではなくて、すべての国の経済主権を尊重する。対等平等の民主的経済関係を国と国のあいだでつくる。その国の経済の運営は多国籍企業優先ではなくて、国民生活優先に切りかえる。それから社会保障を充実させ税制を民主化して所得格差をただして、資本主義の中であってもまず公正な社会に切りかえていく。
私はこうした世界で起こっているもう一つの世界がめざしている方向にこそ、ここでも未来があるということは明らかだということをみなさんに言いたいと思います(拍手)。
●自主的な運動・流れを尊重するのが大事
平和の問題、経済の問題、両方の角度から見ていきましたけれども、アメリカの思う通りの世界にはならない。自分の国の進路は自分の国で決めるというのが、どの国もその権利をもっており、たがいに尊重し合うというのが新しい世界の姿になっている事がおわかりいただけたと思います。
●覇権主義とたたかいぬいた自主独立の日本共産党の伝統がいまに生きている
今、平和と経済の問題を話してきて、その先で話したいのは、この自主独立ということが本当に大事だという事です。私はさっきパキスタンまで行って、パキスタン政府と交流したという話をしました。どこから始まったかと言いますと、今の大使の前の大使のフサインさんという人が駐日大使だった時に、日本で活動していて日本共産党を発見するのです。日本の共産党は世界の共産党の中ではずいぶん特別な共産党だ、ソ連の言いなりにならない自主独立の共産党だ、こういう党があるということに彼はビックリして発見して、本国にくわしいメモを書いて送ります。
本国の方も、ああそうなのかという話になって、私たちの訪問ということになりました。2年前ですけれども私はイスラマバードまで行く時に、そういうふうに全部、日本共産党の事をかなり知っていますから、とてもあたたかく歓迎してくれるのです。私はインドに行きまして、スリランカへ行って、スリランカまで行ったところで次に行くパキスタンの新聞を読んでいましたら、イランのハタミ大統領の一行がちょうどパキスタンを訪問するのにぶつかるという日程でした。
私たちはたった5人です。私と緒方さんと森原さん、その他の5人です。ハタミ大統領の方は隣国ですから大代表団を連れて500人なのです(どよめき)。これはちょっとまずいところにぶつかったなと。ハタミさんとぶつかって肩身がせまくなるかなと、そんなどうでもいいような(笑)冗談を言いながらスリランカのコロンボで、パキスタンに行ってだいじょうぶだろうかという話になっていたところに、東京の駐日大使のフサインさんからメールが届きます。志位さんたちの一行を心からもてなすから、安心して来てくださいというメールが届きます。
ですから私たちは安心して、まあ行ってみようじゃないかと、どうなるかわからないけれども、というので行ってみたら、本当にあたたかい歓迎ぶりでした。その時に応対してくれたのが、今度、首相になったアジズさんという、当時、財務大臣が中心になって応対してくれました。ハタミさんが来てものすごい交渉をやっている最中に、われわれに代表団にもかなり時間をさいて応対してくれました。アジズさんとの会談に行きますと、パキスタンの国旗と日の丸がありました。うーん、日の丸かと(笑)。赤旗だったらもっとよかったのに(笑)、という感じがしたのですが、向こう側としては日本の国の代表として応対するというくらい真剣に応対してくれました。
どこで心が通じたかといいますと、ソ連のアフガン侵攻に反対した党だというところなのです。と言いますのは、パキスタンというのは、ソ連のアフガン侵攻でものすごい被害を受けました。どういう被害かといいますと、300万人の難民が入ってきた。カラシニコフというソ連製の銃が入ってきた。それから麻薬が入ってきた。この三つがなだれ込んで、国がメチャクチャになってしまった。そこからものすごく貧困もひどくなるという状況が起こって、もうあんなことはこりごりだという思いがあるのです。
あの侵略に反対した党だというところから、まず心が通じるわけです。いろいろな事を話していても、イラク戦争反対もちろん一致します。テロをなくすには戦争ではダメだ、貧困をなくす事が必要だ。まずその事に一致して、その通りだという話になります。それからソ連の話になりまして、一緒に行った緒方さんが当時カブールまで行って、調べてみたらこれはソ連の侵略だとわかって、徹底的にソ連と論争して、論争しているうちにソ連がつぶれてしまって、ソ連がつぶれて万歳と私たちは歓迎したのですと言ったら、アジズ現首相がうれしそうに、ああそうですかと、相手は反論する前につぶれたのですねと言って大笑いになる。そういう感じで一番心が通じ合うのは、やっぱり自主独立なのです。
●韓国大統領との会談
どの国であれ、どの政党であれ、自分の進路は自分で決める。この立場に立ってこそ連帯はできるということを私は感じました。他に若干言いますと、韓国のノ・ムヒョン大統領が2003年6月にお見えになりました。その時の印象も同じ印象をもちました。国会で応接室で歓迎のパーティをやりました。通訳がいませんから、私はハングル語をできませんから、通訳がいなかったら話ができないと思って、ともかく自己紹介だけはハングル語でやれるようにしておこうということで、まる覚えをしました。
これは日本共産党の事をハングル語では、イルボンコンサンタンと言います。委員長はビヒョンジョン。志位和夫はシイカズオですね。ですから、日本共産党委員長の志位和夫です、というのは、イルボンコンサンタン・ビヒョンジョン・シイカズオイムニダだというのです。そこまでは絶対に忘れないで言おうと。それで自己紹介しました。そして貴国との交流が発展する事を願っているという話をしたら、ノ・ムヒョンさんがちょっと私の予想を超えた応答をしてきました。こう言ったのです。
私は韓国でも共産党を受け入れる時こそ完全な民主主義になると考えます。韓国をあなたが訪問すれば歓迎します。私が日本共産党を受け入れる初めての大統領となるでしょう。
