骸骨魔王のちょこっとした蹂躙   作:コトリュウ
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第28話 「黒焦げ魔王」

 

「なんだあれは?!」

 

 次なる魔王軍の手勢に関しては情報を得ていた。

 数百程度の小規模部隊。

 これならば再度小都市で一当たりし、撤退戦を敢行しながらエ・レエブルまで下がり、そこでの包囲戦で殲滅できる。

 そう判断していた。

 いくらアンデッドだ、悪魔だと言えども、全方位を囲まれた状態で魔法付与された遠距離攻撃や魔法攻撃を浴び続ければ、耐え切れる筈がないと。

 王都で暴れたという死の騎兵(デス・キャバリエ)であろうとも、四方八方から手傷を受け続ければ、その身を保持できるはずがないと。

 

「なんなんだ! あの化け物は?!」

 

 若き軍師は、ゆっくりと進軍してくる黒い鎧を着込んだ大盾を持つ戦士、闇色の靄を纏った骨だけの馬を見て、レエブン候に付いていった元オリハルコン級冒険者との会話を思い出す。

 

『いやぁ、カッツェ平野にはいかない方がイイですよ。若い奴らは平気で討伐依頼なんか受けていますけど、昔あそこでは帝国兵が山ほど殺されたんですから。たった一体の戦士のようなアンデッドにですよ。あの逸脱者が出てきて騒動は収まったらしいですけど……。ヘタをしたら帝国が滅びていたかもしれませんねぇ。あの獣人国家のように。あっちも今じゃ伝説扱いですけど、魂喰らい(ソウルイーター)って知ってます? 骨だけの馬みたいなアンデッドで、たった三体で十万以上の獣人(ビーストマン)を殺したって話です。ははっ、規模がデカすぎて嘘みたいですよね。でも滅びた都市の跡は現実に残っていますから笑えませんよ。ほんと、私らがアダマンタイト級になっていたとしたら、やり合えていたんですかねぇ。絶対無理だと思うんですがねぇ』

 

 あの時は話が長いと眉を顰めたものだが、思い出した今は背すじが凍る。

 再度城壁の上から魔王軍を見すえ、遠眼鏡を震えた手で支える。

 大盾と波打つ長剣を持つ黒い戦士、それとは別に歴戦の傭兵であるかのようなアンデッド。フヨフヨと浮かぶ骨馬の後方には、巨大な捻じれ角を備えた巨体の悪魔。中には軽装鎧を着込んだ宮廷騎士のような細身の悪魔までいる。

 最後方には、悪魔とは異なる形状の一本角を天に突き上げた、部隊の中でも最大の体格をもつ蟲のような化け物。全身に纏う黒き宝石のような輝きの甲殻には、どんな傷もつけられそうにないと察してしまいそうだ。

 

「ち、ちがうちがう! 今までのアンデッドや悪魔とは世界が違う!」

 

『これが本隊か?!』と叫びそうになる。今まで戦っていたのは前座でしかない。こちらの身体を温めるための、観客の気持ちを高ぶらせるための捨て駒だったのだ。

 

「駄目だ……、罠も奇襲も、剣も魔法も――効くものかっ!!」

 

 遠眼鏡を叩きつけ、頭を抱える。

 もう終わりだ。

 用意していた罠も、配備していた伏兵も、全てが無駄だ。襲い掛かれば、その分だけ死体が増えよう。もちろん人間の死体だけが。

 

「ラナー殿下は知っていたのか?! レエブン候は?! 死の騎兵(デス・キャバリエ)とやらが伝説級のアンデッドだと? 理解していたのか?! 人類には手も足も出ない相手だと! その上で時間を稼げと言ったのか?! 私たちに無駄死にしろと! 抵抗など出来るわけもないと知りながら? 虫のように死ねと?! 最初から――最初からそのつもりだったのかぁ!!」

 

