FGOのマスターの一人   作:sognathus
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最近マスターは何やら疲れている様子です。
聞けば突如女性化してしまう病に侵されてしまったしまったとか、粗暴なもう一人の私の相手に苦労しているとか、一部真実と疑ってしまうような噂もありましたが、本当に大変なようです。
ここはルーラーとしてマスターの精神の安定を図るように努めなければ。
と決意を固くしていたところで件の人物が見つかりました。
主よ感謝します。


ジャンヌ・ダルク

「マスター」

 

背後から掛けられた声にマスターはビクりと反応した。

なるべくサーヴァントの気配に注意して行動していたつもりだったのだが、やはり常人を遥かに越えた存在のそれは、一部は察しようとしても簡単ではないらしい。

声の感じから自分が注意すべき対象の人物ではないであろう事をマスターは内心でホッと安堵の息を吐くのだった。

 

「ジャンヌ……?」

 

「ええ、そうですよ。どうしました? 何故そのように慎重な姿勢で確かめられるのですか?」

 

色々と噂が絶えないマスターだったが、ジャンヌが見る限り疲れているように見える以外に特に変わった様子はなかった。

今のところ彼に何もした覚えがない自分にすらこのように警戒心を僅かに見せるマスターにジャンヌは心の中で少し傷心と焦りを覚えた。

 

「あの、私、何か貴方に失礼な事でもしましたか?」

 

「ああ、うん、いや。そんな事ないよ。最近ちょっと、ね? はは」

 

「不満が溜まっている様でしたら私で宜しければ愚痴を聞くお相手をさせて頂いても構いませんよ?」

 

「そんな、悪いよ」

 

「いえ、遠慮しないでください。というか是非私を頼って欲しい、と思います。サーヴァントとしてマスターの力になりたいのです」

 

「……」

 

理由は判らなかったが妙にぐいぐいと迫るジャンヌにマスターは苦笑を浮かべて彼女の提案から転じた願いを受け入れる事にした。

 

 

「それで……何から聞きましょうか?」

 

案内されたのはジャンヌの部屋。

彼女らしくきちんと整理されて綺麗な部屋であり……というか端的に物が極端になかった。

見ればベッド以外にあるのはテーブルと調理に必要な家電があるだけで、娯楽品の様なものと言えばこれまたがらがらの本棚に数冊分厚い本が置いてある程度だった。

マスターは、彼女らしいな、と思いながら彼女が用意してくれた水を一口飲む。

良く冷やされたその水はグラスもまた、元々冷蔵庫に入れて冷やしてあったのか、とても冷たく、更にその中に氷も入れてあったのでキンキンだった。

しかし出されたのはそれだけ。

茶菓子のような口の寂しさを紛らわせるような物は何も無かった。

マスターはそれを清貧というイメージもぴったりくる彼女らしいもてなしだなと思った。

 

「そう、だな……取り敢えず水だけ出すなら果汁をちょっと入れるのも良いかもしれないね。せっかくこれだけ冷えているんだから、果汁を入れればきっと美味しいと思うよ」

 

「えっ」

 

早速助言を求められると思っていたジャンヌはマスターが全く予想とは違う事を話してきたので思わず目をぱちくりとさせた。

それに対してマスターもつい無意識に漏らしてしまった失言にしまったという顔をした。

 

「ごめん、いきなり失礼だった。せっかくのもてなしにいきなりダメだしなんてどうかしてた」

 

「あ、いえ。気にしないで下さい。寧ろ参考になります。私、つい自分で良かれと思った事を相手にも無自覚に強要してしまう事があるので、そういった知識はとても為になります」

 

「あ、うん。でも本当にごめんね」

 

「だから気にされなくて良いですよ。それでえっと……水に果汁を入れるんでしたっけ?」

 

「うん、レモン汁とか良いんじゃない? それなら売り物としてお店にもあるし」

 

「なるほどなるほど……フルーツジュースを買ってそれを少し混ぜるのもあり、でしょうか?」

 

「良いんじゃないかな?」

 

「そうですか」

 

ふっと湧いたアイディアだったが、マスターの肯定を受けてジャンヌはとても嬉しそうな顔をした。

それだけでも少しだけ一般的なレベルの振る舞いができるようになった気がした。

 

