挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
盾の勇者の成り上がり 作者:アネコユサギ

外伝 槍の勇者のやり直し

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました
532/917

基本値

 予定日時、昼。

 メルロマルクの城下町にはアッサリと到着しましたぞ。

 もちろん、ポータルを使ってですが。


 今頃、お義父さんはシルトヴェルト軍と遭遇したかもしれませんな。

 何分、シルトヴェルト軍の進軍を止めると言う場所が不確かな状況、後で追い掛ける俺も大変だとお義父さんは嘆いておりました。

 上手く交渉で片付けば良いのですが……。


 そういえば大規模な軍がシルトヴェルト方面に向かって行くのを見ましたぞ。

 仕留めても良かったのですが、アレは国を守る部隊だったらお義父さんの最低限の願いが無下になるので見逃してやりました。


「英知の賢王と三勇教の蛮行を許すなー!」

「「「許すなー!」」」

「俺達は亜人達と戦っている場合じゃない!」

「「「場合じゃないー!」」」


 城への門を囲むように広場ではデモが起こっている様でしたな。

 睨み合う様に兵士達が武器を向けておりますぞ。

 他にも城下町内で移動制限が掛っているご様子。

 各所で検問の様な簡易な柵が設置されております。


 これも戦争への備えなのですかな?

 本来は国を守る為の柵も今や国民の革命を阻止するための障害でしかないですな。

 貴族が住む区域、国の重要施設近隣への出入りは厳重に管理されていて、兵士達が目を光らせているご様子。


 ここで俺が姿を現そうものなら盾の勇者の仲間をしている槍の勇者として革命が加速するでしょう。

 そうなればフィロリアル様の卵は破壊されてしまいますぞ。

 絶対に阻止せねばなりませんな。


 俺はユキちゃんの背に乗り、石造り建物の屋根伝いに越えて行きますぞ。

 途中警報が鳴りましたが、すぐに鳴り止みました。

 俺が来る事を知っているからでしょう。


 見張りが辺りを見渡してニヤリと笑っています。

 その笑みもすぐに消し飛ばしてやりますぞ。


 そしてメルロマルクの城下町の中でも高台に位置する龍刻の砂時計のある教会に俺達は到着しました。

 ユキちゃんの背から降り、俺はユキちゃんとコウの顔を撫でますぞ。


「打ち合わせ通りに隠れているのですぞ」

「ですが元康様」

「じゃなきゃ、俺がここに来た意味が無くなってしまいますぞ。ユキちゃんはわかりますな」

「はい……元康様、どうか御武運を」

「キタムラー。がんば!」


 俺は親指を立ててから龍刻の砂時計の方へと向かいましたぞ。



 教会の中へ入ると三勇教徒共が龍刻の砂時計を囲む様に立っております。

 吹き抜けの二階にもゾロッと集まっていて、殺気に満ち溢れておりますぞ。


「現れましたね。盾を擁護する槍の神を僭称する偽勇者よ」


 先頭にいるのは管理をしている豚でしたかな? その後ろの神父が俺に告げますぞ。

 こいつら未来では公開処刑に処されましたな。

 おや? 豚はフォーブレイの豚王の生贄にされたのでしたか?

 忘れましたな。


 その後ろには教皇がコピー武器を持って佇んでおります。

 あくまで朗らかに、虫も殺さぬ様な笑みを浮かべて微笑んでこちらを見ておりますな。

 更に後ろにはフィロリアル様の卵を入れた木箱が人質とばかりに、良く見える位置に置いてあります。


 下手に動けばいつでも破壊できるとばかりに見せつけていますな。

 く……これでは動く事もままなりませんぞ。


「さて……では少し話を致しましょうか。私達の神様は慈悲深いものです。槍の勇者よ」


 教皇が微笑みながら口を開きました。


「今ならまだ、貴方を私達は赦す事が出来ます。ここで盾の悪魔の首を取ってくると誓うのでしたら私達も過激な行いをせずに済みます。このように国を荒らした盾の悪魔と汚れた者達を共に浄化するのに、協力をして頂けないでしょうか?」

