税金で購入した「5億円の盆栽」が、秘かに枯れていた事実が発覚!
原因究明の委員会を開こうとしない委員長に、市民が抗議する請願を提出。
それをチラシで3行報告したら、委員長から「170万円支払え」と訴えられて・・・
「5億円の盆栽」名誉毀損裁判
地裁、高裁に続き最高裁でも完全勝訴
さいたま市は、栃木県の美術館から5億円で盆栽を購入し、それを展示するために、10億5000万円かけて大宮盆栽美術館を建設しました。
枯れた2200万円相当の盆栽バブルの頃ならいざ知らず、まさに無駄な箱物だと私は建設に反対しましたが、さいたま市議会では自民・公明・民主・共産など政党・会派の議員がこぞって賛成し、建設に反対したのは無所属の議員3人(北村、日下部、吉田=私)だけでした。
ところが、2009年6月議会で、私が「枯れた盆栽はないのか」と追及したことに続き、7月には実は計5700万円相当の盆栽が枯れていて、市はそれを隠していた事実が発覚。新聞各紙やテレビが連日大きく報道するなかで、私は盆栽問題を担当する市民生活委員会のメンバーだったので、土井裕之委員長(南区・民主党、現在は改革フォーラム)に対して、速やかに正式な委員会を開催するように要請しましたが拒否され、結局委員会は9月定例会まで開かれませんでした。
さらに建設推進派の土井委員長が、ブログで「議会として記録に残さなくていい」、「市民は新聞記事を読めば十分」という内容の発言をしていたことに抗議して、市民が議会に請願を提出したことを、私がチラシに3行記載したところ、土井委員長から名誉毀損で170万円の支払いを求められてさいたま地裁に訴えられました。
「⇒」に続く3行が、170万円請求された「本件文章」
私としては「なんじゃそりゃ?」という感じだったので、弁護士もつけずに応戦しましたが、一審では「名誉毀損に当たらない」と勝訴。土井議員は請求額を115万円に減額して控訴しましたが、東京高裁でも「記載内容は真実に反していないから、名誉毀損にならない」と勝訴。
判決に不服な土井議員は、今度は請求額を125万円に増額して最高裁へ上告受理申立をしましたが、最高裁第三小法廷は土井議員の申立てを却下して、最終的に私の勝訴が確定しました。
そこで、最高裁の判決文(決定)を公表します。
調 書 (決定)
事件の表示 平成24年(受)第1519号
決 定 日 平成24年12月11日
裁 判 所 最高裁判所第三小法廷
裁判長裁判官 岡部喜代子
裁判官 田原睦夫
裁判官 大谷剛彦
裁判官 寺田逸郎
裁判官 大橋正春
当事者等 申 立 人 土井裕之
同訴訟代理人弁護士 橘高郁文
相 手 方 吉田一郎
原判決の表示 東京高等裁判所平成23年(ネ)第5764号(平成24年2月15日判決)
裁判官全員一致の意見で、次のとおり決定。
第1 主文
1 本件を上告審として受理しない。
2 申立費用は申立人の負担とする。
第2 理由
本件申立ての理由によれば、本件は、民訴法318条1項により受理すべきものとは認められない。
平成24年12月11日というわけで、次に最高裁が支持した高裁の判決文を公表します。
最高裁判所第三小法廷
裁判所書記官 鍋谷能文 ?
