義経伝説と為朝伝説――日本史の北と南 (岩波新書)

著者 :
  • 岩波書店
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本棚登録 : 54
レビュー : 7
  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004316923

作品紹介・あらすじ

歴史に名をのこす英雄、源義経とその叔父為朝。だが確実な史料は少なく、膨大な「英雄伝説」のみが流布する。とくに義経伝説は主に北海道へ、為朝伝説は琉球へと広まり、彼らの像は大陸の覇者や王朝の始祖的存在へと飛躍を遂げる。なぜそうなったのか?二人の伝説を通して北と南から「日本史」を読み解く、刺激的な一書。

感想・レビュー・書評

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  • 義経伝説と為朝伝説それ自体を論ずるのではなく、それら伝説がいかに流布していったか、なぜ伝説が広がる必要があったのかを、平明に解説する良書。
    蝦夷地、琉球が日本に組み込まれていく過程と密接に絡み合うという論及は、多くの示唆に富む。また、出版文化の発展ともリンクするという指摘も同様。
    さりながら、両説の取り込まれ方は、アイヌと琉球で異なる点もあり、その差が蝦夷地と琉球の歴史解説にもなり得ているという。200頁そこそこという制約のある新書で書くには、これが上限ではなかろうかと思われる濃い内容。

  •  東北・北海道における「源義経伝説」と南九州・沖縄における「源為朝伝説」の形成・伝播・浸透過程を、伝説の「前史」も含め、それぞれの時代背景とともに通史的に明らかにしている。伝説の原型は中世後期に遡るが、義経の大陸渡航伝説や為朝を琉球王祖に見立てる伝説は、いずれも近世に日本型華夷秩序の意識化と連動して、知識人によって広がったものとみなす。近代には北海道・沖縄の「内国植民地」化を正当化する役割を担ったことも共通するが、他方でアカデミズムでの両者の扱いは対照的であった(学界は義経伝説を全く取り合わなかったが、為朝伝説を史実として支持・肯定する者は多かった)。義経=チンギス・ハン説の主唱者が自説を否定する歴史学者らに「愛国心」が足りないと噛みついたとか、実証史学の大成者の「抹殺博士」重野安繹でさえ薩摩藩の史書(重野は旧薩摩藩士)や近世琉球の正史に影響されて為朝伝説を全面肯定したといった逸話は、現在も後を絶たない歴史修正主義・陰謀論などの偽史や、史料批判における予断の問題を考える上で依然として参照しうるだろう。

  • 刺激的な一冊。義経と為朝の伝説を通して、日本という国がどう広がってきたのかを紐解く。
    義経伝説で北の国境を広げ、為朝で南の領域を拡大するわけだ。さらに日本型華夷思想とでもいうのか、中国もその祖は日本の天皇の末裔とまで伝説は肥大する(義経=チンギスハン説のことですね)。荒唐無稽ではあるけど、18世紀後半の方日本ではけっこうな知識人も本気ではないのだろうけど言及していたらしい。ぞっとするのは、これが中国大陸侵略の思想的背景に利用もされたことだ。歴史認識と電設を峻別しなくちゃね。

  • 長年にわたる著者の研究の成果が実った論考で日本の外縁がどのように形成されてきたのか、ヤマト化とはどのような内実を持っているのかを思い知らされる。

  • 義経や為朝の存在した時代以前、旧石器時代から話が始まり二人の伝説が広がる背景や下地から詳しく説明がされていました。
    『吾妻鏡』や『椿説弓張月』以降の庶民の人気を追う本かと思って手にしたのですがアイヌや琉球王国が近代日本にどのように呑み込まれていったのかが深く掘り下げられており、思っていた内容と違いやや驚きましたが色々と勉強になりました。

  • 書籍についてこういった公開の場に書くと、身近なところからクレームが入るので、読後記は控えさせていただきます。

    http://www.rockfield.net/wordpress/?p=11041

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著者プロフィール

一九四九年・栃木県生。明治大学大学院博士課程中退。博士(史学)。現在国士舘大学21世紀アジア学部教授。著書『中世村落の景観と生活』(思文閣出版、一九九九)、『歴史のなかの米と肉』(平凡社、一九九三)、『食をうたう』(岩波書店、二〇〇八)他。

「2016年 『日本人はなぜ、五七五七七の歌を愛してきたのか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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