「残念ながらその提案は受け入れられませんな。お義父さんには何の罪も無いのですぞ。そしてお義父さんを苦しめる事が正しい事だと言う間違った考えを持つ、お前等こそ、ここで全てを諦めて死ぬのが世界の為ですぞ」


 俺の返答に教皇は嘆く様に頭に手を当てて首を横に振りました。


「非常に残念ですね。今回の槍の勇者はどうやら盾の悪魔に洗脳されてしまっているご様子。今すぐ解き放ってあげましょう。盾の悪魔に負けた愚かな弓の勇者、使命を放棄した……既に処分済みの剣の勇者共々、世界から一度消えて貰いましょう」

「おやおや、樹も用済みですかな?」

「アレは我らの神ではありません。神を僭称する愚かな悪魔ですよ」


 なんとでも言いますな。

 最初の世界を思い出しますぞ。

 奴等にとって都合の悪い勇者は全て悪魔であり、自身は利用された、騙されたと語るのですぞ。


 先ほどの会話から錬も既に処分したと思っている様ですな。

 どうやらループしていない所を見るに錬も命辛々逃げ切ったご様子。

 俺は槍を前に向けて構えますぞ。


「下手に動いては、こちらの生贄がどうなっても知りませんよ」


 教皇は卵の入った木箱に武器を向けますぞ。


「く……」


 これでは動けませんぞ。下手に動けば卵は俺の目の前で壊されてしまいます。

 そんな事は絶対にさせる訳には行きませんぞ。

 ここで周りの三勇教徒共が俺にLvを盗み見る魔法を掛けてきますぞ。


 普段、行商中は俺が強引に魔法で隠していましたが、下手に動いたらどうなるかわかりませんからな。

 阻害するのをやめていますぞ。


「解析完了! Lv……300!? ば、化け物め!」


 周りにいる三勇教徒共が驚愕の声を上げて辺りを見渡しております。

 元々強くてニューゲーム状態でしたし、ユキちゃん達の育成を何度もしている間にLvはあっという間に上がって行きましたからな。

 ま、実際の強さは300に収まる事はありませんぞ。


 さすがの教皇も俺のLvの高さに驚きの色を隠せない様ですな。

 まあ、刺客は全て等しく屠っていますし、既に強さを隠していませんからな。


「さあ……皆さん、盾の悪魔に協力する偽勇者に封印の魔法を掛けるのです。槍の偽者……下手に動けば、哀れな新しき命達が可哀想な結果になるのを理解するのです」


 龍刻の砂時計の前に俺は立たされて、Lvリセットの儀が行われていますな。

 もうすぐ、俺のLvはリセットされて1になりますぞ。


「Lvリセットをしたら、卵は解放してくれるのですな?」

「良いでしょう。神の御名の元にそれは約束致しましょう。例え相手が神を僭称する偽者……悪魔であろうとも、我等は慈悲深く無ければならないのです。でなければ……ね?」


 物腰は柔らかですが、この約束が守られる事があるのですかな?