「あ……。ご、ごめんなさい。私が貴方の話を聞く筈だったのに、何だか私が貴方に自分の話を……」

 

「いや、いいよ。元々俺から振った話がきっかけになってしまったんだし」

 

「痛み入ります。……えっと、それで、何かお悩みがあります?」

 

「ん……いや、何かこういう風に落ち着いて話すだけでも大分リラックスできるから既に助けになってるかな」

 

「えっ」

 

「いや、悩みがないわけじゃないんだ。ただ何というかさ……ジャンヌはその原因の対象ではないから話しても悪いかなって」

 

「マスターに御迷惑を掛けている者がいるのでしたら私から説教致しますが?」

 

「うん、それが、そういうのは自分でやるというか注意した方が良いかなって」

 

「えっ、いや、あの! も、もっと私を頼って頂いても良いのですよ?」

 

何か自分が戦闘以外では全くマスターの役に立っていない気がしたジャンヌは焦り、このマスターの反応に慌てた。

 

「大丈夫。取り敢えずは今こうして一緒に話しているだけでも頼らせてもらっているよ。うん……なんか普通の会話って良いね」

 

「普通に……話すだけで役に……。あ、ははは。い、いえ。お役に立てているのでしたら良いのですが」

 

つまり自分が役に立てるのは普通に会話するくらいだと取ってしまったジャンヌは目に見えて落ち込み暗い顔になった。

 

「それに他に悩みと言ってもな……。なら、ジャンヌは俺が最近、突然女の姿に変化するようになってしまったのは知ってる?」

 

「え、あれ本当だったんですか?」

 

もしかしたら助言を求められるかもと思ったジャンヌは素早く立ち直り、居住まいを正した。

 

「うんまぁ……。原因は本当にまだ判らないんだけどね」

 

「そうですか……。その、その変化は完全に女性になってしまうんですか?」

 

「うん、まぁ。身体は勿論、思考や精神も今の自分とは異なるってはっきり感じるね」

 

「それは誠に……」

 

ジャンヌは口に手を当てて自分が持つあらん限りの知識を動員してマスターに起こっている現象について考えたが、結局最終的に思い至ったのは早く彼の悩みが解決する事を祈るだけだった。

 

「ごめんなさい。それは私では、今はどうしようもなさそうです。やはりこうやってお話を聞くだけしか……」

 

「いや、それでも十分に気分転換になってるから大丈夫だって」

 

「なら良いのですが……あ、そうです。あの、マスター」

 

「うん?」

 

「もし宜しければ女性になった時にその姿を私にも見せて頂けませんか?」

 

「え」

 

思わぬ願いにマスターは口に運ぼうとしていたグラスを途中で止めてしまった。

 

「こうやってお話しをするだけでもマスターの疲れた心を癒す助けになっているのでしたら、恐らく、女性になった状態でも同じことをすれば今回と同様の効果が得られると思うのです」

 

「う、うーん。そ、そうかなぁ……」

 

「予想でしかありませんが、同性同士ならきっと何か得るものもあると思いますよ。ましてやこうやって現にマスターのお役に立てて安心感を与える事ができている私でしたらきっと何か」

 

(す、凄い自信だな。というか何だか目がキラキラと活き活きしてきたような)

 

マスターはジャンヌのこの急な盛り返しにやや動揺しつつも、取り敢えず愛想笑いを浮かべて言った。

 

「そ、そっか。じゃ、じゃあ機会があれば」

 

「ええ、そうしましょう。ついでに一緒に外に出かけたりすればより気分転換になると思います」

 

「えっ、ごほ」

 

何か話が問題の解決から女性として生きる抵抗を無くすための練習のように思えてしまったマスターはついに動揺を隠せなくなりむせてしまった。

 

「あ、あのそれは……例えば服とかは今のままでも良いよね?」

 

「私からはマスターのお召し物に関してまで口出しする気なんてありませんよ」

 

「そ、そう……」

 

「でも、いろいろな所には行ってみましょうね!」

 

聖女として悩みを聞く立場からいつの間にか、キラキラと瞳を輝かせて先の予定を楽しみにする普通の女の子となっていたジャンヌだった。




このシリーズの中で最多の文字数の話となりました。
ジャンヌのキャラもやや崩壊?
いや、もともと憑依している人物の性格も影響していると考えれれば、有り、かな?





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