平成24年2月15日判決言渡 同日原本受領 裁判所書記官
平成23年(ネ)第5764号 損害賠償等請求控訴事件
(原審 さいたま地方裁判所平成22年(ワ)第1135号)
口頭弁論終結の日 平成23年12月14日判 決
控 訴 人 土井裕之
同訴訟代理人弁護士 橘高郁文被 控 訴 人 吉田一郎
主 文本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由(前注)
略称は、原判決の例による。第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は、控訴人に対し、115万円及びこれに対する平成22年5月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 被控訴人は、控訴人に対し、原判決別紙1の1記載の取消広告を、被控訴人が発行する吉田一郎市政レポート特別号に原判決別紙1の2記載の条件で1回掲載せよ。
4 被控訴人は、控訴人に対し、前項の取消広告が掲載された吉田一郎市政レポート特別号を200部交付せよ。
5 被控訴人は、被控訴人が管理するウェブサイト「やっぱり大宮市民の会 さいたま市議会議員(北区・無所属)吉田一郎」の「吉田一郎市政レポート」のページに、原判決別紙2の1記載の説明文を原判決別紙2の1記載の条件で掲載せよ。
6 被控訴人は、前項の「吉田一郎市政レポート」のページにリンクされている「吉田一郎市政レポート第15号」のファイルから、原判決別紙3記載の文章を削除せよ。第2 事案の概要
次のように補正(=青字部分)するほかは、原判決の事実及び理由中の第2に記載のとおりであるから、これを引用する。
本件は、被告(=被控訴人、吉田一郎)が、被告の発行する広報文書やウェブサイトに原告(=控訴人、土井裕之)に関する虚偽の事実を記載して原告の名誉を毀損したとして、原告が、被告に対し、不法行為に基づき170万円の損害賠償及び遅延損害金の支払を求めると共に、原告の名誉を回復するための処分として、取消広告の掲載や当該広告が記載された書面の交付等を求める事案である。
原審は、控訴人の請求を棄却した。これに対し、控訴人が控訴した。なお、控訴人は当審において損害賠償請求について請求を減縮した。1 前提事実(証拠を掲記しない事実は、当事者間に争いがない。)
(1)当事者
ア 原告は、さいたま市議会議員であり、さいたま市の市民生活委員会(以下単に「市民生活委員会」という。)の委員長である。
イ 被告は、さいたま市議会議員であり、市民生活委員会の委員である。
被告は、「吉田一郎市政レポート」及び「吉田一郎市政レポート特別号」(これらを総称して、以下「市政レポート」という。)という広報文書を発行して不特定多数の人に配布している。また。被告は、「やっぱり大宮市民の会 さいたま市議会議員(北区・無所属)吉田一郎」と題するウェブサイト(以下「本件ウェブサイト」という。)を開設し、管理運営している。(2)被告の表現行為等
被告は平成21年9月、「吉田一郎市政レポート第15号」(以下「本件レポート」という。)に、「盆栽枯死を調査する正式な委員会を開こうとせず、『議会として記録に残さなくていい』『市民は新聞記事を読めば十分』という土井委員長(民主党・南区)の発言に抗議」という文章(以下「本件文章」という。)を掲載した。被告は、本件レポートを、不特定多数のさいたま市民に配布した。
また、被告は、本件ウェブサイトにおいて、本件レポートとほぼ同内容の記事を掲載し、これを不特定多数が閲覧可能な状態に置いた(本項に記載した被告による表現行為を総称して、以下「本件表現行為」という。)。2 争点
(1)本件表現行為が原告に対する不法行為に該当するかどうか。
(原告の主張)
ア 本件レポートは、さいたま市が購入した高額の盆栽が枯死した事件(以下「盆栽枯死事件」という。)に関連して、さいたま市や外郭団体による盆栽枯死事件の隠蔽疑惑を追及する内容である。このうち、本件文章の内容は、(1)市民生活委員会の委員長である原告が、盆栽枯死事件についての調査のための正式な委員会を開こうとしなかった事実、(2)原告が「議会として記録に残さなくていい」、「市民は新聞記事を読めば十分」という発言をした事実、(3)原告が民主党に所属しているという事実を摘示している。このうち(1)、(2)の事実は、本件レポートの前後に掲載された、さいたま市やその関係者らによる盆栽枯死事件の真相隠しや盆栽利権糾弾の記事と密接に関連している記事であることは明らかであり、原告が盆栽枯死事件の隠蔽に加担したとの印象を与えるものである。また(3)の事実いついても、被告は、従前から、自民、公明、民主のさいたま市議会議員が市行政に追随してチェック機能を果たしていないとの批判を繰り返しており、民主党とは一線を引いて活動し、民主党・無所属の会さいたま市議団で民主党とは違う政策も打ち出し、選挙でも民主党以外の党の応援もしているところ、それを民主党と表記されたのでは、無所属をやめて民主党に属するようになったのかと誤解され社会的評価が低下させられてしまい、原告が盆栽枯死事件の隠蔽に加担したとの印象を一層強めるものである。そして、このような内容を含む本件レポートが広く配布されたことにより、原告の市議会議員としても社会的評価は著しく毀損された。
