メルロマルクの王子
「という訳で、俺の初めてのフィロリアル様は……クイーンになる前に亡くなってしまわれたのです。もし機会があったら、今度こそフレオンちゃんを立派なフィロリアル様にしたいですな」
俺は胸を張ってみんなに告げますぞ。
「なぁ……それって……」
キールが絶句するように言いました。
表情は青いですな。
何故この様な反応を?
ここは悲劇に涙を流す場面ですぞ。
「えっとー……」
「……」
何故かみんな言葉を詰まらせています。
俺の過去に感心してくれたのですかな?
「似たような話に覚えがあるわ」
婚約者が何やら怯えた様な、それでいて確信のある様な表情で告げましたぞ。
「なんですかな?」
お義父さんは婚約者に気を使っているようでしたぞ。
「父上の話になるのだけど……その……不幸があって……その所為で盾の勇者様を更に嫌いなった出来事の話です」
あのようなクズがどれだけ苦しもうと自業自得では無いですかな?
そもそもフレオンちゃんとクズの話に接点が無いですぞ。
「元康くんの話だと過去にシルトヴェルトと戦争をしていた所為だって聞いたし、色々とあるんでしょ? 過去には凄かったけど、今はちょっと問題あるだけなんだよね?」
「うん……母上の話だと、父上が子煩悩で姉上が産まれて過去の知的だった部分が薄れていたけど、まだそこまでおかしくは無かったんだって。だけど本格的におかしくなったのは私のお兄さんが亡くなった所為だって母上が言ってたの」
「お兄さん? メルティちゃんの上にお兄さんがいたんだ?」
ん? 初耳ですぞ。
未来でそのような話はトンと聞いた覚えがありませんな。
「そう、姉上より下で、私より上に一人……もう死んじゃったけどいたらしいわ。私よりも幼くして亡くなったそうよ」
「初耳ですな。未来でも婚約者や女王が言った事は無いと思いますぞ」
「……母上も父上も話したくない過去だったし、その時の出来事で溝が出来たと嘆いていたわ」
「詳しく聞いてもいいかな?」
「はい」
婚約者はぺらぺらと話を始めました。
もちろん、婚約者自身がその場にいた訳では無いので、結局は人伝らしいですが。
掻い摘んで説明すると赤豚と婚約者の間にもう一人の子供がいたそうですぞ。
その頃は平和なメルロマルクがあったそうで、女王が即位して丁度十年が経過した頃だったそうです。
ああ、女王の両親は過去の戦争で亡くなったので、女王自身もそれなりに若かったそうですな。
外交が忙しくはありましたが、今の様に殆ど外国にいると言う事も無かったそうです。
その頃にはシルトヴェルトとの蟠りも解消傾向にあったのだそうですぞ。
まあ、過激派の筆頭であったハクコをクズが知略で減退させたのが要因だったそうですが。
女王は未来を見据え、シルトヴェルトとの和平政策を進めていたのだとか。
当初、クズは難色を示しはしたのですが復讐を終え、シルトヴェルトを飼いならす方針を女王と話し合っていたのだそうです。
まさしく真綿で首を絞める政策を打診する辺りはクズらしいですな。
その一貫として一見して仲良くみせる方針を打ち出したのだとか。
で、女王はクズの活躍から勇者伝説に強い興味を示し、歴史の真実や客観的視点を知る事で現在の認識へと感性が切り替わって行ったとか、どうでも良さそうな事を婚約者は前座とばかりに話しておりました。
「それで? なんであの……メルティちゃんのお父さんはあんなになっちゃったわけ?」
「私も赤ん坊だったから良くわからないんだけど……友好の為にシルトヴェルトの王族と言うのかしら。首脳陣の子を預かったの」
「うん」
「だけどその首脳陣の子が実は刺客で、付き添いの者と一緒に会食時に毒を盛って兄上が毒殺されたそうよ。父上の目の前で……」
「毒殺……うわぁ、過激派だったって事ね」
「そう……らしいのだけど、それを糾弾して預かった子が犯人だって言い放ったのは……姉上だったそうなの。証拠の毒物や使用人の怪しげな行動に関しても見ていたって」
……お義父さんが目を細めていますな。
