千葉県野田市で小学4年生の栗原心愛(みあ)さんが死亡し、両親が逮捕された事件を受け、政府が児童虐待防止の緊急対策をまとめた。

 児童相談所が把握している虐待事案について、1カ月以内に安全を確認することを柱とする。

 幼い命を守る安全確認は何より優先されるべきだが、重要なのはその実効性である。「救えたはず」という後悔を繰り返さないためにも、従来の対応の延長ではない、踏み込んだ強化策につなげてもらいたい。

 緊急安全確認は、全国の児相が在宅指導している事案が対象で、少なくとも数万件に上る。全国の公立小中学校や教育委員会が虐待を疑っているケースも同様に確認する。さらに保護者が関係機関との関わりを避ける場合は、リスクが高いとし、ためらわずに一時保護するよう求めている。

 事件を巡っては、一家が野田市に転居する前に住んでいた糸満市で、父親の都合で家庭訪問が2度もキャンセルされた事実がある。安全確認の不備と、リスク判断の甘さは否定できない。

 心愛さんがSOSを発したアンケートを野田市教委が父親に渡すなど、対応の不手際が重なり悲劇は起きた。

 そのため通告元の情報を提供しない新ルールも設定。保護者が威圧的な要求をする場合、複数の機関で共同対処することも盛り込んだ。

 親とのトラブルが避けられないようなケースでは、警察や弁護士らとの連携が重要となる。

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 全国の警察が昨年1年間に虐待を受けた疑いがあるとして児相に通告した子どもは8万104人で、初めて8万人を超えた。沖縄も756人で過去最多となった。

 児相には警察のほか家族や学校などからも通報があり、増え続ける虐待情報に現場は忙殺されている。

 緊急対策では、既に打ち出している「児童福祉司」の増員を前倒しで進めることも決定。2019年度、千人程度増やす予定という。

 ただ人材の養成には時間がかかり、体制強化は一朝一夕にはいかない。加えて1カ月以内の緊急安全確認が始まることで、虐待対応に遅れが生じる可能性もある。

 全国の市町村に設置予定で、子育て家庭を支援しながら虐待情報の収集に当たる「子ども家庭総合支援拠点」も前倒しにするなど、重層的な取り組みが求められている。

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 緊急対策は、両親から虐待されていた船戸結愛ちゃんが死亡した事件を受け、昨夏決まった対策を引き継ぐもので踏み込み不足は否めない。

 心愛さんの事件を教訓とするならば、母親が夫から受けていたドメスティックバイオレンス(DV)にも目を向けるべきである。

 暴行を黙認していた母親を責める声があるのは確かだ。だが一方で母親も暴力の支配下にあった被害者である。児童虐待とDVは相関関係が深い。孤立しがちな母親への支援も同時に打ち出す必要がある。