FGOのマスターの一人 作:sognathus
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我が子(マスター)が酒に酔った若い娘(武蔵)をおぶって自分の部屋に行く所を!
マスターもお年頃、そういう行為を成す事自体母は咎める気はありません。
しかし、しかしだからと言ってうら若い乙女を酔わせて自分の部屋に持ち帰るなんて……母は許しません!
「マスター待ちなさい!」
「あ」
声を聞いただけでマスターは嫌な予感がした。
この今の状況を見られただけである程度は良からぬ誤解を招いてしまう可能性は予想していたが、しかし今回は相手が最悪だった。
「こ……こんばんは頼光さん」
「はい、こんばんは。それでマスター、私が何を言いたいのか解ってますね?」
「先ず弁明をさせて下さい」
「見苦しいですよ」
「……母上」
「聞きましょう」
マスターはこのやり取りが誰かに見られていない事を切に願った。
特に頼光の事を母と呼んだところを。
効率的には背中に背負った武蔵に説明してもらえば、直ぐに解決しそうなものだったが、生憎というか案の定というか、背中の武蔵は静かに気持ち良さそうな寝息を立てていた。
(ここは自力で乗り切るしかない)
マスターは自分の不運を呪いながら目の前の障害に挑む事を決めたのだった。
「先ず、後ろの武蔵は酔って……寝ていますね」
「そうですね」
「でもこれは先に彼女の部屋で酒を飲んでいたからなんですよ」
「へぇ……」
マスターは頼光の背後不可視の炎が滾っている気がした。
それだけ頼光の雰囲気が険悪なものになったのがよく分かったのだ。
「聞いて下さい。部屋で飲んでいた彼女を自分の部屋に連れて行っていたのは理由があります」
「……なんですか?」
「彼女が俺の……僕の背中で眠ってしまう前に俺の部屋で酒を飲みたいと希望したからです」
「何故です?」
主語の無い短い問いだったが、頼光が何故元居た部屋で飲まなかったのかと訊いていたのは容易に察する事ができた。
「ツマミが切れたんです。それで僕が自分の部屋で用意して持ってくると言ったのですが、酔った彼女がそれは嫌だと言いまして。僕にそのまま付いて行ってそこで飲むと」
「……なるほど」
「移動中に彼女が寝てしまったので証人を立てる事はできませんが事実です。信じて下さい」
「……武蔵さんを起こして証言を求めていたら信じていなかったでしょう。貴方は彼女に気を遣って身の潔白を独力で訴えたかったのですね」
「……そうですね」
「彼女は私が預かりましょう。部屋に送ってあげます」
「助かります」
思わぬトラブルだったが、頼光のこの申し出はマスターにとっては渡りに舟だった。
彼女が武蔵を預かってくれると言うなら願ってもない事だ。
内心ホッと息を吐いて武蔵を下ろして頼光に預けようとしたところで残念ながらその日二度目の不運がマスターを襲った。
「嫌」
「……」
いつの間にか目を覚ました武蔵が不機嫌そうに引き取られるのを拒否したのだ。
見れば支えていた彼女の足ががっしりと自分の腰に回ってホールドしていた。
否が応でも離れないという強力な意思表示であった。
「武蔵さん……貴女お酒が回って眠いんでしょう? ならマスターの部屋に行っても直ぐに寝てしまうだけですよ」
「今目が覚めたから。もう寝ないから」
「でもお酒を飲んでしまったらどっちみち寝てしまうでしょう? 私は貴女が泥酔した状態でマスターの部屋で寝てしまうのを心配しているのですよ?」
「寝たら悪いの?」
「貞操が――」
と、頼光が言いかけた所でマスターが流石に口を挟んできた。
武蔵を説得する為だったかもしれないが、まるで自分が卑劣な悪漢のように思われるのは勘弁して欲しかった。
「それは無いです」
「なんで?!」
「まさか?!」
凄く心外な言葉が投げかけられたが、マスターは抗議の言葉を力ずくで飲みこんで言った。
「俺はそんな卑劣な事しません」
「えー……」
「武蔵はちょっと黙っててね」
「マスター、貴方は女子に興味が無いと……?」
「話が飛躍し過ぎです。そもそも倫理的に俺は絶対にしません」
意気地なしなんて小さな声が背中から聞こえた気がしたがマスターは無視した。
相対するは目の前の女傑だ。
彼女は思案するように顎に手を当てて佇んでいた。
(今がチャンスだ)
とマスターは更に攻勢に出た。
「母上、わ、我が子を信じていただっ! ……けませんか?」
背中を抓られたような強い痛みが襲ったが、何とか耐えた。
(武蔵、お願いだから我慢してくれ)
「……良いでしょう。ただそうですね。母から一つ条件、頼みを聞いて貰えますか?」
「何でしょう?」
「貴方が紳士である証明を今度直接母にも見せて下さい。勿論二人きりですよ?」
ギリギリ……背中を更に強い痛みが襲った。
マスターは何とか歯を食いしばってその痛みを耐えると、ニコりと不穏な提案をする頼光に答えた。
「それは倫理的に問題……無いですよね?」
「え? 何を想像したのか教えて頂けますか?」
ぎゅーと、今度は何か柔らかいモノが背中を圧迫するのをマスターは感じた。
何故ここでそんなアピールをしてきたのかマスターには気にする余裕がなかったが、迷惑である事には変わりなかった。
「愚問でした。忘れて下さい」
「では」
「今度改めて予定を合わせましょう」
「承知しました」
華やかな笑顔を見せて喜びを全身で表現する頼光に対してマスターの心持は暗澹たるものだった。
(こんな気分で今からツマミを作って飲み直すのか)
あからさまに不機嫌な背中の武蔵の事で先ず頭が痛かったマスターは、重い足取りで部屋に戻って行ったのだった。
頼光がタイトルに出ているのになんか武蔵も可愛い話になってしまいました。
というかちょっと終わりが暗いかな。
一日に4つの更新は初めてかもしれません。
ネタがよく浮かぶ時もあるものですね。