イ そして、原告が「議会として記録に残さなくていい」、「市民は新聞記事を読めば十分」という発言をした事実はない。また、原告は盆栽枯死事件を重大視しており、被告に対しても、9月議会において議会や委員会の場で正式な調査の場を設ける旨を伝えていたのであり、控訴人のブログにおいても同様のことを述べており、正式な市民生活委員会を開催しようとしなかった事実もない。さらに、控訴人のブログでは、「報道機関には、議員と行政職員とのやりとりを一部始終公開し、実質的な行政の説明や議員の質疑の場を透明化している。」、「すべてとはいわないまでも、報道を通じて、情報を一定程度提供できると確信している。」と記載するにとどまり、「市民は新聞記事を読めば十分」というありもしないことなど記載していない。そして、控訴人のブログでは、「9月定例会こそ本格的なこの問題への取り組みの場としたい」と記載していることから、控訴人が「議会として記録に残さなくていい」というありもしない発言をすることなどあり得ない。そして控訴人は、委員長として積極的に盆栽枯死事件に取り組んだにもかかわらず、逆に非常に消極的で事件の隠蔽に関わったかのような本件文章を被控訴人に書かれて広く配布されたのである。したがって、被告の本件文章の記載は、到底真実であるとはいえないし、原告と被告との間の上記のやりとりからすれば、相当性が認められないことは明らかである。
この点、被告は、本件文章は、市民からの請願の概要を紹介したものであり、請願者において、原告の発言について上記のとおり認識し、抗議する意図で請願を提出した事実が真実であれば足りると主張するが、請願の紹介であるからといって名誉毀損の責任が免責されるものではない。のみならず、本件文章で紹介されている請願には、原告が「議会として記録に残さなくていい」、「市民は新聞記事を読めば十分」という発言をしたとの記載はないし、請願の内容が原告の発言に抗議する趣旨のものであるとも直ちに解されないから、被告の主張はその前提を欠いている。
(被告の主張)
ア 本件文章は、その直前に記載された市民からの請願の概要を紹介するものである。そして、一般に請願の内容は公表されている上、本件文章は請願の概要を的確に伝えるものであるから、本件文章の記載により、原告の社会的評価が低下したとはいえない。
イ また、公務員の地位における行動を対象とする批判、論評については、批判等により当該公務員の社会的評価が低下することがあっても、その目的が専ら公益を図るものであり、かつその前提としている事実が主要な点において真実であるとの証明があったときは、人身攻撃に及ぶなど論評としての域を逸脱したものでない限り、名誉侵害の不法行為の違法性を欠くものというべきである。
原告は、さいたま市議会議員であり、市民生活委員会の委員長の地位にあったところ、本件文章は税金の無駄遣いであるとして新聞等で連日報道され、市民からも事実の究明を求める旨の要望が高まっていた盆栽枯死事件について、原告が速やかに正式な市民生活委員会を開こうとしないことに抗議する趣旨の市民の請願を紹介するものであって、その内容及び目的に公共性・公益性があることは明らかである。
そして、本件文章が、市民からの請願の概要を紹介する内容であることからすれば、請願者において、原告の発言に抗議する意図で請願を提出したとの事実が真実であれば足りるところ、請願者は、原告の自身のブログにおける発言などから原告が正式な委員会を開催せず、その議事録も公表しない意図であると認識して、抗議の趣旨で請願を提出したという経過であるから、本件文章の内容は真実である。また、仮に、原告が「議会として記録に残さなくていい」、「市民は新聞記事を読めば十分」という発言をしたことについて、真実性、相当性が要求されるとしても、原告のブログにおける発言や、原告が平成21年9月の定例会まで市民生活委員会を開かなかったことからすれば、被告が本件レポートを発行した平成21年9月時点において、原告が会議録の残る場である市民生活委員会を速やかに開こうとしなかったことは明らかであり、本件文章のうち上記内容に関する部分も真実である。
