FGOのマスターの一人 作:sognathus
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しかしそのカードに貼られた顔写真には自分とは違う人物の顔が写っていた。
「何これ……」
マスターは渋面で新しく支給されたカードを見た。
この写真の人間は自分ではない、だが残念ながら今は自分の写真なのだ。
「マスターが女性になってしまう現象はまだ続いているみたいだからね。特別にその時の姿のIDも作ってもらったのさ」
「……」
マスターはまだ黙ってカードを見ていた。
ダヴィンチの言う通りマスターの女性化現象は未だに続いていた。
しかも質が悪い事にいつその現象が現れるのか不確定であった。
唯一つ判っているのは、意識が無い就寝中に変化が起こり、それに気付くのは必ず朝。
そしてその変化は寝て朝起きなければ解けないというものだった。
どちらの変化も一人で就寝しなければ解けないのも確認済みだ。
ダヴィンチにしつこく説得され、一度渋々一緒のベッドで寝たところ女性化は解けてなかったのだ。
お蔭で今、マスターはまだ女性のままだった。
「はぁ……」
マスターは溜息を吐いて新しく支給されたもう一つのIDカードをポケットにしまった。
「それで、他に判った事はあります?」
「うん、女性化したら指紋は勿論、遺伝子情報も男性の時のマスターとは全く別人だね」
「……」
この事実にはマスターも素直に驚いた。
いや、姿が全く変わっているから当然と言えば当然とも思えたが、それでもまさか中身(意識)以外は全く違うとは。
「まぁ、僕自身は僕だと認識できているからまだ良いか」
「他にも精神的にも完全に女性となっているから微妙に思考パターンや感情の波も変わってるはずだね」
「それはまぁ……」
マスターは最初にダヴィンチに泣きついた時の事を思い出した。
確かにあの時は溢れる感情を男の時より上手く調整できなかった。
「困ったもんだね……」
「ま、任務に支障が出ない程度には私もフォローするよ」
「ありがとうございます。それでですね……」
「うん?」
マスターはジト目でダヴィンチの後ろの机に積まれているカードを指さした。
「あれは何?」
「ああ、これ?」
「なんであんなに僕のIDがあるんですか? しかも今の姿のやつばかり」
「ああ、大丈夫だよ。このカード自体にはIDの機能はないから」
「じゃあ一体何の為に?」
「今の姿はあまり皆には知られていないからね。だからこれを配って認知度を上げようかと」
「え……」
ダヴィンチの説明が衝撃的過ぎてマスターは言葉を失ってしまった。
彼(彼女)にはそこまでやる必要性が全く感じられなかった。
「いや、そんな……。そこまでの必要ないと思うけど」
「いやぁ、ついマスターの謎の変化に私の知的探求心が刺激されてしまってね」
「全然説明になってないです。それに配るのはやめて欲しいです」
「うーん、でももうこれは注文を受けた分だからなぁ」
「は?」
「何も私も無作為にカードを作ったわけじゃないよ。最初にサンプルを作って、マスターの変化の事を通信で皆に伝えた上でこれを希望する人を募ったわけさ」
「それってもう十分今の僕認知されてないですか?」
「画像まであった方がより状況も理解し易いだろう?」
「……」
マスターは考えた。
カードを配られるのは恥ずかしくて嫌だ。
だが考えを変えてみれば、今の姿は自分とは全く関係のない別人とも考えられる。
だって現に肉体的には別人なのだから。
知性で圧倒的に勝るダヴィンチを説き伏せるのは難しい。
ならばここは、自分で自分を妥協させるに足る理由を論理的に導き出すのだ……つまりマスターは折れた。
「……分かりました。でもそんなに希望する人がいたんですか?」
「いたよ。先にサンプルをあげたロマニなんて凄く喜んでた」
「は? 喜んでた?」
「ああいや、うん。研究の貴重なサンプルを手に入れられて喜んでたよ」
「ただの写真なのに?」
「彼もあれで科学の知識もあるからね。きっとあれからでも有効な活用方法を導き出すかもしれないよ?」
「ただの写真なのに?」
「……」
「目、逸らさないでください」
「ま、まぁこの事は後で話そう。それに何もカードは女性のものだけじゃない。あの束の下の方は本来の姿の君のカードもあるんだ」
「え? それはまた何故?」
マスターの疑問は尤もだった。
本来の姿はそれこそ当に皆知っているはずだ。
それを改めてカードにして伝える必要性が何処にあるというのか。
「いや、女性の姿の君のカードを邪ンヌに見せたら男性の方も無いのは不公平だと言われてね」
「公平も何も当初の趣旨と関係が無いじゃないですか」
「私もそう言ったんだけど、作らなかったら先に作った分を燃やすと脅されてさ」
「それで作った上で、そっちの方も配布希望者を募ったわけですか」
「彼女だけに渡すというのもまた後々の事を考えると面倒そうだろう? まぁ、量産した後で『余計な事を』と文句言われたけどさ」
「……もういいです。疲れました。好きにやってください」
「あ、休むのかい? 今日は……」
「一人で寝ます。元の姿に戻りたいので。この事の原因究明で何か進捗があれば教えて下さいね」
マスターの素っ気ない態度を何故かダヴィンチはくすくすと笑いながらちょっと残念そうに言った。
「了解したよ。あ、トイレや入浴はもう慣れたかな?」
「……一応」
「そうか。ではまた困った事があったらいつでも言ってくれたまえ」
「早く解決してください」
「ではやる気を貰う為に一つ、私のフルネームも答えてくれるかな?」
どこで知ったのか、ダヴィンチはマスターがアントワネットのフルネームを言い当てた事と同じ事を自分にもして欲しいと言ってきた。
マスターはその日何度目かの溜息を吐き、その時もまたあの時と同じように間を置かずに答えた。
「レオナルド・ディ・セル・ピエーロ・ダ・ヴィンチ」
「うん、いいね! じゃあ最後にハグだ」
「調子に乗るな」
マスターは男の時より腕を組み難い事を鬱陶しそうにして若干キレ気味にそう言った。
なんかダヴィンチのキャラが大分壊れてる気がしますね。