 あまりの怒りに我を忘れそうになる。

 即座に『いや、王女殿下は知らなかったのだろう。知り得るわけがない!』と己を律しようとするも、次から次へと怒りが湧いてきて仕方がない。

 魔神が引き連れる軍勢を相手に時間を稼ごうとしたら、軍勢の全てが魔神だった。

 そんな事態を誰が予想できるのか? そう、誰も予想しようがないのだ。だから誰も悪くはない。悪くはないのだ。

 

「くそっ、撤退だ! もはやどうにもならない! エ・レエブルへ退却しろ! 退却だ!!」

 

 相手に一撃を喰らわせてから撤退戦へ移行するつもりで、焼け焦げた都市を整備していたのだが、それも無駄になってしまった。

 今は逃げることしかできない。目くらましの意味で火だけは放つつもりだが、意味が有るかは不明だ。『魔王軍は逃げる者を追わない』という情報が正しいことだけを祈るとしよう。

 

「だがどうする!? エ・レエブルへ逃げ帰ってどうするんだ? あの地は籠城戦に向かない。しかもこの地から無理矢理避難させた住民で溢れている。今から他の街へ移動させるのは無理だ」

 

 馬にしがみ付くかのように強引に跨り、焦げ臭い無人の都市を後にする。

 周囲では「どうして撤退するんだ? あの程度の数、地の利があれば!」と勇ましい不満をぶつけてくる冒険者や請負人(ワーカー)たちの姿も確認できるが、大半は暗い表情で馬を走らせているだけだ。

 彼の者らは感じているのだろう。

 知り得てはいなくとも、肌で理解してしまうのだろう。

 羽虫のように潰されるのだと。

 

「どうするどうするどうする? どうすればいい?!」考えに考え抜けば、何かしらの策を講じることはできた。今まではそうだった。ゴブリンの群れに襲われた時も、事前に察知していた優位を生かして圧勝できた。

 しかし、もう戦ではない。殺されるだけの蹂躙劇だ。どうやって死ぬか、どうやって殺されるか、それだけの選択だ。

 

「――いや待て。そう……、死ぬとして……、どうせ死ぬのであれば……」

 

 若き軍師は、事此処に至りてすべてを放棄しようと決断した。

 戦いを捨て、役職を捨て、国を捨てる。そう、この戦いは王国軍と魔王軍との戦争。

 ならば――

 

「エ・レエブルの全住人を、流浪の民としてトブの大森林へ流そう! 王国とは無関係のどこか別の場所から流れた民であるとし、バラバラに散ってもらう! それしかない!!」

 

 無論、途中で死ぬだろう。トブの大森林へ辿り着いても、獣や亜人たちに殺されるだろう。魔王軍に見逃してもらえない場合もある。

 それでも幾人かは生き残るかもしれない。それに懸けるしかないのだ。

 

「ああでも、魔王軍の気を引く役目が必要か……。くそっ、軍の中から志願者を募って、ぬぐぐぅ、指揮を執るのは私か? だよなぁ、それしかないよなぁ」

 

 貧乏くじだ――と呟きつつ、職務放棄を決めたはずの軍師は腹をくくる。

 王国なんかに義理はない。王女殿下も遠目で見かけたことがあるだけだ。レエブン候に感謝の念を持ってはいるが、命懸けの任務遂行ではなく、己の無駄死にとでは天秤にかけられるほどのものでもない。

 ただ、エ・レエブルに集う百万越えの無力な人々には生き残ってほしい、と純粋に思う。そのためならば仕方ない。命を懸けるのも仕方がないのだ。

 私は、勇者なんかではないというのに……。

 

「くそったれがあぁぁ! 勇者が登場するとしたらここしかないだろう! どこにいやがんだよっ! ふざけんなよぉぉおお!!」

 

 手も足も出ない天災に巻き込まれた被災者のように泣き喚き、気持ちと裏腹な晴天を仰ぐ。遠くまで広がる青い空に、高い位置に広がる白い雲。

 そして雲に隠れて飛ぶ、複数の影。

 