また、原告は「民主党・無所属の会さいたま市議団」に所属しているところ、同団体を「民主党」と略することも一般的に行われているから、同内容に関する部分も真実である。
以上によれば、本件表現行為は、原告に対する名誉毀損として不法行為には当たらない。
(2)原告の損害等
(原告の主張)
ア 被告の不法行為により、原告の名誉が毀損されたことに対する慰謝料は、150万円を下回らない。また、本訴に係る弁護士費用も上記不法行為と相当因果関係を有する損害であり、その額は20万円を下回らない。
イ また、原告の名誉が回復されるためには、本件文章の取消の手続が取られる必要があるとともに、その内容を被告の選挙区内のみならず原告の選挙区にも周知させるため、同内容が記載された書面について相当部数の交付を受け、原告において、その内容を説明しながら交付する必要がある。
(被告の主張)
否認し争う。
第3 当裁判所の判断
1 認定事実
原判決の事実及び理由中の第3、1に記載のとおりであるから、これを引用する。
前提事実、証拠(個別に掲げるもののほかに、甲8、乙31、原告本人、被告本人)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
(1)当事者等
ア 原告(=控訴人、土井裕之)は、平成11年、浦和市の市議会議員選挙に当選し、以後さいたま市議会議員の立場にある者である。原告は、民主党・無所属の会さいたま市議団に所属している。原告が、民主党の党籍を有していたことはない。(乙7、8、25、26(各枝番を含む。以下も同様である。)、調査嘱託の結果)
イ 被告(=被控訴人、吉田一郎)は、平成19年にさいたま市議会議員選挙に当選し、以後さいたま市議会議員の立場にある者である。かねてから、被告は、無所属の立場から、自民、公明、民主等の政党に属する市議会議員が、さいたま市行政に対するチェック機能を果たしていないとの批判を繰り返していた。(甲1ないし5、乙3、11ないし15、18、24)
ウ 原告は、市民生活委員会の委員長であり、被告は、同委員会の委員である。
(2)本件表現行為に至る経緯
ア 被告は、平成19年12月ころ、さいたま市議会において、大宮盆栽美術館(当時の名称は「盆栽会館」。改称の前後を問わず、以下「大宮盆栽美術館」という。)建設のために、さいたま市が5億円で盆栽を購入する旨の議案に反対したことをきっかけに、以後、さいたま市による盆栽の購入及び大宮盆栽美術館の建設に反対の立場を取るようになった。また、被告は、このころから、市政レポートや本件ウェブサイトに、さいたま市による盆栽購入や大宮盆栽美術館の建設を批判する内容の記事を掲載するようになった。(甲5、乙12、13、18)
イ 平成21年6月26日、市民生活委員会において大宮盆栽美術館条例案が審議された際、被告は、さいたま市に対し、さいたま市が購入した盆栽のうち既に枯死したものがないかについて質問をした。これに対し、さいたま市の文化振興課文化施設建設準備室長は、枯れた盆栽はないと答弁した。(乙17)
ウ 同年7月14日、さいたま市が大宮盆栽美術館への展示用に購入した約5億円の盆栽のうち、数点(総額数千万円相当)について、葉が落ちたり、枯死するなどしていたことが発覚し、新聞等で大きく報道された(盆栽枯死事件)。(乙17)
エ 被告は、同月23日、市民生活委員会の委員長である原告及びさいたま市議会議長に対し、盆栽枯死事件の実態やこれに関するさいたま市の対応について、執行部やさいたま市長からの説明を求める場として、速やかに市民生活委員会を開催して欲しいとの内容の要望書を提出した。(乙3)
オ 同月27日、盆栽枯死事件について市民生活委員会の主催により現地調査が行われ、原告及び被告もこれに参加した。その帰路、原告が、被告に対し、正式な市民生活委員会の開催は、8月半ば以降に盆栽枯死事件についての行政の調査結果が出てからにしたい旨述べたため、被告は自らの要望を拒否されたと受け止めた。