 俺は密かに……とある事を始めましたぞ。

 元々そのつもりでしたからな。


「今ここに、新たな道を選ぶ為に己が力を解き放つ者が居る。世界よ。彼の者に道を指し示す好機を与えよ」


 龍刻の砂時計の砂が輝いて俺のLvをリセットしますぞ。

 これで俺のLvは1に戻ってしまいました。

 Lvによる条件を満たせず、武器はスモールスピアになってしまいました。


「これで約束通り、フィロリアル様の卵を解放してくれるのですな?」

「ええ……約束しましょう。貴方がこの世から消えた後に!」


 教皇が俺にコピー武器を向けてブリューナクを放つ構えをとりますぞ。

 同時に三勇教徒が儀式魔法の詠唱に入りましたな。

 範囲が範囲なので、裁きは放てません。

 精々……まあ何を放つにしても俺の前では無意味ですぞ。


 やはり教皇は約束を破るつもりだったのですな。 

 ですが……まったく無駄ですぞ。

 俺は教皇に向かって走り出しました。


「神の名を語った罪は重い。世界の為に消えなさい!」


 教皇がブリューナクを俺に向けて放ちましたぞ。

 強大な光の線が俺に向かって飛んできます。

 ですが、俺はそのブリューナクを、槍で軽く弾いて他の三勇教徒に当ててやりました。


「な――」


 驚愕で動けない僅かな隙に俺は一瞬で教皇の目の前に近づいて胸倉を掴み、卵を人質にしていた三勇教徒の方角に槍を向けてスキルを唱えますぞ。


「エイミングランサーⅩ!」


 ターゲットは大まかにしておりますが、最低限、卵の入った木箱には傷一つ付けない様に意識を集中しましたぞ。

 槍が俺の手から離れて木箱の方に居た三勇教徒を貫いて仕留めます。


「ば、馬鹿な! Lv1がどうしてこんなに強い!?」

「Lvにだけ意識を向けたのが敗因ですぞ」


 まあ、解析の魔法で細かいステータスまでは見せない様にしていたのですが、Lv1になった事でこいつ等は勝利を確信してしまっていた様ですな。

 これには色々と秘密があるのですぞ。


 まず俺はLvがリセットする前に武器の強化方法にあった資質向上にあるステータスの基本値上昇をこれでもかと掛けたのですぞ。

 資質はLvアップ時の能力の上昇ですな。

 基本値とはそれとは別の今の数字ですぞ。


 つまりLv1であろうともリセットされない部分……+50とかの数字部位ですな。

 最終的には資質の上昇に一歩負けてしまいますが馬鹿に出来ない領域なのですぞ。

 資質の上昇はそれだけLvを大きく消費しますからな。


 ですが基本値の上昇も併用して上げて行けば、それなりに数字を稼げるのですぞ。

 三勇教は四聖勇者を信仰している割に、勇者のステータスの内情に関して詳しく知りませんからな。

 いや、知っていても可能性を理解していなかったのでしょう。


 更に俺はLvリセットされる事を見越してスモールスピアをこれでもかと強化しております。

 様々な合成や強化を行い、Lv1であろうとも相当な能力を引き出せる驚異的な武器に仕上げたのです。

 樹や錬を見て分析した程度で、俺やお義父さんを止めることなど毛頭出来ませんぞ。


 ドサリと木箱の近くにいた三勇教徒は倒れました。

 まだ安全とは言い難いですがある程度活路は見えてきたと思います。

 さて、後はこの歪んだ思想を持った狂信者の長を仕留めるだけですぞ。


「放すのです! 悪魔の僕よ!」


 胸倉を掴んだ事に対して接近戦用とばかりにコピー武器の剣に形状を変えた様ですな。


「放してやりますぞ。俺のスキルを放つ為に!」


 俺は教皇を上に投げ飛ばして前回と同じく突き刺してやりました。

 教皇は必死に俺の突きを受け止めようとしたようですがコピー武器を貫通して教皇を突きさしましたぞ。


「ぐあ!? か、神よ――」


 またそれですかな? もう少しバリエーションが欲しいですな。


「バーストランスⅩ」


 ブリューナクでは俺も同じですからバーストランスⅩをぶちかましてやりましたぞ。

 槍の先が爆発して教皇は跡形も残りませんでしたぞ。


「教皇様があんなに簡単に……」

「い、いや、教皇様はやられた振りをなさっているのだ。すぐにまたこの地へ舞い降りる! 皆の者、祈るのだ!」


 こやつらはする事が全く同じですな。

 木箱の安全を確保した俺は……面倒ですからな、かと言ってここは重要施設ですぞ。

 大技は放ちすぎない様にしませんと。


「フィロリアル様の卵を人質にした罪は重いですぞ。お前等は……俺が直々にあの世へ送ってやりますぞ!」


 エイミングランサーと大風車、他に突きを交えて皆殺しにしてやりますぞ!


「冥土の土産ですぞ! お前等こそ、教皇の後を追う番ですぞ!」

「「「ブヒィイイイイイイイイイイイイイイイイ!」」」

「「ぎゃあああああああああああああああああああああ!」」


 龍刻の砂時計のある建物で豚と三勇教徒の断末魔が響き渡ったのでした。

+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。