2008年03月12日(水)
■[感想文] 高木彬光「成吉思汗の秘密(新装版)」(光文社文庫)
- 作者: 高木彬光
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2005/04/12
- メディア: 文庫
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源義経は衣川で自害することなく、大陸に渡りジンギスカンとなり、大蒙古帝国の始祖となったのだ。・・・トンデモ本の類の書だが、定説的な疑問を提示したり、伝説に夢を広げたりできる面白い「小説」。
例えば、衣川で討ち取られた源義経の首級は、鎌倉到着までなぜ40数日も費やされたのかという定説的疑問。あるいは、義経と正妻(静御前ではない)との間に生まれた女子の「椿山心中」伝説と、後年の「天城山心中」の相似。
ちなみに、本書の「初版」(昭和33年)は、天城山心中の感傷で幕を下ろす。しかし、その二年後、新たに第16章が加筆され、ここに「成吉思汗の秘密」は完成する。この第16章は、本書に所収されている「カッパ・ノベルズ版のあとがき」(高木が執筆)を引用すると、
この第16章の後半は、(略)仁科東子さんの研究によるものである。(略)『神津恭介への手紙---成吉思汗という名の秘密』という題で、雑誌「宝石」に発表された。ここでは、仁科さんの了解のもとに、それを書き直して採録した。
さて、本作品。第16章の加筆については、読者により賛否あると考えられる。個人的には、第15章の「心中」で結語するよりも、第16章の加筆が物語の完成度を高めていると思う。
丹念な資料調査等を読者に提示して、衣川以降の義経の足跡を辿り、なんとか成吉思汗に辿り着いた*1ものの、最後が「輪廻」の感傷で終わる第15章版。正直、メロドラマ的に逃げている気がする。そして、そのメロドラマの伏線も妙齢に配置しているところに、構想段階での弱さが露呈しているのでは?と穿ってしまう。
加筆された第16章。これは、前述のように『成吉思汗という名の秘密』という仁科氏の研究が題材となり、それに高木が新しい解釈を付けて終わる。仁科研究もトンデモ、高木解釈もトンデモではあるかもしれない。しかし、第16章最後、すなわち物語の最後の一節、
(略)静御前へのみごとな返しとなっていますね。これが偶然といえるのでしょうか?」神津恭介は微笑した。
「みごとな返し」。牽強付会の謗りを免れないとも思われるが、私は、第15章版の最後にはない清々しさを感じた。成吉思汗という名の秘密。
■付記
本作品は、
で紹介した本を読み終えた直後に、読み始め読了しました。「満州帝国」は、全然、関係なかろうと思いながら読み始めたのですが、本書にはシベリアから「満州帝国」の版図に関する部分も大きく語られており、非常に役に立ちました。
■参考リンク
*1:あるいは、辿り着かせた