こう言いました。これは会話録が韓国でも報道されて大ニュースになりました。その時に私は、韓国でもずいぶん変化が起こっているなと思ったのですが、同時に韓国のマスコミの反応がおもしろかったのです。韓国のマスコミが日本共産党をみんな紹介するのです。どう紹介したか。一つみなさんに紹介しますと、「東亜日報」という韓国の大きな新聞はこう書きました。
「1922年に発足した日本共産党は旧ソ連や北朝鮮の共産主義とは違って私有財産を認め、日本の侵略戦争に反対するなど自由と民主主義を優先的な基本理念とする合法的な進歩政党。北朝鮮とは83年、北朝鮮のアウンサン・テロ事件を契機に交流が途絶えた状態だ。最近では有事法制反対の署名運動を主導し、政治家の妄言糾弾の先頭に立っている」(笑)。これが紹介です。合法的な進歩政党、自由と民主主義を基本理念とする。ソ連や北朝鮮とは違いますと紹介しています。
これはなかなか「読売」や「朝日」の社説には出ません。日本でも紹介してくれたらよいのですが(笑)。向こうでもやっぱり、日本共産党がこう紹介されていると聞いて、非常にうれしい思いをしました。いずれ私たちと韓国との本格的な交流がずっと始まってくると思いますが、私はその時にはソ連や北朝鮮のそういう間違ったやり方にきっぱり反対した共産党。そして侵略戦争や植民地支配に反対してきた。そしてそういう点ではまさに韓国の人々とも心の通う、共通の基盤に立っている共産党。そういうものが非常に力を発揮する、交流のたしかな土台になるだろうという展望をもっています。
●インド共産党(マルクス主義)との交流
それからもう一つだけみなさんに私の体験を言いますと、世界を見ますと、世界の共産党というのはかなりソ連ベッタリだった党が多いのです。そういう党はソ連がつぶれた時に一緒につぶれました。しかし、その中でも力をもっている共産党があります。力をもっている共産党を見ますと、どこも自主独立なのです。一つだけみなさんに紹介したいのは、インド共産党(マルクス主義)という党です。さっきパキスタンの話をしましたが、パキスタンに行く前に私はインドにうかがって、インドの当時の政権党とも議論しましたけれども、インド共産党(マルクス主義)のみなさんと私たちは友好関係があるので、ずいぶん親密な交流をいたしました。
このインド共産党(マルクス主義)というのは何しろ西ベンガルという州がありますが、左翼政権の中心をなしていて、ほとんどこの左翼政権の中心は共産党です。27年間統治しています。西ベンガルと言いますとコルカタ、昔はカルカッタと言いましたが、これを州都とする人口8000万です。人口8000万の州の政権党を27年間やっている。しかも今年の総選挙で、このインド共産党(マルクス主義)は躍進して44議席獲得して、左翼ブロック全体で61議席獲得して、国民会議派と政策協定を結んで政権与党の一角に入りました。
ですからインドは人口10億の国ですけれども、共産党が与党の国なのです。ですからアジアはずいぶん変化しているでしょう。中国がいろいろとジグザグを経ながらも、今、市場主義を通じて社会主義へという方向をつきすすんでいる。人口13億です。インドは人口10億の国の政権党に共産党がとうとう入るところまできた。合わせたら23億でしょう。これはすごい変化なのですが、どうしてこんな力をもったのか。
これはやっぱりソ連と中国の干渉とたたかってきた歴史があるのです。私はこのインド共産党(マルクス主義)の書記長のスルジートさんという、もうずいぶん年配の方ですが、長い会談をやりました。この西ベンガルの左翼政権に対して、特にソ連派と中国派の両方から暴力的な攻撃がされました。襲撃されたりテロで殺されたり。何人亡くなったのですかと聞いたら、西ベンガルだけでソ連派と中国派の両方からの攻撃で3500人の党員がこの20数年間で亡くなっているというのです。それでも絶対に外国の言いなりにならない。ソ連の言いなりにも、中国の言いなりにもならない。命がけで自主性を守りぬいて、国民の利益を守りぬいてがんばってきた。それが今、ずっと西ベンガルだとかいろいろなところの前進につながって、とうとう政権の一角をしめるところまで前進につながっている。
西ベンガルまで私は行きました。デリーから西ベンガルまで行きまして、コルコタの空港におりましたら、何と赤旗がずっとひらめいていて、集会をやっているのです。インド共産党(マルクス主義)の西ベンガルの方に、あの集会はいったい何ですかと聞いたら、志位さん、あなたを歓迎している集会です、と(笑)。それが1000人くらい集まっているのです。それであいさつをしました。そうしましたら、両党の友好は永遠にと言ってずっとシュプレヒコールがあがりました。ものすごい熱烈歓迎なのです。
●社会保障が「最優先」の仕事
それでこの西ベンガルでどんな事がやられているか、私は新しい首相とも会談して話を聞きました。今度新しく首相になったのは、名前がブダデブ・バタチャリアさんといいます。みんな、ブダデブさん、ブダデブさんと愛称でよんでいるのです。このバタチャリア首相と会って、何に今、力を入れているのですかと聞きましたら、貧困対策だというのです。インドの貧困対策の中で、実は西ベンガルが一番すすんでいます。この27年間で貧困層を56%から26%に30%減らした。しかしまだ26%残っている。
そこでこのブダデブさんがやっている改革は何かというと、貧困層全員にグリーンカードをわたしているそうです。このグリーンカードをわたすとどうなるかというと、教育はタダ。医療がタダ。職業訓練がタダ。住居も保障されます。私は農村まで行って、そのグリーンカードで入った住居に入ってみました。私の家より広いくらいなのです。もちろん粗末ですけれども、粗末なりに質素な清潔な家が提供されている。
私は聞きました。人口8000万のうち26%にカードを配って、財源はどうするのですか、と聞いたら、ブダデブさんの答えはズバリ一言です。トップ・プライオリティー。最優先の仕事だと言うのです。貧しい中でも貧しい人々を貧困から脱出させることは最優先の仕事だと言うのです。
つまり貧困克服とか社会保障とか人民の生活向上に、まずお金を使う。残ったお金で他の事をやればいいのです。こういう考え方なのです。これは私は政治の真髄を言い当てていると思います。今、小泉さんは社会保障の問題をちょっと言うと、財源がない、財源がないと言うでしょう。財源がない、財源がないと言っていながら無駄づかいをやっている。
