FGOのマスターの一人   作:sognathus
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マスターは仲間と食事を摂る事が極端に少ない。
それは影の国の女王たる自分も同じで、確かに一緒に食事をした事は少な……いや、自分も一度も無かった。
別に食卓に肩を並べたいわけではなかった。
動機は至極単純。
自分より未熟で年若い者が何人か、自分より先にそのマスターと最近親交を深め始めたらしい。
つまりその事実に対して年長者の一人としての現在の立ち位置がやや気に入らなかったのだ。


スカサハ(槍・殺含む)

(マスターめ、今日も食堂に足を向けずに自室に戻るか。あいつは部屋に戻って食事をしているのか? ふむ、どうせジャンクフードやインスタントだろう。ならその食生活が不健康だという事を理由に引っ張り出すとするか)

 

マスターの背中を目で追いながらスカサハは彼を引き回す計画を瞬時に立てた。

ただの『食事』が『引き回す』というやや物騒な表現に変わっていたのは、彼女自身がただ食事をするだけなのは芸がなくつまらないと考えた故だった。

『食事の後に軽く稽古(笑)つけてやって武芸達者の頂点に位置する者の一人がサーヴァントとして契約を交わしてやっている有難みも教えてやろう』

というのがスカサハの計画の全容だった。

 

(うむ。完璧だな)

 

自分の一縷の隙も無い計画とマスターへの気遣いに半分自画自賛しながら満足したスカサハは意気揚々と彼の部屋をノックした。

 

 

「はい? え? 師匠じゃないですか」

 

「急にすまないな。少し構わないか?」

 

「え? 入りますか?」

 

「お前が構わないなら、良いか?」

 

「ええ、どうぞ。構いませんよ」

 

「うむ。失礼す……」

 

玄関を潜ったところでスカサハは直ぐに、自分の鼻孔に何やら良い匂いが入って来るのを達人ならではの鋭敏な五感で感じ取った。

 

「良い匂いがするな」

 

「今昼作ってたんですよ」

 

「冷凍食品か? あまりそんな物ばかり食べるのは感心しないな」

 

例えラーメンでなくとも冷凍食品もインスタントの一種である事くらいスカサハはどんな窮地でも常に的確な判断を導き出してきた明瞭な頭脳で既に学習済みだった。

 

(この炊かれたばかりの米と塩、そして熱を帯びた海老の香り。これは間違いなくピラフだな)

 

「いや、魚のフライを今作ってて」

 

「……」

 

どうやら塩と海老の香りは気のせいだったようだ。

テーブルには米が炊き上がり、蒸気を出す炊飯器があった。

 

(うむ、米の香りは間違いなかったな)

 

スカサハその時には既に先程の勘違いの事は忘却の彼方へと葬っていた。

正に神速の槍の使い手であるクー・フーリンの師に相応しい素早い思考の切り替えだった。

 

「マスターは自炊するんだな。もしかして今まで食事は全部自分で作っていたのか?」

 

「ええ、そうですよ。簡単な料理しか作れないですけどある程度は自分の好みも反映できますしね。あ……」

 

「ん?」

 

「師匠も宜しければ食べていきますか?」

 

「え? ああ、そうだな。では相伴に頂からせてもらおうか」

 

マスターはスカサハがついさっき揚げて皿に盛ったフライをじっと見ていた事に気付いて食事を勧める事にした。

 

(あんな目で見ていたら出さずには帰せないよな)

 

 

「ではご馳走になる」

 

「どうぞー」

 

「……美味いな」

 

特別に上等な料理でも素材でもないのは判った。

しかし料理としては素朴ながらもシンプルな塩主体の味付けはとても美味しく感じた。

 

「師匠は料理作らないんですか?」

 

「マスターが満足できる料理は出せない気がするな」

 

「ああ、なるほど」

 

「む、解ったか?」

 

「つまりレトルトやインスタントでない限り作れないわけですね?」

 

「率直だな。まぁそうだ。味は理解できても作り方が全く分からん。特に作りたいとも思わんがな」

 

「へぇ」

 

正直料理が作れないと指摘した時は不興を買うのではとマスターは少し恐れたのだが、そこは大人の余裕というか、実にスカサハらしくあっけらかんとした態度で肯定した。

マスターはこういうスカサハの厳しいながらもさばさばしたところが接し易くて助かっていた。

 

「なんか聞いていた話と違うな。お前はもっととっつき難い印象だったのだが」

 

「え?」

 

「お前最近何人かの娘と交流しているようじゃないか。その内から聞いた話から持った印象だよ」

 

「ああ……」

 

スカサハの話を聞いてマスターは納得して少し笑った。

 

「ん? どうした?」

 

「いや、僕は落ち着いて話せる人だったら大体こうですよ」

 

「ほう? つまり年下は苦手だと?」

 

「ちょっと違いますかね。精神的に自分より若くて勢いがあるというか。ペースに巻き込まれるのが苦手といいますかね」

 

「ふむ、大体理解したよ。つまり平静に論理が通る相手が好みなんだな?」

 

「何か言い得て妙ですが論理……うん、そんな感じですかね」

 

「なら私は正にふさわしい相手、最適者というわけだな」

 

いつの間にか自分で二皿目のフライを頬張りながらスカサハはやや自慢げに嬉しそうに言った。

マスターにはその姿が仕事の時に見る彼女と比べてどこなく無邪気に見えた気がした。

 

「まぁそんなとこですかね」

 

「いいだろう。ならば私が暇な時はこうやって食事を馳走になりに来てやろう」

 

「え」

 

不意の予想だにしない提案にマスターはつい箸を取り落としてしまった。

しかしそれは床に落ちることなく、一瞬の動きでスカサハが自分の箸でキャッチした。

 

「こら、気を付けないか」

 

「あ、はい」

 

「お前は幸運だな。この私から武芸の稽古だけでなくこうやって会話で癒してまでもらえるのだからな」

 

「え? 癒し? あのちょっとま――」

 

「ああ、お前が希望するならこれの代わりに稽古の追加でも構わんぞ?」

 

「……来るときは事前に教えて下さい」

 

「カルデアの者からすまーとふぉんなる物を支給されている。連絡先を入れてくれ」

 

何処からか取り出した携帯端末をスカサハはテーブルに置き、それをマスターの方に押した。

マスターは参りましたとばかりの心境でそれを受け取った。

 

「分かりました……」

 

「考えてみれば弟子の連絡先を師が知らないのはおかしかったな」

 

「え」

 

(待ってください。僕はいつの時点から貴女の弟子だったんでしょうか)

 

「なるほどなぁ。私はお前の好みであり、しかも稽古も話も聞いてくれる師匠であり出来た女だったわけだなぁ」

 

「あ、あはは」

 

本人は気付いてないようだったが、スカサハはマスターが作った料理を尚も美味しそうに食べながら、にこやかな笑顔を浮かべていた。

きっとその様子をクー・フーリンが見たら『誰この気が抜けた奴』と言いかねないように思えた。

そしてその楽しそうな様子に無粋な事を言って水を差すことができる程の胆力は、残念ながらその時のマスターにはなかった。




スカサハ好きなんですよね。
持ってないけど。
だからまぁここまで書けたんだと思います。





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