風の如く
メルロマルク国内で発生している革命。
長蛇の列を成す革命軍。
メルロマルク城へと向かう革命軍を遥か遠くから俺達は見つめております。
ほんの一週間で随分と変化していますな。
「ねえ元康くん、君の言う事とずいぶん違う結果になっちゃったんだけど……」
既にここまで来てしまったのならしょうがないとシルトヴェルトへのポータルは隠さずに使用しております。
「おかしいですな。未来ではこんな騒ぎにはなりませんでしたぞ。確かにお義父さんに協力的な国民はいましたが」
「これってもしかして……善行をし過ぎたとか?」
「ですが未来のお義父さんも良い話しか聞きませんぞ」
「解決の仕方に問題があったのかも知れない。お金に困っていたなら、物を売っても高額で請求したとか……食料の配給もそこまでしてなかったのかも」
「それで差異が出るのですかな?」
「大ありだよ。良い事をしてくれたけど代わりに金をせびるのと、無償でやってくれる相手じゃ恩義差が出るって! まあ……当たり前にならない様に俺達は注意を払ったけど」
善意を毎回すると受け取る側はそれが当然だと思ってしまいますからな。
お義父さんもその辺りは気を使っていましたぞ。
だとすれば、今回の出来事と最初の世界との差異は良い事をし過ぎたのですな。
みんなお義父さんを信じて国の陰謀を暴こうと躍起になっている感じですぞ。
「とりあえず、シルトヴェルトの方でみんなと話をした方が良さそうだね。これじゃあ……女王も下手に来る事が出来なくなってるよ」
「おや? 女王が帰還すれば事は解決するのではないのですかな?」
「アレを見てそう思えるんだったら相当だよ。確かにメルティちゃんや女王は歓迎されるかもしれない。だけど……ううん、考えすぎかな? とにかく、俺が女王だったらこんな状態で国には戻れない」
「それは何故ですかな?」
「女王は友好の為に盾の勇者である俺と仲を取り持ちたい訳で、自身の国を滅茶苦茶にしたい訳じゃない。メルロマルクは今、三勇教と革命派が入り混じっている状態なんだ。今は睨み合いや小規模の争いで済んでいるけど、下手にここで女王が帰国しようものなら戦力が傾き過ぎちゃう」
「どうにかなるのではないですかな? ケセラセラですぞ」
完全に他人事ですな。
俺がお義父さんに考え過ぎだと励ますのですが、お義父さんの表情は晴れませんぞ。
「むしろ……あの王の権威に陰りが見え過ぎて……」
お義父さんはずっと考え込んでおりますぞ。
何か不手際があるのですかな?
「とりあえず、波の事を考えよう。明日はメルロマルクの波だったね。仮に三勇教が俺達の命を狙ってくるとしたら、きっとその時になるはずだ。奴らは俺達がメルロマルクに潜伏していると思っているだろうからね」
「では不参加で良いですな。このままお義父さんが潜伏していると思わせておけば奴等は革命派にすぐに潰されますぞ」
まあ、強力な武器は所持しておりますが、暴れ出した時こそ俺達が名乗りでも上げて倒せば終わりですぞ。
「そうなんだけど……元康くん、次の波で危険な事とか無かった? 何か鍵となる様な出来事が無いなら問題ないんだけど」
お義父さんにそう尋ねられて俺は二度目の波の事を思い出しますぞ。
確かボスはソウルイーターでしたな。
その後、半透明になる扇を持つ豚が現れて……。
「お義父さん以外が波から出てきた二匹目のボスに負けましたな」
「よ、良く生き残れたね」
「お義父さんが善戦して敵を撤退させたと聞きましたぞ。聞いた当時はありえないと鼻で笑いましたが」
「……それって、黙っていると波に参加するのは樹だけだから樹が負けて死ぬ事になっちゃうんじゃないの!?」
ハッ!
そう言えばそうですぞ!