しかしそうではないのです。国の税金というのはまず最優先で貧しい人々のため、社会保障に使う、教育に使う。残ったお金で他の事をやればいいではないか。だから財源の事なんて、志位さん、そんな心配しないでくださいよと向こうから言われてしまいました。
でもよく考えていまして、外資をうまく導入して、治安も安定していますから、そこで産業をおこしながら、そこで税金をちゃんととって財源にあてているとか、いろいろな柔軟な施策をやっているのだけれども、やっぱりそういうとりくみがすすんでいることにビックリしました。自主独立の立場に立っている党は、その国の国民の生活を命がけで守るという点でも、本当に共通するものがあると私は感じました。
●他国の「いいなり国家」「いいなりの政党」には未来がない
平和の話、経済の話、自主独立の話とやってきましたけれども、自分の国の外交にしろ経済にしろ自分で決めなければダメですね。そしてもう一つ大事なことは、他の国におしつけないことです。それぞれの国、それぞれの文明には、それぞれ流の発展のしかたがありますよね。イスラムにはイスラム流の発展のしかたがある。中国には中国流の発展のしかたがある。だからおしつけない。自分の考え方をおしつけない。われこそは民主主義だ、この民主主義にあてはまらないものはみんなテロリストだ。あのブッシュさんの姿勢は一番悪いですね。一番悪いのは価値観をおしつけることであり、そのおしつけに唯々諾々と従うのが一番悪いのではないでしょうか。
世界を見ますとおしつけ国家、おしつけ政党、これには未来はないし、言いなり国家、言いなり政党にはもっと未来がない。このことをみなさんに強調したいと思います(拍手)。
4、未来社会の理想の旗を高くかかげ、国民の苦難をとりのぞく党
最後に、21世紀の世界のもっと大きな発展方向について私の考えをのべて話を終わりたいと思います。ずっと話をしてきましたが、日本共産党という名前をかえないのかと、よく聞かれます。かえたらもっと大きくなるのに。かえたらもっとイメージがよくなるのに。いろいろと言われますが、私はかえませんといつも言っています。ずっと末永く愛用していきますので、どうかご愛顧のほどを(笑)。
これは私たちが当面は民主主義の改革をすすめますが、それに安住する党ではない。この名前は私たちの未来社会の展望と結びついている名前だからです。今の日本というのは資本主義の社会でしょう。資本主義の社会というのはだいたい世界の大きな部分をしめています。この社会の特徴は何かと言いますと、経済の活動を個々の企業や、特に大企業がになっているということです。その経済の原動力は何かと言いますと、もうけですよね。利潤です。利潤第一主義、もうけ第一主義。もうけがすべてです。これがこの社会の原理です。
●利潤第一主義では人類はもたない
しかしね、世界を見たらこの利潤第一主義ではもう人類がもたなくなってきているのではないか。資本主義が耐用年数を尽きつつあるのではないかというふうに思われる事がたくさんあるのではないでしょうか。たとえば私は最近読んでおもしろかった本で、東大の佐藤勝彦先生が『宇宙「96%の謎」』という本を書かれていますね。これは実におもしろいのです。宇宙のビッグバンとかインフレーションの理論をやってらっしゃる物理学者です。
この方が最初の方で、宇宙は無限の大きさをもっているから、そこには他にも知的生命体があるだろう。人間以外にも知的生命体があるだろう。では、宇宙に他に知的生命体があるなら、なぜ地球をその宇宙人は訪れないのだろうか。
やっぱり考えることが違いますね。そういうことを考えて、この疑問に対するもっとも簡単な答えは、知的生命体の社会は不安定なもので、その寿命は短く、宇宙生命体となる前に自滅するからだと。ちょっとこれは展望のない答えですけれども(笑)、そういう答えが一番簡単な答えだというのです。この佐藤勝彦さんが言うには、環境問題、人口問題、貧富の格差、それから何よりも核兵器の問題。そういう問題を見ると、人類は今、宇宙生命体として発展するか、はかない終末をむかえるかの岐路にあるのかもしれません。
そのくらいの危機感をもっているのは、これは私たちと立場は同じです。私はていねいに読んでみたのですが、佐藤先生の立場は、寿命が短くて自滅するというよりも宇宙全体のあり方が今新しい膨張の加速度を増しているために、来ようと思っても来られないのだというのがどうも答えのようですが、そこは説明しているとややこしくなるので話をしませんけれども。宇宙生命体となる前に知的生命体が自滅する危険があるというのは、危険性の警告としては私はその通りだと思います。そう思って興味深く、ああ物理学者の方もこういうふうに考えていらっしゃるのかと思って読みました。
●貧富の格差
と言いますのは、今、資本主義のもとで世界を見ますと、不況と恐慌があるでしょう。これはなくせませんよね。それから貧富の格差がある。なくせない。南北問題、なくなりません。どうしたってなくならない病気があるのです。最近読んだ中で私は、貧富の格差という点ではILOの事務局長が2003年に出した報告でこういう一節があるのです。世界人口のうち富裕層、つまりお金持ちを形成する20%と貧困層をつくる20%を比較した場合、格差が広がりつつある。1960年で30対1だったものが99年には74対1までいった。かつては30対1くらいの貧富の格差が、今はもう74対1、ここまで拡大した。
それから最近、国連が出した『人間開発報告書2003』というのがありまして、それを読んでいましたらこういう一節があります。これは本当に胸が痛む一節です。
多くの国にとって1990年代は絶望の10年だった。およそ54ヵ国が90年に比べて現在の方が貧しくなっている。21ヵ国で飢えている人々が増え、14ヵ国ではより多くの子どもが5歳になる前に死亡している。12ヵ国では小学校の就学率が低下している。34ヵ国では平均寿命が低下した。以前はこうした生存状況の後退はほとんどなかった。この10年間、54ヵ国の国々では絶望の10年だった。