カ 原告は、自身のブログに掲載した平成21年7月31日付けの「『盆栽の枯死』について」と題する記事において、「『なぜ正式な議会や委員会を開かないのだ』そんな声を耳にする。確かに。現在まで、委員会視察も、議会での報告も、どちらも任意な場での行政職員による報告に終始している。しかし、報道機関には、議員と行政職員とのやり取りを一部始終公開し、実質的な行政の説明や議員の質疑の場を透明化している。会議録には残らないかもしれない。だから50年後、100年後この地の人々には、この7月の時点での出来事を議会を通じては知らせられないかもしれない。が、今を生きる市民の皆さんには、すべてとはいわないまでも、報道を通じて、情報を一定程度提供できると確信している。行政職員には、調査結果の出ていない現時点において、議会への過度な対応に時間やエネルギーを割くよりも、内部での真相の究明や再発防止策、責任の取り方などに最大限時間を割いてほしい。この点は欠かすことのできない点だ。そして、それが最もさいたま市民のためともなる。そんな思いから、議長との相談のうえで、これまでのような対応をしてきている。」などと述べた。(乙6)
キ 被告は、平成21年8月、市政レポート8月特別号において、同年6月26日の市民生活委員会で、さいたま市が枯れた盆栽はない旨の事実と異なる報告をしていたことや、盆栽枯死事件が発覚後も、さいたま市議会が正式な委員会を開くことに消極的であり、議会への正式な説明が9月まで先送りされようとしていることなどについて批判し、盆栽枯死事件について早急な真相解明が必要であるとの主張をした。(乙5)
ク また、被告は、平成21年7月27日の現地調査の後、以前から盆栽の購入及び大宮盆栽美術館について反対していた長内経男(以下「長内」という。)に対し、現地調査でのやり取りを録音したものを聞かせた。長内は、録音の内容や、原告が自身のブログに記載した記事等から、原告が正式な議会や委員会を一向に開こうとしない態度であると考え、被告に相談した上、平成21年9月1日、被告が紹介議員となり、市民生活委員会に対し、現地調査でのやり取りの内容をさいたま市議会の会議録に掲載するよう求める旨の請願(請願第50号)を提出した。また、同日、江上正(以下「江上」という。)も、被告が紹介議員となり、議会運営委員会に対し、盆栽枯死事件をめぐる新聞記事をさいたま市議会の会議録に記載することを求める旨の請願(請願第51号)を提出した。(乙2、証人長内)
ケ 結局、さいたま市による盆栽枯死事件についての行政の調査結果が提出されたのは、平成21年8月24日ころであり、市民生活委員会は、同年9月15日の定例会まで開催されなかった。(乙22)
コ 被告は、平成21年9月1日ころ、本件レポートを発行し、さいたま市北区内の駅前で配布したり、北区の住居に配布するなどした。また、同じころ、本件レポートとほぼ同内容の記事を本件ウェブサイトに掲載した。(甲1ないし3)
(3)記事の体裁等
本件レポートには、「『5億円の盆栽』枯死事件矛盾だらけの『原因』で賠償責任を回避!?『情報公開日本一』を謳う清水市政のはずが、盆栽が枯れた真相を隠し続けて賠償はウヤムヤに!?」との大見出しが付けられ、盆栽枯死事件の真相解明をめぐるさいたま市の対応が不十分であることや、さいたま市が委託先に支払っている盆栽管理委託料の内容が不透明であることなどを批判する記事が掲載されている。そして、記事の末尾において、「市民の怒りを議会に提出しました!」との小見出し及び「盆栽枯死事件について、私は市民から預かった6つの請願を議会に提出しました」との柱書に続いて複数の請願が紹介され、その一部において、「◆盆栽枯死に関する現地調査や一連の新聞報道を、市議会の議事録に掲載してください(2件)」という文章に引き続き、「⇒盆栽枯死を調査する正式な委員会を開こうとせず、『議会として記録に残さなくていい』『市民は新聞記事を読めば十分』という土井委員長(民主党・南区)の発言に抗議」という文章(本件文章)が掲載されている(甲1。「市民の怒りを議会に提出しました!」という小見出し以下の部分を指して、以下「本件記事」という。)。
2 本件表現行為が控訴人の社会的評価を低下させるものであるか否かについて
控訴人は、本件表現行為(被控訴人が、本件レポートに本件文章を掲載し、これを不特定多数のさいたま市民に配布した行為及び本件レポートとほぼ同内容の記事を本件ウェブサイトに掲載し、これを不特定多数の者の閲覧可能な状態に置いた行為)を不法行為と主張するが、いずれの行為も、本件文章が控訴人の社会的評価を低下させるものであるか否かによって、不法行為に該当するか否かの結論が導かれることになる。したがって、まず、本件文章が控訴人の社会的評価を低下させるものであるか否かについて検討することにする。
(1)ある記事が他人の名誉を毀損するものとして不法行為を構成するかどうかは、当該記事についての一般の読者の普通の注意と読み方を基準として当該表現の意味内容を解釈した上で、一般にそれが人の社会的評価を低下させるかという観点から判断すべきものである。この場合、問題の箇所のみならず、その前後の文脈、更には記事全体の趣旨、記載内容及び体裁等を考慮して判断する必要がある。