俺も同じように陰謀を感じますぞ。
あのどうしようもない赤豚が思いつきそうな行動ですな。
「一応は犯人も自白したらしいのよ『僕の家族を殺したお前等を許さない! ざまあみろ!』って、後で調べたら確かに預かった子の家族が不自然な死をしているのがわかったの」
「表面上は……確かに拗れる事件になりそうだね」
「父上はその時の出来事が原因で考えが凝り固まり、残された家族を必要以上に大事にするようになって……シルトヴェルトの関係者はすぐに殺せって言う様になったの。だけど……」
婚約者は眉を寄せ、一呼吸してから続きを紡ぎましたぞ。
「母上はその時に姉上の顔を見て真相は別にあるんじゃないかって……思ったそうなの」
「今までの出来事から考えるに、間違ってない様に見えるのが凄いね。俺もそう思うよ」
「うん。姉上の周りにはいつも不自然な事件が転がっているの。だから母上は常に姉上の動向を監視していたわ。私と姉上を別々に育てたのも、それが理由だって」
「良くそれで赤豚を放置していますな」
「いつも決定的な証拠が無いの。姉上が隠すのが上手いのか、それとも何か別の要因があるのかはわからないわ。そもそも姉上とシルトヴェルトの子が話をする所か近付きさえしていなかったそうだから」
「んー……なるほどね。確かにそれじゃあ犯人になりえない」
「ただ、主犯はその子で、協力者は付き添いだったそうだけど……母上がポツリと呟いたわ。付き添いの者と姉上の雰囲気が似てるのは何故だったのだろうか? って」
偶然で片付けるには難しいですな。
ただ……何でしょうか?
思い出さなければいけない記憶がある気がするのですが……。
「元康くん?」
「なんですかな?」
「いや、なんか知っているのかな? と思ってさ」
「なにか覚えがある様な気がするのですが、良く思い出せませんな。しかし……赤豚の周りには常に物騒な出来事が付いて回るのですな。まさしく疫病神ですぞ」
「元も子も無いね……出来れば幽閉、もしくは処刑してもらいたいね。わかったよ。あの王には王なりの理由があって俺を嫌悪してるんだね」
「そう、だから……難しいとは思うけれど父上を嫌いにならないで欲しいわ」
「大丈夫、出来れば君のお母さんの様に国同士は友好的な関係にさせるよう努力するよ」
「盾の勇者様……ありがとうございます」
お義父さんの言葉に婚約者は感謝しております。
単純ですな。
言葉とは常に複数の意味があるのですぞ。
「さすがお義父さん、仲良くはしないと暗に言ってますな!」
「え? それはどういう……」
「そういう意味じゃないから! 元康くんは口を閉じてね」
お義父さんに注意されてしまいましたぞ。
「しかし赤豚の周りには不自然な出来事が多いですか……確かにそうですな」
「ん? 元康くんも身に覚えがあるの?」
「ありますな。まだ俺が豚の尻を追っていた頃なのですが、不自然なほど勧誘した豚の出入りが激しかったですぞ。しかも別れの言葉も無く、忽然と消える豚が多かったのです」
「あー……うん。間違いなく裏で消されてるね。元康くんは何だかんだで鈍感な所があるし、そういう意味で利用し易かったのかもね」
「やはりそうですかな?」
なんとなく嫌な予感はしていたのですぞ。
やはり奴が黒幕でしたか。
ま、所詮豚同士の蹴落とし合いですな。
なんとも思いませんぞ。
「いや……元康くん、他人事みたいな顔してるけど、メルティちゃんの話をちゃんと聞いてた?」
「クズが不幸な事件に巻き込まれたですな」
「違うよ。なんとなく、君が最初に育てたフィロリアルと重ならない?」
「は?」
ど、どういう事ですかな?
心臓がドクンと早鐘を打ち、徐々に頭が痛い様な気がしてきますぞ。
何でしょう。
お義父さんが次に言う言葉で俺は何か……知らずにいた事を自覚してしまう様な気がします。
「報告に来たのはあの王女、そして大事にしていた者の死。果てはその所為で考えが凝り固まってしまう。君と王の結論が俺を敵として信じない方向へ集約しているんだ」
設定はあったけど使わなかった設定その2