この54のほとんどの国は南アジアとそしてサハラ以南のアフリカに属している国々です。南北問題がここまで深刻化して、世界文明の発展に取り残されて、ただ吸いあげられているだけの国が54をしめる。この南北問題。これも今のシステムの中で解決できない。
●地球環境問題
そしてもう一つ、さらに深刻な問題としてあげたいのは地球環境の破壊の問題です。特に今、地球温暖化の問題は大問題でしょう。この間も、これはIPCC(「気候変動に関する政府間パネル」)という、政府間の専門家の集団があるのですが、このIPCCが明らかにした数字があります。それによると地球の平均気温はずっと安定していたというのです。過去1000年間、ほとんど変化がない。せいぜいプラス、マイナス1℃くらいしか変化がない、ずっと安定状態だった。
それが二十世紀に入って急激に上昇を始めて、この100年間で0.6℃平均気温が上がる。このまま二酸化炭素が増え続けると、100年後の2100年には最大で5.6℃平均気温が上がるというのです。とてつもなく暑苦しい世界になるわけです。
たんに暑苦しいだけではありません。こうなりますと、多くの動植物が絶滅の危機に瀕する。砂漠化がすすんで、飢餓が広がる。さらに海面上昇がすすんで、陸地が消滅する。最大88センチ、2100年までに海面があがる。しかもCO2、二酸化炭素は発生量を抑えたとしても、海面上昇の方はおさまらないというのです。おさえたところでもずっと上がり続ける。ですからこれは、まったなしまで来ているのだなと思いました。
この問題では京都議定書というものを1997年に結んだでしょう。結んだあとアメリカは脱退して、脱退の理由は経済の不利になるから。勝手な理由をつけてアメリカは脱退する。日本は一応これを批准したけれども、しかし日本政府が立てているCO2削減の計画はひどいのです。絶対にこれはCO2が減らない計画を立てているのです。
しかもその上、原発を20も増やす計画をつくっているのです。今だってたくさん原発がつくられた国になっているのに、原発を20つくるなんて、経産省でも絶対できないと言っている。そういう計画までいれて、つじつまをあわせようという計画だけれども、日本政府もやる気がない。アメリカは脱退している。世界の2つの国でだいたいGDPの46%をしめているのです。GDPの46%をしめる資本主義国が地球温暖化に関心をもたないとなったら、これは資本主義には地球管理の能力なしと言われてもしかたがない。そこまで事態は深刻になっていると思います。
私はその点で処方箋をどうするのか。二重の処方箋がいると私は思っています。一つは、ともかく資本主義の枠内でもルールをつくる必要があります。京都議定書はその一歩だったけれども、やっぱり市場まかせにしないで、きちんとした規制がいる。あたりまえの事であります。これは、私が最近読んだ中で小宮山さんという東大の教授の方、今度は総長になる方ですね。この方が『地球持続の技術』という本を書かれていて、この方は主にエネルギーの技術論から、ずっと今の温暖化の問題などもふくめてやっているのですが、市場に委ねられるかという問題提起をしています。
環境エネルギーの問題のように徐々に損なわれていく文明の基盤に対して人類全体が長期的な対応をしなくてはならない状況において、市場がうまく機能するだろうか。そうは思えない。市場原理への期待は、短期の視野で企業が対応するかぎり成り立たないのではないだろうか。
こういうふうに市場まかせにしたらダメ。京都議定書は第一歩だったのだけれども、本当に地球環境を守るルールを、まず資本主義の枠内でもつくりあげる必要がある。しかしその上で私はもう一つ言いたいけれども、なおそれでも資本主義という個々の企業が利潤第一主義を原則にした制度を続けるかぎり、はたしてその制度のもとで地球環境が持続可能なものとして維持できるだろうか、私は大いに疑問だと思います。資本主義には管理能力がないということが、これまでの経過を見ても、それから今後の問題を見ても言えるのではないか。
地球のかけがえのない環境を守っていく上でも、資本主義を乗り越えた次の社会にすすむ必要がある。私は格差の問題、南北問題、地球の環境ものべましたけれども、根っこにあるのはもうけ第一主義、利潤第一主義でしょう。乗り越えるにはどうしたらいいか。
●生産手段の社会化
私たちはキーワードとして、「生産手段の社会化」、これが大事だと言っています。つまり工場や機械や原料など、生産のために必要なものが、今、個々の企業や資本家がにぎっている。これを社会全体がにぎっていく社会化をする。そのことによって生産の推進力の動機がかわってくる。これまではもうけのための生産だった。社会全体から見れば、社会全体のための生産になる。社会全体の人間が精神的物質的に自由に豊かになるための生産になる。その生産への切りかえをやろうではないか。それを大もとから切りかえて、本当に自由で平等な人間社会、未来社会の道を開こうではないか。これを私たちは、この未来社会を社会主義・共産主義の社会とよんでいますけれども。
日本共産党という名前は、そういう人類史的な今の資本主義という制度を乗り越えるロマンと結びついた、たいへんロマンチックな、自分で言うのも何ですが、名前だということをぜひご理解いただいて、どうか日本共産党という名前を私たちがかえないで、これをずっと使っていきたいと考えるのは、未来社会の大きな展望と結びついているからだということをぜひご理解いただきたいということを最後にのべまして、私の講演を閉じさせていただきます。長いこと、ご清聴ありがとうございました(拍手)。
********* Q&A *********
●人間の欲望をどう考えたらいいのか
Q 人間の欲というものはどんなに時間が経っても消えるのはむずかしいものだと思うのですが、そこらへんは未来社会で解決していくものでしょうか。欲というものが増え続ければ、環境問題というのも解決するのがすごくむずかしい事になってくると思いますが、そこらへんをくわしく教えていただきたいと思います。