前記認定事実によれば、本件文章は、被控訴人が市民から預かった請願の要約に引き続き、その概要を紹介する内容である。そして本件文章は、控訴人が盆栽枯死事件を調査する正式な委員会を開こうとしなかったこと(以下「①の事実」という。)、控訴人が「議会として記録に残さなくていい」「市民は新聞を読めば十分」という発言をしたこと(以下「②の事実」という。)、控訴人の上記の態度について市民からこれに抗議する内容の請願が提出されたこと(以下「③の事実」という。)、及び控訴人がさいたま市南区選出の民主党に所属するさいたま市議会議員であること(以下「④の事実」という。)、以上の事実を摘示するものであるということができる。
(2)本件文章による④の事実について
④の事実は、控訴人が民主党所属の議員であると表記されているので、控訴人が所属していた民主党・無所属の会さいたま市議団とは異なる意味内容を伝達する可能性がある。しかし、民主党・無所属の会さいたま市議団を「民主」や「民主党」と表記している例はほかにもある(乙9、弁論の全趣旨)ことからすると、上記表記をしたことが不正確であるとまではいえない。他方、本件全証拠に照らしても、民主党・無所属の会さいたま市議団の政治的主張や立場が民主党のそれと正反対のものであるとか、根本的に相いれないものであるとの事情はうかがえない。これらのことを考慮すると、政治家にとって所属政党が正確に記載されることの重要性を考慮しても、④の事実が適示されたことをもって、直ちに被控訴人の社会的評価が低下するということはできない。また、被控訴人が従前から自民、公明、民主のさいたま市議会議員がさいたま市行政に対するチェック機能を果たしていないとの批判を繰り返していたとの事実を前提としても、本件文章は、盆栽枯死事件に対する控訴人個人の対応を批判的に紹介する内容であり、本件レポートの一般の読者の普通の注意と読み方を基準とした場合、控訴人の所属政党と関連付けてその対応を非難する趣旨と解することは困難である。以上によれば、④の事実の摘示が控訴人の社会的評価を低下させるものとして名誉毀損に当たるということはできない。
(3)本件文章による①ないし③の事実について
①ないし③の事実は、控訴人が盆栽枯死事件についての調査や情報公開に消極的であるとの印象を読者に与えるものである。そして、本件表現行為がされた当時、盆栽枯死事件が新聞等で大きく報道され、その多くがさいたま市の対応を批判的に紹介する論調であったこと(乙2、17)や、控訴人が、市議会議員であり、かつ盆栽枯死事件についての調査等を中心になって行うべき市民生活委員会の委員長の立場にあったこと(控訴人本人、弁論の全趣旨)からすれば、①ないし③の事実は、控訴人が盆栽枯死事件の調査等に消極的で盆栽枯死について真相隠しをしているとの印象を与えかねないものであり、その限りで控訴人の社会的評価を低下させるものと認められる。
3 違法性について
他人の社会的評価を低下させる表現行為であっても、その行為が公共の利害に関する事実に係り専ら公益を図る目的に出た場合において、摘示された事実が真実であることが証明されたときは、その行為は違法性を欠いて不法行為は成立しない。そこで本件文章による①ないし③の事実を摘示した表現行為の違法性について検討する。
まず、①ないし③の事実を含む本件表現行為は、さいたま市が5億円という高額な金員で購入した盆栽が枯れてしまったという事件が政治問題化した中で、その原因の調査、追及する目的でされたものであり、それは、さいたま市民という公共の利害に関する事実に係るもので、専ら公益を図る目的であったことは明らかである。
そして、前記認定のとおり、①ないし③の事実を含む本件文章は、市民からの請願の内容を紹介するものであるところ、前記認定事実及び証拠(乙2、31、証人長内、被控訴人本人)によれば、長内は、被控訴人からの報告や控訴人のブログの記載等から、控訴人が速やかに正式な議会や委員会を開こうとせず、また、控訴人が議会として会議録の形で盆栽枯死事件を記録に残すことに消極的であり、市民は新聞報道を通じて盆栽枯死事件について知ることができれば足りるとの意見であると認識し、これに抗議する趣旨で、被控訴人に相談の上、上記趣旨の請願第50号を提出したことが認められ、江上も、請願の理由として市議会に正式な議会や委員会を開こうとしない動きがあることを挙げ、その一例として控訴人のブログの記載を引用していることからすれば、長内と同様、盆栽枯死事件に対する控訴人の上記の対応に抗議する趣旨で請願を提出したことが認められる。そうすると、①ないし③の事実は、上記請願をその請願者の意図どおりに紹介したものと認められる。したがって、少なくとも、請願の存在及びその内容を伝える点において、①ないし③の事実が真実に反するとはいえない。
