FGOのマスターの一人 作:sognathus
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巴御前と同じく『御前』と敬称を付けて呼ばれる事が多いものの、こちらはあまりにもの彼女のアクティブさに若干その敬称を付けて呼ぶのを躊躇われる事もよくあった。
「ああ! マスター見つけたし! ちょい来て! ちょい!」
「相変わらず騒がしいね」
「はぁ? ちょっと、マスターなんか巴と比べて私に対する態度大分違くない?」
「まぁ、それについては後で聞くから。何か用だったんでしょ?」
「むぅ……じゃ、絶対後でね! えっとね……」
「用があったんじゃないのか」
「あったよ! あったけど忘れちゃったの! あーもう、マスターがあたしに意地悪するから」
「全く身に覚えがないのですが」
「ちょっと黙るし! あ……思い出した!」
「ん?」
「マスター、ちょっとあたしの買い物に付き合ってよ」
「え」
突然の申し出にマスターは困惑した。
鈴鹿御前が人懐っこいのを越えて馴れ馴れしいのは今に始まったことじゃないが、いきなり買い物に付き合うようにお願いされたのはその時が初めてだった。
「JKならいろいろあるじゃん? アクセとかスイーツとか」
「カルデアの購買には限界があるからな……。あまり満足できないと思うけど」
「んな事知ってるから。あたしが言ってる買い物っていうのはさ、ネットショッピングってやつ」
「それ一人でできるじゃん。寧ろ一人でやる事じゃない?」
「写真見てあたしに似合いそうかどうか言ってくれるだけでいいから」
「尚更俺じゃなくてもいいでしょ。他の仲の良いサーヴァントとか女性スタッフに相談したら?」
「あーもう、マスターがいいの! あたしのマスターなんだから黙って言うこと聞く!」
「それなんか立場逆……」
「はいはい! 取り敢えずあたしの部屋に来る!」
鈴鹿御前は一々適切なマスターの指摘を鬱陶しそうに手で払う仕草をしながら彼を引っ張っていった。
「……もう少し片付けなよ」
「これが丁度いーの」
「はぁ……」
部屋に連れてこられたマスターは彼女の部屋の乱雑さに少しウンザリした顔をした。
足元にはゴミとは言わないが、脱ぎ散らかした服や本、まだ中身が入っているお菓子などが散乱している。
足の踏み場が無いという程ではないものの、これはちょっと酷かった。
(もしかしてモードレッドの部屋もか? あいつの部屋もこんな感じなのか?)
マスターの脳裏につい最近自分の部屋は散らかっていると言っていたモードレッドの顔が浮かんだ。
だが彼女の場合は片付けはできていないだろうが、ここまで不必要に散らかって無い気がした。
鈴鹿の場合は圧倒的に現代の女子学生のような親近感を感じさせるそれだった。
近い時代に生きていて何故こうも巴御前と性格がかけ離れてしまったのか、マスターは心の中でため息を吐いた。
「ま、適当に座って」
マスターは鈴鹿が手でポンポンと叩いて座るように促した場所を見た。
「……あの、それ枕なんですけど」
「クッション代わりになるっしょ?」
「シャツが掛かってるんだけど」
「それくらい取りなよ」
「はい」(俺に取らせるのか)
「さーて、先ずは何見ようかなぁ」
「え、スマホ?」
「は?」
「パソコンを使わないの?」
「スマホの方が楽じゃん?」
「いや、パソコンの方が画面大きいし、二人で見易くない?」
「パソコン無いし、使い方解らないの。近くに寄ればいいじゃん、ほら!」
「……」
何処か複雑な表情でマスターは鈴鹿に従い、彼女と肩が普通に触れる距離にまで近付いた。
「よーし、それじゃぁ……」
「ちょ、痛い。胡座かかないで、膝が当たる」
「マスターも胡座かくからじゃん」
「俺は正座しろって言うの?」
「あ、じゃああたしがマスターの上に座る」
「えっ……」
「……」
「これでよし」
胡座をかいたマスターの上に鈴鹿が座る構図となった。
マスターの足に鈴鹿の柔らかい尻の感触が伝わり、彼は気が気でならないと、一般的な男性ならそう思うところだっただろうが、流石は幾人もの女性のサーヴァントも従えるカルデアのマスターは違った。
(重い……見難い……)
「あ、これ良い! ね、どう?」
「え、どれ?」
「これ?」
「いや、首振らないで。見えない、髪が痒い」
「もー、だからこれ!」
「……ねぇ」
「ん?」
マスターは後ろから覗き込んだ画面に映ったそれを見て顔をしかめながら尋ねた。
「それ下着じゃない?」
「そだよ?」
「俺良さなんて分からないんだけど。どう答えたら良いの?」
「似合ってるかどうかくらい想像できるでしょ?」
「え? セクハラ?」
「水着だと思えばいいじゃん」
「んー……」
マスターは鈴鹿のスマホに映っている写真を見て考えを巡らせる。
「緑が好きなの?」
「割と」
「ふーん……赤の方が似合う気もする」
「スケベ」
「帰る」
「ウソウソ!」
鈴鹿を押しのけて立ち上がろうとしたマスターに焦った彼女は、体重を後ろに傾けて何とかそれを妨害しようとする。
後ろに傾くことによってより鈴鹿の身体が密着し、よりいろいろな所の重さを感じることになったマスターは流石に動揺してビクリと動きを止めてしまった。
「ごめんごめん。冗談」
「分かったから元に戻って」
「うん! じゃ、これはカゴに入れて、と」
「えっ、それ買うの? ちゃんと考えた?」
「女の買い物なんてこんなもんだよー」
(マシュと全然違う……)
マスターは何度か付き合ったことがあるマシュの慎重な買い物を思い出しながら、鈴鹿の奔放な買い物にそれから一刻ほど付き合われたのだった。
鈴鹿御前の幕間の物語実装記念、というわけではないのですが、タイミング良いなと思ったので。
鈴鹿御前もキャラを上手く掴めてないので、ちょっと違う気がする……。