志位 人間の欲望という問題を考えた場合に、その欲望の中には肯定すべき欲望もありますよね。たとえば、豊かに自由にくらしたい。自分の才能を伸ばしたい。それも一つの欲求ですし、そういう大いに肯定して伸ばしていくべき欲求があります。しかし今の資本主義のように、他の人々を犠牲にして自分だけがお金をもうける。これが資本主義の原理ですね。自分たちがお金をもうけるためには他の人を犠牲にしたり、他の人からすいあげたりする。それをかぎりなく広げていくような欲望は、これはわれわれは肯定的にとらえることのできない欲望として考えます。
さっき言ったように、資本主義の社会は個々の企業とか大企業が自分のもうけと自分の欲望のためにそれを最優先させて、他の人たちのことをかえりみないで生産するためにいろいろな矛盾が起こっている。しかしそれを、その根っこはさっき言ったように生産手段がそういう生産のための道具ですね。それは一部の人たちに独占されているために起こっている。
ですからその生産手段を社会全体のものにすることによって、生産の動機を、もうけのための生産から社会全体のものにかえようというのが私たちの未来社会の展望だと申しましたでしょう。そうなると、人間の欲求とか欲望にも変化が生まれてくると思います。やはり資本主義のもとでは、かなりある意味では人を蹴落とさないと、たとえば自分の職も得る事ができない。弱肉強食のそういうモラルがどうしても支配していく事になってきていると思います。いわゆる社会全体のための生産というところに切り替わっていったら、人間と人間の関係もかわってくると思います。人間と人間の関係も、おたがいを尊重しあい、おたがいの自由やおたがいの成長を尊重する。そして人間のいろいろな能力が全面的に発達する事が保障される。
そういう人間と人間の関係がかわってくると思います。人間関係が、ハッキリ言えば弱肉強食の人間関係から、本当に自由な人間の自由な共同にかわってくると思います。その時には、欲望のあり方もかわるでしょう。今みたいに、あとは野となれ山となれではなくて、地球全体の事を考えて、たとえばエネルギーの問題でも、小宮山さんの本を読みますと、生産力が上がっても、たとえば低エネルギー社会をつくることは十分できると。それから化石燃料にたよらないで、できるだけ自然エネルギーにかえるということで、これだけのエネルギーの展望がある。処方箋はあるのです。ただ、処方箋を実行しようと思ったら、もうけ第一主義ではなかなか実行できない。
やっぱりそういうことで、生産力が上がっても、しかしエネルギー問題を解決できる、環境問題を解決できる、そういう社会的理性が働く社会になっていく展望が開かれると思います。だから人間の欲望、欲求というものもかわるし、今よりもずっとかわってくる。社会によってそれがかわってくる。このように思いますし、私は未来社会はもっと今のようなギスギスした人間関係が、本当に自由で平等な人間の、おたがいに尊重し合う、そういう人間関係にかわっていくと思います。
ちょっとむずかしい質問でしたが。たいへんむずかしい質問です(笑)。
生産の方法がかわると、欲求とか人間の意識とか、今よりも大きな変化が起こってくるだろうという展望をもっています。無理矢理それを起こすのではなくて、社会を根っこからかえることで人間の関係もかわると思います(拍手)。
●二大政党制を打開できる現実的な展望は
Q 共産党さんの考えている事がたいへん志位さんの発言でよくわかりました。そういうのが実現されればいいなと思いますが、実際に日本の国会では自民党と民主党という二つの政党が対決姿勢をしめして、共産党は前回の選挙で議席が減りました。このような現状を打開できる、いわゆる二大政党制というものを打開できる現実的な展望というものはおもちでしょうか。
志位 これは二大政党制というのがどうしてできたのか、ということを考えてみていただきたいのです。私は今日の講演の最初に、自民党が行きづまっているという話をしましたでしょう。かつての自民党をほめているわけではないけれども、かつては夢が語れた。今は夢も希望もなくなっているという話をしましたね。自民党が歴史的に行きづまっている。
この行きづまった自民党を何とか、目先のにない手をかえる事で延命させようというのが、この二大政党制の動きだと思います。しかしこのアメリカ言いなりの日本をかえる力があるか。それから大企業や財界の横暴を本当に正す力があるかといったら、自民党にはないけれども民主党にもないのです。日米安保条約は肯定ですし、それから日本経団連からお金をもらうという点では自民党も民主党も一緒でしょう。これはかわらないですよ。
だから大もとのところをかえる力はありません。それで私は、自民か民主かという動きの中で、そうすると共産党は選択の外におかれて、なかなかむずかしい状況がこの間の選挙でありましたが、しかしそういう今の政治の矛盾をかえられないということでは二大政党制は両方とも一致していますから、この動きを打ち破ったら次の局面がまた訪れると思っています。
打ち破った経験が、私は端緒的にでもあると思っています。それは、二大政党制の動きは、実は十年前から始まっています。一番最初に始まったのは1993年の細川内閣の時に、自民か非自民かと言われたでしょう。そして非自民政権が実際にできました。あの時は、自民、非自民、共産カヤの外、と言われました。それで共産党はどっちにつくのですかと、私はサンデープロジェクト等に出るといつも聞かれて、どちらにもつきませんと。両方とも同じものだ。何度もしつこく聞くものですから、そんな汚れたカヤの中には頼まれたって入るものか(笑)なんて啖呵(たんか)を切って、がんばりました。
これは、この時も二大政党制をつくろうという動きがあったのです。小沢さんが中心になって。小沢さんはこの非自民の勢力は8会派あった。8会派の勢力を改進という一つのグループにまとめて、新しい政党、新進党をつくった。しかしうまくいきませんでした。羽田政権、細川政権、つぶれてしまうし、その上、改進をつくって新進党をつくったけれども、新進党が何をやったかというと座り込みでしょう。みなさんは覚えていないかな。1996年に住専問題というのが起こりました。あの時に彼らがやったのは、自民党よりももっと悪い案を出したのです。銀行寄りの案を。論戦をやることがないのです。