 軍師は頭上の変化に気付くことなく、手勢を纏めてエ・レエブルへと逃げ帰った。そこで民衆を前に、最悪の演説をぶちまけることとなる。

 魔王軍が襲来する。止めることはできない。王国は滅亡し、国民は虐殺される。もはやこの地に生き残る道はない、と。

 パニックは避けられないだろう。それでも語らないわけにはいかない。

 逃げろ、と。この国から逃げろ、と。

 最後まで聞いていた者がどれぐらいいたのかは分からない。軍師の話を嘘だと断じて立て籠もる決断をした者もいるだろうし、我先にと逃げ出した者もいるだろう。

 王都なら大丈夫かもしれないと、馬車を走らせた富裕層はまだ気持ち的に余裕があるのかもしれない。あちらにはアダマンタイト級冒険者や多くの上級冒険者がいるのだから、それを頼ろうとするのも一案ではあるだろう。

 

 エ・レエブルはこの日、軍を解体し統治機構を消滅させた。

 元軍師の若者は、冒険者や請負人(ワーカー)に声を掛け、『街へ残って魔王軍に対する囮の役目を担わないか?』と提案する。ついでに『間違いなく死ぬけど』とも付け加える。

 多くの者が嗤い、罵倒した。

 防衛責任者が職務を放り出して、都市を丸ごと無秩序にしたのだから当然だろう。魔王軍の脅威を肌で感じていない者にとっては、そのように映るのだから仕方がない。

 でも、僅かながら残った変人もいる。

 レエブン候に恩を感じている奇特な善人。破格の報酬に目が眩んだ強欲者。

 生き残れば罪状免除と言われ、『檻の中で死ぬよりは』と外へ出てきた――おそらく真っ先に逃げ出すであろう――罪人たち。

 頼りない布陣だ。囮にもならない可能性もある。だがそれでも餌ぐらいにはなるだろう。あの下級アンデッドより格段に賢そうな化け物たちが、食らいついてくれたらの話ではあるが……。

 

 元軍師が見つめる南方に敵影はない。

 かの化け物どもはいまだに、炎燻る廃都を蹂躙しているのだろうか?

 集めた情報からすると、見捨てていった老人一人一人を丁寧に殺戮しているとのことらしいが、それなら街の住人をどこへ逃がそうとも意味が無かったのかもしれない。

 

 ……ああ、そうなのか。そうなんだな。

 ふふ、今になって解ったような気がする。これは戦争じゃない。勝つとか負けるとかの話ではなかったのだ。

 魔王軍に潰される対象として、選ばれたのが王国だっただけ。サイコロでも転がしたのだろう。人間でも道楽で狩りなどを行うのだし、特段おかしな行動ではないのかもしれない。

 それでも――。

 もし勝ち負けを論ずるならば、人間側の勝利条件は生存だ。たった一人でもいいから、魔王軍の手を逃れて生き残る。それこそが魔王に対し『私の勝ちだ』と誇れる唯一の道なのだろう。

 

 ほんと、くそったれな魔王様には、感謝のキスをケツにお見舞いしたいところだ。

 

 

 ◆

 

 

 拍子抜けといったところだ。

 本来であれば、都市内に入り込んだところで火を放つ予定であったろうに、自分たちの逃走を誤魔化すための煙幕として雑に扱う有様である。

 火責めと共に後方へ入り込む手筈であった伏兵も、我先にと逃げ出しており、『第一陣を蹴散ラした勢いハどこへイったのダ?』と問いたくなる。

 

「我らノ実力を正確ニ感じ取ったノか? だカら全力で逃ゲだしたト? 逃げタと見せカけて罠ニかける訳でハないのカ?」

 

 元より追撃するつもりはなかったので罠があろうと無かろうとどうでも良い、とはいえ肝心の強者を確認できなかったのは悔やまれる。

 最低でも指揮官はそれなりの実力者であるはず――。

 

 物思いに耽りながら焼打ちにあったような焦げ臭い都市の中へ踏み入り、煙の奥に逃げ遅れた人間でも居ないかと目を細めても、打ち捨てられた瓦礫ばかりが見える。

 〈生命感知(ディテクト・ライフ)〉を用いての探索にも引っかかる反応はなく、この都市が完全な廃墟であり、もはや留まる必要のない無用の地であることが確定されたわけではあるが、ふと視線を上げてしまう。

