藤井聡太七段の師匠・杉本昌隆七段から頂戴した年賀状には、そう書き添えられていた。師弟アベック昇級へ。みなぎる闘志を感じた。
2月5日の順位戦C級1組9戦目。杉本七段の気合は和服姿にも表れていた。だが、結果は師弟ともに残念なものに。杉本七段は自力の2番手、藤井七段は他力の4番手に後退した。
藤井七段の終局後のコメントでも、珍しく「痛い」という言葉が聞かれた。それは順位戦が藤井七段にとって特別な舞台だから。そこには目指すべき高い頂がそびえる。谷川浩司九段の最年少21歳名人がそれだ。計算上は1年足踏みしても届くが、理想はノンストップ。負けられない戦いが続くゆえんだ。
アベック昇級は厳しい情勢だが「戦いは最後の5分間にあり」と言ったのはナポレオン。勝負はこれから。最終戦では過去に幾多のドラマが起きている。藤井七段にも前例がある。
あれは2016年9月3日。三段リーグ最終日の1局目、まさかの敗戦で自力昇段が消える大ピンチに。それが2局目、ライバルが次々敗れる展開となり、強運の自力復活といわれた。
昭和の名棋士・升田幸三九段によると、勝負師の大成する条件に4則があるという(倉島竹二郎著「運命を指す男・勝負師小菅剣之助の生涯」)。「運・勘・技・根」がそれで「運」を筆頭に挙げている。ドラマは再びあるのか。ファンとしては3月5日の最終戦まで楽しみが延びたと思えばいい。(海老原秀夫)