Vol.21 北村小松 「模型飛行機ぶた号」 北村小松(八戸市出身、1901~64)は、日本初のトーキー映画「マダムと女房」の原作・脚本を担当したことで知られる。小山内薫に戯曲を学び、シナリオライター・作家として活躍、軽快でスマートな作風が高く評価された。
旧制八戸中学校時代、飛行機操縦の実演を見て以来飛行機に憧れ、飛行機設計家を志望するが、受験に失敗し断念。やがて文学の道に進むが、大空を翔る飛行機への憧れを生涯持ち続けた。陸軍飛行隊で活躍する若者を描いた代表作「燃ゆる大空」(昭和15年刊)は、時局柄海軍省の要請で書かれたものではあったが、小松の大空への憧れが反映された作品である。また、小松にとって模型飛行機作りは大切な趣味であり、流行作家として創作に追われる合間に、工作室で楽しげに製作に没頭していたという。
模型飛行機「ぶた号」の翼には、「DESIGNED &BUILT BY (IN 1947) KOMATSU KITAMURA」とサインがある。戦後、小松は戦争礼賛作家であるとされ閉塞した状況が続いたが、その中でも模型飛行機作りは続けられていたことがわかる。「ぶた号」は改良を重ねて昭和36年に競技大会に出品され、アメリカの専門誌にも紹介されるなど評判を呼んだ。ボディはピンクの豚のユーモラスなデザイン、翼は包丁の形、本物のエンジンが付き、操縦もできる本格的な模型飛行機である。
文学活動の一方で、飛行機・自動車をはじめ社交ダンス・音楽…と多彩な趣味に生きたモダンボーイ・北村小松。愛機「ぶた号」には、彼の少年時代からの夢と、遊び心がいっぱいに詰め込まれている。 (主幹・佐々木朋子) (平成19年8月16日付・毎日新聞「今週のお宝」掲載) |