同じ理由で、仮に錬が波に参加していても俺達がいなければ負けてしまいます。
即ち、ここに介入しなければループ確定ですな。
重要な事なので、仮にループした場合も覚えておかなければいけません。
「ではどう致しますかな?」
「しょうがない! 俺達も波が起こる場所に急行した方が良いでしょ。幸い、元康くんは未来の知識があるから行った方が良いかもしれない」
「ですが先ほどの話では波の場所に三勇教が刺客を出してくるのではないのですかな?」
「樹が元康くんの知る通りに行動しているなら編隊とかをしていないはず。たぶん、刺客は樹達だろうね。名目はメルティちゃんの誘拐と国民の洗脳とか言いそうだね」
「では俺が波を手短に終わらせて離脱しますぞ。お義父さんはシルトヴェルトの方で悠々としていると良いですぞ」
なーに、今の俺からしたらどんな敵だろうと雑魚ですぞ。
最近はあんまり戦えていないので体が丁度鈍っていた所ですな。
「それなら……うん。元康くんはとても強いから刺客となる樹達を撃退しつつ波を鎮められるかもしれない。任せられる?」
「お任せを! ですぞ!」
こうして俺はお義父さんの頼みを引き受けてお義父さんとは別に波を鎮める事になったのですぞ。
翌日。
波が起こるであろう場所に、俺はユキちゃんとコウを連れて待機しております。
「これから波が起こるのですね?」
「そうですぞ」
「コウ達は何をしてれば良いの?」
「魔物が出てくる前に波の亀裂の方へ走るだけですぞ」
「そうなのー? 面白くない」
「ははは、今回は素早く終わらせるのが目的ですからな。その先の離脱の方が面倒かもしれませんぞ」
何が起こるかわかりませんからな。
最初の周回を考えるに樹達一行が普通に波の亀裂にやってくるでしょうな。
お義父さんの話では樹は俺達を捕まえようとしてくるだろうと言っておりました。
なので、早めに切り上げて樹が無事であるのを確認しろとの話でしたな。
と、作戦の内容と未来の出来事を思い出しながらイメージで練習をしていると、空に亀裂が入りましたぞ。
始まりましたな。
「行きますぞ!」
「やりますわ!」
「だっしゅー!」
ユキちゃんが俺を乗せて走りだし、コウが付いてきますぞ。
周りを確認するとやはり樹一行が出現しましたな。
「あ!」
樹一行が俺を指差しておりますが知りませんぞ。
俺達は風の如く通り過ぎました。
何か言っていましたが、全然聞こえませんでしたな。
アイツ等、完全にモブですな。
「ユキちゃん! もっと素早く! 早く突き進むのですぞ!」
「いきますわ! ハイクイック!」
「コウもー」
ワラワラと波の亀裂から出現しようとしている魔物達、確か亜人系の影の魔物でしたな、それとソウルイーターが今、波から出現していますな。
ユキちゃん達は素早さを極限まで上げて、遠い波の亀裂へ一歩でも早く近づいて行きます。
人の足ではまだ十分に時間が掛るでしょう。
ですが、今回は遠慮もクソも無く、本気で行きますぞ。
「リベレイション・ファイアスコールⅩ! エイミングランサーⅩ! ブリューナクⅩ!」
波から魔物が出現すると同時に炎の雨を広範囲に降らせ、雑魚を一掃します。
バラけると面倒ですからな。
続いて範囲攻撃が可能なエイミングランサーとブリューナクで波の亀裂ごと吹き飛ばしてやります。
「!?」
魔物共は元よりソウルイーターを吹き飛ばし、同時に波の亀裂が一瞬で閉じました。
被害は限りなくゼロですな。
精々波の亀裂があった場所に巨大な火の雨が降り注いで焼け野原になった程度ですぞ。
お義父さんに素早く片付けて、と言われていたので、魔物の死骸を回収できないのが難点と言えば難点ですな。
「もうおわりー? ただ近くに走って行っただけだよ? キタムラー」
「ははは、波は素早く終わらせる事に意味があるのですぞ」
「拍子抜けですわ。もっと歯ごたえのある戦いがしたいですわ元康様」
「強くなりすぎましたな。今度、お義父さん達と演習でもしますかな?」
「それが良いですわね。あのドラゴン、最近はかなり強力になってきて、倒しがいがありますわ」
などと話をしていると後方から矢が飛んできましたぞ。
俺は矢を軽く弾いてユキちゃんを振り向かせました。
「どのような方法で素早く波を鎮めたのかわかりませんが、元康! 話があります!」
「おやおや、今更何の用ですかな? 遅すぎて欠伸が出そうでしたぞ、樹」
そこには樹一行が敵意満載で俺達を見つめていましたぞ。