FGOのマスターの一人 作:sognathus
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しかし苦手と言っても嫌っているとかそういう良くない方向ではない。
ただひたすらに明るくて前向きなあのサーヴァントが彼にはどうも眩し過ぎるというか、自分の控え目さに自然と恐縮してしまうのだった。
「マッスタァ、遊ぼ!」
彼はマスターに自分から積極的に絡んでくる数少ない存在だった。
今こそ何人からのサーヴァントと交流を持つようになってきたが、彼だけはそれ以前から少ないながらも言葉を交わす相手だった。
「君はいつも元気だねぇ」
マスターは呆れたような疲れたような低い声でそういった。
しかしそんな声に対して彼の顔は困ったような顔に僅かな苦笑を浮かべていた。
「うん、元気だよ! だって君と契約してから毎日が充実しているからね!」
「別段何も無い日が殆どじゃない?」
「そんな事ないよ! ほら、今だって僕はマスターとこうして話しているだけで凄く嬉しいんだ」
「はぁ」
マスターは思った。
これで彼が性別が男なのは本当に惜しいと。
一般的には彼の性別は謎だったり不詳という事で認知されているが、親しい者や元々彼の事を識っている者には、この一見少女にしか見えない人物が『彼』だという事は割と認知されていた。
マスターもその一人なのだが、それでも最初にその真実を知った時は内心大層驚いたものだった。
だって普段から少女のような恰好をしていれば誰だって誤解してしまうというものだ。
「何か今でも俺は君が女にしか見えないよ」
「女の子だよ?」
「いや、本当に勘弁してください」
「えー? だってマスターは僕を女の子だと思いたいんでしょう? なら僕はそれに応えてあげたいなぁ?」
「うん、分ったからスカート摘ままないでね?」
屈託のない笑顔でそう嘯くアストルフォにマスターは降参とばかりに彼らしくもなく慌てた様子で手を振って断った。
「僕は別に自分が男でも女でも構わないんだよね。今生きているその時が楽しければ」
「刹那的だなぁ……いや、享楽的?」
「違うよ、すっごく前向きなだけだよ。さっきだってマスターは僕の事ポジティブだって言ってくれたじゃん」
「いや、元気って言った気がするけど」
「どっちも同じような意味だよ!」
「えー……まぁそう……か……?」
本当に当たり障りのない自然な会話だった。
マスターはそれを自覚する度にアストルフォに密かに自然と感心するのだった。
(俺みたいなマイペースでも必ず引き込まれて自然に長く話しているんだよなぁ。他の人とも長く話す事はあるけど、彼はまた違った感じで……)
「心地良い……?」
「えっ」
自然と無意識に口から漏れてしまった言葉だった。
だがアストルフォはその短いながらも彼には確実に貴重な言葉を聞き逃すような失態は犯さなかった。
「え?」
「マスター今、君、なんて言った?」
「え? 今?」
アストルフォの不意に真剣な眼差しによる問いにマスターは思わずたじろぐ。
(え? 何か言ったかな?)
「今、僕を見て『心地良い』って言ったでしょ?」
「え? あー……ああ、言った……ね、うん」
「……っ」
マスターが自分の確認に対して是だと認めた瞬間、彼の中で花火ような幸福感がパッと光った。
そしてそれから溢れ出る嬉しさを我慢できずについアストルフォはマスターに勢いのあるハグをしたのだった。
「えっ、なに。急にどうしたの?」
「んー…………! なんでもない! でもなんか嬉しくてついね!」
「は、はぁ?」
マスターは急に抱き付いてきて自分の首元に顔を擦りつけて喜ぶアストルフォに完全に不意を突かれてしまった。
だがアストルフォはそんなマスターの動揺など気にも留めずにまだハグをしたまま幸せそうな顔をするのだった。
「えっと、もう放してくれる?」
「えー、もっとこうしていたいなぁ」
「いや、本当に勘弁してください。君が男という事実に俺の頭が混乱しそうだから」
「そういうの気にしなくていいよ?」
「だからそういうのやめて。何か凄く、何か言葉では表現できない複雑な気持ちになっちゃうから」
「……もう、しょうがないなぁ」
不承不承といった態度で渋々マスターを話したアストルフォは明らかに不満顔だ。
マスターはそれに対してただただ申し訳ないとばかりにゴメンを連呼するしかなかった。
(うん、だからそういうのもやめてね。理性が蒸発してるって言葉を深く考察したくなっちゃうから)
程なくしてようやく落ち着いて会話が再開したところでアストルフォがポツリと呟いた。
「なんかさぁ……」
「うん?」
「マスターの僕に対するさっきみたいな態度見ちゃうとさ」
「あ、ああ、うん」
「僕マスターの女の子になりたい気持ちにやっぱりなっちゃうなぁ」
「は……?」
マスターはアストルフォが何を言いたいのか理解できなかった。
いや、本質的な部分では何となく察せられるような気もしたのだが、それでもアストルフォの気持ちや思考に着いていけず、結果的には軽く混乱してしまうという結果になった。
アストルフォはそんなマスターの様子を愛おしそうに華やかな笑顔を浮かべて言葉を続けた。
「だからさ、本当に女の子になって付き合いたいなって、ね?」
「あ、ああ……」
最早マスターはどう話を続けたら良いものか手詰まりとなってしまった。
(だってしょうがないじゃないか。こんな言葉にどう返せば良いっていうんだよ)
「ねぇマスター」
「……はい?」
「もし、もしもだよ? もし僕が聖杯の力で女の子になったらさっきの話って真剣に……」
「うーん、そうなったらある方面の方々から抗議の声きそうだしな……」
「あ、話逸らしたよね今! そういうのズルイと思うな!」
ギリギリのところで持ち直したマスターの返しにアストルフォは不満を表すも、それは再び二人の友達らしい雰囲気の会話の始まり合図だった。
男の娘は正直嫌いじゃないです。
ふ〇なりよりは好きな方です。