FGOのマスターの一人   作:sognathus
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私は来た。
女の姿になっているマスターの前に。
私は見た。
確かにその姿は女性だった。
私は勝った。
噂は本当だったのだ。


ガイウス・ユリウス・カエサル ♀

「というわけで私のプロデュースを受けないか?」

 

「何言ってるんですか。帰ってください」

 

不機嫌な顔をしてそう言うマスターを意に介した様子もなく、流石に面の皮の厚さもそこらの英雄とは格が違うカエサルは朗らかに笑いながら続けた。

 

「いや、待て。聞き給えよ」

 

「貴方の言葉は毒ですからね。お断りです」

 

「にべもないな。だが私は、君の力になる為にも此処に来たのだよ?」

 

「僕の力に……?」

 

「うむ。性別が安定せずに苦心しているマスターを想えばこそのサーヴァントの忠勤というやつさ」

 

「胡散臭……」

 

「はっはっは。良く言われる」

 

「……」

 

「……」

 

先程から信用されず主に批判しかされないカエサルだが、敢えてそれらの批判を肯定し、受け止める事でマスターの疑念を薄めようと試みる。

そして訪れた僅かな間。

マスターの無言の視線に対して彼も無言で見つめ返す。

しかしその見つめ返した瞳には『信頼して良い』という言葉をしっかり含んでいた。

 

「……まぁ、お茶でもどうぞ。用意して来ます」

 

「有り難く頂こう」

 

 

満面ではなく、微笑で礼を言うカエサル。

ここで企みに足掛かりを得た事を大きく喜ばないのは彼からしたら当然だった。

 

「どうぞ」

 

「有難う。お、紅茶かね。うん……美味い」

 

「どうも」

 

「ああ、しかしこれは美味いな。マスターは紅茶を淹れるのが上手いのだな」

 

「ただのティーパックにケトルで沸かしたお湯を入れただけですよ。大袈裟です」

 

「そうなのかね? しかし美味いな……ああ、そうか」

 

「?」

 

何かに気付いたらしく膝を叩くカエサルにマスターは首を傾げる。

 

「なに、単純な事だった。生前の私の時代にはこの味の飲み物がなかったのだ」

 

「はぁ……」

 

「うん。考えてみれば紅茶を飲んだのは初めてだったな。これほど美味しいものだったとは……」

 

「……」

 

見てくれはアレだとはいえ、かつてローマに帝政の礎を築き、結果として世界帝国となるまでの栄華の歴史の立役者の一人でもある偉人が、お茶一つでこうも感慨深い顔をている様は何だか不思議な光景だった。

マスターはそんなカエサルを無意識に穏やかな瞳で見ていた。

 

「ああ、すまない。本題から逸れてしまった」

 

「あ、いえ」

 

「まぁプロデュースという言葉はあまり警戒しないで欲しい。これはダ・ヴィンチ殿とも話した上で思い至った事なのだ」

 

「と言うと?」

 

「これもまた単純な話だ。私はただ、今の姿のマスターに男性として力になりたいというだけだよ」

 

「? 話がよく見えないです」

 

「今の君の姿でよく相談を受けるのはダ・ヴィンチ殿だそうじゃないか。だが彼女は当たり前だが女性だ。本来男である君としても、同性で相談し易い人物も居た方が良いとは思わないかね?」

 

「……」

 

解らなくもない提案だった。

確かに現状主に相談相手となってくれているのはダ・ヴィンチだけだった。

彼女には女性としての悩みや相談などいろいろ受けてもらって助かっていた。

しかし、そこに恥じらいが無いわけではなかった。

いくらその時は同じ性別でも男の姿に戻った時にそれを思い出してベッドの上で苦悶する事はよくあったのだ。

 

「まぁ、君も今は女性だ。その姿で異性にあられもない相談をするのも抵抗はあるかもしれない。しかしここは一つ私の売りも聞いて欲しい」

 

「売り?」

 

「人生経験だよ。君は私の歴史を知っているかね? 私が後世に残る記録において何を、どれほどしたか」

 

「……」

 

「まぁ人生経験以外は聞き流してくれ。だが、マスターも多少なら理解できなくもないだろう? 私は指導者以外の『経験』も豊富なのだよ」

 

「一応……相談できそうな人は他にもいますけどね」

 

「それはヘクトル殿やあの蛮族の事だろう」

 

「!」

 

自分しか知らないと思っていた事を即言い当てたカエサルにマスターは驚く。

そんな彼にカエサルは情報を集めるのは得意なのだと笑いながら続けた。

 

「確かにその二人でも良いかもしれない。しかしだ、片や世に名高い大英雄とはいえ、当の本人は物語の中の人物という印象が強い。残る一人は……まぁ『経験』はあるだろうが、私と彼では明確に語れる内容が違う、とだけ言っておこう」

 

「……」

 

「印象操作に思えるだろうが、敢えてこれも指摘させてもらおう。ダ・ヴィンチ、彼女も、だ。同性である事に加えて天才なのだから相談はし易いのだろう。しかしそこに私を並べた場合、私と彼女に『経験』の差があるとは思わないか?」

 

マスターは考えた。

カエサルの先程からの話は一々頷かざるを得ない所がある。

ヘクトルも頼りになるし黒髭も……まぁ頼りになる気がする。

ダ・ヴィンチには特に今まで助けてもらっていた。

だが、こう、何となくそこにカエサルもいれば今の自分の立場がより安定する気もした。

 

「別に私は彼らがマスターの役に立たないなどと言うつもりは毛頭ないよ? それは無礼だ。マスターに対する彼らの思いに対してあまりも恥知らずだ。私はただ純粋に、私も『具体的に』役に立てるところがあると思うのだが、と言いたいのだ」

 

「……分かりました。先ずは何をしたら良いんですか?」

 

「受け入れてくれて感謝する。何、簡単な事だ。先ずはより開放的になる事だ。今の状態を前向きに受け入れ、その上で私の助言通りにすれば、至る所で行動し易くなるだろう」

 

カエサルはこの時にようやく満足そうな笑みを浮かべて契約成立とでも言うように指をパチンと鳴らすと、懐からデジタルカメラを取り出してそれをテーブルに置いた。

マスターはテーブルに置かれたそれを見て少しギョッとしながらも、慎重な面持ちはそのままに彼に訊いた。

 

「つまり……?」

 

「女の時は女の服を着ろ。恥ずかしがる必要はない。私がそう感じ難い自然な服装をコーディネートしよう。最初は抵抗を感じるだろうが、要は慣れだ。そうする事で心労も自然と減る」

 

「……何か結局言い含められている気がしてきました」

 

「ならそう思うと良い。私は胡散臭い詐欺師だ。迷惑極まりない扇動家だ。そんな信用できない者ではあるが、きっとマスターの役に立って見せる」

 

自分で自分は信用できないと豪語しながらも、それでも力になりたいという強引な論法にはマスターも流石にこの時は苦笑した。




カエサルはシェイクスピアに次いで俺が好きなサーヴァントです。
この二人には今後も是非活躍して欲しいですね。





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