確かに、①ないし③の事実は、請願の前提として、控訴人が盆栽枯死事件を調査する正式な委員会を開こうとせず、また、控訴人が「議会として記録に残さなくていい」とか、「市民は新聞記事を読めば十分」という発言をしたとの印象を読者に与え得るものであるところ、控訴人は、上記の発言そのものをしていない(証人長内、控訴人本人、被控訴人本人)。しかし、前記認定のとおり、被控訴人は、従前からさいたま市による大宮盆栽美術館の開設について反対の立場を表明しており、盆栽枯死事件が広く報道されたことを契機に、市民生活委員会の委員長である控訴人に対して、執行部やさいたま市長からの説明を求める場として速やかに市民生活委員会を開催してほしいと要望していたのであるが、控訴人は、正式な市民生活委員会の開催は、翌月半ば以降に盆栽枯死事件についての調査結果が出てからにしたい旨回答し、盆栽枯死事件の発覚以降、本件レポートが発行された当時、被控訴人が7、8月中の市民生活委員会の開催にこだわっていることを認識していたにもかかわらず、控訴人自身はその必要がないという立場であり(甲8、控訴人本人)、控訴人が自身のブログに平成21年7月31日付けで掲載した「『盆栽の枯死』について」と題する記事においても、「『なぜ正式な議会や委員会を開かないのだ』そんな声を耳にする。確かに。現在まで、委員会視察も、議会での報告も、どちらも任意な場での行政職員による報告に終始している。しかし、報道機関には、議員と行政職員とのやり取りを一部始終公開し、実質的な行政の説明や議員の質疑の場を透明化している。会議録には残らないかもしれない。だから50年後、100年後この地の人々には、この7月の時点での出来事を議会を通じては知らせられないかもしれない。が、今を生きる市民の皆さんには、すべてとはいわないまでも、報道を通じて、情報を一定程度提供できると確信している。」などと述べている状況であった。これらのことからすると、控訴人が、直ちに市民生活委員会等を開くことには消極的な立場であり、そのため、平成21年7月時点での盆栽枯死事件をめぐるやり取りが議会の議事録に残らない可能性があることも容認し、この点については、報道等で足りるとの立場であると捉えられても仕方がない記述をしているから、①ないし③の事実が、その大要において上記ブログによって公表されていた控訴人の見解に反しているとまではいえず、むしろ、控訴人の見解を要約したものとして、事実に反するものとまではいえない。なお、控訴人は、委員長として積極的に盆栽枯死事件に取り組んだにもかかわらず、逆に非常に消極的で事件の隠蔽に関わったかのような①ないし③の事実は真実ではないと主張する。しかし、前記の控訴人のブログの内容からすると、控訴人は、市民生活委員会等の開催に消極的な態度であると取られても致し方ない表現をしており、これからすると、①ないし③の事実が真実に反しているとはいえない。
さらに、控訴人、被控訴人は、いずれも市議会議員であり、本件表現行為も、政治問題化した盆栽枯死事件について、控訴人とは異なる見解・立場からその対応を批判する趣旨であるところ、政治家として異なる立場から相手の政治活動を批判することは、その趣旨を逸脱するものでない限り、可能な限りその自由が十分に尊重される必要があると考えられる。
以上の事情を総合すると、被控訴人による①ないし③の事実を摘示した表現行為は違法性がないので、不法行為は成立しない。
4 以上によれば、原判決は相当であるから、本件控訴を棄却することとし、主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第20民事部
裁判長裁判官 春日通良
裁判官 太田武聖
裁判官 金子直史
ようするに、私がチラシを作って配布したのは、市民の公共の利害に関する公益を図ることが目的、つまり「正義のため」だったのは明らかだし、そもそも土井議員が委員会の開催に消極的だったり、要約すれば「議会として記録に残さなくていい」、「市民は新聞記事を読めば十分」ということを自分のブログに書いていたわけで、チラシの記載内容は真実に反していないし、民主党の会派を「民主党」と表記するのは他の政党・議員のチラシや新聞報道でも一般的に行われているし、なによりも民主主義社会では立場の違う政治家が相手を批判することは自由であるべきだから、名誉毀損にはならない・・・という判決で、最高裁もそれを支持したのでした。
判例集に載るといいですね。偽造公文書とニセ写真で補助金交付!さいたま市長に賠償命じる判決
吉田一郎ホームページ