 なぜこの時顔を上げたのかは、よく解らない。

 気配か、空気の流れか、温度か影か、それとも別の要因があったのか、それは不明だ。

 だが何かの気まぐれであったとしても、視線を向けるだけの価値をそこに見出したのは、それなりの理由があったのだと思う。

 だから発見できたのだ。

 上空から急降下してくる巨大な塊を。

 

「っ? ――退避ダっ! 都市の外へ出ろオおぉォぉオお!!」

 

 叫んだ瞬間炎に包まれた。

 上から叩き浴びせてくる、力を纏った炎の渦。まるで炎の吊り天井が落ちてきたかのように地面へ押し潰される。

 死の騎士(デスナイト)程度の中位アンデッドでは厳しいだろう。

 側近たる己ですら無傷ではいられない。

 

「ドラゴンだトっ?!」

 

 飛び避けた先で見上げると、今度は電気を纏う竜の吐息(ドラゴン・ブレス)が視界を覆う。かと思えば次は毒であり、風の刃であり、冷気であった。

 一度の襲撃で五種の竜の吐息(ドラゴン・ブレス)

 しかも、大物の傍には最高位の年齢段階(エインシャント)級かと思える竜が各四体ずつ。計二十五体の竜が都市の中にいた魔王軍第二陣を薙ぎ払っていったのだ。

 

「動ケるモノは何体いル!? 空ヲ飛べるモノはいルか?!」

 

 声を張り上げても返答はない。

 連絡役の死者の大魔法使い(エルダーリッチ)は消滅していたし、都市の外へ逃げ出たアンデッドや悪魔たちは混乱の渦中だ。咄嗟に反撃した者もいるようだが、空を舞う竜には届かない。魂喰らい(ソウルイーター)を始めとする飛行可能な僕たちも、天空の支配者たる(ドラゴン)の飛行能力には追いつけない――それどころか竜の吐息(ドラゴン・ブレス)のいい餌食に成り果てている。

 

「ふははははは!! これが魔王軍だと?! やはり人間の情報は当てにならんな!」

 

 巨大な赤い竜が上空から降りてくる。勝利宣言でもするかのような尊大な態度で。

 

「馬鹿を言うでないわ。デスナイトにソウルイーター、おまけにグレーターデーモンじゃぞ。儂らでなければ対抗できぬわ」

「その通りですよ。人間にとっては魔王軍そのものと言っていいでしょう。少しばかり同情しますね」

「無駄口を叩いている場合ではないぞ。指揮官を仕留め損ねた。そこの黒い一本角、まだ戦意十分と見るが……どうする?」

 

 魔王軍東方第二陣の指揮を預かる直立した巨大なカブトムシ、一本角の前には、灰色の髭を生やした老齢の竜や、緑鱗、青鱗の竜がホバリング状態で現れた。

 そんな巨大な(ドラゴン)の背後では、配下と思われる成竜が背に乗せていた亜人らと共に都市内へ展開し、生存していた魔王軍を追い立てている。恐らく、指揮官との合流や戦力集結を阻む目的があるのだろう。そしてそれは、しっかりと機能していた。

 

「……失敗、ですわね」離れた場所に一体、不穏な呟きを漏らす白鱗の竜。

「四肢欠損どころか体力もほとんど削れていません。やはり先を急ぎ過ぎたのですわ。それに指揮官だけを狙うように通達していたはずなのに、他のアンデッドや悪魔に気をとられるなんて……。はぁ、なんというか、まぁ仕方ありません。さっさと退避しますよ。全員撤退! 戦場から離脱します!!」

 

「なっ?! 貴様! 正気か?!」

 

 圧倒的に優位な立場でありながら何を言っているのか? と赤鱗の竜は怒りを隠さない。

 先陣を切って指揮官に手傷を負わせたのは自分なのだから、今更撤退なんて有り得るはずがないだろう。手柄を手放す愚行でしかない。

 

「正気って……。その指揮官が健在である時点で私たちの負けですわよ。あぁ~もぅ、ブレスで十分に削った後なら、五体総掛かりで仕留められたものを。……ん? あっ、死にたいのなら勝手にどうぞ」

