●トインビー対談を提案・要請したのは誰か [1]
従来、創価学会は、トインビー池田対談は博士から提案・要請されたもの、と喧伝している。しかし果たして、それは本当だろうか。
新・人間革命第16巻の「対話」の章に、トインビー博士が池田氏に宛てた初手紙が紹介されているので、まずそれを見ていただく。
(識別しやすいよう、手紙部分は黄色字で示す。赤字部分は注目すべき箇所である。)
---引用開始---------------------------
それは、一九六九年(昭和四十四年)の秋であった。
山本伸一は、タイプで打たれた、一通の手紙を受け取った。
アーノルド・J・トインビー博士からの書簡であった。
二十世紀を代表する歴史学者からの、初めての便りである。
伸一は、胸を高鳴らせながら、訳文に目を走らせた。
そこには、まず、博士の創価学会に寄せる強い関心が、率直につづられていた。
「創価学会並びにあなたのことについて、多くの人びとから伺いました。以来、あなたの思想や著作に強い関心を持つようになり、英訳の著作や講演集を拝見しました」
そして、伸一と存分に語り合いたいとの、博士の心境が記されていた。
「これは提案ですが、私個人としてあなたをロンドンにご招待し、私たち二人で、現在、人類の直面する基本的な諸問題について、対談をしたいと希望します」
さらに、こう付け加えられていた。
「時期的にはいつでも結構ですが、あえて選ばれるとしたら、五月のメイフラワー・タイムが、最もよいと思われます」
---引用終了---------------------------
博士の手紙からの抜粋引用は、この章で唯一の客観資料と言えるものであるが、翻訳というフィルターを介しているので、信頼できる資料と言えるかどうかは、その翻訳の正確性を見なければならない。
そのために、創価学会がイギリスSGI機関紙で公表した博士の手紙の英語原文を掲載する。と言っても学会側が前略、中略、後略を施した抄録である。上の新・人革の訳文に相当する内容だ。文中「・・・」の記号は学会側による中略箇所である。
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"When I was last in Japan in 1967,people talked to me about the Soka Gakkai and about you yourself. I have heard a great deal about you ... and now I am very much interested in your thoughts and works. I am going to read some of your books and speeches translated into English.
" It is my pleasure, therefore, to extend to you my personal invitation to visit me in Britain in order to have with you a fruitful exchange of views on a number of fundamental problems of our time which deeply concern us all ... I would like to welcome you warmly whenever you could come to London; however, I might suggest that some time next May would be a good time for us as we usually have a lovely spring in my country." (*1)
---引用終了---------------------------
一応拙訳を付す。生硬な訳で恐縮だが、変に意訳するより意味が正確に伝わると思う。なお、新・人革の訳で問題ない部分はそのまま採用した
[拙訳:
前回つまり1967年の訪日の折り、創価学会並びにあなたのことについて、多くの人びとから伺いました。
(中略)
今、私はあなたの思想や著作に強い関心を持っています。私は英訳されたあなたの著作や講演集を何冊か拝読させていただくつもりです。
(中略)
私は、現在人類の直面する基本的な諸問題について、あなたと実りある意見交換をするために、喜んであなたをイギリスに私個人としてご招待いたします。
(中略)
あなたがいつロンドンに来られても温かく歓迎いたしますが、ご来訪に最適な時期として来年5月を提案いたします。その頃ならイギリスのすてきな春を満喫できますので。
さて、赤字で示した部分を見てみよう。
まず新・人革の「英訳の著作や講演集を拝見しました」の箇所。なるほど、博士は池田センセイの本を読んで、対談したくなったのだな、センセイ、スゴイ!と学会員読者が感心する箇所だ。
ところが、手紙の英語原文ではこうなっている。
I am going to read some of your books and speeches translated into English.
[拙訳:英訳されたあなたの著作と講演集を何冊か読むつもりです]
つまり、博士が初手紙を寄こした時点では、池田氏の著作は「読むつもり」つまり読んでいなかったわけだが、新人革ではこれを「拝見しました(読んだ)」と訳している。原文とは正反対の意味だ。
私はここで、誤訳を見つけてはしゃぎたいわけではない。ましてや学会翻訳陣の英語力を揶揄したいわけでもない。be going to~は初級英文法であり、学会翻訳陣が間違えるはずがない。彼らもきっと「拝見するつもりです」と正しく訳したはずだ。池田氏が新・人革に載せるに当たって恣意的に改竄してしまったのだ。
池田氏はなぜ「拝見しました」と改竄してしまったのか。
(トインビー対談を提案・要請したのは誰か [2]に続く)