ですから私なども予算委員会に行っても、誰もいないのです、野党席。ボイコットですよ。私と自民党だけで論争をやっているのです。こういうふうになって、新進党は座り込みです。国会の赤じゅうたんの上に座り込むものだから、みんなダニがうつっちゃって、かゆいかゆいなんてやっているのです。最後は座り込みです。それでとうとう新進党は大分裂でしょう。これは大破たんしました。
だからこれは第一の二大政党づくりの動きが失敗したという事です。そのあとどうなったかというと、共産党が大躍進しました。90年代の後半の95年の総選挙とか97年の都議選とか98年の参議院選挙とか、ずっと躍進が続きます。何で躍進したかというと、二大政党制という、共産党の躍進をくいとめる防波堤がくずれてしまった。くずれたらもう、自民党の行きづまりがあらわになって、もう共産党しかない。ワーと躍進が起こるわけです。
そこであわてて、もっと本格的な二大政党制をつくろうというのでやってきているのが、今の自民か民主かの二大政党制です。今度の違いは日本経団連が直接のりだして、それから経済同友会までのりだして、財界仕込みで全部シナリオを書いてやっているというのが違う点です。財界はお金まで出して、ヒモまでつけてやろうという点が、もっと今度は手強いです。
しかし自民・非自民で政治がかわらなかったのと同じように、自民・民主でも政治はかわらない。やろうとしているのは消費税の増税と、憲法の改悪でしょう。両方とも同じでしょう。この道をすすんだら、どんどんどんどん世界から、さっきのもう一つの世界ではないけれども、もう一つの世界とはまったく違う方向に日本が行ってしまう。ますますこれは矛盾が広がります。
だからここで私たちはがんばって、国民のみなさんと一緒に結びつきを強めて、大いにたたかいを広げてがんばることが大事で、こういうふうにがんばっていくことが次の躍進につながると思っています。今度、自民・民主という防波堤が決壊したら、もっとおもしろいことが起こりますよ。どうなるかはわからないけれども(笑)。自民党の危機は本当に深くなりますでしょう。
それでも向こうはまた新しいことを考えてくるでしょう。共産党おさえこみの反動的ないろいろなしかけをつくってくる。反動勢力ですから、反動をやらなかったら反動になりませんから、やるでしょうけれども、その時はまた私たちはがんばる。そういうつばぜり合いなのです。
だから二大政党と言われて、今、たしかにこの間、後退したけれども、しかし二大政党の中に、今日、私が話したような大きな世界の展望を語れる党なんかないでしょう。そしてそういう方向をめざしている党もない。そういう志をもっている党もない。やっぱりこれはかえることができると、私は思っています。ここががんばりどころなので、ぜひお力を貸してほしいと思います(拍手)。
●戦争はどうしたらなくせるのか
Q イラク戦争がおこっていますが、戦争をどうやってなくせばいいのですか。
志位 今日は質問がみんなむずかしい。大問題ですよね。これは歴史的にずっと見ていく必要があると思います。20世紀のはじめまでは戦争というのは悪いことでも何でもなかったのです。国家の権利だと国際社会で認められた時代があるのです。強い国が勝手に、植民地を勝手に切り取って分捕り合戦をやるのがあたりまえという時代が、20世紀の最初でした。2つ、世界大戦がありました。第一次世界大戦、第二次世界大戦がありました。
戦争の惨禍を2つ経て、だんだん人類の中で戦争は違法なものだという流れが強まってきます。最初にその流れが起こったのは第一次世界大戦が終わったあとの1929年のことですが、パリの不戦条約。あそこで戦争放棄という方向がかなり出てきます。
しかしそれがうまく実らないで第二次世界大戦が起こってしまいます。第二次世界大戦が起こったもとで、今度こそ戦争を起こさないようにしようという事でつくったのが国連でした。国連憲章がつくられて、国連憲章というのは戦争のない世界というのが目標だという事を高らかに刻みました。国連憲章には武力行使を禁止すると書いてあります。武力による威嚇もやってはいけないと書いてある。武力行使をやってよい唯一の例外は2つだけ。自分の国が攻められた時の自衛の反撃と、国連の安保理が決めた場合の各国の共同制裁。この2つ以外は戦争は禁止というのが国連憲章でした。
ですからここでまた戦争のない世界に一歩すすみました。しかし国連は、つくったその時から機能しなくなりだします。それは米ソ対決が起こって米ソ対決の時代になる。アメリカもソ連も両方とも安保理で拒否権をもっているでしょう。ですからどんな悪いことをやっても安保理で裁かれることがないのです。アメリカはベトナム侵略をやる。ソ連はチェコやアフガン侵略をやる。両方とも侵略合戦をやっても、国連では何も決められないという状態がずっと続きました。
ところがソ連がくずれて米ソ対決が終わりになる。新しい時代が21世紀にきました。そうなってくると、ずいぶん世界の様相がかわってきた。さっき言ったように、イラク戦争がその一つ大きな転機だったと思います。さっきイラク戦争に賛成した国の人口が12億、反対が50億と言いましたね。しかも派兵しているのは12億のうち7億と言ったでしょう。ごくわずかになっているわけです。
こうなったのは、とうとうイラク戦争に国連がお墨付きをあたえなかったからなのです。国連では国連安保理事会でずっと長い事、去年(2003年)の3月に向けて長いことずっと議論がされる。それでロシアも反対でしょう。中国も反対。フランスも反対。そして非常任理事国の6つの国、中間と言われる国も全部反対。国連安保理でとうとうイラク戦争のお墨付きの決議をあたえなかったのです。国連が認めていない戦争なのです。
ですから世界のずっと大きな流れからすると、20世紀の最初は戦争が合法的にみなされてきた。1929年にパリの不戦条約ができて一歩変化が起こった。1945年に国連憲章ができる。しかしそのあとは米ソの対決でなかなか逆流も起こる。しかし今、いよいよ戦争のない世界という方向がずっと今、つくられつつある。イラク戦争は国連も認めない戦争だった。無法な戦争だった。だからこそ今、世界が怒っている。だからこそ今、イラクの人々があんなに怒っている。
