88 菅野薫(クリエーティブ・ディレクター)後編

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世界中を湧かせた、リオ2016大会閉会式「東京2020フラッグハンドオーバーセレモニー」や、歌姫ビョークとのコラボレーションなど、最先端のテクノロジーと斬新なアイデアで見たことのない世界を見せてくれる、Dentsu Lab Tokyoの菅野薫さん。広告業界をベースにしている菅野さんは、アイデアや魅力を発信することの重要性をどのように捉えているのでしょう。そして六本木が街としての発信力を高めるにはどうすればよいのか、貴重なアドバイスをいただきました。

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update_2018.1.17 / photo_tada(YUKAI) / text_ikuko hyodo

世代と関わり方によって印象が変わる六本木。

 六本木の印象って、世代と深く関わったタイミングによって、かなり違うんじゃないかなあ。僕らみたいな仕事をしている人は、デザインとかアートのつながりで訪れることが多いけど、美術館に行ったことないような人もいるだろうし。接待の場や、キャバクラの街だと思っているオジサンもたくさんいますよね。そういう意味では多様な側面があって、ギャップの多い街なのかもしれない。街としておもしろいことだと思うけど、ひとことで言い表せない感じはしますよね。たとえばニューヨークで「最近のアートのギャラリーはどこがいいの?」と聞かれたらきっとチェルシーだとかブッシュウィックだとか、地域の話題になると思うのですが、「六本木はどんなところ?」と聞かれたら、人によって全然違う答えが出てきそうな気がする。

 僕は学生時代ジャズをやっていたんですけど、ジャズの街といえばやっぱりニューヨークですよね。もちろんジャズミュージシャンは世界中に住んでいるし、ニューヨークを離れるミュージシャンもたくさんいるのですが、メッカとしてキャリアの一時期に一度はニューヨークに出ていくじゃないですか。同じようにコンテンポラリーダンスをやるならどこへ行くとか、クラシック音楽なら......とか、それぞれにメッカといえるような場所があるわけで。若い人たちは、何らかの表現を勉強したいと思ってそれぞれの街を目指すけど、そのなかに今、東京が入っているかというと微妙ですよね。

メッカとしての特性を持たない東京の街。

ビョーク 8a779a336f52517c6183adea8643c45f06ad3b7a.jpg

アイスランド出身の世界的歌姫。2015年の"Mouth Mantra"のミュージックビデオ、 2016年、日本科学未来館でビョークの最新VR展示プロジェクト「Björk Digital ― 音楽のVR・18日間の実験」でのパフォーマンスの様子を360度VRでリアルタイムストリーミング配信する「Making of Björk Digital」で、菅野さんが指揮をとるDentsu Lab Tokyoとコラボレーションしている。

 2016年にビョークと仕事をしたのですが、彼女ってアイスランド人には一見見えないというか、ルーツがわからない感じがするじゃないですか。彼女が言うには、子どもの頃から「日本人みたいだね」とよく言われて、日本人にシンパシーを感じていていたみたいで、過去にもアラーキーさんや川久保玲さん、ジュンヤ・ワタナベさんなど日本人クリエイターとのコラボレーションを頻繁にやっているんです。「もし私がバンドを組んでいなかったら──おそらくザ・シュガーキューブスのことだと思うのですが──東京に来てアニメーションの勉強をしていたと思う」と言っていたんです。たしかに日本のアニメーションの文化はすごいけど、ニューヨークにおけるジャズみたいに、世界中からその文化の担い手になりたい人が集まって勉強をするルートが、つくられていないじゃないですか。それはすごく勿体ないことだなと思いました。

 僕がお手伝いした、リオ2016大会閉会式「東京2020フラッグハンドオーバーセレモニー」でも、アニメーションやゲームなんかの世界的な人気キャラクターに出演してもらったのですが、海外の人にとっては「これも日本のものだったの?」と気づくようなキャラクターがいくつかあったと思います。日本人なら当然知っていることなんだけど、確かに、マリオなんかはどう見てもイタリア人だし(笑)。改めて、「そういわれると日本らしい文化なんだな」と多くの海外の人が再認識したような気がします。だからといって、それを東京に学びに来ようとか、日本のそういった会社で働きたいっていう流れには、なっていない気がして。日本のゲームとかアニメの会社で、日本語を話せなくても働けるかというと、ハードルが高そうですよね。ビョークと話をしたときも、そんなことをふと思ったりして、今振り返ってみても、2016年は東京についてこれ以上ないくらい考えた1年でした。