FGOのマスターの一人   作:sognathus
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カルナのマスターの処女は守る宣言(事実無根、曲解させた犯人不明)はカルデアの一部のサーヴァントたちを大いに動揺させた。
アストルフォとマシュは「なら私達が守る」と言い、カルナと対照的に浅黒い肌をしたとある人物は見えない何かに明らかに苛立ち、ダ・ヴィンチはただ一言「ふーん……」と笑ってない目で漏らすのだった。
そんなただならぬ雰囲気に耐えられず女性化したマスターが逃げ込んだのは直感で頼りになると判断したある人物の部屋。
マスターがそこを訪ねた時、部屋の主はちょうど風呂から上がったところで、トランクス一丁の姿で缶ビールを手に持っていた。


ヘクトール ♀

「よぉ、落ち着いたかい?」

 

「うん……」

 

マスターはヘクトールの部屋の隅で体操座りをして縮こまっていた。

因みにヘクトールはまだパンツ一丁のままだった。

 

「マスターも大変だねぇ、人気があって。オジサン羨ましいよ」

 

「嘘でしょう。一番そう言うの面倒で嫌うんじゃないですか?」

 

「ははは。まぁ、なんつーの? ああ、そう。それよりどうしたのよその格好」

 

ヘクトールが指摘したのはマスターがその時着ていた服だった。

それは単純に一目で判る女物の服装だったのだが、マスターは女性化するようになってからも服は流石に自分の物を(サイズが合わずぶかぶかだったが)着続けていた。

それなのに今のマスターはスカートで判るように女性用のカルデアで支給された制服を着ていた。

 

「……途中でメアリーとアンに攫われたんです。そこで面白半分に半ば無理やり……」

 

「うわぁ……」

 

暗い表情で今までの経緯を語るマスターにヘクトールは同情するような声を出した。

 

(あの嬢ちゃん達も何やってんだか。これじゃマスターが今より俺たちに距離置いちまうじゃな……ん?)

 

ヘクトールは女海賊の二人組に呆れる思考一時中断した。

彼の目に入ったあるものが気になったからだ。

それは体操座りをしているマスターの股間から覗く白い布地だった。

マスターは女性化しても普段の行動は男のままなのでこういう所が割と無防備であった。

ヘクトールも最初からそれに気付いていたのだが、最初にそれを見た時の印象はこの時とは全く違っていた。

最初に見た時は精々子供の下着くらいの認識しかなかったのだが、『それ』をマスターが穿いていた事に強い違和感を感じたのだ。

 

「なぁマスター……」

 

「はい?」

 

「その、な。下着もそれ、女物だよな」

 

「……っ」

 

ヘクトールの指摘にマスターは思わず足を閉じて恥ずかしそうにする。

しかしその恥じらいの様子は、女性が下着を見られた時に見せる反応とは異なる事をヘクトールは解っていた。

 

「なぁもしかしてそれもアイツらに?」

 

「……」

 

目尻に涙を浮かべたマスターは黙ってコクリと頷いた。

 

(なにやってんの本当にあいつら……)

 

ヘクトールは心の底から女海賊の二人に呆れ果てた。

 

(これはもうトラウマじゃないの?)

 

ヘクトールは顔を伏せって動かないマスターに軽い口調で声を掛け、僅かに顔を上げた彼にちょいちょいと自分がいるテーブルに招いた。

 

「ま、落ち込むのも解るけどさ、取り敢えずこっち来なよ。ちょっとお酒でも飲んでさ。インスタントだけど食べ物もあるからさ、それ一緒に食べて気分落ちつけよう。な?」

 

「……ありがとう」

 

マスターはヘクトールの誘いにそろそろと四つん這いで赴き、彼と対面する場所に就いた。

 

「いらっしゃーい。あ、ついでにちょっと知り合いも呼んでもいいかな?」

 

「知り合い?」

 

「そそ、いや、そいつちょっと危ない奴なんだけど、取り敢えずこういう時は大丈夫だと思うからさ。というか来た方がなんか上手く行く気がするんだよね」

 

何が上手く行くのかは判らなかったが、マスターは取り敢えずヘクトールが保証するならと彼の知人の招待を了承した。

それから程なくして……。

 

「ヘクトール先輩! この度はお招きいただき拙者、誠に有り難き幸せ!」

 

「え……」

 

現れたのは一目でこれはミスチョイスなのではと思える黒ひげなるもう一人の海賊だった。

 

「それにそれに、ウキウキ気分で来てみれば、なんとなんと辿り着いた酒宴の席に可愛いおにゃのこマスターもいらっしゃるではごらぬか。ウハ、幸福感マジヤバ!」

 

「あ、あはは。えー、えっとぉ……」

 

「旦那ぁ悪いけどちょっと落ち着いてくれな? マスターちょっと引いてるし」

 

「おお、これは大変失礼致! いや、しかしこの幸福感我慢するのは辛いでござるなぁ。いや、良いのでござるが」

 

「あはは……」

 

マスターは何故ヘクトールが黒ひげを呼んだのかこの時はまだ理解できなかった。

取り敢えずは彼から貰ったビールを飲みながら隙を見せないように黒ひげの様子に注意を払いながら、これまた一緒に彼から貰ったカップめんを啜る。

黒ひげはといえば、いつも通りふざけた口調で大袈裟な素振りをしながら楽しそうに酒を飲んでいた。

時折マスターにもちょっかいを出すそぶりを見せながらも、そこにヘクトールの待ったが入るという流れがよく続いた。

 

「ぶぅ、先輩さっきからきびしぃ!」

 

「あんたを呼んだ俺の顔も立ててちょうだいよ」

 

「それは確かに誠に当然でござるな。恩に仇で返すのは拙者も望むところではないですからな。でゅふぁは!」

 

「良い飲みっぷりじゃないの。どうよマスター飲んでる?」

 

「え、えぇまぁ。それにしても二人ともよく飲むね……」

 

「何この程度! このビールなる現代の酒! 美味過ぎなので拙者まだまだ飲めますぞ!」

 

「オジサンも! 今日はまだまだ飲むよ!」

 

「え、えー……。ちょっと二人とも程ほどに……」

 

マスターはこの時にはヘクトールが何故黒ひげを呼んだのか何となく解ったような気がしていた。

先ほどからずっとこんな調子で宴会紛いの雰囲気が続いているが、その流れに乗る二人に困惑しつつもそれを楽しいと感じる自分がいたのだ。

黒ひげの事も最初は確かにミスチョイスな気がしたが、ヘクトールが上手く御しているおかげか、または黒ひげ自身が分かっててふざけているだけなのか、先程からこの二人の掛け合いが面白くて自分にとって肩の力が抜けるような良い緩急材になっているような気がした。

マスターは飲み過ぎないように注意しながら心の中でヘクトールの気遣いに感謝を、ついでに黒ひげにも同じく感謝しつつ、彼の評価を改めるのだった。




途中から黒ひげが乱入してきたので、純粋にヘクトールの話ではなくなってしまいましたが、それなりに楽しい話になった、気がします。





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