ですからこれはね、一歩一歩なのです。戦争のない世界に向かって、これは人類全体が大事なのです。しかし私は21世紀というのは本格的に戦争というものをこの地上から一掃する条件ができつつある世紀に今なってきていると思いますよ。やっぱりアメリカだって、また同じような事をやるかもしれないけれども、その時にはもっとひどい国際的な批判を受けるでしょう。そうそうそんな事が繰り返せるものではない。やはり戦争のない世界とアジアという方向にすすみつつある。この全体の流れを見るのが大事ではないでしょうか。
特にアジアが一番すすんでいるのです。東アジアでは平和の流れがずっと起こっている。日本が東アジアに住む国として、戦争のない世界の方向で頑張るんじゃなくて、戦争の片棒をかついでいるというのでは、これは恥ずかしいことですから。やっぱり、この日本でね、戦争のない平和な世界とアジアのための運動を起こすことが大事だと思います。そのことをもって、お答えとさせていただきます(拍手)。
司会 それでは次の質問どうぞ。それでは今の青い服の方の四列くらい後ろの長袖の黒っぽい服を着ている方。メガネをかけた方。
松村 大きな声でお願いします。
●政治の無関心をどうみる
Q 政治の無関心が今国民の風潮になっていると思います。というのは、総選挙の時などで投票率が大体50%ぐらいなんですよね。政治の無関心、そこのところを志位さんはどうお考えですか。
志位委員長の講演を聞く参加者 |
ですから、今政党支持ないっていう人も、棄権してしまう人も、あるいは民主党にこの前入れてみたけどどうも民主党はおかしいなっていう人もふくめて、やはり真剣に政治のあるべき姿を考えていく中で、投票率が上がっていくということを私は願っています。
ただ、一つみなさんに考えてほしいのは、今の選挙制度のひどさの問題なんですよ。これは私たち、うんと反対したけれども、小選挙区制というのが導入されました。これは1つの選挙区で1人しか当選しないでしょ。これがやっぱり、多くの民意を切り捨てる制度になっている。この制度がいろんな弊害をもたらしているという問題が一つです。
それから、その時に同時に政党助成金というのが導入されて300億円のみなさんの国民の税金が政党に山分けされているという状況があるんですね。私たちは、もらっていません。これは憲法違反だといってもらっていません。
この二つの制度があって、大政党がますます政党助成金を使って、小選挙区の選挙でコマーシャルを流すんですよね、じゃんじゃかじゃんじゃか。私たちもコマーシャルをちょっと流しますけどね、まあ、評判が悪かったのもあってね(笑)、ちょっといろいろと評判を良くするためにやっていますけどね、あんまり流せないですよ、お金がないですから。
そこのところで、今の小選挙区と政党助成というこの二つの制度は、国民が本当に自由に政治に参加する上ですごく障害を作っていると思いますね。これは選挙制度の問題として大いに正していかなければならない問題だと思いますけど、しかし、私は投票していない人が無関心だと思っていません。そういう人ほど考えている場合も少なくないというふうに私は信じながら活動をやっているということなので、そういう方も多いんじゃないかと思っています。
松村 はい、ありがとうございます。次の質問の方。
●アラウィ政権はアメリカの傀儡(かいらい)政権か
Q 志位さんに質問は、イラクのアラウィ政権はアメリカの傀儡政権であるのかいないのかと、この点を答えていただきたい。
志位 これは、今の政権は、アメリカの非常に強い支配下の下に作られたものであるということは否定できないと思います。アラウィ政権の首相のアラウィさんの言動は、アメリカがやっているファルージャの虐殺を支持していますよね。ああいうやり方は私は反対です。
しかし、大統領はどういう態度をとっているかといったら、あのファルージャの作戦に対して、反対だと言っているんですね。それから、ファルージャの作戦の後、政権から離脱した閣僚もいるんですよ。だから、確かに全体としてアメリカの影響力が強い下で作られた政権だと。これは否定できないけれども、単純に全部そういうふうに決めつけるのは、それだけの根拠はわれわれはもっていません。これが一つです。
それから実際に、たとえば大統領と首相が違うのですから、ファルージャの問題一つとっても、単純に傀儡政権だと言えないというのが私の見解です。
レジスタンスという問題についても触れておきましょう。私たちはイラクで今、抵抗している人たちにはいろいろな要素があると思っています。正当な抵抗運動をやっている勢力も、私たちはあると思っております。たとえばイスラム聖職者協会の方々は、日本人の人質問題の時に非常に協力的にやってくれました。ああいう方々も抵抗している。これは正当な抵抗の権利を行使している人々もいると思います。ある意味ではレジスタンスと言っていいような人々も。
しかし全部がそういう人たちかというと、そうではないと思います。だって外国人のテロリストもその中にいるのです。実際にアルカイダのザルカウイという、そういう勢力も混じっているわけです。このテロリストが混じっている。それから正当なレジスタンスと言われる人々も混じっている。しかし正当なレジスタンスをやっているという人の中でも、例えば人質作戦が許されるかと言ったら私たちは許されないと思います。いくら大義をもった立場でたたかっているといっても、人質をとって殺すということは私たちは絶対に反対です。これは(拍手)。それから、テロリストは許せない。アルカイダのようなテロリストは絶対に私たちは許すことができません。こういう人たちを、本当の意味で抵抗している、レジスタンスという正義の権利を行使している人たちと同列に置くというのは、私たちは絶対に許すわけにはいかないと思います(拍手)。これが私の見解です。
司会 ありがとうございます。もうそろそろ時間ですが、もう少しだけ質問を受けつけたいと思います。よろしくお願いします。
●高校生の運動は社会に影響を与えているか