 

 言うが速いか、白い竜は己の眷属である四体の竜と亜人チームを連れて上空へと舞い上がる。

『巻き込まれるのは御免』とでも言いたいのか、白い雲の中へ飛び込むその迷いなき撤退に、赤鱗以外の竜は戸惑いを零さずにいられない。

 

「俺様だけで十分だっ! コイツの首は俺が貰う!! お前らは行け! 邪魔だっ!!」

 

 ゴオンッと巨大な隕石でもぶち当たったのかと思える轟音と共に赤い竜は地上へ降り立ち、自身の半分以下にしか見えない小さな一本角を見下ろす。

 一騎打ちの様相であろう。

 余計な邪魔をするなよ――との思念がそこら中に漂っているかのようだ。

 

「ここは白のヤツに従うとするかの。嫌な予感がするわい」

「まぁ、手を出して怒られるのは面倒ですもんね」

「くだらん、我らは奇襲を仕掛けているのだぞ。一つの戦場に拘ってどうする?」

 

 一撃離脱こそが奇襲の基本、反撃を受ける前にその場から立ち去るのが常識――と言わんばかりに三体の竜とその配下たちは空へ突き飛ぶ。

 残ったのは赤鱗と四体の竜、そして引き連れた亜人の強者たち。それだけでも一国を滅ぼせるほどの戦力なのだろう。だが迎え撃つ側の一本角は、逃げ去っていく他の竜たちへ余所見をし、悔しそうに唸っていた。

 

「我も飛べナいことハないのダが、アの速度にハ敵わん。流石は天空ノ覇者、ドラゴンであル」

 

 相手を褒めつつ、一本角は背に抱えていた大剣を取り出す。

 無骨な武器だ。飾り気はなく、一般的な両手剣に似ている。もちろんコキュートスの側近であるのだから相当な価値の魔法剣なのであろうが、外見に拘るタイプではないということだ。

 敵を倒すことだけに特化した実用剣なのであろう。

 

「連続ブレスでノ強襲は悪くなかっタ。まとモに受け続ケれば、確カに痛手を負ったニ違いなイ。だがしカし、我は健在ダ。くカカ、お主ガ先走ってクれたオかげデあるナ、赤いノ」

 

「なんだとっ?! 貴様は自分の部隊が壊滅状態なのを理解できていないのか?! 俺様の一撃に手も足も出なかったであろうがっ!!」

 

 赤鱗の竜が吠え唸るとおり、魔王軍東方第二陣はボロボロだ。五百いた兵も今では百に及ばず、負傷している者も多い。

 失った兵の大半が法国で召喚された“死の騎士(デスナイト)”や“魂喰らい(ソウルイーター)”、そして中位の悪魔たちであるとはいえ、戦力としては国家殲滅級のモンスターたちだ。痛手ではない、とはとても言えない。

 

「無論、手酷くヤられタことハ認識してイる。故に、オ主の首は置いテいってモらうゾ。コキュートス様へノ手土産――」

「虫けらがっあぁああぁぁぁ!!!」

 

 最後まで聞くに値しない、とばかりに咆哮を上げると、赤い竜は紅蓮の炎で視界を満たした。付き従っている最高位の年齢段階(エインシャント)級ドラゴンも即座に追随し、同じ炎の吐息(ブレス)で辺り一帯を火の海と化す。

 亜人の部隊は竜の背にて武器を構え、いつでも突撃できる体勢のようだ。

 しかしながら、計五体の竜が放ったブレスの中で生物が生き残れるとはとても思えない。同族の竜種で火属性の完全耐性でも持っていれば何とかなるかもしれないが、二足歩行の虫みたいな一本角では全身黒焦げが精一杯であろう。死体すら残らないかもしれない。

 

「――我ガ失態の罰とシてハ手緩い。残りハ全てヲ終えてカら、改めテ罰しテ頂くとシよう」

 

 僅かに爛れた黒い甲殻が炎の隙間に垣間見えたような、そんな気がした。

 






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