FGOのマスターの一人   作:sognathus
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名実ともに悪属性である通称青髭はマスターにとってやや特殊なサーヴァントだった。
基本的に会話が成立しないと思っていたが、指示はしっかり聞くので問題は特にない。
では普段の日に偶然出会ったらどうなるのか?
これはそれが示された日の事。


青髭

「おお、マスターではないですか。このような所で出会うとは、今日は何かご予定でも?」

 

「……いや、卿の後ろの自販機でジュースを買おうと思ってさ」

 

「おお、これは! 申し訳ございません。気付かず」

 

「何か買ったの?」

 

「え?」

 

「いや、そこにいたからさ」

 

「ええ、そうです。血のような赤色の飲み物を欲していたのでトマトジュースをと」

 

「ああ、なるほど。でも確かそれ……」

 

「ええ、ありませんでした」

 

青髭は目に見えて残念そうな顔をした。

マスターは愛想笑いを浮かべながら令呪を見せて言った。

 

「はは、でもだからといって外の人を襲ったら即自害させるからね?」

 

「承知しておりますとも。いえ、ご心配なく。私、これでもマスターの意向は理解しているつもりです。それに合わせて自分自身の嗜好もある程度改めているのですよ」

 

「へぇ……?」

 

「信じておりませんね? しかしそこまでして自分を律しているのは理由があるのです」

 

マスターは興味深そうに青髭の話の続きを待った。

しかしその態度の裏ではしっかり警戒もしていた。

ポケットに入れた手の甲の令呪をいつでも使えるように意識する。

 

「何故かマスターには私の精神汚染の影響が見られないです。これは私として、というよりマスターに仕えるサーヴァントしては些か問題でして」

 

「なるほどね。バーサーカーでもない限りある程度お互い同調できないと任務の時危ないもんね」

 

「そういう事です」

 

「でも自分を律しているだけで根本の考えを改めたわけじゃないよね?」

 

「えっ」

 

青髭はこの時何か嫌な予感がした。

マスターは相変わらず愛想笑いを浮かべた柔らかい態度だったが、何故か彼から感じる雰囲気は固く思えたのだ。

 

「マ、マスター?」

 

「卿の努力と配慮は俺も感心したよ。けど、ごめんね? 俺としては逆にそこまで『自分から』してくれた卿ってやっぱ油断できないなぁって」

 

マスターはそう言ってポケットから出した手の甲に刻まれた令呪を青髭にかざした。

青髭は慌てて彼を止めようとしたが……間に合わなかった。

 

「え、ちょ」

 

「令呪を持って命じる。その『自粛』を魂に刻み込め」

 

予想外の事態に泡を食った青髭だったが、残念ながらマスターの予想外の行動はここで終わらなかった。

なんとマスターはその場で続けて残りの令呪を使い始めたのだ。

 

「更に重ねて、残りの令呪を全てもって命じる。この命はいかなる時空においても不滅である」

 

「な?!」

 

スーッと消えゆく令呪の紋章を青髭は真っ青な顔で、令呪を使った本人であるマスターはとっても朗らかな笑顔でそれを見届けた。

 

「……」

 

「……」

 

二人の間に青髭にとって気まずい沈黙が襲った。

しかしその沈黙もさほど時間を経たせる事も無く、マスターの方から口を開く事によって意外に早く終わった。

 

「……さて、もしさっきの卿の自粛が偽りだった場合、俺の今の行いは全くの空振りの無駄な事で、俺はとても無防備になるわけだけど」

 

「……」

 

その通りだった。

青髭がマスターに話した事が嘘であれば、今目の前にいる彼は令呪による拘束力を持たない無防備な一人の魔術師だった。

青髭はマスターの挑発とも取れる言葉に僅かに危険な黒い欲望が湧き起こるのを感じたが、しかしそれは瞬時に急速に収まって行った。

つまり青髭の言葉は真実だったのだ。

青髭は引きつった笑いを浮かべながらどことなく悔しそうな声でマスターに訊いた。

 

「何故嘘だと思わなかったのですか?」

 

「元々卿がそういう試みをしているという事をジャンヌさんとあともう一人から聞いてたんだよ」

 

「なんと……」

 

自分が気付かぬ内に敬愛している聖女から監視されていたという事実に、青髭は歓喜と無念が入り混じった複雑な感情に襲われた。

しかしやや解せなくもあった。

確かにジャンヌであれば、自分の事を良く知る人物であるだけに気取られる事も無く監視も可能だろうが、逆にそれは自分に同じ事が言えた。

自分も彼女の事をよく知るが故に何らかの形でそれを察知できても良かった気がした。

それが全くなかったという事は……。

 

「因みにもう一人というのは?」

 

青髭はマスターが名を明かさなかったもう一人の監視者の名を訊いた。

全く自分が気付かなかったという事がその人物が関わっていた事によるものではないかという気がしたのだ。

 

「貴方」

 

「え?」

 

「だから貴方。もう一人の、ね」

 

「あ……」

 

青髭の脳裏に雷が落ちた。

 

(そうか……。そういえば此処(カルデア)にはもう一人の自分が居た。それも一番今の自分が嫌うであろう『自分』が)

 

「なるほど……」

 

「これから宜しく」

 

ニッコリした顔で親睦を深める握手を求めてきたマスターの手を、青髭は焦点が合わない瞳と絶えずひくつく口の端、そしてそこに無理やり笑顔を浮かべるという非常に複雑な表情で握り返した。

 

(ぐっ……な、なんだこの感じは)

 

青髭は最早呪とも言える魂に刻まれたマスターの命に、僅かに反感を持つ度に何とも言えない温かさが身体に満ちるのを感じた。

その温かさは彼にとって不愉快以外の何物でもない心地だったのだが、それが逆に自分の後ろ暗い感情を鎮静化させ心穏やかに……。

この後、青髭はこの状態になる度にいつの間にか脳裏に何故かジャンヌの姿が浮かぶようになり、それを喜びマスターにより従順になったのは勿論、それ以外の者に対しても不穏な態度や言動はしなくなったという。




GWも仕事です。
休みはしっかり週に二日あるので良いのですけどね。
でもまとまった休みが欲しいなぁ。





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