Q 高校生です(拍手)。高校生で今、戦争反対の署名やピース・ウオークなどをしてきているのですが、こういう運動は国会や小泉さんに届いているのですか。高校生のこういう行動とか活動とかは、社会にどんな影響をあたえているのですか。教えてください(拍手)。
志位 ものすごく大きな影響をあたえていると思います(笑)。私自身も参加したけれども、高校生のみなさんがいろいろなピース・ウオークとか集会を開きました。それから大阪では若い方々が、戦争アカンという人文字をつくりましたよね。なかなか共産党のことは報道しないマスコミも、高校生のみなさんのそういう運動はヘリコプターがいっぱい飛んで、戦争アカンの人文字を映しましたよね。ですからこれは私は、高校生のみなさんたちの活動は、深いところで、何を聞いても馬耳東風の小泉さんであっても、「ああ高校生までこうなっているのか」ということで、これは必ず大きな影響をもって社会全体を動かしていると思います。
何より私が見ていて、何と言いますか、胸がいっぱいになりますもの。高校生の平和集会の時に、テレビがみんな取材にきたでしょう。取材にきましたよね。さすがの民放も映していました、夜11時のニュースで。みんなそれぞれすばらしい発言をして、聞いているうちに本当に胸が熱くなりました。私もそういうふうに思ったけれども、われわれのような中年世代、さらにもっと上の世代の方もふくめて、みんなにどれだけ勇気をあたえているかわからないのが若い人のそういう活動だと思います。
ぜひなかまを広げてもらって、今度はもっと多くで、今度は万の単位でやってほしいし、そのうち10万、20万という単位でやったら、これは日本がひっくり返りますね(拍手)。ですからぜひがんばってねということを言いたいと思います。がんばりましょう。
司会 まだまだ質問は尽きませんが、時間の都合がありますので質疑・応答はこれで打ち切らせていただきます。申し訳ありません。みなさん、いろいろありましたがご協力ありがとうございました(拍手)。
それでは最後に志位さんから、今日の参加者へのメッセージをいただきたいと思います。よろしくお願いします。
5、若い人たちへのメッセージ
志位 だいたい質問の時間をもっととれればよかったのですが、いろいろとあって時間が短くなってしまって、もっといくらでも話をしていたいなという気持ちなのですが。
出た質問がみんなむずかしい質問でした。人間の欲望でしょう。二大政党制でしょう。戦争をどうなくすか。政治の無関心でしょう。それからレジスタンスの問題もあったし。高校生の問題もありました。
非常に出た質問がみんな、真剣であり、私もそう簡単には答えられないような質問が次々に出て、非常に私も今日は新鮮な気持ちで討論ができてうれしく思っています。最後に一言ということなので言いますと、私が好きな言葉は何ですかとこの前聞かれた場面がありました。それはあるFMラジオで私をよんで1時間の番組でした。放送されるのが11月27日といったかな。これは全国ネットなのだけれど、首都圏だけ入らないというので残念なのですが(笑)。本当に残念なのですが、1時間の番組で私の日頃考えていることとか、パーソナリティの方がうまく聞いてくれて、本当に楽しい番組で。最後に若者たちにメッセージをということを言われたので、その時にも言ったのですが。
私は一つみなさんに贈りたい言葉として、マルクスが17歳の時に書いた「職業選択に関する一青年の考察」という論文があるんですよ。どうやって職業を選ぶべきかという職業選択についての考察をした論文なんです。17歳の時のもので残っています。その中でマルクスが、人間の幸福とは何かと論じています。そしてもう一つ、人格をどうやれば完成できるのかということを論じます。人間の幸福とは何か。人格を完成させるためには何が必要なのだろうか。こう問題を立てるのです。
彼はいろいろと考察していて、自分自身の利益のためにのみ働く場合は本当の幸福な人間とは言えないし、自分自身の能力・人格を完成する道も十分に開かれないだろうという結論を出します。これは科学的な結論に裏づけられたものではありません。まだ『資本論』も書いていないうちですから。そのあと、『資本論』を書くのですから。まだ若い頃で、科学的な世界観が確立していない時期のものですけれども、自分自身のための仕事では、それだけやっていたら本当の幸福も人格の完成も得られない。
じゃあどういう時にそれが得られるのかというと、こういう言葉が出てくるのです。人は最大多数の幸福のために働いた人を、もっとも幸福な人だと言うというのです。つまり自分の幸福だけではなくて、最大多数の人々の幸福のために働いた人をもっとも幸福な人と言うし、そういう働きの中でこそ人格の本当の完成が得られる。自分自身がつまり成長できるし、完成していくことができる。そこに本当の幸福と人格の完成があるということを宣言する論文があります。
これは17歳の時に書いて、マルクスはそのあといろいろと波瀾万丈ですけれども、『資本論』に結実したような偉大な著作をのこしていくわけですが、まさに自分自身の幸福だけではなくて、いかに万人の幸福のためにやるかという中でマルクス自身が人格を完成させました。マルクスはいろいろな困難や不幸があっただろうけれども、しかしある意味ではマルクスの若い頃の自分が定めた方針によればもっとも幸福な人生を送れたのがマルクスだったのではないかと思います。
ですからぜひ若い方々が、まず自分が本当に望む道、進路を探していく際に、自分自身の利益やしあわせという事、これは当然、追求すべきですよね。もちろん恋人の利益もね。家庭の利益も追求すべきです、しあわせも。追求すべきだけれども、同時に社会全体の幸福や利益を追求すると。その中でこそ本当に人々の幸福があるし、成長もある。マルクスの17歳の時の言葉は、そういう普遍性をもった真理だと思うので、これをみなさんに紹介して終わりにしたいと思います。ぜひそういう道を一緒にすすんでもらえたら、うれしいなと思っています。
司会 どうもありがとうございました(拍手)。
(参加者の感想より)
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