FGOのマスターの一人   作:sognathus
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マスターは最近悩んでいた。
自分の時間があまり取れない事を。
事の始まりはマシュと長く話してからだった気がする。
それからというもの、意外にマスターは話せる奴みたいな噂が広がったみたいで、よくサーヴァントと交流するようになったのだ。
別にマスターは自分の事をコミュ障だと思った事は無かった。
しかしだからといって自分がサーヴァントに好まれることによって自分の時間が割かれるのは許容し難い事だった。


マリー・アントワネット(騎・術含む)

『マスター? マスターってばぁ!』

 

ずっと外でドアを叩く音をベッドに篭って無視する事1時間。

まさかこれだけ時間が経っても立ち去らないとは予想外だった。

これ以上無視しては流石に良くない噂が……いや、既に1時間経過してしまっている時点で遅かったかもしれないが。

マスターは観念してドアを開け、自分の予想を越えた忍耐力の持ち主を迎え入れた。

 

「あ! やっぱり居たじゃない! もう、私の為に準備なんかしなくて良いのよ?」

 

1時間もドアの外で無視されていたというのに、件の人物はそれを全く気にした様子もなく、憤っても疲れても無かった。

それどころか無視されたのは自分の為だったというこれまた予想外の解釈という名の寛容さを見せた。

 

「マリーさん……えっと、いらっしゃい」

 

「お邪魔するわね。あら? 特に何をしていたわけではなさそうね」

 

マリーはベッドと何も置かれていないテーブルしか目につかない部屋を不思議そうにキョロキョロと眺めて言った。

 

「えぇ、ベッドに篭っていたので……」

 

「あ、寝ていたのね。それはごめんなさい、お休みの邪魔をしちゃって」

 

「いや……」(天使ってやつかな)

 

最早天然が入ったマリーの優しさにマスターは降参するしかなかった。

どんな用で来たにせよ無碍な対応はできない、と。

 

「今日はどうしたんです? お茶でも?」

 

「ええ、お話をしに来たのだからお茶は良いわね!」

 

「あまり上等な物は出せませんよ?」

 

「大丈夫、ただの水でなければ文句は言わないわ」

 

「……さいですか……」

 

マスターは、マリーの眩しささえ感じる社交性に若干の居心地の悪さすら覚え、そそくさともてなしの準備を始めた。

先ず飲み物のレパートリーはお茶、珈琲、紅茶、ソフトドリンクとあった。

この中からは当然紅茶が無難と思われたが、マスターは敢えてそこで個人的嗜好を優先する事にした。

これまでに見せつけられてきたマリーの優しに対する無自覚な意趣返しといえるその行動は、単純な好奇心から来たものだった。

今から出す『それ』に対してマリーはどんな反応を見せるのか、本当に何が出て来ても気にしないのか。

マスターはそんな事をお茶の用意をしながら考えていた。

 

「どうぞ」

 

「……これは何て言うお飲み物?」

 

マリーは目を瞬きさせて、器に入った『それ』を興味深そうに見つめながら訊いた。

 

「これはグリーンティ。その中でも特に味が濃い抹茶という物です」

 

「まっちゃ?」

 

「そうです」

 

「確かに濃そうね。唇が汚れそう、笑わないでね」

 

流石過去に君臨したフランスの最も有名な王妃様。

味や見た目よりも先ず気にしたのはそこだった。

しかも唇が汚れるから飲むのは嫌だと言うのではなく、そんな自分を見ても笑わないでくれと恥ずかしそうに笑うのだ。

マスターは些細な好奇心から行った行動に対して痛烈な罪悪感を覚え、すかさずハンカチをマリーに差し出した。

 

「使って下さい。勿論洗濯した綺麗な物で、返さなくても良いです」

 

「あら、気を遣って頂いて有難う、嬉しいわ。あ、因みに訊かせて貰うけどこれは……贈り物かしら?」

 

白い手でマスターからハンカチを受け取ったマリーからのこの不意の質問にマスターは直ぐには答えられなかった。

何か彼女の言葉に悪戯めいた試験の様な思惑を感じたのだ。

 

(これは……ただの気遣いですと言えば済む気がするけど、贈り物というのも合って……いや、失礼か)

 

「いえ、違います。単純な気遣いです」

 

「ふーん……ふふっ、ごめんなさいね。ありがと」

 

「因みに贈り物だと答えるのは誤りでした?」

 

「正解よ。フランス国民にタオルやハンカチを贈ると『もっと貴方は清潔にしなさい』という意味ととられちゃうのよ」

 

「なるほど。では贈り物です」

 

「酷いわ!」

 

「嘘です」

 

「やっぱり酷い!」

 

お互い冗談だと解っていたやり取りだったが、マリーのこの無邪気な反応にマスターは癒しを感じた。

 

「もう、意地悪ね。あ、飲んでも良いかしら?」

 

「あ、待ってください。できればお菓子も一緒に食べた方が良いので」

 

「お菓子も一緒に?」

 

「これ、苦いんですけど一般的に砂糖は入れないんですよ。だから甘みの強いお菓子と一緒に喫んだ方が良いですよ」

 

「そういう事なのね、分かったわ。それで、これがお菓子?」

 

マリーは、マスターが持って来た皿に乗った黒い塊を摘まみながら、抹茶の事を訊いてきた時と同じく興味津々と言った様子で訊いた。

 

「そうです。それはかりんとうと言って砂糖と小麦粉を練り合わせて油で揚げたお菓子です」

 

「チョコラとは違う黒さね。本当に甘いの?」

 

「それは最後に絡めた蜜が黒砂糖だからですよ」

 

「黒い砂糖? へぇ……」

 

「じゃ、先ずはお茶をどうぞ」

 

「にがっ! あ、でもなんか優しさを感じる苦さね。これお砂糖入れると美味しいかも」

 

「はい、それではお菓子を食べてみて下さい」

 

「……んー♪」

 

小さな口でポリッとかりんとうを食べた瞬間、マリーは本当に美味しそうに笑みを浮かべた。

どうやら初体験だったにも関わらず、抹茶の風味とかりんとうの甘みのコラボをお気に召して頂けたようだ。

 

それから暫くマリーとマスターは茶会の時間を過ごし、最後に器に残ったお茶が後僅かになったところでマリーが再びマスターに問い掛けた。

 

「マスター、お茶会の締めにまた問題を出して良いかしら?」

 

「どうぞ」

 

マスターは最後のお茶をズズッと飲み干すと一息付いてマリーに向き直った。

 

「私のフルネームは何でしょう?」

 

「マリー=アントワネット=ジョゼフ=ジャンヌ・ド・アブスブール=ロレーヌ・ドートリシュ」

 

マリーは考える間すら見せずに即答したマスターに言葉が出ず、目をパチクリとさせて驚きの表情で見た。

そしてマスターから「正解でしょ?」と言われたところでようやく我に返り、いきなり抱き締めて来て嬉しそうに言ったのだった。

 

「大正解! 流石私のマスターね!」




果たして何故マスターは躊躇なくマリーさんのフルネームを言えたのでしょうか。
ウ〇キじゃなかったら良いな。





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